Interview: Kitriによる新しい音楽表現の形 ーEP“Bitter”に描かれた4つの世界観ー

Kitri(キトリ)というアーティストをご存知だろうか? Mona(姉)とHina(妹)から成る姉妹ピアノ連弾ボーカル・ユニットだ。2人の歌声とピアノの旋律を聴くと、どこか懐かしげな気持ちになって、ふと昔のことを思い出すような郷愁の念に駆られる。
もちろん、彼女たちの音楽にはノスタルジアだけではなく、形容し難いフレッシュな感性が内包されている。今の時代に鳴り響くピアノをベースとした音楽は、電子音が溢れている世の中にあって非常に新鮮だ。そんな稀有な存在とも言えるKitriが、ニューEP『Bitter』を3月11日にデジタルリリースする。これまでにない新たなチャレンジを形にしたという本作について、MonaとHinaの2人をインタビュー。

と、その前にKitriの成り立ちを振り返っておきたい。
Monaがクラシックピアノを始めたのは4歳のとき、その姿を見てHinaも6歳の頃から同様にクラシックピアノを始めた。2人がピアノを習う中で、当時の先生が「せっかく姉妹でやっているんだから」と、連弾を進めたことがあった。そこで2人は連弾に挑戦し、練習を重ねるうちに、どんどんと、その楽しさにのめり込んでいったそうだ。「この感覚は不思議で、新しい」と、当時中学生のMonaは感じていたし、小学生だったHinaもまた「1人で弾くよりも手応えがあっていいな」と子供ながらに思っていたのだそう。
その後、Monaはピアノを続けつつ、Hinaは合唱の道へ進む。初めてMonaが作曲に取り組んだのは高校生の頃だった。音楽大学を目指して受験勉強をする中、コードのことを学ぶうちに「これは作曲ができるんじゃないか」ということに気づき、勉強の合間を塗って家族にも内緒でこっそりと作曲を行なっていた。その当時、勉強をしなくてはいけないはずなのに、楽曲制作に時間を使っていることへ、ある種の後ろめたさをMonaは感じていたようだ。そんなオリジナル曲が、家族に“ばれて”しまったことがある。パソコンに入っていたMona制作のデモテープを聴いた母親が、その曲に感動し、「すごく良い曲だ」とMona自身に伝えたことがあった。ちなみに、その楽曲が形になったのが『rhythm(リズム)』だ。

この出来事で、Monaは何か緊張感から解放されたような気持ちになり「私は曲を作ることが好きなんだ」と自覚したそうだ。そのときに思い出されたのが、幼少期にHinaと行なっていたピアノの連弾だった。連弾しながら歌うユニットを姉妹で作ることができたら、新しい音楽を生み出すことができるんじゃないかということがアイディアとして思い浮び、お互いが大学生の頃に好機が訪れ、活動を本格的に行なっていくことになった。そこから活動を続け、メジャーデビューを果たし、今もアーティストとして活動している。

1曲ごとに異なる世界観を描いたEP『Bitter』

ーMonaさんにとって、高校生の頃に行なっていた作曲活動は、発散の意味も含んでいたのではないかと思います。そういった意味で、自分の考えをストレートに曲へ表現していたと考えられますが、現在も同様の気持ちで音楽表現を行なっているんですか?

Mona:昔は自分の思いをぶつける対象が音楽だったんですけど、今は1曲ごとに新しい世界観を表現したいという思いが1番にあります。強いメッセージ性というよりは、言葉にできていないものを音楽にしたいというか。毎回、新しいイメージを持ちながら音楽を作っていきたいって思っていますね。こういう感情を表す曲を作りたいだとか、自分の感情とは違う部分であっても、作れるようになってきているのかと思います。

ー『Bitter』の4曲について。この作品で描かれている世界観には、何か統一したコンセプトなどがあるんですか?

Mona:いえ、それぞれ独立した世界観があるんですが、4曲を通して聴くと、Kitriの大きな色が反映されていると思っています。制作時期も各々異なるので、逆に曲ごとに、まったく別の世界観を表現するというコンセプトで作っていきました。

ーそれでは収録されている曲ごとにお伺いします。まず「踊る踊る夜」は、どのように作詞等を進めていったんですか?

Mona:書いていたのは、2020年でしたね。コロナ禍によって自宅にいる時間が増えて、ネットで絵を検索したり、2人とも絵画に以前よりも興味を持つようになってきた時期でもあるんです。

ーそれで、歌詞の中盤には<フェルメール ボス ゴッホ セザンヌ モネ マネ ドガ スーラ……>といった画家の名前が出てくるんですね。

Hina:はい。Monaが作ってくれたメロディが先にあって、それを聴いて作詞を進めたんですけど、最初に<真夜中 ひとりきりのアトリエ>って情景がパッと思い浮かんできて、そこから詞を展開させていったんです。でも、最初は全然違う歌詞だったんですよ。もう少しダークで暗い世界観だったんです。

Mona:そうだったね。それで、もうちょっと言葉遊びをしているような感じでも面白いかもしれない、って2人で話し合って。

Hina:それで、韻を踏むような表現にできたら面白いんじゃないかなって思って、画家の名前を入れていったんです。

Mona:その歌詞をHinaが書いてくれたときに、Kitriにとって新しい表現だし、斬新だと感じたんですよ。

Hina:あと、夜中に物が動き出すような世界って面白くない?ってこともMonaと話をしていて、そこから想像力を膨らませて書いていきました。

Mona

ーまさしく言葉遊びというか。画家の名前が列記されるパートは聴きようによってはラップにも捉えられますね。

Mona:そう聴いていただけると嬉しいです。あと、この曲はピアノの音素材がループするような曲構成で展開していくことを考えて作ったんですが、それもKitriにとっては新しい挑戦でした。

ーその作り方は、いわゆるHIPHOPなどにおけるトラックとしてピアノの音を扱っているとも考えられますね。続いて「実りの唄」では、どのような世界観が描かれているのでしょうか?

Mona:この曲は私は作詞を担当したんですが、ミレーの画「種をまく人」(ジャン=フランソワ・ミレーの名画)からもインスピレーションを受けているんです。絵を見たときに、大地に足をつけて、一歩一歩進んで行く姿に、どこか憧れがあり、そこに人生を感じたんです。それで「実りの唄」では、人生の苦悩や喜びといったことを彷彿させる表現にしつつ、四季の変化を感じられる言葉を取り入れてみました。

ー3曲め「左耳にメロディー」について。ここでは恋愛を連想させる男の子と女の子が描かれますね。Monaさん、Hinaさん連名での作詞となっていますが、どう歌詞の制作を進められたんですか?

Hina:「左耳にメロディー」はアレンジャーの礒部智さんが10秒くらいのリズムを作ってくれて、それを聴いてMonaがピアノを乗せながら曲が出来ていきました。そこから歌詞を作り始めたんですけど、これまでのKitriにはないリズム感とメロディで、最初はどういうことを書いたらいいんだろうってことを悩んだんですよ。そこで、9~10通りの歌詞を書いてMonaに送ったんです。

ーそんなにたくさんのパターンがあったんですね!

Hina:そうなんです。何を書けばいいかをMonaに相談したんですけど、5~10分間の短く切り取った場面を1曲の中に表現していくのはどうかな? って意見をくれて。それで通勤電車なんて面白いかもしれないって話をしながら、物語を進めていったんです。

ーKitriの楽曲において、なかなか珍しい歌詞表現ではないでしょうか?

Hina:確かに、こういう表現は今までになかったかもしれないですね。私が描く歌詞は、感情の話や目に見える情景だとか、そういうものが多かったんです。2人の登場人物がいて、そこでドラマが生まれるような内容の歌詞は、私にとっても挑戦でした。

Mona:これには私の好みもあって、「木綿のハンカチーフ」で描かれている世界観がすごく好きなんですよ。そんな2人の掛け合いがある歌詞を書いたことがなかったので、それをHinaにも伝えて、歌詞を考えてもらったんです。

ーなるほど、それで男女の登場人物を介しての物語が描かれているんですね。ちなみに、リズムというのは、何か特定のジャンルを意識したものなんですか?

Mona:礒部智さんが、もともとジャズっぽいアプローチで作ってきてくださったんですけど、そこからピアノを乗せていって変化していったんです。ですので、他にはないようなリズムになっているのではないかなと。

ー最後の楽曲「悲しみの秒針」に描かれている内容について教えてください。

Mona:これまでであれば、聴く人によって解釈が分かれるような表現で歌詞を書くことが多いんですけど、「悲しみの秒針」ではあえて、明確なシーンが浮かぶように限定的な歌詞表現をしたいと思ったんです。あえて“悲しみ”という言葉を曲の中の世界観としてテーマに置いて作ってみました。これもまた、今のKitriだからこそ出来る表現だと思いますし、これまでになかったチャレンジでもあるんですよ。

Kitriの新たな一面を歌詞とサウンドで表現した

ーそういったKitriの新たな表現が凝縮された『Bitter』ですが、タイトルに、そう名付けた理由を教えていただけますか?

Mona:今まで作ってきた曲たちは、Kitriなりの希望を取り入れた世界観を描くことが根底にあったんですけど、今作には、あえてストーリーが確定していない曲であったり、必ずしもハッピーエンドな曲ばかりではありませんので、そういう意味でもビター(Bitter)です。サウンドの方も、ポップな甘いものというよりは、これまでにない挑戦をするという姿勢で制作に挑んでいたので、ちょっと異なるKitriのビター(Bitter)な一面が表れていると思います。そういった理由からタイトルに繋がっていきました。

Hina

ー今回、歌詞をメインに『Bitter』についてお伺いしましたが、Monaさんの書く歌詞は暗喩的で感情表現が多く、Hinaさんの歌詞はストレートな言葉が直喩的に表現されていると感じます。どちらも非常に情景的な世界観を描かれていますが、歌詞表現における差、2人の中で意図的に分けているんですか?

Mona:これは自然と別れていったものだと思います。私の場合は、人と接して、相手の言動や行動、表情から曲が生まれていくような感覚があります。なので、感情表現が多いのかもしれませんね。

Hina:私の場合は、絵画や映画を見たり、本を読んだりして、このテーマで歌詞を書いてみたいと思ったりだとか。具体的な何かからインスピレーションを受けていることが多いですね。なので、こういう歌詞になっているんじゃないかと思います。

Mona:最初は、お互いの歌詞表現の差にも気づかなかったんですけど、曲を多く作っていくうちに、だんだんとお互いに異なる部分があることにも気づけてきて。なので、自然体でお互いの描きたいことを表現しているわけですが、そこに面白みを感じているんですよ。

ー最後に、今後Kitriをどのような存在にしていきたいと思いますか? より大規模な場所でライブをやるのか、少数の理解者に対して深く訴えかけていくのか。そういった展望があれば教えてください。

Mona:そこでいくと、両方をやりたいと思っていますね。多くの方に聴いていただけるような音楽を作れたらいいなと思っていますし、本当に面白いと思って共感してくれる人だけに届くような表現もしていきたいと思うんです。良い意味で、普遍的で多くの人の心に届くような音楽を作っていきたいと思いますし、そんなアーティストになれればと考えているんです。

Hina:私も同じ気持ちです。これからも、誰も作ったことがないような新しい音楽を表現していくことで、多くの人にとって、新しく面白い存在であれたら嬉しいです。そんな新しいアーティストになりたいと思います。

Mona:そして、いつかは子供の頃に発表会で出演してきたホールを巡るようなライブもしてみたいと思いますね。

Hina:私もそうです。日本全国をツアーしてみたいですし、海外でもライブしてみたい。例えば、ヨーロッパで教会やお城でできたらいいなぁって考えています。

INFORMATION

Kitri 『Bitter』

3月11日 デジタルリリース
https://lnk.to/kitri_bitter

1 「踊る踊る夜」※2/18先行配信スタート
2 「実りの唄」※2/25先行配信スタート
3 「左耳にメロディー」※3/11配信スタート
4 「悲しみの秒針」※3/4先行配信スタート

https://www.kitriofficial.com/
https://www.instagram.com/__kitri/
https://twitter.com/__kitri