ポルノグラフィティが『テーマソング』で見せた、応援歌を書くという挑戦

ポルノグラフィティが、メジャーデビュー23年目を迎えて新しいフェーズに入った。
2019年9月の東京ドームでの公演「NIPPONロマンスポルノ’19〜神vs神〜」以来、岡野昭仁と新藤晴一それぞれのソロでのクリエイティブに専念する形となっていたポルノグラフィティ。

そんな彼らが、2021年9月、“新始動”した。“新始動”の内容として発表されたのは2年ぶりのシングル『テーマソング』のリリース、17thライヴサーキット“続・ポルノグラフィティ”の開催だった。

ポルノグラフィティ“新始動”の始まりを告げる「テーマソング」は、疾走感あふれる応援歌。マーチングドラムのような軽快なイントロから、クリーンなギターのカッティングに乗せて、岡野が<ほら 見上げれば空があって><ほら 雲のような白いスニーカーで 高く高く登ってゆけ>と高らかに歌い始める。どっしりとした8ビートのロックサウンドに、ストリングスが華を添え、後半にはハンドクラップ、合唱によるコーラスが加わるという、さわやかでエネルギッシュな楽曲だ。

しかしサウンドこそ王道のエールソングだが、歌詞には<壮大なテーマソング 流れりゃその気にもなるかな/耳に届く音はいつも 不安な鼓動のドラムだけ><「ただ自分らしくあれば それが何より大切」などと思えてない私 何より厄介な存在>といった、前向きに思えない言葉も並ぶ。「応援歌を作るのは苦手」(新藤 / note「散文、もしくは想像の遊び場。」より)と言う通り、意外にもポルノグラフィティの楽曲には、メッセージソングや応援歌はあまりない。何せ、映画『劇場版ポケットモンスター みんなの物語』の主題歌を<ポジティブな言葉で溢れているヒットチャート 頼んでもないのにやたら背中を押す>という歌詞から始めてしまうようなバンドだ(2018年7月リリース「ブレス」)。

さて「テーマソング」だが、先述した通り一見前向きに思えない歌詞は、しかしサビの<フレーフレー この私よ/そしてフレー 私みたいな人>へと繋がる。この曲は、ポジティブな言葉で歌われる応援歌を素直に受け取ることができない、“厄介な”、まさにポルノグラフィティ“みたいな人”たちこそを応援するエールソングなのだ。彼らが1999年のデビューシングル『アポロ』から20年以上、それこそヒットチャートの上位に名を連ねている理由の一つがこの、シニカルでありながら嘘のない歌詞が持つ、リアリティと説得力だ。「エールソング」一つとっても“これは自分の歌だ”と掴まれる人は多いだろう。

そもそも、「メッセージソングは得意じゃない」「応援歌を作るのは苦手」な彼らが、今回エールソングを作ったのはなぜか。新藤は自身のnoteに「こういう時代だから、根拠とかそういうことではなくて、フレフレー、そういう曲をやる意味が今のポルノにはある、という自分の中の理屈があって書いてみた。理屈として、こういう曲、メッセージが必要だと考えた。」と綴っている。岡野も「コロナ禍で出すシングル、自分たちが2年ぶりに出すシングルと考えると、『明日はいい日かもしれないよ』って言い切ってしまうことで、聴いてる人に明るい気持ちになってもらえたら」と語っている。

思い返せば、それまで本間昭光を中心としたチームで作品作りをしていたポルノグラフィティが、岡野と新藤のメンバー主導で動き、曲ごとに様々なプロデューサーと組む形でアルバム『PANORAMA PORNO』をリリースしたのは、2012年3月。制作に取り掛かったのは東日本大震災の直後だった。東日本大震災という大災害を目の当たりにし、自身の考え、そして音楽への向き合い方が変わったふたりは、バンドにとって新たな挑戦への道を選んだ。その先で見つけたものは、自分たちの音楽が持つ可能性だった。2021年のコロナ禍という未曾有の災害に見舞われている最中での“新始動”。「フレーフレー」という言葉を、背中を押してくれる『テーマソング』を、1番必要としていたのはポルノグラフィティ自身だったのかもしれない。コロナ禍でのライヴで、観客と合唱ができないことがわかっていながら、いつか歌い合える日への希望を託しシンガロングパートを用意したことにも、彼らこそがこの曲を必要としている証拠がある。

“新始動”のタイミングで、ライヴのサポートバンドにも新しい風が吹いた。バンドメンバーとして玉田豊夢(Dr)と山口寛雄(Ba)が加わったのだ。ふたりはこれまでポルノグラフィティのレコーディングには参加していたが、ライヴに参加したのは、それこそ新始動の前触れとも言える、2020年12月に行われた配信ライブ「CYBERロマンスポルノ’20~REUNION~」から。現在開催中のライヴサーキット「続・ポルノグラフィティ」にも参加している。ポルノグラフィティの楽曲はポップでありながらも、その基盤はロック。バンドメンバーによって、その聴こえ方やグルーヴは大きく変わる。バンドメンバーで言うと『テーマソング』の収録曲「IT’S A NEW ERA」ではドラムを柏倉隆史(toe、the HIATUS)、ベースを須藤優(XIIX、ex. U&DESIGN)が担当。「テーマソング」、2曲目の「REUNION」とはまた違う、たおやかさで楽曲を支えている。

ちなみに『テーマソング』の初回限定盤にはこの「CYBERロマンスポルノ’20~REUNION~」の模様を全曲収めたBlu-rayまたはDVDが付く。このライヴ、会場にも観客は入っているが、今作ではARを取り入れた配信ならではの映像も楽しめる。個人的には、浮世離れした世界観が当時センセーショナルに響いたデビュー曲「アポロ」が、現在ではまた新たな意味を持つように感じるオープニングに心を掴まれた。

ところで、新始動に至る前の期間にふたりが何をしていたかというと。岡野はソロ名義での音楽活動。n-buna(ヨルシカ)や澤野弘之、辻村有記、スガ シカオと楽曲を制作し、ソロでのライヴも行った。ポルノグラフィティの大ファンであるKing Gnu・井口理(Vo, Key)が「King Gnu井口理のオールナイトニッポン0(ZERO)」で、「ミュージック・アワー」を熱唱しているところに岡野が乱入したのもこの時期だ。一方の新藤はnoteを開設。これまで小説を上梓するなど、作詞以外にも文才を発揮してきた新藤らしく、日常が独特な視点でユニークに綴られている(個人的には酔っ払ってビンテージの雑貨を買った話が好きです。写真が秀逸)。更に、新たなジャンルへの執筆活動もnoteには綴られており、あえてギターを弾かない生活をしようと決めていたというが、それでも表現するということはやめなかったのが新藤らしい。各々の武器をさらに磨き、おそらく新たな武器も手に入れたであろう彼らは、2021年の今だからこそ鳴らせる「テーマソング」で“その気になって”、新たなフェーズへと登っていく。

INFORMATION

ポルノグラフィティ

https://www.pornograffitti.jp/


初回盤

通常盤