NYを拠点に活動する写真家、視覚芸術家:土山知志の日本初となる展覧会がCONNECTで11月29日から開催されることに。今回発表されるHeat of Sandという作品は、土山氏がNYで暮らし始めてから今までの約13年間、生活や制作をする中で無意識的に集められた興味対象が結びついた地、イスラエルに赴いて撮影されたものだ。
現地のダンサーやストリート、自然風景などを被写体に撮影した写真の中で、物体や空間、肉体の形を、動的、静的にとらえ、シュールレアルかつ、アブストラクトな物語を表現している。
土山がイスラエルで視覚的に強く感じた砂の存在、空気の中や建物の色、その熱が環境全体に影響を及ぼしているような雰囲気をタイトルのHeat of Sandに落とし込んでいる。
下記、土山氏のステートメント
13年余り暮らすニューヨークの生活の中で、ユダヤ教の存在は確かに身近である。
通った大学の祝日やカフェテリアにあるコーシャ(Kosher)のマークから始まり、シティでは物件の大家にパン屋、ブルックリンはウィリアムスバーグのある区画では
多くの黒づくめ、編んだ長いもみあげの独特のスタイルの人々を見かけ、気がつけばユダヤ教関係の歴史資料館で古い文献や美術品の撮影をする仕事までしていた。
一応洗礼を受けているキリスト教徒の父、とくに無宗教か薄い神道仏教混在の母の元に生まれ、特別な思い入れをどの宗教にも持ったことはないし、現在もない。
視覚的、美術的なものを除けば、であるが。
イスラエルへの興味はその辺りから、ほのかに生まれた。しかし常に過剰な情報と刺激で満ち溢れたニューヨークシティの渦の中で、
それは自分にとって多くのうちの小さな一つに(その時点では)過ぎなかった。
メディアで目にする画像、映像は歴史的、政治的複雑性に特化したジャーナリズムのものばかりで、新聞を斜め読みする程度の傍観者から脱皮する機会は数年訪れなかった。
視覚芸術、写真を通した色々な出会いの中で、ダンサーや振付家の人々と関わるようになった。
もともと人間をあまり被写体に好んでいなかったのが彼らとの出会いによって変わり、そうした身体表現者達は自分のインスピレーションの中心的な要素の一つとなるようになった。
特にコンテンポラリーダンスと言われるエリア、ジャンルとジャンルの境界を溶かしたような動きには興奮を覚えた。そしてイスラエルの名前はここでまた現れることになる。
Batsheva Dance Companyを筆頭に、その業界ではダンスで熱い国の一つとしてよく知られていた。自分の興味の点たちが繋がり始めた。
宗教、文化、自然環境の濃厚な地帯にて政治的に不安定な状況を継続している中、どんな“普通”があり、建物、路地があってその裏にはどんなゴミが落ちていたりするのだろうか。
その土地の空気、気候がどんな色と匂いをし、その影響を受けたダンサー達は自分の視覚フィルターを通してどう見えるのか。そして2017年夏の終わり、初めてイスラエルの地に訪れた。
それから19年1月までに4度にわたる滞在をする中で、様々な場所を訪れた。
主に撮影した場所は、二代中心都市テルアビブとエルサレム、自然クレーターの町ミツペラモンに、死海やその間の名もなき砂漠など。
当時現地で生活をしていた知人の紹介や、新しく知り合った人々からの繋がりでBatshevaなどのダンスカンパニーで活動するダンサー達と撮影をする機会にも恵まれた。
朝食としてシャクシューカの作り方を覚え、地元の家庭料理で新鮮なフムスを味わい、地中海に面したビーチで昼寝した後には、
市場の肉屋でゴラン高原のステーキを昨今勢いのあると言われるイスラエルワインで流し込んだ。
夜には評判のパーティースペースでヘブライ語のヒップホップを聞きに行った。
そしてそれらの瞬間以外、滞在のほとんどの時間カメラを手にあてもなく歩いた。
炎天下の砂地やクレーターの中、落書きの路地、闇の中のゴミを覗き込み、崩壊直前のアートスクール最上階に侵入した。目の欲望に自分の身体がついていった。危険を直接感じることはほとんどなかった。しかしその存在を主張する断片は何処にも溢れていた。
シェルターはあちこちにあった。
やはりガザからはいつものようにミサイルが飛んできては撃墜されていた。
部活動帰りの学生のようなイスラエル軍の若者たちが首から下げるマシンガンは、高校の時のケータイのストラップのようにプラプラ揺れていた。
曇り空の死海のほとりには野ラクダ、その眠そうな涙眼は蜃気楼に濡れる砂漠の地平線と重なっていた。そうして撮られた一枚一枚の写真は自分がその瞬間に感じた感情の熱量と比較していくらか低めのトーンを帯びていた。
詩的でポストアポカリプティックな味をした線と形の遊びは、実際のジャーナリスティックな混沌から近くも遠くもないところで個人的な妄想とも混ざり合ったものとなった。
オープニングレセプションでは、写真の世界観、そしてコンテンポラリーダンスが盛んなイスラエルでの身体表現をインスピレーションに、日本を代表するダンサーの1人である、鈴木ユキオ氏によるダンスパフォーマンスが行われる。
また、このHeat of Sand作品に関してリサーチをする中で作家、安部公房の著作「砂の女」より抜粋した、砂に関する考察についての幾つかのパートの朗読をNYのアンダーグラウンドシーンで活躍するモクノアキオ、ピアニストのホンダヒトミを中心としたグループ、アンサンブル現代の実験音楽と組み合わせ、パフォーマンス音源とする予定だ。
今回の展示に合わせ、土山自身による手作り写真集(限定50冊)、そして、イスラエル・テルアビブでアンダーグラウンドミュージックやスケートボーディングなどストリートカルチャーを題材に展開するローカルブランド「Thrash Addiction」とのコラボレーションTシャツをスタイリスト渡辺慎也の監修のもと制作し、それぞれ販売予定。
こんなスペシャルな展示。アート好きだけじゃなくても必見。会期は11月29日から12月15日まで。是非体験していただきたい。
INFORMATION
Heat of Sand
CONNECT
Exhibition 11月29日〜12月15日 12:00〜18:00
Opening Reception 11月28日 19:00〜21:00
月曜休廊
東京都渋谷区東1-29-3 渋谷ブリッジ B1F
https://www.instagram.com/cnct_space/
土山知志
写真家 / 視覚芸術家
https://www.satoshitsuchiyama.com/