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人気DJのエクスクルーシヴMIXを毎月配信! 『EYESCREAM.JP Mix Archives』#44 MASS-HOLE

Interview & Text : Yu Onoda | Photo & Edit : Yugo Shiokawa | Special Thanks : Cracks Record

EYESCREAM.JPレコメンドDJへのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する「EYESCREAM.JP Mix Archives」。今回登場するのは、ラップグループ、Medullaの一員にして、近年、精力的にソロ活動を行っているトラックメイカー/ラッパーのMASS-HOLEです。

長野は松本を拠点に活動を行う彼は、これまでに『BLUNTS LIKE A GUNFIRE』と『0263bullets』という2枚のインスト・アルバム、そして、ラッパーISSUGIの楽曲をリミックスした『1982S』をリリース。MPC-2000XL使いのビートメイカーとして高く評価されているが、新作『PAReDE』は彼が満を持してリリースする初のラップ・アルバムだ。自身のトラックはもちろん、ボストンのSTU BANGASとVANDERSLICE、そして、GRADIS NICE、ENDRUN、Fla$hBackSのjjj、ONE-LAW、16FLIP、BLAQCZA、RAMZAといった国内のプロデューサー。さらに、ILL-TEE、仙人掌、YUKSTA-ILL、CHIYORI、麒麟示といったアーティストをフィーチャーした全17曲は、失われつつあるオーセンティックなハードコア・ヒップホップを見事に体現している。その神髄について掘り下げた今回のインタビューは、男のメロウネスを極めた彼のDJミックスとともにお楽しみください。

※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)



今回のアルバムは“BRUTAL”というのが裏テーマにあって。つまり、屈強なヒップホップですね。レコーディングする前は腕立てとロシア式の腹筋をして、そこから始める、みたいな(笑)


— Medullaのセカンド・アルバムが長らく待望されているなか、近年のMASS-HOLEくんはソロ活動が非常に活発ですよね。

MASS-HOLE:そうですね。僕だけ長野の松本に住んでいるし、他のメンバーが結婚したり、子供が出来たりしたこともあって、ひとつになるタイミングを設けるのがなかなか難しくて。でも、自分は一人でも動けるんで、スキルを高めながら活動したいなって。それで(WDsoundsオーナー)MERCYさんにアルバム・リリースを相談したんです。


Medulla『Booze Booze Sticky Thing』 Medullaが自身のレーベルMid Night Meal Recordsから2008年にリリースした、現在のところ最初で最後となるフルアルバム。今なお評価の高い、全20曲からなる超充実盤。

Medulla『Booze Booze Sticky Thing』
Medullaが自身のレーベルMid Night Meal Recordsから2008年にリリースした、現在のところ最初で最後となるフルアルバム。今なお評価の高い、全20曲からなる超充実盤。



LIL MERCY:いや、そうじゃないよ。去年の1月に、「ライヴの時にアルバム出すって言っちゃったんで、よろしくお願いします」ってライヴの次の日に連絡もらったんだよ(笑)。

MASS-HOLE:あ、そうでしたね(笑)。大阪のライヴだ。自分のなかで勝手にプランを組んでいて、インスト・アルバム『0263bullets』の流れでイケたらいいなって。ビートはずっと作っているし、作ってて面白いんですけど、良くも悪くもインストはラップをやる人に聴かれることが多いので、ゼロから始める感じで自分もラップで勝負して、みんなにがっちり聴いてもらいたいなと思ったんですよね。ビートは自分にとってのルーティーン・ワークで、仕事が終わって帰ってきたらビートを作るっていう、そういう生活なので、インスト・アルバムはいつでも出せる状態なんですよ。それに対して今回のラップ・アルバムは、去年の9月くらいからビートを集め始めて、11月から2月までレコーディングをやってたんですけど、その過程で浮き沈みがあって、リリックは書いてみたけど、ビートに乗せてみたら全然ダメで、またゼロからやり直しっていうことを繰り返していたら、ビートも作れなくなっちゃって。ヒップホップも全然聴けなくなっちゃったんですよ。だから、O’JaysとかRoy Ayersを聴いて逃避しつつ、ようやく出来ましたね。


MASS-HOLE A.K.A BLACKASS 『0263bullets』 WDsoundsからリリースされたMASS-HOLEのソロビート集。漆黒のインストゥルメンタルアルバムとしてはもちろん、さまざまなラッパーがラップしている様子をイメージして楽しむこともできる、ビートメイカーとしてのMASS-HOLE節が全開の名盤。

MASS-HOLE A.K.A BLACKASS 『0263bullets』
WDsoundsからリリースされたMASS-HOLEのソロビート集。漆黒のインストゥルメンタルアルバムとしてはもちろん、さまざまなラッパーがラップしている様子をイメージして楽しむこともできる、ビートメイカーとしてのMASS-HOLE節が全開の名盤。



— 自分で自分を追い込んだ、と。

MASS-HOLE:そうですね。MERCYさんは好きにやっていいよっていう感じだったんですけど、出来た曲をその都度送って、「これ、どうですか?」って訊くより、まとめて一気に送りたかったんです。でも、そうやって溜め込んだ曲に自分が追いつかなくなってしまって、苦労したところもありますね。

— グループの一員としてのラッパーとソロで一人立つラッパーでは、音楽に臨む意識も当然変わってきますよね。

MASS-HOLE:『1982S』で僕がリミックスさせてもらったISSUGIくん。思い浮かぶ所だったら田我流、KNZZくんもそうなんですけど、僕と同い年で前に立っている人たちが多くて。みんな、ラップがすごく格好いいし、そういうところに感化されて、自分もラップをやりたいなって思わされたんですね。特にISSUGIくんの影響は大きくて、彼もビートを作って、DJやって、ラップしながら生活するなかで、葛藤ももちろんあると思うんですけど、そういうものをちゃんとヒップホップに昇華してますからね。


MASS-HOLE vs ISSUGI『1982S REMIX ALBUM』 今年のはじめに、カセットテープのみ限定300本という衝撃の形態でリリースされた、ISSUGIの音源をMASS-HOLEが調理したリミックスアルバム。すでに入手が難しい状態ながら、一度は耳にすべき充実作。

MASS-HOLE vs ISSUGI『1982S REMIX ALBUM』
今年のはじめに、カセットテープのみ限定300本という衝撃の形態でリリースされた、ISSUGIの音源をMASS-HOLEが調理したリミックスアルバム。すでに入手が難しい状態ながら、一度は耳にすべき充実作。



LIL MERCY:そういう意味で、ISSUGIとMASS-HOLEは似てるというか、話してると共通するものを感じるんですよね。

MASS-HOLE:ISSUGIくんとのやり取りは言葉がいらないというか。年末も松本にライヴで来た時、家で一緒にビートを作ったり、大事な友達って感じなんですよね。

— 今回は、ミニ・アルバムではなく、全17曲の大作となっていますが、自分のビートを使った4曲を除いて、他のビートメイカーのトラックはどういう基準でセレクトしたんですか?

MASS-HOLE:まず、今回、自分のビートでラップしようとは思わなかったんですよ。それだと時間がかかるし、作る時に面白みがないんですよね。そのうえで、参加していただいたビートメイカーは、普段、自分が作ってるビートとは違う色があって、なおかつ、自分の好きな人だけにお願いしたので、種類は幅広くなったと思います。参加してくれたラッパーやヴォーカリストもそう。単純にファンなんですよね。それから、今回のアルバムは"BRUTAL"というのが裏テーマにあって。つまり、屈強なヒップホップですね。レコーディングする前は腕立てとロシア式の腹筋をして、そこから始める、みたいな(笑)。


MASS-HOLE『PAReDE』 ついにリリースされるMASS-HOLE初のソロラップアルバム。Nas「Street Dreams」とClipse「Lord Willin'」へのオマージュというアートワークからして、ヘッズなら素通り不可の1枚。3月25日発売。

MASS-HOLE『PAReDE』
ついにリリースされるMASS-HOLE初のソロラップアルバム。Nas「Street Dreams」とClipse「Lord Willin’」へのオマージュというアートワークからして、ヘッズなら素通り不可の1枚。3月25日発売。



— 精神面だけじゃなく、フィジカル面も含めてなんですね(笑)。

MASS-HOLE:そう、フィジカル面もかなり攻めましたね。今回、自分が好きで聴いていたBRUTAL MUSICの(ボストン出身のビートメイカー)STU BANGASとVANDERSLICEに、MERCYさん経由でコントクトを取ってもらって、トラックのストックを送ってもらったんですけど、BRUTAL MUSICっていう名前の通り、彼らは見た目もゴツければ、ビートもゴツいんですよ。

LIL MERCY:あれは屈強以外のなにものでもないよね。

MASS-HOLE:プロレスラーが入場に使うような音がてんこ盛りで(笑)。俺もフィジカル面を攻めなきゃと思ったんですよ。

ERA VS MASS-HOLE『3 WORDS MY WORLD REMIX ALBUM』 ERAの大クラシック『3 WORDS MY WORLD』をMASS-HOLE色に染め上げたリミックス・アルバム。2012年のリリース当初は流通量も少なく幻のレア盤と化していたものの、2014年iTunes Storeでもリリースされ、気軽に聴くことができるように。QPによるアートワークも見逃せない。

ERA VS MASS-HOLE『3 WORDS MY WORLD REMIX ALBUM』
ERAの大クラシック『3 WORDS MY WORLD』をMASS-HOLE色に染め上げたリミックス・アルバム。2012年のリリース当初は流通量も少なく幻のレア盤と化していたものの、2014年iTunes Storeでもリリースされ、気軽に聴くことができるように。QPによるアートワークも見逃せない。



— ははは。BRUTALというと、もちろん、ハードコアパンクと共通するものもありますよね?

MASS-HOLE:そうですね。(Medullaの一員)ILL-TEEさんがROCKCRIMAZっていうハードコアのバンドをやっているので、そのライヴを観に行ったり。あと、20歳の頃、『失点・イン・ザ・パーク』を出した頃のECDさんのライヴを西荻窪WATTSへ観に行って、Struggle For Prideを観たり、AbrahamCrossやBREAKfASTなんかは好きで観てましたからね。そして、ことヒップホップに関して言えば、BRUTALなガツンとしたヒップホップは少ないというか、絶滅危惧種というか。でも、結局のところ、自分はそういうヒップホップが好きなんだなと再確認させられたんですよね。

— MASS-HOLEくんは、今回のラップのアプローチにしてもそうですし、MPC-2000XLをベースに、サンプリングをもとにしたプロダクションも今の時代において珍しくヒップホップの王道ですもんね。

MASS-HOLE:そうですね。だから、三重のYUKSTA-ILLくんとやった「authentic city」っていう曲は、今の時代、少なくなってい普遍的なヒップホップを誇示した方がいいでしょということで、そういう内容にしたんです。それから今回は聴き取れる歌詞を重点に置いていて、ソロ曲4曲だけなんですけど、ブックレットにリリックを載せたので、聴く時に意味も探ってもらいたいなと思ってますね。

— 今回、そうやって試行錯誤を重ねたことで、MASS-HOLEくんのなかでビート・メイクとラップの比重に変化はありました?

MASS-HOLE:以前は自分のなかでのビートとラップとの比重は8対2くらいだったんですけど、今回のアルバムを作ったことで6対4くらいまでようやくアガってきました。今はラップをやりたいし、ライヴもやりたいし、リリース後はあちこち回りたいなと思ってますね。

— そして、MASS-HOLEくんは長野の松本を拠点に活動されていますが、地元のシーンはいかがですか?

MASS-HOLE:松本でうちらの周りで音楽やってる連中には、啓蒙じゃないけど、俺が思う本物のヒップホップを教えてますね。後輩も多いんですけど、ヒップホップ観が変わって、俺が思うかっこいいヒップホップに流れてきているので、それがパーティでも表現出来るようになってきている気がします。

LIL MERCY:特にDJが良くなっているよね。地方に行って、ライヴをやるだけじゃなく、本気で馬鹿みたく遊べるという意味で、松本と名古屋は突出してますね。

MASS-HOLE:ありがとうございます(笑)。

— 同じ長野では、東京から移住した373くん(小諸市でスケートパーク/ショップ"TOCHKA"を運営する)だったり、CMTくんとも親交があるとか?

MASS-HOLE:そうですね。地元にいながら、外も見ているという意味で373さんやCMTさんは話していても面白いし、いい先輩という感じで、刺激を受けることが多いんですよ。

— 逆に、松本から見て、いまの東京はどんな風に映ってます?

MASS-HOLE:まぁ、自分が見ているのは一部分だと思うんですけど、友達がいる大好きな街だし、東京で鳴ってるヒップホップが日本のなかで一番かっこいいと思っているので、それを地元に持ち帰って、どう活かすかということをすごい考えてますね。何がかっこよくて、何がかっこ悪いかっていうのが自分の中の音楽性には存在していて、そういうのを下の子たちに教えたり、東京の人をゲストにパーティをやってっていう、その繰り返しですよね。地方はどこでもそうだと思うんですけど、地元だと家庭を持ったり、子供を育てたり、みんな、生活の基盤を作るのが早いから、そうやってラップやDJを止めちゃうやつが多いんですよ。でも、俺のなかでは、結婚しても、子供が出来ても、続けて出来るのがヒップホップだと思っているんで、そう思いながら、俺が作ったビートを後輩のラッパーに渡して、「活かすも殺すも自分次第だから、やるんならがっつりやろうよ」って、ケツ叩いたりしてますね。

— 地方にいながらにして、MASS-HOLEくんの活動は緩くないというか、非常に精力的だと思うんですけど、その原動力はどこにあるんでしょうか?

MASS-HOLE:離れているぶん、東京や地方にアピールしなきゃいけないなとは思っていて。こないだも金沢に行ってきたんですけど、ILLTECNIXっていうグループと遊んでたら、「WDsoundsって、どういう人たちなんですか?」って訊かれて、そういうところまで広がってるんだなって思ったし、これで俺のアルバムが出たら、より分かってもらえるんじゃないかなって。そういう意味での自分の役割も考えますよね。自分にとっての音楽の夢は、金が欲しいとか、そういうことじゃなく、自分が憧れている人と音楽をやりたいということが一つにはあるんですよ。CREATIVE PLATFORMの「#5014CompMostWANTED」プロジェクトで近々公開される曲では、MERCYさんに繋いでもらって、自分のビートで昔から聴いてきたB.D.さんにラップしてもらっているんですけど、そういう共演こそ、自分にとっては夢が叶った瞬間だったりするんです。

LIL MERCY:もともとヒップホップのど真ん中にいたわけではなかった自分と、ずっとヒップホップをど真ん中でやってきたB.D.さんも東京のエリアだとは近いんですけど、東京ならではの距離感があったんですよね。それが徐々に縮まっていって、この二人の曲は自分にとっても、2、3年前からずっとやりたかったことがようやく形になった一曲なんですよね。

— 好きなビート・メイカーを集めて、MASS-HOLEくんがラップしている今回の『PAReDE』も夢が詰まった作品だと思いますし、個人的にはMASS-HOLEのビートで好きなラッパーをフィーチャーしたアルバムも聴いてみたいですね。

MASS-HOLE:ああ、『PAReDE』を出した後、今年はそっちをやりたいなと思っているんですよ。しかも、1曲に何人ものラッパーをフィーチャーするんじゃなく、1対1でやりたいんですよね。

— 今回、話を聞いて、ソロ・アーティストとしてのMASS-HOLEは、インスト・アルバムを皮切りに、やりたいことを着々と形にしていってることがよく分かりました。

MASS-HOLE:そうですね。一歩一歩やってると思いますよ。だから、このインタビューの冒頭で、ラップを考える際に浮き沈みがあったと言いましたけど、今はぶっちゃけ、全然悩んでないです(笑)。『PAReDE』が形になったので、自分の意識は次に向かってますね。そうやって次に向かいながら、壁にぶつかった時はウィスパーズとかマンハッタンズみたいなスウィートソウルに逃げるっていう(笑)。

LIL MERCY:トラックもラップも男っぽいのに、なんでミックスはトロトロでいやらしいんだろうって思うんですけどね(笑)。

MASS-HOLE:ああいうトロトロなスウィート・ソウルはフロアで聴いてもいいんですけど、もっぱら自分は家で聴いてる感じなんですよ。ちなみに今回のDJミックスは、最近、WENOD RECORDSのキャンペーン用に作ったミックスCDが90年代のR&Bが多かったので、ソウル系でまとめました。

— 甘茶ソウル・マナーで、ソファーでむせび泣きながら聴いてくれと。

MASS-HOLE:ははは。そうですね。こういうメロウなソウルって、男の音楽だと思うんですよ。

LIL MERCY:MAN’S MUSICでしょ。

MASS-HOLE:今回、アルバムにも「man’s text」って曲が入ってるくらいですからね(笑)。

— こういう音楽を女の子に聴かせても、男が思ってるほどモテないっていう(笑)。

MASS-HOLE:男の美学の世界ですからね。地元のパーティで3時、4時くらいにメロウな曲をかけたりするんですけど、フロアにいるのは男ばっかりですもん(笑)。

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