大学卒業後、2020年の4月からイタリアのデザイン会社に就職する予定が新型コロナウイルスのパンデミックにより頓挫。そのタイミングで作曲活動に目覚め、コンスタントにリリースを続けてきた行動派シンガーソングライター、idomがニューシングル「Freedom」をリリースした。
作曲を始めてまだ1年半なのか、もう1年半なのか。idomは当初、右も左もわからない初心者で助けが必要だと自身の感情を吐露していたが、もし今現在“まだ1年半”という触れ込みが、“それにしては”という印象を与えるのならばもう必要ないだろう。それだけの完成度を誇る「Freedom」の魅力を、彼がこれまでに打ち出してきた音楽性や進化の軌跡を辿るとともに紐解いていく。
idomが2020年4月にリリースした最初のシングル「neoki」とセカンドシングル「soap.」は、ローファイでレイドバックしたポップチューン。シンプルなトラックに、歌とラップの間を縫うようなキャッチーなメロディ、スパイスの効いた言葉遊びが光る。続く「Nige Rare Naiwa」と「Secret (feat. yeong won)」は、前2曲の流れを踏襲しつつジャズやR&Bなどをルーツに感じる、ビタースウィートな味わいと深みが加わった。
2020年12月にリリースした「DOLL」は、友人のyeeraがトラックを担当。これまでのレイドバックした足取りの軽いムードとはある意味真逆の、ダークで腰の据わったスリリングなトラックと、サディスティックなエッジの効いた歌詞が印象的だった。
最初のリリースから1年が経った2021年4月。こちらもyeeraとともに制作した「二人」は、UKガラージの香りも漂うスムースでダンサブルなトラックに乗って、メロディメイカーとしての資質を発揮。高音と低音のボーカル/ラップが交差し、重なり合うレイヤーが実に美しい。
総じてここまでのidomの活動は、オントレンドなライジングスターとしての可能性を強く感じるものだったと言っていいだろう。そして次のシングル、ソニー Xperia 1 IIIのCMタイアップソングに抜擢された「Awake」では、その魅力を段違いと言っていいレベルで拡張した。
プロデューサーはTOMOKO IDA。幼い頃からヒップホップに慣れ親しみ、本場ニューヨークでの活動を経て、帰国後はSiXTONESやEXILE関連のグループらを手掛けてきた人物だ。豊富なバックグラウンドをもってドメスティックポップの最前線で活躍するIDAとタッグを組んだことで、idomは文字通り覚醒する。生命や大陸、宇宙といった壮大なイメージを描き出したようなサウンドスケープ。そして己を鼓舞し聴き手を牽引するようなメロディと歌詞がジャンルという概念を凌駕し、どの枠にも収まらないネクストフェーズに立った。
そんな「Awake」に続く次の一手が今回の「Freedom」となるわけだが、これまた予想だにせぬidomの新たな表現の扉が開いた。
プロデューサーは「Awake」に引き続きTOMOKO IDA。特筆すべきは彼の多彩な声色の持つポテンシャルがこれまで以上に大きく引き出されている点だ。ハウスもテクノもニューウェーブも吸収した、どこか電気グルーヴにも通じるアグレッシブなダンストラックに乗って繰り広げられる圧倒的なパフォーマンスは、前情報なしで聴くと一人の人物によるものではなく、どこかのグループの新曲かと思ってしまうほど。それはおそらく、多くのボーカル&ダンスグループを手掛けてきたIDAとidomが「Awake」の制作によって通じ合ったことによる賜物だろう。自由でハイファッションなミュージックビデオ、そして歌詞とのリンクも非常に興味深い。
好きなこと好きなだけやるエイリアン
正直そこまでしてない計算
Knock knock knock
あの手この手使い
まだ見た事のない
『新しい世界』
俺は君と見たい
idomのここまでの歩み、劇的な進化とめまぐるしい変化の謎が解けた気がした。またidomは、YouTubeのXperia公式チャンネルにアップされている動画インタビューで、自身のことを“アーティストというよりもメッセンジャーだと思っています”と語っている。そうなると次はライブが観たい。初期衝動と豊かな表現力を生で体感したい。想像しただけでも気持ちが高まる。