クリエイティブに携わる人々に、お気に入りのZINEをレコメンドしてもらう連載シリーズ『ZINEspiration』。今回登場するのは、ヴェイパーウェイヴ(vaporwave)やウェブパンクを巡るカルチャーに触発され、寝付けない日の悪夢、あるいはディストピアのようなイメージをつくり出すグラフィックアーティスト、web88punk。彼が多大なインスピレーションを授かったヴェイパーウェイヴへの思いや、敬愛するZINEについて話を聞いた。
「前略プロフィール」が流行し、誰もがガラケーを持っていた頃に高校時代を過ごしたweb88punk。インターネットで見つけた画像素材を切り貼りして、ガラケー用待ち受け画像をつくっていた当時の感覚が、現在の美的感覚のベースになっていると話す。彼がヴェイパーウェイヴに触れたのは、2016年頃だったという。
「インターネット上に転がっている変なグラフィックが気になって調べているうちに、僕が興味を持ったテイストは、ヴェイパーウェイヴに付随している『ウェブパンク』と呼ばれるグラフィックのジャンルだということがわかって。そこから、自分にもできる気がして、制作したグラフィックを少しずつInstagramで公開し始めたんです。それから少しして、『蒸気波要点ガイド』というヴェイパーウェイヴのZINEに出会って、ZINEのカルチャーにも興味が湧き始めて。友達から教えてもらった『TOKYO ZINESTER GATHERING』というイベントでZINEを飛び入りで売れることを知ったので、2日間寝ないでヴェイパーウェイヴをテーマにしたZINEをつくって、キンコーズで印刷して持って行ったら、すごく反応がよかった。それまで、実際に生きている人間が目の前でヴェイパーウェイヴについて話しているのを見たことがなかったから、いたく感動したし、自分のつくったZINEに自分のつけた値打ちが支払われる行為に自意識の激動の震えを感じて。アドレナリンがやばかったです。そこからもっと制作をやろうと思うようになりました」
その後、桃太郎をヴェイパーウェイヴ的にパロディした『PEACH BOY』、GIFのアーティストやミームについてまとめた『gif zine』、香港をテーマにした『香港の街並みがエモすぎて』の3作のZINEを制作。今年に入ってからは、小嶋陽菜がプロデュースする『22;MARKET』のInstagramのアートワークを担当するなど、活動の幅を広げている。
「僕は、まだヴェイパーウェイヴに親しみがない人に向けて発信しようと思っているところがある。だからヴェイパーウェイヴの象徴的なアイコンである石膏像とかを意識的に使ってすごくわかりやすくしているんです。ただそういうものはこれまでのZINEで具現化できたので、この先はもう少し新しい表現も取り入れていきたいなと思っています。ヴェイパーウェイヴの文化を下敷きにしつつ、文脈を踏みにじらないように大事にしながらつくっていきたいですね」
ヴェイパーウェイヴのカルチャーへの畏敬の念を抱きつつ、アップデートを試み続けるweb88punk。最後に、創作への思いについてこう話してくれた。
「僕は『こういうものが世の中に存在してたらいいよね』という気持ちが、何かをつくるうえで一番のモチベーションになっている。今後もヴェイパーウェイヴに軸足は置きつつ、興味の対象が散らかっているので、自分の頭の中にあるものを形にできそうだったらやってみるという感じで、制作していけたらと思います。最近はストロングゼロを飲み過ぎてすぐ寝ちゃってあんまり制作できてないから、ちょっと飲まないでつくらないと(笑)」
【web88punkがレコメンドするZINE5冊】
INFORMATION
TOKYO ART BOOK FAIR 2019
ブース出展
日時:2019年7月13日(土)、14日(日)、15日(月・祝)11:00 – 19:00
※7月12日(金)プレビュー 15:00 – 21:00
会場:東京都現代美術館 (東京都江東区三好4-1-1)
https://tokyoartbookfair.com/
Instagram:@web88punk