9月頭、DIESEL GINZAのリニューアルオープンとともに、今季の広告キャンペーンのローンチも兼ねて、DIESELのアーティスティック・ディレクターであるニコラ・フォルミケッティが来日した。かつてはレディー・ガガをはじめとした多くのセレブ達のスタイリングを手掛けていた彼だが、DIESELで表現することはそんなセレブ達がいた世界とは異なる。彼はファッションを伝えるのではなく、ファッションを通して考え方・マインドを伝えているのだ。今季のテーマ「GO WITH THE FLAW(完璧なんて、ない。)」は、SNSが作り上げる完璧な世界・虚像の世界に向けた強い思いが込められている。それはSNSを否定するのではなく、より面白い世界にするための提案なのだろう。彼はインタビュー中、笑いながらこう話してくれた。「先日、インスタグラムのDIESELのオフィシャルアカウントに上がっていた写真を全て消したんだ」そこにどんな意味があったのか。そしてニコラ・フォルミケッティは何を感じDIESELの舵を切っているのか。今、彼が世界に対して思うメッセージと、その表現について話しを聞いた。
SNSの世界をも巻き込んだアンパーフェクトであることの面白さを伝えるニコラのメッセージ。
「ナンバー1より、ナンバー2の方がいい、だってナンバー2は、ナンバー1になるために努力をする。そのチャレンジ精神こそDIESELの魂なんだと思う」
ーまずDIESEL GINZAのリニューアルオープン、おめでとうございます。でも家にいながらスマホ1つで気軽にショッピングができる時代ですが、なぜこの時代にショップをリニューアルしたんですか?
ありがとう。もちろん、僕たちの作り上げた空間で、実際にアイテムを手に取って見てほしいっていう思いはあるよ。でも、重要なのはインターネットが普及した時代だからこそ、外に出て人との繋がりを持つことを大切にしたいんだ。オンラインで購入したジャケットを家で着て、インスタグラムに投稿して満足するなんてもったいないだろ。外に出て、買い物をして、友達と会って。そういう”経験する”ということが重要なんだ。だからブランドとして、ショップという場所を持つべきだと考えているんだ。それに、DIESELが日本に上陸して昨年30周年を迎えたところだし、これからもっと日本で面白いことをやっていこうという意思でもあるんだ。
ー2017年、秋冬の広告キャンペーン”GO WITH THE FLAW”もローチンしましたね。
そうだね。今回の来日は、DIESEL GINZAのオープンと今季のキャンペーンのローンチが目的だからね。先日、このローンチに向けてインスタグラムのDIESELの公式アカウントに上がっている写真を全部消しちゃったんだ。
ーえ!! なぜですか!?
広告キャンペーン”GO WITH THE FLAW”だからだよ。僕らが今季掲げたテーマは、簡単なものではないからね。テーマを掲げたからには、まずは自分たちがやらないとね。「ゼロからアンパーフェクトを作っていこう」っていうメッセージを込めて消したんだ。
ー完璧じゃないということですか?
全てを完璧に見せようとするSNSの世界がテーマなんだ。SNSの世界って完全無欠だろ? パーフェクトな友人、ゴージャスな食事、非の打ち所のない休日の過ごし方など、いわゆる”インスタ映え”という虚像の世界がSNS上には広がっている。そしてそれが当たり前の世の中になりつつあるという現実。それはブランドとしても、僕としてもおかなしことだと捉えているんだ。だから今季の広告キャンペーン”GO WITH THE FLAW”では、「パーフェクトなのはつまらない。アンパーフェクトなのが美しい」という僕らの考えを込めたんだ。そのためにインスタグラムを1度ゼロに戻して、SNSでもアンパーフェクトを提示したいんだ。
ー具体的にいうとどういうことですか?
1番わかりやすいのは身体の個性かな。耳が大きい、鼻が低い、太っているなど、人には自分が感じる様々なコンプレックスがあると思うんだ。これって言い方を変えればアイデンティティだし、ユニークになるための重要ポイントだろ。これまで多くの有名セレブと仕事をしていきたけど、その多くが「鼻が大きいから小さくして」、「もっとスリムにして」、「顔のシミを消して」とか注文してくるんだ。でもそういう嘘ばかりの作られた世界にはうんざり。SNSの世界は、それを個人個人でやれてしまう。要は自分の綺麗な部分、憧れられるようなライフスタイルだけを、わざわざ画像を修正してまで、世界中に提示できるだろ。でもDIESELでは、「君は鼻が大きくても綺麗だよ」ってポジティブなメッセージを届けたいんだ。そのためには今までのインスタグラムにアップしてあったヴィジュアルが邪魔だったんだ。
例えば、大事なミーティングで遅刻しても、ネガティブに捉えるのではなく、見方を変えればそれすらプラスになる可能性があるということ。というのも、その時点でみんなの視線が、その遅刻した彼に向かっているからね(笑)。パーフェクトではないけど、そういうシチュエーションも皮肉っぽくジョークにしちゃえばいい。それってDIESELらしいし、きっと世界中のみんなはそういう楽しい世界を望んでいると思うんだ。
ーニコラさんがアーティスティック・ディレクターに就任し、DIESELでは、そういう考え方を伝えるような強いメッセージが多いですよね? いつもどのようにシーズンテーマを決めているですか?
それが僕の仕事なんだ。今の世の中で起こっていることを把握して、それをいかにモダンにDIESELっぽく描くか。だから自分で考えては、チームで話し合うことの繰り返しだよ。「今シーズンは、このジャケット、ジーンズ、バッグに注目」っていうやり方はもう古い。もう時代は変わったんだ。いかに多くの人の心を掴むか。人と人がコネクトするメッセージ性を持つかが重要。今回はフランスのフランソワ・ロスレーという監督を起用した映像の制作をしたんだけど、もっと色んな表現方法があると思うから、次回も同じテーマで行こうって思っているよ。そうすれば、SNSが引き起こした現象について、もっと多くの人に考えてもらえるだろ。
※フランソワ・ロスレーが作ったキャンペーンムービー
ーそうしたメッセージを伝える時、グラフィックや音楽をはじめ様々な表現方法があると思いますが、ニコラさんはなぜブランド、ウエアというものを通して伝えようと思ったんですか?
僕は、映画も好きだし音楽も好きなんだ。もちろん雑誌も好きだから、自分で『FREE MAGAZINE』という雑誌を作ってもいる。表現方法には無限のやり方があるって信じているし、時代が進むにつれどんどん進化している。でもDIESELというフィルターを通している理由は簡単で、ブランドの方がいち個人で発信するより、一層強い影響力を持っているだろ。DIESELのようなグローバルブランドだと、世界中にメッセージを届けることができるんだ。そしてウェアは、共感した思想やメッセージを実際に身にまとうことができるという特別なものだと思っているんだ。
特にDIESELは、ハイブランドのように、アイコンとなるデザイナーがいて、その人が思うファッションをカタチにするのとは違うんだ。DIESELはハイファッションブランドという位置付けではないことを大事にしているんだ。だからこうしたアクティブな行動ができるし、強いメッセージをストレートに届けることができる。世の中で起こっていることに対してみんなで考えることを重要だと思っているんだ。
ーハイファッションブランドではないことが大事というのはなぜですか?
これはDIESELの創始者でもあるレンツォ・ロッソの考えでもあるんだ。レンツォはいつも「ナンバー1より、ナンバー2」がいいよっていうんだ。普通はナンバー1がいいだろ? でもレンツォはそうじゃない。理由を聞くと、「ナンバー2はナンバー1になるために頑張るじゃないか」って。なんかそれを聞いた時ハっとしたんだ。それこそ今回のテーマ“GO WITH THE FLAW”という言葉でも、ナンバー2は決して“完璧”ではない。きっとそれがDIESELのスピリットなんだ。だからブランドを大きくすると言うよりは、広げていきたい。そして決して一番大きい存在ではなくて、クールでカッコいい存在でいたいんだ。
ー最後に、ニコラさんの夢を教えてください。
さっきも言ったけど、表現の方法は無限だと思っている。今はDIESELを通して、自分のメッセージを伝えているけど、今後はもっと違う方法にもチャレンジしたいね。まずは映画のコスチュームを作りたい。実は何度かオファーをもらったりしたんだけど、なかなかやりたい映画に巡り合えなくてね。そしていつか映画を作りたいね。雑誌を作っている理由も、映画もそうだけど、単純に好きなことで、メッセージを伝えていきたいんだ。手法は無限だからね。僕はチャレンジすることが大好きだから、一生新しいことにチャレンジし続けると思うよ。
INFORMATION
DIESEL GINZA
住所:東京都中央区銀座3-2-15 ギンザ・グラッセ
TEL:03-3538-1978
営業時間:11:00 ~ 20:00
定休日:不定休