ART 2019.08.22

Interview:8月23日(金)から開催される写真展”fragile”に際して -Koki Satoに訊く、写真と表現とNY-

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
Text-Maruro Yamashita

連載”Diggin’ in the Culture – from New York –” の写真を担当しているKoki Satoによる写真展が8月23日(金)から開催される。これに際して本人にインタビューを敢行。会場に行く前にご一読くださいませ。

今週の金曜日、8月23日より原宿のBEAMS Tにてフォトエキシビション”fragile“を開催する、NY在住のフォトグラファーであるKoki Sato。NYに住み始めて10年目となる今年、彼は2作目の作品集『fragile』をリリースしており、出版を記念した個展をNYのギャラリーでも開催している。NYという街が持つカルチャーを常に感じながら、自らの表現と向き合う彼に対し、これまでのことから、これからのことまで、話を訊いた。

ー出身はどちらですか?

Koki:出身は東京の港区です。東京工芸大学を卒業した後、2009年に渡米し、New YorkのI. C. P. (International Center of Photography)に入学し、2011年に卒業しました。

ー写真はいつ始めたんですか?

Koki:写真は大学に入ってからです。写真学科のある大学ということで、東京工芸大学に進学しました。大学ではファインアート寄りで、コラージュの作品を制作していました。4年間を丸々コラージュに費やしましたね。今のように写真で表現をするというのは、NYに来て初めて仕事を頂いたときから始めました。

ー自分で撮影した写真を基にコラージュをしていたということですか?

Koki:そうですね。

ーそういう風に何かを作りたいという気持ちが元々あったんですね。

Koki:父親がプロダクトデザイナーで、母親は美術史家ということもあり、小さい頃からアートをやりたいという気持ちはずっとありましたし、絵を描いたり、何かを作るというのは子供のときからずっとやっていました。母方の祖父が書家で、叔父や従兄弟が漆芸家やグラフィックデザイナーだったりと、様々な芸術家に囲まれて育ちました。けれど、写真家はまだいなかったんですよ。他のジャンルは、皆がそれぞれ活躍していたということもあり、自分は別のジャンルでとの思いで写真の世界を選びました。

ーKokiくん自身は全く別の道に進むという選択肢もあったと思いますが、そうはならなかったのは、やはり絵を描くのが元々好きだったり芸術的な世界に抵抗がなかったから?

Koki:そうですね。今でもそうですが、家族で話をしていると8割がアートの話という特別な環境でしたね。両親が自分のInstagramを覗いていて、たまに電話をすると、この間の写真は滅茶苦茶よかったね!というときもあれば、この間の写真は私には分からないんだけど、あれは本当に良いの?とか(笑)、そういう会話があったり。だから、今でも作品について相談したりしますね。

ーNYにはどういう切っ掛けで移り住んだんですか?

Koki:当時、従姉妹がNYに住んでいたので、大学二年生の時に初めてNYに来ました。高校の時にダンスを始めたことがきっかけでHIPHOPにのめり込み、本場に行ってみたいなと思っていたんですよね。で、最初に来たときから滅茶苦茶やられて。その当時は格好もしっかりB-BOYで、ドゥーラグの上にNew Eraで、2XLの洋服みたいな感じだったんですけど、普通に電車に乗っているおっちゃんとかがYankeesのキャップを被っていたりして、すごいな……文化が根付いているな、HIPHOPだなって思って、自分は格好だけだなと思い、この街で学び、吸収したいとの思いで住むことを決めました。HIPHOPというカルチャー好きが先行してしまい、その当時は写真家としてやっていくという意識はあまりなかったかもしれません。

ーでも、アートというか、何かを作り出すことで生活をしていきたいという意識はあったんですね。

Koki:それはずっとありましたね。

ー大学の時のコラージュはファインアート寄りとおっしゃっていましたが、そこに当時ハマっていたHIPHOPの要素はあったんですか?

Koki:ふんだんにありましたね。そのコラージュのアイデアの大元もグラフィティーの要素からだと思います。

ーその時のコラージュの製作が、今のKokiくんの写真のスタイルに影響を与えていると思いますか?

Koki:自分は、一つの画面の中のコンポジションを考えることが好きで、コラージュも白の上にどれくらいの割合で黒を乗せるかを意識していました。それは今も同じ意識で取り組んでいますね。

ーNYに来て初めて写真の仕事を貰ったというのはどういう切っ掛けだったのでしょうか?

Koki:もうNYに住むことは決めていた頃、NYでメッセンジャーをやりながらフォトグラファーとしても活躍されていたTakuya Sakamotoさんが、原宿のThe North Faceのお店でメッセンジャーをテーマにした大きな個展をやられていたんですよ。08年だったと思うんですけど、それを見に行ったときに、こんなことをやっている人がいるんだ!とすごい衝撃を受けて。そのときは単純にそのビジュアルの格好良さに惹かれたんですけど、NYに行ったらこの人を訪ねてみたいなと思い、実際に渡米してすぐに彼を探し尋ね、アシスタントとして働かせて頂きたいとお願いをしました。そしてその後、2年半程、彼の下で修行をさせて頂きました。彼との出会いで、それまでの様なビジュアル作りだけではなく、写真を撮るということを学んでいったという感じですね。ちょうど、2年半くらい経った頃に、彼が受けた日本の雑誌の仕事を、もし良かったらお前やるか?とふって頂いて、それが僕のはじめての写真の仕事でした。ある日本のファッション誌の撮影だったんですけど、30ページはある大型特集で、全部で4日間くらいの取材でしたが、その当時の編集者の方に、まぁ怒られて。意図もなく逆光で撮っちゃうような素人丸出しな感じで、結果、紙面にはなったものの、しっかりとしたお給料を頂けず、それがキッカケで、自分の甘さを痛感し写真と向き合うことを決めました。

ーなるほど。その苦い第一歩があり、その後、自分がどういう写真を撮りたいのかをしっかり考えだした。

Koki:最初の入り口はファッションだったんですけど、だんだんと写真と向き合っていくうちに、ドキュメンタリー写真の持つ幅、深さに気が付き始めました。先のTakuyaさんも被写体がメッセンジャーだったり、NYのカルチャーの匂いのする風景だったりと、ドキュメンタリーとして切り撮られる方だったのですが、その中には当然ファッションの要素があり、枠にとらわれず、もっと広く、写真を通して表現が出来ることを知りました。これはNYだからこそ出会えた感覚の様に思います。

ーTakuyaさん以外に影響を受けた人、ドキュメンタリーを格好良いなと思う切っ掛けになるような人はいますか?

Koki:BoogieやAri Marcopoulos、Jamel ShabazzにAlessandro Simonettiに影響を受けましたし、今でも影響を受け続けています。本人達がどの様に写真と向き合っているかは分かりませんが、時代の尖端を見つけて潜り込み、写真を通してコミュニケートするというスタイルには、とても憧れがあります。

ーKokiくんの撮るポートレートの被写体には、スケーターだったりミュージシャンやアーティストなどが多いですよね。そういう人たちと接していて、どういうことを感じたりしますか?

Koki:とにかく刺激を受けますね。スケートも、HIPHOPもそうですが、本人が選んだ生き方と向き合っている姿にとても惹かれます。ステージで輝いている日もあれば、ストリートでくさっている日もあるように、両極端を生きている姿にとても勇気付けられます。

ーそれは今回の写真集、『fragile』にも共通している部分ですか?

Koki:そうですね。当たり前の事ですが、最高の日もあれば、最低の日もあって、常にその繰り返しで。でも、その両極端があるからこそ、ものごとはすごく魅力的なんだと思います。その両極端のバランスというのは、とても繊細なバランスだと思うんですけど、その、繊細さというところを写真で表現したくて『fragile』というタイトルを付けました。単純に、壊れ易いというだけの意味ではなく、両極端があることの美しさ、脆さ、儚さを表現できればと。

ー表紙のカットは、画家のフェルメールへのオマージュだと思いますが、それ以外にもKokiくんの育った環境的なバックグラウンドが垣間見られる作品が収められていますね。

Koki:小さい頃は、とにかく鳥山明先生が絵描きとしてヤバイとずっと思っていて。でもその頃から、家族からは鳥山明先生もすごいけど、西洋絵画の世界も素晴らしいよということを言われていて、時間はかかりましたけど、この歳になってようやく、その意味を理解出来るようになりました。パリに行った際、名だたる巨匠の作品を前に、絵画的な思想や表現と、ストリートの要素をミックス出来ないかなというアイデアに至りました。元々、それは自分の中に、気付かずにあったんだと思うんですよ。ずっと。意識はしていなかったですけど、それに嫌でも気付かされたという感じですね。



ー『fragile』のリリースに合わせてNYで行った展示は、どこで行ったんですか?

Koki:Magic Galleryというギャラリーで、Gogy Esparzaというアーティストが運営するギャラリーです。自分が最初に訪れたのは、雑誌の取材だったんですけど。かなり独特なところで、チャイナタウンにある雑居ビルの5階で、5階まで上がるといきなり真っ白な部屋があるんですよ。最初に行ったとき、その空間の持ついかがわしくも清い空間にやられました。いつかここで展示をやりたいと思い、その後二回Gogyにアプローチをしましたが、 お前の写真は格好いいけど、もっとパッションを感じるものが見たいと断られ、昨年の11月に、三度目のアプローチを行った際に、ようやく実現しました。

ーNYは東京よりも、何かを作っている人にとって、発表の場が多かったり、その場所が色んな人に対して開けている気がするんですが、そういうことは感じますか?

Koki:感じますね。どこかしらで毎週ギャラリーオープニングがあって、誰でもウェルカムで、アートに興味があろうがなかろうが、一緒に空間を楽しめる場所というのが多いなと常に感じています。人種や職業の違いはあれど、作品を見て考える行為は同じですので、その場が多いことは本当に素晴らしいと思います。

ー今、NYで面白いと思うことはありますか。

Koki:人ですね。10年住んでも、フレッシュに街が見える理由は、そこに集う人だと思います。どんどん新しいエネルギーが出て来ますし、新しいエネルギーが出て来ることで、忘れかけていたエネルギーに火が点いて、そのサイクルの中に自分の身を置けることがとても面白いです。

ーなるほど。では最後に、今後の展望をお聞かせください。

Koki:仕事と作品作りを両立させ、展示の機会を出来るだけ多く持ちたいと思います。ファインアートとしての写真と真摯に向き合っていきたいと考えています。

下記、写真展”fragile”について

ブランドのヴィジュアルやアーティスト写真、最近ではFebbとGRADIS NICEのジョイントアルバム『SUPREME SEASON 1.5』のジャケットを手がけるなど各方面で活躍するフォトグラファー・Koki Satoによるフォトエキジビション「fragile」が、8月23日よりビームスT 原宿にて開催される。自身の拠点であるNYを舞台に、街並みやそこで活躍する人物、人々のリアルな生活を切り取った作品群が並ぶ本展。会場では展示作品の販売に加えて、作品を落とし込んだTシャツやパーカなどのアパレルアイテムを展開するほか、新作フォトブックが先行リリースされるとのこと。


先行販売フォトブック

Tシャツ ¥4800+TAX

ロングスリーブTシャツ ¥6000+TAX

パーカ ¥9200+TAX

このインタビューを読んで、Koki Satoの展示を楽しんでいただきたい。きっと、そこに展示されている写真の意味が深く伝わってくるはず。

INFORMATION

Koki Sato Photo Exhibition at BEAMS T HARAJUKU

会期:2019年8月23日(金) – 9月1日(日)
会場:ビームスT 原宿
東京都渋谷区神宮前3-25-15 1F

レセプションパーティ
日時:2019年8月23日(金) 19:00〜21:00
会場:ビームスT 原宿
DJ:jitzmitz

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