去る12月1日より、ERIC HAZEのアートショーが渋谷の16で開催された。今回はかねてから親交の深いHUFのために書き下ろした作品が並んでいる。オープンに合わせ来日した彼へのインタビューが実現した。
もはや説明不要だろうが、1980年代のNYで友人であるKeith HaringやJean Michel Basquiatらと肩を並べて活躍し、これまでThe Beastie BoysやLL Cool Jのアルバムカバー、PUBLIC ENEMYのロゴなど数々の名作を生んだレジェンドアーティストである。
蛇足ついでにつけ加えておくと、前夜のレセプションではライブペイントを披露していたのだが、取材当日の足元は昨晩と同じく真っ白なAIR FORCE 1。気になって尋ねてみると案の定、「ペンキで汚れたので新品に履き替えた」とオールドスクールな魅力にシビれてしまった。
“One Color, One Brush and Rock n Roll”
ーHUFとはこれまで何度かコラボレーションをしていますよね。まずは、デザイナーのキースとの関係性について教えてください。
キースも私も、お互いにニューヨーカーだし、スケートとグラフィティは関わりが深いからね。ちょっと世代は離れているけど、インディペンデントなストリートカルチャーという同じルーツを持っていると思っているよ。はじめは、アーティストとスケーターの関係だったけど、大人になっていくにつれて、だんだん一緒にビジネスの話もできるようになってきた。いつも、アイディアを出し合って、楽しいことをやろうって言い合ってるんだ。そういう意味では、僕らのコラボレーションは、いつもノールールだね。
ー今回はどんなアイディアだったんですか?
ここ10年くらいは、ナチュラルなもの、手で作り上げたアートがやりたくてね。僕がそういうアートをHUFに提供して商品ができて、こうしてまたペイントをしてアートショーを開催する。プロダクトの先にまたアートがある。昔は、アートとストリートアパレルはかけ離れたものだったけど、ここ最近は距離がだいぶ近くなってきている。その架け橋になるのが自分の役割だとも思っているよ。
ータイトルを360°にした理由は?
360°っていうのは、いろんな意味合いがあるんだ。いま話したような、アート(デザイン)→プロダクト→アート(ショー)という、サイクルを一周して戻って来るという試みのこと。そして、今回の作品は、上下左右がはっきりしてない、どの方向から見ても成立するようになっているから、アート自体が360° 。あとはHUFとのコラボレーションらしさで言うと、スケーターにとって360は最初に覚えるトリックの一つだからね。
ーキャリアの中で、ストリートグラフィティからモダンアートに移行していき、今は両方の側面を持ったテイストになりつつあるような印象を受けました。ご自身としては、今はどんなアートワークが気分ですか?
様々なスタイルに挑戦してきたからこそ、今になって適切な場所でベストなアプローチを選択できるようになってきた。個人的に今回の作品のスタイルはすごく今の自分の気分に合ってる。デザインという行為よりもハンドペインティングは自分の精神を開放できる感覚があるんだ。でも、常に新たな挑戦をするように自分自身に言い聞かせているよ。一つのやり方をとことん極める人も居るけれど、自分はすでに確立スタイルがあったとしてもリスクを負って新しい何かを見つけることにチャレンジしたいんだ。
ー今回はアーカイブと新作が展示されているとのことですが、注目すべきポイントはどのあたりでしょうか?
ここ最近自分の中で築き上げてきたスタイルの中に、新作では初めてタイポグラフィーを混ぜている。星や矢印などの自分のシグニチャーとなる要素と、シンプルなアルファベットのH・U・Fが良いバランスで調和したよ。デザインの世界には正解と間違いがあるが、このアートは正しさや完璧さではなくて、ハートの部分を表現しているから、観た人にそれが伝わると嬉しいね。今は究極のエコノミー オブ スタイルを追求しているんだ。世界中のどこでだって、1色のインクと1本のブラシさえあればいい。One Color,One Brush and Rock n Roll!!ってね。
ー今年はバンクシーの作品がオークションで話題になりましたが、長年ストリートとアートシーンを見てきたレジェンドとして、何か感じることはありますか?
80年代はキースへリング、バスキアが人々の会話にもよく出てきて誰もが注目していた。だが、80年代後半になると、皆の共通言語がモダンアートから、音楽に変わった。そして、今ではありとあらゆるカルチャーがクロスオーバーして垣根がなくなって来ている。昔は見向きもされなかったストリートファッションとメゾンブランドの関係もそうだし、それはアートの世界も同じでストリートもハイエンドも優れた作品であれば同列に扱われ、評価されるようになってきた。現代ではKAWSがその代表格だね。バンクシーはストーリーや背景に面白さがある。だから、純粋なストリートアートワークで登り詰めたという意味ではKAWSがトップじゃないかな。良い時代になったなと思っているよ。
ーそれでは最後に、今後の展望は?
今年、LAで大成功を納めた“Beyond The Streets”ってアートショーが来年はNYに来る。前回も参加したんだけど、次は自分のホームタウンだから、すごく気合いが入っているよ。その為に、3つ大きな新作を制作しているんだ。一つだけ新しいアートのスタイルへのヒントを提示すると、アブストラクトの中にあるリアリティー。これはエコノミー オブ スタイルとは、全く違う新しいスタイルになるよ。表現方法を変えることは私にとって自然なことなんだ。モダンアート史に革命を起こしたあのジャクソン・ポロックも世界を驚かせたアクションペインティングの手法を使ったのはたった4年だけだったと言われているからね。成功を捨てて、リスクを冒してでも常に新しい手法を模索する。そのマインドを持っていたからこそ、頂点に辿り着くことができたんだろう。私も彼に倣って、これからも変化し続けたいと思っているよ。