世界の辺境地域やマイノリティーなコミュニティーに入り込み、寝食をともにしながら撮影をするスタイルで知られる写真家、名越啓介の、トゥアレグ族とともにサハラ砂漠を彷徨い撮影した写真群を発表する写真展「DUNE」が、2⽉11⽇より表参道Gallery5610において開催される。
名越は、2023年2⽉から約1か⽉にわたり、アルジェリアのオアシスであるジャネットをスタート地点として、トゥアレグ族と旅をしながらサハラ砂漠にて撮影を敢行。トゥアレグ族はサハラ砂漠に住む遊牧⺠であり、“砂漠のブルース”と称される唯一無二のスタイルで世界を魅了するバンド、ティナリウェンや、エルメスにも採用されたシルバーアクセサリーなどで知られる民族だ。このトゥアレグ族については、本展のプレスリリースに以下のように書かれている。一部引用する。
フランスによる植⺠地時代に引かれた国境線は、トゥアレグ族の故郷を分断しました。そして
2014年以降、彼らの⼀部は領⼟奪還のために戦⼠となり、現在も紛争が続いています。特にマリでは戦闘が激化し、ロシアのワグネル部隊によるドローン攻撃などで多くのトゥアレグ族の命が落とされている現実があります。2024年8⽉、旅を終えた名越のもとにトゥアレグ族から⼀通の写真付きメールが届きました。時が⽌まったかのような美しい砂漠の⾵景の中、ラクダと共にゴザを引いて焚き⽕を囲む遊牧
⺠の⽇常でした。ただ⼀つ違うのは、うつ伏せになっている彼等とラクダの脇に流れる⼤量の⾎です。ドローン攻撃を受けたという内容のメールでした。トゥアレグ族の故郷を舞台に、⼀⼈の⽇本⼈が写真家として何を感じ何にシャッターを切った
のか。サハラ砂漠という電気も電波も無い紀元前から残る壮⼤な美しい⾵景は、⾃らの視座を失わせ、⽿を聞こえなくさせ、⾃分の来た道も、どこに⽴っているのかもわからず、平衡感覚が失われていく。この死者の⽬線とも思わざる終えない場所は間違いなく彼らの故郷でした。そして彼らが⾝につける装飾品には、繊細でありながらも鋭い彫⾦技術が施されていて、そこ
から静けさの中に宿る「故郷を守ることを諦めない」という強い精神を感じ取りました。繊細な⽇本⼈がもつサムライスピリットや幽⽞な美的感覚がこの⼟地にはあると、⽇本⼈の写
真家として感じずにはいられませんでした。
本展は、上記の引用テキストでも言及されている「幽⽞」という⽇本⼈に影響を与え続ける美的感覚と、トゥアレグ族の⽣き⽅や砂漠の⾵景との共通項に焦点を当てた構成として、写真を約20点と、研究機関と制作した温度で写真が浮かび上がる特別仕様の作品1点が展⽰される。
また、シューズブランド、SUICOKEとコラボレーションした写真集「TUAREG」も本展において販売。砂漠の美しい⾵景やトゥアレグ族の⽣活の様⼦、紀元前から⾏われている祝いや結婚式といった貴重な写真も収録されている。
以下、本展に際しての名越の言葉だ。
砂の惑星
ゆっくりと歪みながら沈む太陽の
逆側に姿をみせる巨⼤な⽉。
紅く燃えるあの境界線の
向こう側にはもうあの場所はない。
いつか再会できる⽇を信じている。
⼝の無い旅⼈は⼼に話かけた。
ひとりの遊牧⺠が
砂の上にある記号を
描きながら話しだす。
⽬の前の砂漠は
間違いなく我々の⼟地だ。
この砂こそが故郷。
⾒上げると夜空と地⾯が
ひっくり返り、
衛星が逆流していくのが確認できた。
あの地平線にゆっくりと蠢く
漆⿊のあの点。
⼀体何者だ……
名越啓介
INFORMATION
名越啓介写真展
「DUNE」
会期:2025年2⽉11⽇(⽕) – 2⽉22⽇(⼟)
会場:Gallery5610(東京都港区南⻘⼭5-6-10 5610番館)
時間:11:00 – 18:00 *最終⽇は16:00まで
写真集「TUAREG」
部数:限定500部
⾦額:3,500円+税
装丁:ハードカバー
サイズ:B4変形(235mm×303mm)
ページ数:80ページ
発売元:株式会社ORGY
*名越啓介サイン⼊り