EYESCREAM.JP – For Creative Living

人気DJのエクスクルーシヴMIXを毎月配信! 『EYESCREAM.JP Mix Archives』#55 HALFBY

Interview & Text : Yu Onoda | Photo & Edit : Yugo Shiokawa

EYESCREAM.JPレコメンドDJへのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する「EYESCREAM.JP Mix Archives」。今回登場するのは、HALFBYこと高橋孝博。

京都のレーベル、SECOND ROYALを拠点に、DJとして、プロデューサーとして、自身の作品はもちろん、映画音楽やCM音楽を数多く手掛けてきた彼は、2006年にメジャー・デビュー。サンプル・オリエンテッドなブレイクビーツを基調に、2011年のアルバム『LEADERS OF THE NEW SCHOOL』ではベースミュージック、とりわけムーンバートンと共振。新境地を切り開いたが、その後、4年に渡って沈黙。昨年11月にリリースした新作アルバム『INNN HAWAII』では、ceroの橋本翼やVIDEOTAPEMUSIC、Alfred Beach Sandalをフィーチャーし、エキゾチカやモンド感覚を内包した架空のハワイ旅行へと聴き手を誘うチルアウトな世界を展開している。

今回のインタビューでは、瑞々しいサウンドスケープを描き始めたHALFBYの音楽観や心境の変化に迫りながら、『INNN HAWAII』の心地良さをさらに増幅させるリラクシンなグルーヴに満ちたDJミックスを制作していただきました。

※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)



「外国に行ってのんびりして、気持ちをリセットしたい」と、適当に出掛けたハワイ旅行がきっかけになって、作品の世界観がうまくまとまったんです。


— もともと、HALFBYのルーツにあるのは、サンプリングをベースとしたブレイクビーツということになるんでしょうか?

HALFBY:一番最初に音楽を作り始めた時は、BPMでいうと110くらいのヒップホップ、ブレイクビーツだけど、黒人に憧れる白人のオタクがやっているような温度感のもの。例えば、MCポール・バーマンがそうだったように、骨太ではないビートで、上モノがイージーリスニング的な音楽をやるのが、日本人にとってはいいんじゃないかっていう発想だったんですよね。しかも、長期的な視点での活動は全く考えてなくて、作品を1枚出して、消えようと思ってたんです(笑)。90年代のビースティー・ボーイズを聴いて育った世代なんですけど、「USのヒップホップだったり、メインストリームの音楽は常に意識しない」っていうインディーズ、オルタナな視点というか、自分の活動拠点である京都という土地もそういうところですし……。


MC Paul Barman『Its Very Simulating』 ナードなユダヤ系ラッパーが、プリンス・ポールによるプロデュースのもと、ドリーミーかつコミカルなサンプル・オリエンテッドなヒップホップを展開。当時、輸入盤店でヒットを記録した2000年作EP。

MC Paul Barman『Its Very Simulating』
ナードなユダヤ系ラッパーが、プリンス・ポールによるプロデュースのもと、ドリーミーかつコミカルなサンプル・オリエンテッドなヒップホップを展開。当時、輸入盤店でヒットを記録した2000年作EP。



— 京都といえば、もともと、孝博くんは渋谷系の代名詞と言われる今はなきレコード・ショップ、ZESTの京都店のスタッフだったんですよね?

HALFBY:そうですね。お店がホームページを作って、ネットでレコードを売り始めたら、全国各地から注文が来るようになったんですけど、定期的にまとまった枚数を買う顧客が全国各地にいて、それぞれがパーティやってたり、ジンを作ってたりしていたこともあって、そういう人たちに誘われるまま、各地にDJするようになって。それを(共に元ZESTの店員でもあった)CHABEくんと仲(真史)さんがおもしろがって、二人が大阪で始めたESCALATOR RECORDSのパーティで僕をサポートDJに起用してくれたんです。その流れで、CHABEくんからリミックスの仕事を振ってもらったのが、トラックを作るようになったきっかけですね。

— それ以前に音楽を作っていたことは?

HALFBY:音楽好きが高じてレコード屋の店員になっただけで、音楽経験は全くなかったですし、作ろうと思ったこともなかったです。でも、CHABEくんも初めて振られた制作の仕事がリミックスだったらしく、それを頑張ってやってみたら出来たという経験もあって、同じように僕にもリミックスの仕事を振ってくれたという。友達の橋本竜樹くん(のちにCharaやYukiの楽曲を手掛けるプロデューサー)がサンプラーのTRITONを持っていたので、「これでなんとなく出来るでしょ」ってことで引き受けたんですけど、遊び感覚で「このレコードをサンプリング、ループして…」っていうことを延々と繰り返していたら、その最初のリミックスは完成までに半年くらいかかりましたね(笑)。

— そのリミックスというのが?

HALFBY:2001年に出たCUBISMO GRAFICOのリミックス・アルバム『BUONISSIMO』に入ってる「MOON IS YOURS – SOLGUM 59 REMIX」ですね。その時にユニット名がなかなか決まらなくて、仲さんから「今日中に決めてくれ」って言われながら、苦し紛れにひねり出したのがHALFBYだったんです。僕、一時期、“ハーフ”っていうあだ名で呼ばれていたことがあって(笑)、その言葉にCROSBY STILLS NASH YOUNGの“BY”を付けた適当なネーミングからも、その一発で消えるつもりだったことが分かってもらえると思うんですけど(笑)。

— ははは。でも、HALFBYはそのまま消えずにオリジナルの制作に乗り出した、と。

HALFBY:そう。そのリミックスがそれなりに評判になったので、同じ制作環境でそのままオリジナルの12インチ・シングルを出して、今度こそ消えよう、と(笑)。その時に今も所属しているSECOND ROYALっていうレーベルが出来たんですけど、当時、京都のクラブ、METROで、同名パーティを一緒にやっていた小山内(信介)がヒマそうだったので、「じゃあ、お前がレーベル・オーナーね」っていう感じで、たまたま、そこにいただけで、レーベルを始めることになって、2002年に最初のオリジナルである「AND THE COCONUT EP」を出したんです。

— 孝博くんが生まれ育って、今も生活している京都の音楽シーンについてはいかがでしょう? 古くは加藤和彦さんのフォーク・クルセダーズを生んだ1960年代後半のカレッジ・フォークから裸のラリーズを生んだ京大周辺だったり、EP-4に代表されるニューウェイヴ、その後に続いた大沢伸一さんやFPMの田中さんだったり、濃密な街の音楽史があると思うんですけど。

HALFBY:個人的にはイギリス・グラスゴーみたいなものかなって思ってますけど(笑)。田舎だけど、音楽やってるやつはいっぱいいるっていう。ZESTにJET SET、レコード屋も昔からあちこちにあって、ここ最近も個人でやってるお店がすごい増えているし、京都で買って、京都で売る、みたいな感じで、街のなかでレコードが巡り巡っているようなところもあって。僕個人の話をすると、ZEST京都店が閉店した後、JET SETに拾われて、スタッフとして働きながら作品を作ってDJする、という生活が10年くらい続いてましたね。2006年にTOY’S FACTORYからメジャーデビューした後もJET SETで働いていたんですけど、作品のプロモーションで月の半分くらい東京に行かなきゃいけないような時もあって、その時は社長に相談して長期休暇扱いにしてもらっていましたし、TOY’S FACTORYとも、京都で働きながらというスタンスで活動出来るなら、というわがままを聞いてもらって契約したんです。

— メジャーデビューのタイミングで生業を音楽活動一本に絞ることも、上京することもなかったのは何故だったんでしょう?

HALFBY:JET SETの職場環境も心地良かったし、最初のシングルを出した時からスタンスは変わらず、音楽の仕事も切れずにコンスタントに来ていたので、それが続く限りは続けようという程度で、音楽制作を仕事にしようと思ったのは前作『Leaders Of The New School』を出した後だから、ここ5年くらいの話ですよ。それ以前は自分のことをミュージシャンだとは思っていなかったし、恥ずかしさもあってか、好きで聴いてきたアーティストと同じ立ち位置で人に音楽を提供するっていう感覚になれなかったんです。京都にとどまったのは、そうすることでSECOND ROYALの底上げのきっかけになったらいいなと思ったから。だって、もともとは、同じパーティに集まった友達とワイワイ楽しくやってたのが最初ですから、そこから抜け出して、個人でやっていこうという意識は全くなく、DJで自分の曲をかけたりもしませんからね。




— ひねくれた、オルタナティヴな視点で自分とその周囲を客観視していた?

HALFBY:そういうところはあるかもしれませんね。音楽活動も「東京で働いて、京都に戻って整える」という感覚だったというか、その繰り返しで生活が成り立っていましたし。東京で音楽の流行り廃りを冷静に見ながら、外からのレスポンスに応えるように作品を出して、DJをやっているうちに、気づいたら10年経っていたという(笑)。

— その間のHALFBYの音楽的な変遷についてはいかがですか?

HALFBY:コンスタントにアルバムをリリースしてきたんですけど、通常だったら、自分のスタイルの音楽的な濃度を上げていくと思うんです。でも、自分はシングル1枚で消えるくらい浅はかな、ライトなスタンスというか、楽しく脳天気で全く内容がない、そういう音楽が好きだし、つまり、音楽の濃度を高めない方向性ですよね。例えば、1960年代のアメリカで生まれたバブルガム・ポップとか、ライトな音楽ではあるけれど、時を経ても、熱烈な愛好家がいるし、評価もされているじゃないですか。自分もそういう音楽を作り続けたいなって思っていたんです。

— ドゥーワップやモータウン・ソウルしかり、ロックンロールしかり、色褪せない瑞々しさをたたえたティーンエイジミュージックの系譜というか。

HALFBY:そうそう。突然、長髪になって、ギター弾きながら歌ったり、どんどん煙たいブレイクブーツを作るようになる、ということじゃなく(笑)。もちろん、自分のなかでビートとかフォーマットのトレンドはちょっとずつ変わっていってるんですけど、その軸はぶれずにここまでやってこられたと思います。

— そして、2011年に『Leaders Of The New School』までコンスタントに作品をリリースしてきたHALFBYですが、昨年11月に出た最新アルバム『INNN HAWAII』は4年ぶりの作品になるんですよね?

HALFBY:時間がかかっちゃいましたね。次の作品は今までの作品とは違う、もうちょっと突っ込んだものを作るべく、たっぷり時間を使って自分のなかのものを出来るだけアウトプットしたいなって。それだけ決めて、ぼんやり制作に入っていったんですけど、DJをやった後のレコードバッグを整理するように、10年間活動してきた中でぐちゃぐちゃになった自分の音楽観を整理して、一端リセットすることに時間がかかったんですよね。


HALFBY『INNN HAWAII』 ハワイという土地が喚起するヴィンテージなエキゾチズムに触発された4年ぶり新作アルバム。散りばめられたサンプル・フレーズとスムースに紡ぎ出されるメロディ、ゆったりしたグルーヴを柔らかく融合。あたたかい陽光とゆるやかな風に満ちたリアルでいてヴァーチャルな楽園を描き出す極上の1枚。

HALFBY『INNN HAWAII』
ハワイという土地が喚起するヴィンテージなエキゾチズムに触発された4年ぶり新作アルバム。散りばめられたサンプル・フレーズとスムースに紡ぎ出されるメロディ、ゆったりしたグルーヴを柔らかく融合。あたたかい陽光とゆるやかな風に満ちたリアルでいてヴァーチャルな楽園を描き出す極上の1枚。



— バブルガム・ポップにしろ、ドゥーワップやモータウン・ソウルにしろ、作られた時点ではいい意味で刹那的な音楽だったと思うし、HALFBYの過去の作品もそういうものだったと思うんですけど、『INNN HAWAII』は刹那的なものを普遍的に響かせようとした作品という印象を受けます。

HALFBY:この4年の間で、海外オークションや通販で大量に買ってた1960年代くらいのシングルから、“イギリスの女性ヴォーカルだけ”とかテーマを設定したミックスCD「PART TIME」を5作ほど作ったことで、制作においては自分の音楽における甘くて即効的なティーンエイジミュージックの要素が、いい感じで抜けたのかもしれないですね。

— サンプリングだったり、トラックの構築の仕方はクラブミュージックのアプローチではあるけれど、フロアでの機能性はあまり考えてなかった?

HALFBY:そうですね。「Mauna Kea Night Sky」のビートと低音のバランスがムーンバートンで、前のアルバムの名残が唯一残っている曲なんですけど、今回のアルバムはクラブでかけたいとは全く思わなくて。初めて、自分でメロディを弾いたり、コーラスやストリングスを考えたり、よりリスニング感を強めていこうと意識してましたね。例えば、ゲイリー・マクファーランドというジャズのヴィブラフォン奏者が、1970年代にスティーヴィー・ワンダーとかビートルズをゆるくカヴァーしているアルバムがあるんですけど、制作の後半はそういうアコースティックな音楽だったり、音数の少ないフォークなんかをよく聴いていたこともあって、自分の作品もそういうニュアンスで整えていったんです。


Gary McFarland『Today』 ヴィブラフォン奏者のゲイリー・マクファーランドが、ロン・カーターやヒューバート・ロウズ、アイアート・モレイラら、ジャズ界の名手と演奏する数々のカヴァー曲と共にジャズとボサノヴァ、ポップスを横断。ソフト・サウンディングなイージー・リスニング・ジャズがただただ心地いい一枚。

Gary McFarland『Today』
ヴィブラフォン奏者のゲイリー・マクファーランドが、ロン・カーターやヒューバート・ロウズ、アイアート・モレイラら、ジャズ界の名手と演奏する数々のカヴァー曲と共にジャズとボサノヴァ、ポップスを横断。ソフト・サウンディングなイージー・リスニング・ジャズがただただ心地いい一枚。



— ライブラリー音楽とか昔のCM音楽なんかもよく聴いてたとか。

HALFBY:そう。60年代に活躍していたイージーリスニングの作家が手掛けたお菓子メーカーのレコードとか、航空会社のレコードだったり、イタリアとかドイツ産のそういうノベルティ・レコードをたくさん買いましたよ。

— 90年代前半にエキゾチカだったり、モンド、イージーリスニングと呼ばれていた音楽ですよね。『INNN HAWAII』もその流れにある作品だと思うんですけど、今日的にアップデートされているところが大きな特徴ですよね。

HALFBY:90年代にそういう音楽に影響を受けた砂原良徳さんやルーク・ヴァイバートの作品はアブストラクトなエレクトロニックミュージックの文脈で、そういう音楽ももちろん好きなんですけど、今回のアルバムに参加してくれたVIDEOTAPEMUSICやAlfred Beach Sandalは僕より10歳くらい下で、バレアリックな感覚を経由していたり、エキゾチカだったり、モンド、イージーリスニングもまた違った視点で捉えているような気がするし、彼らに対してシンパシーを感じてもいるんです。


Alfred Beach Sandal『Unknown Moments』 HALFBY『INNN HAWAII』の2曲で甘酸っぱい歌声を聴かせている北里彰久によるソロ・プロジェクト。2015年最新作は、5lackやSTUTSといったヒップホップ勢をフィーチャーしながら、ガレージロックからトロピカリズモ、ファンクやラテンと、エキゾチックな音楽旅行を繰り広げる素晴らしいオルタナティヴポップ・アルバムだ。

Alfred Beach Sandal『Unknown Moments』
HALFBY『INNN HAWAII』の2曲で甘酸っぱい歌声を聴かせている北里彰久によるソロ・プロジェクト。2015年最新作は、5lackやSTUTSといったヒップホップ勢をフィーチャーしながら、ガレージロックからトロピカリズモ、ファンクやラテンと、エキゾチックな音楽旅行を繰り広げる素晴らしいオルタナティヴポップ・アルバムだ。



— そういう4年間の紆余曲折を経て、観光旅行で出掛けたハワイで作品のムードが定まった、と。

HALFBY:そうそう。「外国に行ってのんびりして、気持ちをリセットしたい」と、適当に出掛けたハワイ旅行がきっかけになって、作品の世界観がうまくまとまったんです。いい具合に甘さが抜けているので、聴いた人からは「最初は驚いたけど、最終的にはHALFBYらしい」っていう声が多くて嬉しい限りなんですけど、自分がこれまでやってきたことありきで、それでいて、40歳になったおっさんが作ってるニュアンスも出したかったので(笑)、年相応な作品になったのかなって。このアルバムは小西(康陽)さんにも聴いてもらったんですけど、「高橋くんは旅というテーマを設けて、作品を作るのに向いてるんだね」って言ってくれて。「旅先コンセプトアルバム専門音楽家」という新たな領域が開けた気もするので(笑)、次の作品はどこに行こうか。今回、ハワイって言ってますけど、僕はオアフ島しか行ったことがないので、もっとオールド・ハワイアンなハワイ島に行ってミニアルバムを出すのもいいかもしれないですね。

— では、最後にハワイをテーマに制作して頂いたDJミックスについて一言お願いします。

HALFBY:アルバム購入者特典用にハワイアン・オンリーのMIXをアルバムの補足的に作ったんですけど、そこにもう一度INNN HAWAII的な現行のモード/トラックを加えてハワイのラジオっぽく作ってみました。不思議に冬聴いてもしっくり来ています。

RECOMMEND

/home/admin/tyo.eyescream.jp/public_html/wp-content/themes/tyo/single-feature.php