平成変遷浪漫譚 〜嗜み噺〜 インタビュー山田健人

Photograph_Takaki Iwata, Edit&Interview_Ryo Tajima [DMRT]

平成変遷浪漫譚 〜嗜み噺〜 インタビュー山田健人

Photograph_Takaki Iwata, Edit&Interview_Ryo Tajima [DMRT]

新たな時代“令和”へ突入していく日本。現代人の生活様式もまた、きっと大きく変わっていくんだろう。EYESCREAMがメディアとしてフォーカスしているサブカルチャーは趣味と分類される。そして、これを読んでいる読者諸賢の皆さまも何らかの趣味を持っていると思う。でも、大人のカッコよさや嗜みって何なんだ。変わりゆく時代の狭間で、いつまで経っても大人になれないボクらが知りたい、カッコいい趣味の噺。第2回目はyahyel/映像ディレクターの山田健人氏にそれを聞く。

仕事と趣味の境目はないんです。仕事でもあるし趣味でもあるので

ー山田さんにとって趣味とは?

山田健人(以下、山田):難しい質問ですね。僕の場合は仕事と趣味がそんなに大差ないですし、仕事でやっていることが趣味という感じなので、あまり境目がないんです。強いて言うと、最近は音楽(yahyelの活動)かな……。映像と音楽、両方とも仕事ではあるんですが、音楽の方がより趣味寄りかもしれませんね。

ーyahyelに関しては体制が変わることで山田さんの担当も変わったと思うんですが。

山田:そうですね。メンバーが1人減ったことで、僕もギターやシンセもライブで弾くようになって、映像よりも音の方を触っている時間が増えてきましたね、最近は。だから、今年の前半は楽器の練習をする時間も長かったですよ。

ーすでにライブでも使用されていますけど、このギターすごいですね。どんな改造をしているんですか?

山田:テレキャスターの下腹部にコンパクトなマルチエフェクターを埋め込んでいます。自分なりに考えて、唯一無二の奏法とノイズを出すために穴をあけて、試作品感覚で改造した感じですね。ライブでは活躍中です。エフェクター自体は古いもので、現行品は買えないんですよ。だからサブ機としてストックも持っています。これだけでも色々音色が変わるので面白いですよ。

ーシンセと言えば部屋に置かれているコレ、すごいカッコいいルックスです。

山田:変な見た目ですよね。モジュラーのケースにもなるんですが、そこに鍵盤がついていて。最近買って、自分でモジュールを組もうと思って。これからライブにも登場するかもしれません。yahyelに関しては3月のアメリカツアー以降、各地でライブが続いていて、明日もライブなので自宅から機材が出払っている状態です。

ーでは、映像制作に関しては、最近いかがですか?

山田:今年の前半、音楽活動が忙しかった分、そこまで数多くのMVを作れていない状況ですね。監督業の方では、そういった感じですけど、ライブ演出における映像はyahyelにおける表現として行なっています。あとは、SuchmosとTHE YELLOW MONKEYのツアーに同行してライブ演出を行なっています。そういった演出に関する映像制作にも最近は面白さを見出しています。例えば、アリーナクラスの場所でライブをする場合、客席によって映像の見え方も大きく変わるので、どこでどうバランスを取るか、照明さんと、どういったコンビネーションを取れば良いか。そういったことを考えながらやっています。今までの自分がやっていなかった分野の仕事なので、とても新鮮なんですよ。

ー先ほど、仕事/趣味の境目がない、ということを仰っていましたが、疲れてしまうときはないですか?

山田:そうなっちゃったらマズイですよね。だから、そうならないうように考えて先回りして行動しないといけないと思っています。オファーをすべて受けていたら、どんなにやりたいことであっても苦しく感じてしまうでしょうし。やりたいことをやるために、それを予測して、どれだけ先に動くのか、ということを考えています。僕の場合、基本的には事前に想定してる出来事くらいしか起きないんですよ、撮影においても。だから、MV制作の現場にしても、奇跡の瞬間を待つというスタイルではなく、準備してきた想定できるものを撮る、という感じなんです。こう言うとスポーツっぽいですね。

ーそうですね(笑)。

山田:スポーツにしても、練習してきたことしか試合で出来ないじゃないですか。だから何にしても、練習通りのものをいかに試合に出せるかっていう感覚です。そのために普段からパンクしないように予め考えています。

何らかの儀式的なものとして タイミングを重視する

ーなるほど。ちなみに山田さんはお酒やタバコはお好きですか?

山田:お酒は大好きなんですけど、1人で自宅で飲むことは、あまりないですね。バーや友人と居酒屋に行って楽しむ程度です。飲むとしたら最近はウイスキー派です。白州とか国産の銘柄を好みますね。タバコはここ2年くらいHOPEです。吸う銘柄をコロコロ変える方なんですけど、HOPEは長いこと愛煙しています。パッケージの見た目もカッコいいですし、短いのがいいですね。

ーどんなときにタバコを吸いますか?

山田:僕の場合は、”ここ”っていうタイミングで吸いたいタイプです。例えば、ライブ前や撮影前だとか。yahyelはメンバー全員喫煙者なんですけど、出番10分前に皆でタバコを吸う流れがあるんですよ。それで、何か調子が整う感覚がありますね。ダラダラ吸い続けるのではなく、儀式的なものとして。そういうタイミングがありますね。

ー最近は紙タバコの規制も激しくなってきているご時世ですが、何か思うことはありますか?

山田:時代的にはしょうがないことかもしれませんね。タバコを嫌だと感じる人が一定数いるのであれば、それは無視できないことですから。海外へツアーに行っても思うんですけど、基本的に室内で煙草が吸える場所ってないじゃないですか。だから、もともと屋内で吸ってはいけないものだ、と思えば何ともないかもしれません。でも、僕はタバコを吸うので、最近の時流を見て、個人的には「ヤベー」って思っていますよ(笑)。打ち合わせにしても外出先で吸えないのであれば、家から本当に出たくなくなっちゃう。そう考えると、今までコーヒーショップでタバコを嗜んでいた人からすれば、その大切な時間が奪われることになるかもしれませんね。

ー加熱式タバコであればOK、というお店もありますが、お持ちですか?

山田:いえ、持っていないです。どんなものなのか多少興味はあるんですけど。

ー試してみますか?

山田:はい。あー、これは紙タバコとはまた違うものとして楽しめる感じがしますね。併用すると良い気分転換になる気がしました。

日本人の生活や郷土性、社会性に近しいところにあるかどうか

ー先ほど、タバコと時代の話が出ましたが、日本は平成から令和へ代わり、来年は2020年になります。この時代が移り変わる瞬間に、どんなことを思いましたか?

山田:正直言って、元号が変わったことに関しては、特に感慨深さもなかったというか。令和になって時代が変わったんだなってことは実感していますが、具体的に何か自分の仕事に影響を及ぼすこともないですからね。元号発表の瞬間は「へー、面白いな」って感じでしたよ。どちらかと言うと、2020年という西暦の方が思うことがあります。東京オリンピックが開催されるということは、世界の注目が一時的に日本に集中するタイミングが訪れるということじゃないですか。その瞬間に、カッコいいことを体現していたら、世界で1番目立てる可能性もあるとは思ってます。でも、自分が本当に気になっているのは、そこではないんですよ。

ーというと?

山田:オリンピック開催後の日本社会が気になっています。ここまでオリンピックを契機に経済が動いているということは、その後に景気が悪くなることも容易に想像できるわけです。それに連れて、映像などの仕事にも響いてくる可能性が大いにありますよね。そのときまでに、自分がどう備えておけるのかってことは考えています。現在は、多くの映像作家や監督がいて、動画メディアもたくさん存在しますけど、それがどんどん淘汰されていく可能性がある。つまり、その人やモノが、本物かどうか、という天秤にかけられる瞬間が来ると思います。

ーどういったものが残っていくと思いますか?

山田:どうなんでしょうね。具体的にはわからないですが、やはり長く残るものの方に価値が生まれると思います。映像で言えば、発表10年後に見ても高く評価されるものであったり。それって本質的なところに近しい表現ではないかっていうのはあって。社会性や郷土性、日本人の生活に傍にあるかどうかってことから順番に残っていくんじゃないかと感じています。それに、やはり誰でもできる仕事よりは、その人でなくてはできない、という風にならなくてはいけないですよね。自分もそんな存在になっていかなくてはいけないと考えています。

ーより作り手の人間性や個性が大切な時代になっていくかもしれませんね。

山田:本当にそう思います。あと、令和になってから凶悪な事件が多くて、毎日心が痛みます、本当に。しかも、SNSがあるので、そういう事件の過激な映像や画像がネットに出回ってしまうじゃないですか。子供の目に入るかもしれない。そういうことが現代社会に及ぼしている影響は大きいと思います。

ー確かに。昔はインターネットに詳しい人でなくては閲覧できなかった映像や画像が、今ではスマホ1つで見れてしまうわけですからね。

山田:そう。僕の立場で真剣に解釈すると、そういう悪影響を与えるような映像よりも、もっと人に見たいと思ってもらえるものを自分が生み出せればいいのかなって。僕が作った映像が魅力的だったら、そっちの方がSNSでも広まっていくわけじゃないですか。映像や音楽をやっている理由の1つには、それで社会を豊かにしていきたいという思いがあるので、その1つのルートとしてある、と真面目に考えていました。もっと良いものを生み出すことができれば、もっと良い社会になっていくと思うんです。

山田健人
映像作家。Suchmosや水曜日のカンパネラ、あいみょんなど数々のMVを手掛けている。同時にバンド、yahyelのVJ兼ギター、シンセ。yahyelはアジアツアーを成功させ、海外での活動も積極的に遂行中。

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