数多あるショップの中で、特に他と異なるスポットがある。そこに集まってくるのはアーティストであったりクリエイターであったり。ただ服を買う場所ではなく、次世代の才能が集まってくる場所が、今の時代を形成する。そんな”訪れる価値のある”特別なショップ=発信地をピックアップしていきたい。TRANSMISSION BLOCK、第一回目は大阪のセレクトショップ、IMA:ZINE。
疑問を持ってもらって、先入観をなくしてほしい
人の流れも緩やかな、大阪・中津の閑静な住宅地。梅田の中心街から歩いて行ける距離にあるこの地域は、NYで話題のフードマーケット「スモーガスバーグ」が開催されたり、スパイスカレーの名店やジャズを聴きながら食べられる蕎麦屋もあったりと、新しい風が吹きつつある。とはいっても基本は喧噪とはほど遠い住宅街。「ここにセレクトショップが!?」と半ば疑いながら歩いていくと、そこにIMA:ZINEが不意をついて現れる。
大阪発のファッション誌『カジカジ』の元編集長である岩井祐二氏を中心に、ビームスでバイヤーとして活躍した谷篤人氏、大阪・京都で7店舗を展開する名店、ロフトマンのプレスと店長を務めた稲葉冬樹氏というファッション業界では名の知れた3人により、このショップは立ち上げられた。その3人に加え、期待の若手スタッフである豚座大輝氏を含む4名で現在運営されている。
年代もののタイル張りが施されたビルにあるこのショップは、裏手にある小学校の子どもたちが元気に走り回っている姿とは明らかに異質だ。入っていくと、巨大な姿見にまず圧倒される。店内を彩る什器やインテリアもこだわり抜かれたものばかりだ。
今年の9月15日にレセプションが行なわれたが、地元の花火大会以来のにぎわいを見せるほど多くのファッションピープルが集まったそう。彼らのアクションに対する期待感からくるものだろう。このIMA:ZINEが、どのようなバックグラウンドを持ち、今後どのような影響を与えていくのかを探るため、ディレクターである谷氏とストアマネージャーの稲葉氏に話を伺った。
ーオープンまでの準備期間が3ヶ月しかなかったそうですが。
谷:僕が6月15日にビームスを離れたので、ちょうど丸3ヶ月ですね。本当に何も決まってなかったので、その分、先入観なしにオープンに向けて準備できました。中津のテナントに決まったのも6月中旬でしたし、そこから着工して、買い付けに行って、什器もぎりぎりまで何も決まってなかった。
ーかなりの急ピッチですよね。
谷:セレクトするブランドを探すこと自体もゼロからのスタートだったので、本当に好きなものを好きな人から買い付けることを意識しました。Babylon LAの Lee(Trash Talk)は前職で一緒に仕事もしていたこともあり、何度も連絡をくれました。それでLAにすぐに向かい彼と会って話して、展開させてもらうことになりました。
ーオープンするに当たって、ショップのコンセプトはあったのでしょうか?
谷:まったく考えてなかったですね。社長の岩井と稲葉、僕という3人の背景がそれぞれあったので、とりあえずやってみないとわからないと思ってました。その中で3人の世界をバランス良くつなげようとしたんです。なので、ストリート、アメカジ、ドメスティックブランド、小物と上手くブレンドしながら3人それぞれが表現したい店ができたと思っています。
谷:お客様にはとにかく来ていただいて疑問を持ってもらいたいですね。先入観をなくしてほしい。今のご時世、SNSでいろんな情報が増えたし、物も豊富にあるじゃないですか。そんな中でもこの店では服についてだけじゃなく何かやってるな、というゲリラ感が響けばいいな、と。こういうインスタントな時代だからこそ、人が人と接しないといけないと思います。最悪、服を買ってもらえなくてもいい。直接来ることで生まれた疑問から、いろんなストーリーがつながっていくと思うので。
ーなるほど。そういった考え方は接客の上でも活きているんでしょうか?
稲葉:そうですね。できるだけ普段の日常会話をするように心がけています。お客様の中には、自分の好みに合った服を探しに来てるのに、わざわざ服を買ってもらうためだけの接客はしてほしくない、と思っている方もいらっしゃるでしょうし、どんな方でも居心地の良い空間としてご利用いただけるようにしています。
谷:若い男性からおばちゃんまでいろんな人が来ますよ。裏手が小学校なこともあって、帰り道の小学生がいちゃもんつけに来たり、毎日来る人が鏡の前で遊んでたり(笑)。服を選びに来てるというより、遊びに来ていただいてます。ここに来る人たちが僕らを通して仲良くなる瞬間も多くて。僕らもコミュニティを作りたい、という想いがあるのでそういう場面を見ると嬉しいですね。
ークリエイターの方もよく来たりするんでしょうか?
谷:そうですね。StussyのファウンダーShawnやRIpndipのRyan、BraindeadのKyle、Babylon LAのLeeなどなどたくさんの方からあたたかいメッセージをいただきました。VIRGIL NORMALデザイナーのCharlieは、大阪で仕事があったタイミングで寄ってもらい、良い時間を過ごせました。
ーElevator Teethのステッカーがノートパソコンに貼ってあったのを先ほど見かけたのですが。
谷:LAに買い付けに行った時に、ちょうどサンフランシスコでアートブックフェアがやっていて、そこにElevator Teethが展示してたんです。正直、そのときはまだ存在は知らなかったんですけど、かっこいいなと思って。話してたら9月にちょうど日本に来るって言うんで、店が16日オープン予定だからぜひ来てほしいとお願いしたんです。
稲葉:人柄もすごく良くて、メチャクチャいい方でした。
ー僕も会ったことあるんですけど、すぐ打ち解けられますよね(笑)。
谷:そうしたら9月に本当に来てくれて、そのままZINEも取り扱うことにしました。反響も良くてすぐに売り切れましたね。
ー他のアーティストのZINEも取り扱ったりしてるんですか?
谷:そうですね。同じアートブックフェアで友達になったHamburger EyesやMitsu OkuboのZINEもあります。Hamburger Eyesは割とリアルな生活を切り取って写真に収めてるんですけど、Mitsu OkuboやElevator Teethなんかはアートブック寄りだったり。ZINEはカルチャーそのものとか、”今”を伝えるものだと思うので今後もいろいろ取り扱いたいですね。
ーお店作りの上で参考にしている場所だったり、ストリートの現場などはあるんでしょうか?
谷:参考にしている場所はないですね。もう既にある完成された店の感覚より、どんな時も未完成感を残してずっと完成を追いかけていきたいんです。ただ、運営の方法やメッセージの伝え方が上手いなと思うブランドや店はあります。
例えばANTI SOCIAL SOCIAL CLUB(=社交場嫌い)の3次元での表現の仕方だったり。あと、Babylon LAのショップに2年ほど前に行ったんですけど、先にTrash Talkのライブがあったんで見に行ったんですね。そのシャウトしている熱とは正反対に、ショップはすごくクリーンだった。壁が全面真っ白に塗られて、服の生地もボディもすべて手作りで精巧ですし、表現方法が真逆なんですね。キッズスケーターが裏にあるランプでみんなと楽しくスケートしてたり。いろんな人が集まる場だった。それも場所はハリウッド。
IMA:ZINEでは今を標榜するストリートブランドから長年続いているワークウェアブランド、さらにIMA:ZINE限定の別注品やオリジナルブランドまでさまざまに取り扱っているが、そのすべてに説明ができる、と谷氏は自信たっぷりに語る。そこからは、並々ならぬ思い入れと、ひとつひとつのプロダクトへの愛着が感じられる。
Verdyとともに展開するZepanese Clubで、ボーダレスに表現する
IMA:ZINEの立ち上げと同時に、Girls Don’t CryやWasted Youthなどで知られる気鋭のグラフィックアーティストVerdyと共同でローンチしたブランドがZepanese Clubだ。
谷:Verdy君とは前職のときに知り合って、共通の知り合いの海外アーティストも多かった。僕らと一緒にやらせていただくことによって、何か面白い化学反応が起こるのではないかと希望を持ってスタートしたのがZepanese clubです。90年代をリアルに通ってきた30代後半から40代へもメッセージを伝えることができるのが、この蛇を模したロゴです。
谷:今の想いをVerdy君にぶつけてデザインをしてもらいました。正直、このアイデアをもらったとき、すごく嬉しかった。蛇はインディアンの一族であるホピ族の平和や再生の象徴なんです。この店をやっていく上での僕個人の目標として、自分自身の先入観をなくして、ゼロに戻したいという考えがあって、正にそれに合致するものだったんですよね。先ほどもお話したように、お客様にも先入観をなくしてほしい、という想いがあります。このZepanese Clubはそんな想いを形にしたブランドなんです。
Zepanese Clubのこの”Ze”という言葉は、ある大学の教授が作ったとされてる造語で、”He”でも”She”でもない、つまりボーダレスであるという意味のスラングで。なので、このブランドではボーダレスにいろんなことに挑戦したいですね。例えば、ファーストコレクションではチョークバックもつくったんですが、昔好きだったS7ってボルダリングブランドからインスパイアしたものです。現在ではサコッシュも多いですが、このチョークバックも使い勝手がよく、イギリスではメジャーなスポーツであり、オリンピックもあることからまた再熱させたいと。イギリスではストリートでも行われているそうです。
谷:インディアンジュエリーのホピ族のレジェンドアーティストであるJason Takalaとのコラボレートでは、Zepanese Clubのロゴと彼のアイコンであるマン・イン・ザ・メイズ(迷路)を模したバングルを作りました。これも、Zepanese clubのアイコニックカラーであるラスタカラウェイがJason Takalaとの作品とマッチしたんです。彼はボブ・マーリーをよく聴いていて、この象徴的な蛇はホピ族でよく使用されるものでもある。というように、すべてのコラボレーションにストーリーがあるんです。すでにオーダー会は終了したのですが、この予想もつかなかった化学反応に、いい意味での疑問と興味を持っていただけました。おそらくストリート業界では初だと思います。
谷:このブランドは無限の可能性を秘めてると思ってます。どこに向かうかわからない、というか。もちろん、ザ・ストリートなときもあるでしょうし、こういう予想のつかないコラボもあり得る。そこにストーリーさえあれば、良いものができあがると考えてます。
USストリート固有のローカルカルチャーを、ユニークな発想で映し出す
谷:CHINATOWN MARKETは活動拠点を東から西海岸へと移して展開しているブランド。デザインソースがいつも面白く、CHINATOWNの表現をうまく表している。今後も楽しみなブランドのひとつです。
谷:2月にもCHINATOWN MARKET POP UPを予定しています。こういうフォークアート的な物に価値を見出すのが個展の定義だと思うので。同時に現地の空気感も伝えられたら嬉しいですね。
ギアをファッションに取り入れた高品質のドメスティックブランド
稲葉:SASSAFRAS(ササフラス)は、15年前から続くガーデニング向けのワークウェアなんですが、当初はまだこういったギアを洋服として扱う概念がなかったんですね。誰もやってない時期から、信念をまったく変えずにやり通しているとても深さのあるブランド。ここのデザイナーさんには、大学時代からお世話になっています。
稲葉:僕たちのショップは、今と昔の共存で成り立ってます。今を表現しているストリートブランドがあって、このSASSAFRASみたいに昔から信念を変えずに続いているブランドがある。そうやってIMA:ZINEというものを通して、お客様と一緒にいろんなストーリーを作っていきたいですね。
取材のなかで感じたのは、その店構えや彼ら自身のクールな第一印象とは裏腹に、好意を抱く相手に対する深い愛情だ。関西人らしいまっすぐなお節介さや愛嬌が、多くの人を惹き付けているのもわかる。この場所からなら、今までになかった手法で、多くの人を魅了するセンセーショナルな出来事が次々と巻き起こるはずだ。
人との会話やふれあいを通して得られる実感には際限なく、予想のつかないストーリーがそこには待っている。そんな体験ができるチャンスが、IMA:ZINEにはある。