Interview:kiki vivi lily 2nd Album『Tasty』 誘惑的なサウンドを味わう

kiki vivi lilyが10月1日(金)にリリースした2ndフルアルバム『Tasty』は、タイトルの通り、フルコースを堪能するような、彩り豊かな9曲を収録した意欲作だ。惹き込まれる甘美な歌声は、一見スウィートだが、絶妙なバランスで紡ぐ歌詞やトラックがそれをビターにも、スパイシーにも味わいを変化させている。
キャリア初のバンドレコーディングや弾き語りにも挑んだ本作には、サウンドプロデューサーに荒田洸(WONK)とMELRAW、ゲストとして初タッグとなるShin Sakiura、Sweet WilliamやIttoが参加。制作過程におけるアイデアや試行錯誤について、フレッシュな楽曲から兼ねてより温めていたものまで、各曲の内容と合わせて訊いた。

大それたことじゃなくて、
日常の幸せを歌う人がいてもいい

ーフルアルバムとしては2年4ヶ月ぶり。日常に寄り添いつつも、いろんなサウンドが楽しめる作品でした。タイトル『Tasty』やコンセプトはどのように決めましたか。

1stアルバム『vivid』は、鮮やかという意味でさまざまな色を詰め込んだので、今回もバラエティに富んだサウンドを味わえる一枚にしようと思って。私の曲は、スウィートと言ってくれる人も、かっこいいと感じてくれる人もいるので、そういう作品の“味”をテーマに異なるテイストの曲を入れました。タイトルのTastyというワード自体はずっと頭にあったのと、前作と同様に形容詞で統一したかったので、『Tasty』にしました。

ー作品の裏テーマとして、アルバムを通して1日の流れを感じられる構成にしたそうですね。

1日の流れというテーマは、かなり終盤に決めました。Tastyというコンセプトはあったのでそれに沿って楽曲を作っていって、どう並べるか考えたときに、1日の流れという構成が浮かびました。

ー前作から心境の変化などはありましたか。

必然的に家にいることが多くなって、食べることが一番の楽しみになったんです。料理も好きだし、以前は家ではお酒を全然飲まなかったけど、飲むようになったら楽しかったり。ここ一年くらいは、大それたことじゃなくて、そういう日常の幸せを歌う人がいてもいいんじゃないかと考えてました。私はわりと楽観的な人間なので、なるべく楽しい日常を過ごせる方がいいなって。

ー1曲目「Intro:wip」はまさに1日が始まるような爽やかさです。wipはスラングで、やりかけのもの、などの意味がありますが、タイトルの由来を教えてください。

これは一番最後に作ったもので、「Lazy」や「Interlude : Tasty」のメロディの破片を散りばめています。サウンドの制作やハミングで曲ができていく過程を表したので、制作途中という意味のタイトルを付けました。

ー先行配信曲でもある「Lazy」は初のバンドレコーディングですね。楽曲自体は2016年から温めていたそうですが、当初からバンドサウンドの構想はありましたか。

最初は全然そのつもりはありませんでしたが、ライブをサポートしてくれるKVL BANDのメンバーでレコーディングをしたいという気持ちがあって。『Tasty』の制作を進めていくうちに、「Lazy」ならハマるかもしれないと思い、今回挑戦してみました。

レコーディングする上で難しかったことはありますか。

バンドのみんなはすごく上手で引き出しも多いので、サウンド面は信頼していましたが、それをちょうどいい温度感に留めるように意識しました。聞いている人を置いて行かないような感じというか。やりすぎないバランスで演奏してもらいました。とにかく楽しかったです。

ー「手を触れたら」はアレンジの途中でかなりサウンドが変化したそうですね。

他の曲とも同時進行していく中で、同じようなものを作っていると飽きてしまうんですよね。最初はギターメインの曲で、温かみのある感じだったのですが、実験的にいろんなことを試したり、自分たちへ斬新さを求めていった結果どんどんエスカレートして。最終的にダンスビートみたいな感じになりました。

「手を触れたら」もそうですが、kiki viviさんの作品は歌詞のイメージとビート感のバランスが絶妙ですよね。こういったバランスは最初から意識されますか。

結構やりながらですね。作詞するときも、ビートがこうくるなら甘めなことを歌った方がいいとか、進めながら全体のバランスをみていいところに落とし込みます。

ー歌詞については、プロデューサーの荒田さんに相談したりしますか。

ほとんどしないかな。たまに変じゃないか聞いたりしますが、私が持っていったものに対しては、いいじゃんと言ってくれることが多いです。今作だと「Yum Yum (feat. Shin Sakiura & Itto)」は結構遊んでる歌詞が多かったので、遊びすぎてないか確認しました。今まではそんなに相談はしなかったけど、信頼関係が築けてきたので、気軽に聞けるようになりました。

曲を良くするという共通の目的が
できた瞬間に通じ合える

ーいい関係ですね。「Yum Yum (feat. Shin Sakiura & Itto)」はゲストプロデューサーにShin Sakiuraさんを迎えてますが、オファーの経緯を教えてください。

洗練した音作りの感じがすごく好きで、一方的にずっと聞いていたのでいつか一緒にやってみたいという想いがあって。ある程度今作の楽曲が出揃ったときに、いいバランスで収まりそうだと思ったので、オファーさせていただきました。ビートを作る上で、外部のプロデューサーさんには自由にやっていただきたいので、Shi Sakiuraさん節で、とお願いしました。即答でやりますと言ってくれて嬉しかったです。

ーこれまでゲストプロデューサーを迎える際にプレッシャーなどありましたか。

オファーや顔合わせの際はすごくガチガチなんですけど、いざ作り始めるとそういう壁を取っ払える気がします。その曲を良くするという共通の目的ができた瞬間に通じ合えるというか。みんなが常にいいものを作ろうと考えているからだと思うんですけど、音楽家として話せる瞬間がすごく楽しいですね。

ー客演のIttoさんとはどんなやりとりをしましたか。

上がってきたものに対して、Ittoくんが合いそうだと考えているうちに、2人でやるならふざけた方が楽しいと思いジャンキーな歌詞にしちゃいました。Ittoくんにイメージを伝えたら、カルディとかで売っているYum Yumというインスタントラーメンが浮かんだらしいので、そこからタイトルを取ったり。はじめからお互いの持っているイメージが一致していたので、すごくスムーズでした。

ーこういうテンションは新しいですよね。

上がってきたトラックに乗せるのと自分で全部作るのでは、テンション感が若干違くて。自分で曲を作るときは大体メロディと歌詞をなんとなく一緒に作るんですよ。ガチガチにメロディを決めるタイプなので、そのメロディが持っている歌詞でしかはめられないというか。なので、できているものに対して乗せる方がその余白で遊ベる気がします。

ー「Whiskey」はグッと大人っぽい雰囲気です。元々書きたかったテーマということですが。

なぜか、ウイスキーというワードがずっと頭にあったんです。いつも飲むわけではないけど、人と会うときや新しい場所に行ったときに、思い出と一緒に出てくるものだなって。ウイスキーって銘柄の種類も多いし、それぞれ味わいも違うのでバーとかで出してもらう度に、曲にできそうだとぼんやり考えていました。

ー歌詞を何度も書き直したそうですね。

歌詞を削ぎ落としたくなるんですよね。余計な設定をあまり入れず、説明しすぎないようにすることが多いですが、今回はそのバランスが結構難しくて。がっつり浸るなら説明があった方がいいけど、緻密に構成したサウンドの余白でグッと感じてもらいたいとか、情報量のバランスに悩んでかなり推敲しました。

ーサウンド面でいうと、ベースはWONKの井上幹さんが担当されています。

最初はシンセベースなんですけど、途中から生ベースに変わるギミックがあって。全部生ベースのつもりで作っていましたが、MELRAWさんのシンセベースがすごくよかったので、そこに変化をつける形で採用しました。もう一段階深くなるというか、生ベースに切り替わることで渋さを演出しています。制作中にみんなでアイデアを出し合いつつ、落とし込むことがわりと多いですね。「胸の奥で手を振るだけ」の部分から生に変わってます。

ーインタールード「Interlude : Tasty」は元々入れる予定でしたか。

特にインタールードを作ろうと思ってたわけではありませんが、ある程度アルバムが仕上がったタイミングでできた曲です。アルバムの制作過程で自然とこのメロディと歌詞が出てきました。

ーPCのマイクで録ったテイクをそのまま採用されてますよね。普段から降ってきたフレーズやアイデアは常にストックされてますか。

すぐスマホとかに入れちゃいますね。気付いたらボイスメモがすごいことになってます。街中で見られるのが恥ずかしいので人目を気にしつつ、こっそり録ることが多いかな。後々聞き直すと雑音でほとんど入ってないこともありますが。歌詞もスマホのメモに溜めたり。最初に書いた歌詞で完結する歌もあれば、「Whiskey」みたいに何度も書き直すときは、ストックからどのピースが合うか探しながら作ったりします。

ー「You Were Mine」はハワイアンレゲエということで、作品の中でも異彩を放ってます。3年前に書かれていた曲なんですよね。

個人的にずっとやりたかった曲なのですが、入れるタイミングがなくて。自分のサウンドをみんなに聞いてもらえるようになるまで温めていたので、今回ようやく入れてみようと思いました。私の大好きなサウンド感であり、新たな一面を見せることができてすごく嬉しいです。ベースを弾いていただいたHSUさん(Suchmos)とは、荒田くんとかとご飯を食べたりする中で、自然にお願いしたいと思っていたんですけど。今回の楽曲にすごくぴったりだったなと改めて思います。

ーチルなレゲエとベースのグルーヴが心地いいです。レゲエにはあまりない切ない歌詞も印象的でした。

そのままポジティブな歌詞にしてしまうと、シンプルで引っ掛かりのない仕上がりになってしまうので、あえて切ない歌詞にしました。無意識的にバランスを取ろうとする癖がありますね。

ー「New Day」はビートをピアノで弾き直したものをさらにビートで組み直してます。Sweet Williamさんやピアニスト宮川純さんとはどのようなやりとりをしましたか。

Sweet Williamさんのビートを生ピアノで弾き直したらすごくいいだろうなと思ってて、2人でもそういう話はしていました。最初はサンプリングのループネタだったですけど、ネタとしてもピアノが入っていたり。「Lazy」でスタジオレコーディングをしているときに、アップライトピアノと録音機材があったので、チャレンジしてみました。

ーピアノとサンプリングのバランスが絶妙です。切ない歌詞ですがどこかスッキリした情景が浮かびます。

後口を爽やかな曲にしたくて。ちょっと苦いけど、後口に爽快感があるような、かつ前向きになれるような歌詞になればいいなと思って書きました。あとずっと言ってますが、荒井由実さんのような情景が浮かぶ楽曲好きなんですよね。やっぱりそういう曲を書きたいと思って勉強しています。

ーラストの「Onion Soup」は弾き語りですね。音像がシンプルなおかげで歌詞がより染みました。

最初はアレンジする気満々でしたが、プロデューサーの2人に弾き語りのデモを聞かせたら、これでいいじゃんってなって。エレピに途中からリズムが入ってくるような感じで、少しだけ脚色しようと思ってましたが、作った本人が弾き語ることに意味があると背中を押してもらいました。

ー友人が夫婦喧嘩をしたときのエピソードをもとに作ったそうですが、実体験や周りの出来事からインスピレーションを受けることは多いですか。

友達からのエピソードを歌ったのは初めてかもしれないです。そのまま曲にするというよりは、インスピレーションを受けたという感じですけれど。喧嘩をしても夫婦ってずっと一緒にいるじゃないですか。そうやって、すれ違いを超えながら生きていると思ったら尊敬の念が湧いてきて。まだ私はその領域にいないけれど、応援する気持ちも込めて分からないなりに書いてみました。

ーどんな関係性の人にも当てはまる優しい歌ですね。曲中に出てくるオニオンスープはTastyに関連していますか。

そうなのかな、意識はしてなかったけど頭の中にあったのかも。アルバムを作ってるときに出てきたワードだったので、無意識的に引っ張られていると思います。

ー今回はバンドサウンドや弾き語りなど、新しいレコーディング方法に挑戦してますが、今後してみたいことはありますか。

今回、荒田くんとMELRAWさんと一緒に作れることが幸せだったんですよ。ここまでがっつり2人のバランス感で関わってもらったのは初めてでしたが、すごくやりやすくて。次の曲はこうしようとかも皆で話しているので、またこのメンバーでやれたら嬉しいですね。制作していく中で新しいことにも挑戦するかもしれないですが、このヘルシーな関係性というか、試行錯誤するやり方を続けられたらと思います。

INFORMATION

kiki vivi lily
2nd Full Album 『Tasty』

発売:2021年10月1日(水)

01.Intro : wip
02.Lazy
03.手を触れたら
04.Yum Yum (feat. Shin Sakiura & Itto)
05.Whiskey
06.Interlude : Tasty
07.You Were Mine
08.New Day (feat. Sweet William)
09.Onion Soup

ワンマンツアー「kiki vivi lily Winter Tour 2021-2022」

2021年12月10日(金) 福岡BEAT STATION
OPEN 17:00 / START 18:00
2021年12月17日(金) 大阪Live House ANIMA
OPEN 17:00 / START 18:00
2022年1月14日(金) 東京 Shibuya WWW X
OPEN 17:00 / START 18:00
チケット価格:¥4,500(消費税込み)
チケット先行・二次先行受付URL:
https://eplus.jp/kikivivilily/
チケット先行受付期間:10/1(金) 18:00 〜 10/11(月・祝) 23:59
チケット二次先行受付期間:10/15(金) 18:00 〜 11/3(水・祝) 23:59
チケット一般発売:11/13(土) 10:00〜