茶綿デニムプロジェクト、通称CMPをご存知だろうか。世界屈指のデニム生地メーカーであるカイハラと、トップクラスのデニム加工技術をもつサーブ、そして俳優として活躍する傍ら、自身のブランド[エルネスト・クリエイティブ・アクティビティ]のディレクターを務める井浦新らによって発足した“茶綿”の魅力を伝えるプロジェクトだ。茶綿とは美しい経年変化をもたらす、デニムのルーツとも言える素材。彼らデニムのエキスパートたちが辿り着いた、究極のデニム。そして、CMPとフリークス ストアのタッグによって、この茶綿ならではの味わいが表現されたプロダクトがいま、注目を集めている。「今回のコラボを通して、デニムを育てる楽しさを若い世代にも伝えたい」と話す井浦新と貝原淳之。デニムを愛する2人の新たな挑戦について話を聞いた。
職人の想いとともに、時間をかけてデニムを育てる
ーCMPの発足について教えてください。
貝原淳之:井浦さんと我々が追い求めた“究極のデニム”の答えが茶綿でした。茶綿は100年も前から親しまれていた素材であり、かつてはデニムの生地に使用されていました。履けば履くほどにその風合いを楽しむことができる、唯一無二の素材です。この魅力を広く知っていただきたい。その思いから、茶綿にフォーカスしたプロジェクトがはじまりました。
井浦新:CMP発足に至るまでにはデニムの可能性を探るべく、旅するジーンズプロジェクト※1をはじめ、さまざまな開発や研究を重ねました。その中で、新しいことだけを追うのではなくデニムの一番深いところ、いわば“最深部”を掘っていく必要性に気がつきました。それがCMPです。デニムそれぞれが持つ表情は、デニムと所有者にしか生み出せない経年変化です。長い時間を共に過ごせば過ごすほど、その変化は味わい深いものになる。茶綿が使われたデニムは特に美しい経年変化を楽しむことができるんです。それが、最深部を追求した僕らの答え。そのことを発信してくれるパートナーには最先端を追求するプロを迎え、全く新しい化学反応を起こすことが本プロジェクトの目的です。
ーフリークス ストアとのコラボはまさにその第一歩ですね。
井浦新:すごい理想的なコラボだと思います。フリークスさんが持つアメカジをベースにしたトレンドへの感覚と茶綿の歴史が、きれいにミックスしたプロダクトが生まれたと思います。シンプルに嬉しいです。
貝原淳之:CMPメンバーの主な世代である30〜40代は、ものを深堀りしてフォーカスする世代。一方、いわゆるSNS世代と呼ばれている20代は堀り下げるのではなく、広げていく印象です。だからこそ、フリークスさんとタッグを組むことで、若い世代にも浸透する可能性を感じています。
池田拓実(フリークス ストアPRマネージャー):最初にお二人からCMPの活動について伺った際「デニムを育てる喜びが、若い世代には薄れてきているんじゃないか」という言葉を頂きました。カイハラさんやサーブさんの手が入っているからこそ、クオリティーは間違いないもの。だからこそ我々は幅広い世代に茶綿を触れてもらえるよう、デザインで思い切り遊ばせてもらいました。ここまで大きなポケットのGジャンは僕らとしても新鮮で、スタッフにもファンの多いプロダクトになりました。
井浦新:ワイドパンツの概念が僕にはなかったから、流石だなと思いました。Mサイズなんかは女性が着るのもオススメです。
池田拓実:カラーは当初、単色デニムで2色程度での展開を想定していましたが、井浦さんがヒッコリーを提案してくださって。
貝原淳之:茶綿でのヒッコリーは初の試みでした。織り方にもこだわっているので、通常のものと比べると組織構造がとんでもないことになっています(笑)。今回のようにヘリンボーン※2同士を組み合わせた織り方なんて、まだどこもやっていないんじゃないかな。世界初ですね。また、通常はキナリを選択しがちなところを、あえてブラウンコットンの風合いを生かしたヒッコリーを提案させてもらいました。それをフリークスさんがどのようにデザインに昇華するのかが、僕らとしては非常に楽しみでした。
池田拓実:茶色がかったこの味をだせるのは、茶綿ならではなんです。そこが大きな違い。そして、このレベルでブラウンコットンを表現できるのは、世界でカイハラさんだけの技術なんです。
井浦新:カイハラさんの工場に初めて行ったとき、口が開きっぱなしでした。デニムの美しさもさることながら、工場で働く職人の方々が美しくて。彼らが手間暇かけて作っているからこそ、美しいデニムが生まれる喜びを感じました。
ー井浦さんのファーストデニムの想い出を教えて下さい。
井浦新:最初に自分でデニムを買ったのは中学生。お小遣いを握りしめて、八王子のデニムショップでリーバイス®を買いました。まだデニムの知識も浅かったので、最初は気に入って履いていましたが、育てる前に手放してしまって。一番最初に育てたデニムはリーバイス®の701XX。ウエストが少しゆったりとしているシルエットが自分好みのデニムで、20年くらいずっと履いています。デニムは洗ってはダメなんです。でもせめてと思い、履いたままお風呂に入ったり、友達と海にでかけた際には、履いたまま海水に浸かったり(笑)。
ーデニム、洗っちゃってました。
貝原淳之:洗わないほうが自分だけのヒゲが刻まれます。3年くらい洗わずに履き続け、さっと水洗いする。それを繰り返して、育てていくんです。
井浦新:結構色が薄くなっていくほうが好きなら、マメに洗うのもありです。でも夏を超え、汗を吸い込み、ほんとに臭ってきて、なんだかベタベタするなってところまで我慢したデニムを水洗いすると、一気に縦落ち感が出ます。汚れたところも全て水で流れていく。インディゴも一緒に流してくれるので、自分の形に馴染むんです。
ー今回のプロジェクト含め、“デニムを育てる”は一つのキーワードですね。
貝原淳之:デニムは人生を刻むものだと思っています。生活をしていれば、転んで擦り剥けたり、コーヒーが溢れてシミがつくこともあるけど、10年後にその“模様”を見て、こんなこともあったなと想い出を振り返ることができる。それって丈夫であるデニムにしかできないこと。男女問わず、ボーダレスに着用できる素材なので、想い出も何もかも全部凝縮できる素材。人生を物語るストーリーをデニムの中に詰めるために、育てるんです。
井浦新:デニムウェアは数えられないほど持っていて、一番身近な存在の普段着です。自分のブランドでもデニムのプロダクトは必ずリリースしてきましたし、振り返ってみるとこの20年くらいは、デニムとともに歩んできた気がします。カイハラさんとの出会いもあって、ブラウンコットンの製造過程や保存方法、染色や糸の紡ぎ方まで、ゼロからデニムが形を成していく過程を学ばせてもらい、改めて素晴らしい技術だなと感じました。でも、カイハラさん含め職人さんはいつも「人に着てもらってはじめて完成する」とおっしゃっていて。デニムへの深い愛情と職人魂を感じます。時間をかけてデニムを育てることで、その思いを紡いでいきたいと思います。
※1
2016年に行われた、デニム生地をつなぎ合わせた8枚の大きな帆で瀬戸内海をクルーズするプロジェクト。
※2
V字や長方形を縦横に連続して組み合わせられた模様の一種。
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