cherry chill willは幼少の頃からヒップホップカルチャーに大きな影響を受け、その後レコードショップCISCOのスタッフとしても勤務しながら、東京のヒップホップシーンで活動を続けてきた。その後、あるイベントを撮影した時の衝撃が忘れられず、ラッパーのライブの現場を中心にフォトグラファーとしてのキャリアをスタートさせた。
DJ KRUSHやMURO、BOSS THE MCなどからANARCHY、KOHHなどトップアーティストの撮影を続け、今も現場にこだわり続けるcherry chill willが、初の展覧会『Beats & Rhymes + PIXXX』を7/6までShibuya NOS ORGで開催中だ。
彼が深い愛情を持って接してきた日本のヒップホップシーンに焦点を絞ったこの展覧会を彼はなぜ開こうと思ったのか、そしてラッパーたちへの思いとは。
-今回の個展は日本語ラップシーンへの想いというものが出ていると思うんですが、そもそも日本語ラップにハマったきっかけはなんだったんですか?
cherry chill will – 元々はアメリカのヒップホップがすごい好きで、最初に聞き出したのは1991年とかで小学生とか中一くらいでした。そのときにアメリカのヒップホップを聴いて、自分で日本のヒップホップを聴こうとする前にどこからか聴こえてきたんですよね。スチャダラパーだったり、ZINGIだったり、あと同時にレゲエも一緒でBoy-Kenとかが聴こえてきて。なんだ日本語でラップできるんだ、アメリカと同じ感じでラップができるんだって思って。一番衝撃的だったのはMicrphone Pager。そこで完全にハマりました。住んでるところが青森の八戸と言う所で田舎だったんですけど、頑張って東京のレコード屋さんに電話して、色々聞いて、音源通販してもらったりとかしてましたね。
– 元々はラッパーとして活動されてたんですよね。
cherry chill will – 95年、高校一年生くらいですかね。元々はDJをやりたくて、中三のときにターンテーブルを両親から買ってもらって、DJを目指していたんですが、途中で僕にHIP HOPを教えてくれた師匠にあたる人が、八戸から上京したんですよ。その人がSUIKEN君とK-Bomb君と一緒にLEVEL 5ってグループを組むんです。それで師匠から東京の情報が入ってきたりLEVEL 5のデモテープを聴かせてもらったりしてて。そのテープがとにかく衝撃的でした。SUIKEN君にはラッパーとして当時相当な影響を受けましたね。それで高校を卒業して上京し19歳の時にCISCO RECORDSにアルバイトで入社しました。2006年に家族ができて、子供達が生まれデジタルカメラで子供を撮ったりしてたんですけど。2008年にCISCOが倒産して辞めるんですが、その後も普通にはクラブに遊びに行ってて、写真撮るの楽しいなとも思ってたので、カメラを持ってクラブに遊びに行ったんですよね。R-RatedのRYUZOくんとDABOくんとDJ HAZIMEくんがやってたイベントで、RYUZOくんに「撮っていいですか?」って聞いたら「構わへんよ」ってことで、撮らしてもらったんですよ。そしたらその時がすごく衝撃的で、普段ステージ脇だったりお客さんとして、観てるものとは全く違う絵がカメラの中で見えちゃって、そこでこんな世界があるんだと思って、すごいやられましたね。その一晩で一気にもってかれたっていうか。
– ライブの瞬間でアーティスティックな写真を撮るのってすごい難しいと思うんですが、心がけていることはありますか?
cherry chill will – 自分がスイッチが入った状態があって、アートにしようドキュメントにしようって判断ができない瞬間があるんですね。その時って必然的にいい絵が撮れてて、自分でも最高だと思えるカットが必ずあるんです。元々アーティストがライブやってる間って、その時点で100%かっこいいんですよ。だからどうすればそういう風に撮れますかってよく聞かれるけど、なんで逆に撮れないのかなって思うくらい、みんなかっこいいライブをするから、それを感じたままシャッターを押すだけなんじゃないのかなって、未だに思ってます。だから僕の力ではないっていうか、フォトグラファーとしてはどうかわからないですけど8割くらいはアーティストのパワーなんじゃないかなと思って(笑)。おれはそれを記録してるって感じですね。ライブでアーティストが完璧に輝く瞬間があるんで、そこを逃したくないっていうのは思ってますけど。それがいつ出てくるかは全くわからない。歌ってる時に限らず、ふとした時もあるし、ちょっと力を抜いて後ろをふり向こうとした瞬間とか、偶然照明の光が射すとか、お客さんが何かを喋って反応しちゃうとか。そういう画になるものを引き寄せる人、偶然の奇跡を色んなところで起こす事ができる人が良いアーティストには特に多いような気がします。
– 撮影してきた中で、忘れられない撮影はなんでしょうか?
cherry chill will – 衝撃的だったのはDJ KRUSHの撮影で、その時は特に痺れましたね。僕は大ファンだったので無茶苦茶緊張していたんですが、KRUSHさんはすごく優しい方で、撮影前は笑顔で、「大丈夫だよ、君の言う通り動くから」って声をかけてもらって。じゃあお願いしますってファインダーを覗いた瞬間に、僕の知ってる鋭いDJ KRUSHに一気に変わったんですよね。その時はゲロ吐きそうなくらい、うお、これはすごいって(笑)。今現在でも中々あれを超える撮影は難しいくらいですね。それをきっかけに撮るのを怖がらなくなったっていうか。あとMUROさんのアー写を撮らせてもらった時もそうだし、THA BLUE HERBのBOSSさんのソロアルバムのジャケット撮影、MAKI THE MAGICさんの追悼イベントでのD.Lさん(DEV LARGE)のブッダ復活のライブ、、、その4つは特に忘れられないですね。
– この仕事の難しいところはどんなところだと思いますか?
cherry chill will – 体力的にキツイなってところ以外は、本当に好きでやってるので、難しいってところはそんなにないですけど、カメラのスキル的なところよりも人としてどうアーティストと接するかっていうところに気を配るっていうか。僕が1ファンであることは前提で、それでアーティストがオファーしてくれて、僕はそれを写真で返す。そこから生まれるコミュニケーションを大事にしてるっていうか、アーティストの世界観を理解しようっていうのはすごい気をつけているし、気をくばってるところかもしれませんね。
– アーティストの世界観もそれぞれ違うと思いますし、コミュニケーション取りやすい人もいれば、とりにくい人もいるかと思うんですが。
cherry chill will – 僕の中ではないかもしれませんね。心を開かせたいって思ってることは、何回もありますけどね。全員が全員おれを知ってるわけじゃないし、知らない初対面の方もそうだし、他ジャンルの方もそうだし、その度に自分のことを知ってもらいたい、こういう写真撮るんですよっていうのを写真でわからせたいっていうのは、すごくあって、初対面の方を納得させよう、開かせようって気にはなりますよね。すごい撮りづらいとかも、そういう意味ではなかったかもしれないですね。
– 難しい質問だと思うんですが、自分をどういうフォトグラファーだと捉えていますか?
cherry chill will – 100%アートだと思ってないって言ったら、嘘かなあ。ドキュメンタリーの部分も強いと思うんですけど、ドキュメントとアートの中間みたいなところを自分はすごく思っていて、他の音楽ももちろんそうですけど、ヒップホップは音楽でもあり、カルチャーだと思ってます。なぜカルチャーかっていうと、そこにドラマだとか、生き様だったりとか、それが反抗的でも内向的であっても、表現している物ごと1つ1つが積み重なって形成されているのがヒップホップだと思っているんで、そういうカルチャーの中に残せるもの、残るものを目指していきたいなって、ずっと思いながらやってます。
– ライブの現場にこだわり続けるのは
cherry chill will – そうですね、まだ撮れるんじゃないか、アーティストの本当の意味でかっこよさを引き出せてないな…って思えるところはあるかもしれないですね。
– 今回展示されるもので、印象深い写真はなんでしょうか?
cherry chill will – さっき言ったKRUSHさん、MUROさん、BOSSさん、D.Lさんのもそうだし、あとは僕のキャリアの中でANARCHYの存在はすごくでかくて。彼がまだ東京に来る前から撮りだして、そこからステップアップして、今のところに来るまでを、ほぼほぼ追えてきてるかなと思ってて、まだまだ追い続けたいなって思いますね。大きくなるにつれて、雰囲気も変わってますね。本人が気づいてるかはわからないけど、でもまだまだ上を見てるんだと思います。そこを僕はこっそり後ろからカメラで覗かせてもらってますみたいな。毎回ライブ現場も楽しくて、何をやるのかがわからないときもあるし、水をぶっかけられることもあるし、いきなり真上をダイブしてくることもあるし(笑)終わってから「危ないよー」って言ったら「見えてへんわー」って(笑)何が飛び出すかわからないアーティストって強いですね。
– どんどん新しい自分を見せてくれるのも魅力?
cherry chill will – そうですね、でもずっと同じことをひたすらやり続けていく強さと、続けていくことで出る言葉の強さがある人もいて。その代表格がBLUE HERBのBOSSさんとOZROSAURUSのMACCHO君だと思ってます。若いアーティストがダメって言ってるんじゃなくて、やっていった上での洗練されたものとか言葉の重みを、しっかりライブの現場で生で吐き出せるっていう強みはキャリアを重ねてきた人じゃないと出せなかったりするし、その面白さにも写真を撮っていくうちに気づきましたね。また真逆でヒップホップってカルチャーだよっていうアティチュードに中指を立てる若いアーティストも大好きだし。それこそヒップホップだよねっておれも思ってるから。段々僕らも歳を取ってきてるので、また若いラッパーを撮りたいなっていうのはすごい思ってます。「誰お前?知らないけど撮らせてやるよ」くらいな奴と会って撮りたいですね。若手でもベテランでも、出会いとインスピレーションを大事にして撮り続けたいです。
– 最後に今回の展示は本人からみてどういったものになっているでしょうか?
cherry chill will – ちょうど写真を始めたのが、2008年くらいで9年経って、やっとちゃんとした紙で額装して、しっかり自分の作品として胸を張って出せるものが撮れてきたなって思いがあったので、今回初めて展覧会という形で発表しようとなりました。やっぱりDev Largeさんが亡くなったのも大きくて、今はInstagramとかWeb上で写真を見るのが当たり前だと思うんですけど、やっぱりこっち側としては紙にしてしっかりと見せたいっていう思いが抑えられなかったですね。Instagramは大好きだけど、単純にも大きいサイズで見せたいっていうのと、ヒップホップが好きだったら、写真に興味がなくても一度見て欲しいなって思ってますね。一切これまで発表していない写真も展示するし、あとファンの方が見れないバックステージの写真とか、ライブ前のステージ袖でラッパーがどういう表情でいるのかとか、僕しかいれない場所で撮ってるものもあると思うので、そういうものを出したものになっているので是非見てもらいたいですね。
Beats & Rhymes + PIXXX
-THE JAPANESE HIP HOP PHOTO EXHIBITION-
Photography cherry chill will.
開催期間 2017 ~7/6
Shibuya NOS ORG
〒150-0042
渋谷区宇田川町4-3ホテルユニゾB1F
TEL:03-5459-1717
FAX:03-5459-1722
WEB: http://org.nos-tokyo.com/
営業時間
月曜日〜木曜日 18時〜2時
金曜日〜土曜日 18時〜5時
日曜日、祝際日 17時〜23時