貝印によるグルーミングツールブランドAUGERの掲げる「Kiss our humanity – 心に触れて“整える”時間」を生活に浸透させ、“自分と向き合う”ことで生まれる、新たな創造と可能性。その創造性をEYESCREAMがアーティストにぶつけ、自由に作品を構築してもらうシリーズ企画「AUGER ART ACTION」。
今回はグラフィックデザイナーGUCCIMAZEが鏡を制作。平面ではなく立体でのアプローチはGUCCIMAZE史上初の試み。完成したミラーはマットブラックの禍々しいフレームに覆われており実にGUCCIMAZEらしい。そんな本作へ込めた思いについて聞く。
商品として並んでいても違和感のないものを作りたい
ーGUCCIMAZEさんと言えばグラフィックのイメージが強いので、立体作品を制作されたことに意外性を感じました。どのような考えで制作を進めていったんですか?
GUCCIMAZE:お話をいただいてAUGERの商品群を拝見させていただいたときに、けっこう自分が好きなテイストのプロダクトだと感じたんです。そこで、ブランドの世界観に寄り添い、商品の並びとして違和感を感じない作品を制作したいと考えたんです。
ーそれで、物として鏡を作る流れになっていったんですね。
GUCCIMAZE:そうですね。AUGERもモノクロの世界観をテーマにされているので、鏡のフレームをマットブラックでソリッドな印象になるように作っていこうというのは想像しやすかったです。今まで通りグラフィックで表現することも可能なんですけど、それだけじゃ面白みに欠けるかなと思って。せっかくグルーミングツールブランドとご一緒させていただくのであれば、しっかりと説得力のあるものを作りたいと考えたんですよ。鏡だと、すでにあるプロダクトと並んでも綺麗ですし納得できるんじゃないかなと。
ーデザイン面において何かインスパイアを受けたものはありますか?
GUCCIMAZE:『白雪姫』で魔女が鏡を使っていて象徴的に描かれているじゃないですか。あのイメージをベースにヴィランのイメージを投影させています。そこも自分のテイストと合っている部分ですね。だからフレームの上部が棘っぽくなっていたり、下部ではキュッとまとまるような形状になっているんです。総じて、平面ではない立体作品をゼロから作ったのは初のチャレンジですし、非常にいいものができあがったと思います。自分のデザイン画を元に知り合いの工房で制作したんですけど、やっぱり1人じゃ実現できないことですからね。仲間と一緒に制作できたという意味でも良い機会だったと思います。
ーフレームの素材感もマットで重厚感がありつつもポップな風合いがありますね。ここは色々と選べる中から選択していったんですか?
GUCCIMAZE:素材はたくさんの中から選びました。ここはぎりぎりまで悩んだところですね。例えば、光沢感があるものもありましたし、透明だったり磨りガラスっぽいものもありましたし。でも、AUGERの商品として並ぶというコンセプトを考えたときにマットな質感がもっともハマりいいなと思って。だから、今後、手の平くらいのサイズ感でボールチェーンを付けたスライド式の手鏡にしたらいいんじゃないかなって勝手に想像しています(笑)。
ーそれはほしいですね〜。改めてフレームを見ていると、ソリッドな曲線からGUCCIMAZEさんらしさを感じます。先日開催された個展『DEST』のメイングラフィックでもファイヤーパターン調の作品が描かれていました。そういった尖った曲線に惹かれるのは何か理由がありますか?
GUCCIMAZE:不思議とそういうものに惹かれて作っちゃうところがあります。特に今回はミラーフレームでヴィランっぽいデザインというところも大きかったので尖っていますね。『DEST』のファイヤーパターンに関してもなんですけど、こういうアプローチはこの5年くらいで、より自分のスタイルとして明確に押し出すようになったかもしれないです。
ーそれは周期的なものですか?
GUCCIMAZE:そうですね。マイブームみたいなものってあるじゃないですか。世間的にも一周回ってトレンドになることが多々あると思うんですけど、トライバルっぽいモチーフが自分の中で戻ってきた感があるんですよ。2000年前後に好きになったものが、今ならアリかも……と思って持ち込んだら世の中的にも自分的にもハマったっていうのはあります。タイミングがよかったのもあって自分を象徴するものになっていった感覚があります。
シャワーを浴びているときが脳内整理時間
ーちなみに、お話の冒頭でAUGERのプロダクトがGUCCIMAZEさんの好きなテイストだったというお話がありましたが、けっこう使ってらっしゃいますか?
GUCCIMAZE:わざと言うわけではなく本当に愛用しています。特に毛抜きが気に入っていてよく使っています。男性的なデザインなので、これなら自宅の洗面所に置いてもいいかなと。友人が来たときに置いてあるAUGERを見て「ーーっぽいの持ってるね。徹底してるね」って言ってくるので、周りから見ても似合っているんでしょう。
ーそういった鏡と向き合う時間や身だしなみをケアすることは自分を整えるという作業になると思うのですが、制作に向き合うにあたって、自分の気持ちを整えるために行っているルーティンなどはありますか?
GUCCIMAZE:常に部屋を綺麗に片付けておく、というのはあるかもしれないですね。5分後に人が家に来ることになっても大丈夫な状態をキープするというか。どうしても散らかってしまうときはありますけど、基本的に心がけていることとしてあります。あとは作業の始めと終わりに本気めのラジオ体操をするってことですかね。それで街に出かけるという感じです。ポイントは本気でやること。暗記しているので無音でやっているんですが、あまり人には見せられないですね。
ーなるほど(笑)。では、自分と向き合う時間はどういうときに作っていますか?
GUCCIMAZE:強いて言うとシャワーを浴びているときですね。それこそバスルームに鏡があるからかもしれないですけど。シャワー中は唯一何も考えていない時間かもしれないです。日々、漠然と考えていることをなんとなく整理したり。そんな脳内整理時間がしたくてシャワーを浴びているくらいですね。夜に浴びても、起きてシャキッとするために朝も浴びることがあります。
ー今回は、鏡という形で作品が実現したわけですが今後も立体作品は増えていきそうですか?
GUCCIMAZE:ええ。今回やってみて、どういう作業になるのか、どんなことが必要なのかってことがわかったので、もっと色々とやっていきたいと思っていますね。今回の鏡を筆頭に立体物に対して自分の感性を落とし込んでいく制作をやってみようかと。これは以前から考えていたことなんですけど、今回のプロジェクトが具体的に一歩踏み出すきっかけになると思います。