Interview:秋山黄色 3rd Album『ONE MORE SHABON』

秋山黄色の3rd アルバム『ONE MORE SHABON』が3月9日(水)にリリースされた。前作からの連なりを感じさせながら、サウンドの広がりをみせる本作。彼の紡ぐフレーズはやさしく、疲弊した心をそっと救ってくれる。より“届ける”ことを意識した言い回し。当たり前だけど、当たり前じゃない、言葉が持つ性質について。追求を続ける秋山黄色の“言葉”を探ってみた。

――『ONE MORE SHABON』というタイトルですが、“SHABON”というワードは2ndアルバム『FIZZY POP SYNDROME』のアートワークを連想させますね。それに“ONE MORE”が重なっているので、前作から連なるイメージがあるのか、それとも前作のその後というイメージなのか、いろいろと想像しました。

まさに言ってもらった通りの意味で、ダブルミーニングなんです。『FIZZY POP SYNDROME』は「一人ひとりの悩みが薄まればいいな」という意図で作ったアルバムで、炭酸割りをイメージしてのネーミングだったんですけど、炭酸が抜ける時期がやっぱり来るというか。それに、日本も世界も1年では状況がそこまで変わらなかった。だからもう1回こういう作品を出しとくかって感じでした。あと、去年はイベントとかには出させてもらったものの、アルバム曲をライブでやる場が少なかったので、本当は1曲1曲詰めていけば面白いトリックが現れたりすると思うけど、そういうのがあまりないまま終わっちゃったなあと。だから飛躍的に変えたくはないなと思いました。それで『ONE MORE SHABON』なんです。

――とはいえ、「シャッターチャンス」のようにジャズ×ヒップホップ的なアプローチがあったり、「Night park」のようなフューチャーベースの曲があったり、サウンドの幅は広がりましたね。全体的に、上物をギターではなくピアノに任せている曲が増えたように感じました。

ピアノが増えたというよりかは、ギターが減った分、分離がよくなって他の楽器も聴こえるようになったんですよね。今まではリードも弾いてたし、ソロもやってたし、バッキングもしてたし、リズム面でもいろいろとやってたし……ギターが担っていた部分が大きかったんですよ。だけど今作では、ここぞという時にだけエレキギターを聴かせるようにしました。

――秋山さんは、ギターのフレージングや音色にもアイデンティティを見出して表現している方だと認識していたので、この変化を少し意外に思ったのですが、どういった背景からこうなったんですか?

ピアノが入った曲って今までもあったっちゃあったんですけど、ギターほどとは言わなくとも、自分の作るピアノフレーズが多少個性的なものになるまでそういう曲を増やすのは控えていたんです。だけど最近はピアノフレーズもいい感じになってきているかなということで、増えてきている現状があります。あと、去年ツアーをやったり、いろいろなイベントに出させてもらったりしたなかで、「こんなライブを続けてたら死んじまう!」と思ったんですよ。僕自身そこまで体が強くないのに、動きが多いし、とにかくギターを弾きすぎているし。

――確かに、体力的にも精神的にも消耗が激しそうだなとは思っていました。

本当はもっと笑ってライブをやりたいんですよ。ライブプレイ、セッションというものはそもそも楽しいんだということが伝わらないライブをしちゃっているのが嫌だったし、僕は普段わりとふざけているのに、演奏だけ切迫した感じになるのもそれはそれで嘘臭いなと思い始めて。だから「次のアルバムを作るときはライブをもうちょっと楽しくできるように」という意識が漠然とあったんです。

――もしかしたら秋山さんには、自分の中にある多様な性質をちゃんと表現したいという気持ちがあるのかもしれないですね。

というか、そもそも表情に出ちゃうタイプなので。怒っているような曲をライブで歌う時は「そこまでやる?」って顔してたりするし(笑)。アレンジではこういうことをやるけど、歌詞ではこういうことを追求したいし、でも根底は楽器好きの少年で……という感じなので、全部やろうとするとちぐはぐになっちゃうんですけど。総じて知的に見えればいいなと思っています(笑)。それに、精神的なハイ&ローって結構あると思うんですよ。

――ハイ&ローとは?

例えば、「シャッターチャンス」の歌詞のように、最初すごく暗いことを言ってたはずなのに、朝起きた途端、元気になってたりとか。自分のことで言うと、「何を歌って、どれだけ遠回りしても結局これじゃないか」と思う瞬間と「そんなこと言ったってしゃーない」という状態って交互にやってきたりとか。あとは……俺、小さい頃からずっと寝るのが怖くて、寝るのを我慢しているから結果的に不眠なんですけど、限界が来て寝ちゃってから起きたあと、「あと1時間でいいから寝かせて」と思うことがあるんですよ。そういう時に、我ながら「あの恐怖どこ行ったん?」というふうになる感覚とか。

――つまり、翻るように、元々感じていたことがなかったことになる瞬間。

そういうのを感じると、“悲しい”とか“嬉しい”とか“虚しい”以外の……日本語にも英語にもポルトガル語にもなっていない感情っておそらくまだまだあるんだろうなと思うんですよね。だとしたら、自分の精神状態の変動一つ一ひとつが全部シャッターチャンスだし、生きている間に無駄なことなんてないんじゃないかと。

――そういう想いから「シャッターチャンス」の〈呆れるほど日々を写したい 今だってちゃんと生きているから〉というフレーズが出てきたんですね。

そうなんです。「シャッターチャンス」は最近書いた曲なので、アルバムの中でも特に言いたいことが詰まっているなと思います。

――今回インタビューさせていただくにあたって、これまでの曲を聴き直してみたのですが、1stアルバム『From DROPOUT』の頃の歌詞って“秋山黄色語”で書かれているなあと思ったんです。「なぜこの単語とこの単語を接続させる?」「それはどういう意味?」と疑問が湧くような、新奇性のある言葉が多い。だけど秋山さん自身の中には何か感覚があって、その感覚を表現するためには独自の言葉が必要だったんだろうなと感じました。

うん、仰る通りですね。1stでの言葉遣いは開拓中という感じでした。謎の言語の接続に関しては、おそらく、前後にある強い言葉をぼかしたかったから唐突に変な単語を入れたんだと思うんですけど……自分が本当に“やわらかい”とか“やさしい”と思っているものを表現するためには今の日本語だと全然足りないんですよ。ちょっと意地悪に聞こえる。なので、自分の使っている謎の言葉を“普通のもの”として浸透させたかったというか。とはいえ、それは一朝一夕でできることじゃないし、やり続けていく必要があると思うので、実験の真っ最中という感じでした。

――なるほど。でも今作では、そういった独自の言い回しよりも、訴求力のあるキャッチフレーズ的なものが増えましたよね。「ナイトダンサー」にある〈天才の内訳は99%努力と 多分残りの1%も努力だ〉も、「見て呉れ」にある〈分かり合えないって最高だね〉も、「白夜」にある〈幸福で死にたくないっていうのは この地球上で一番の不幸だね〉も、曲から抜き出しても成立するレベルでインパクトがある。

今作というよりかは、書き方としては2ndからそうですね。さっき言った目的はもちろん2ndや今作に関してもあるんですが、今はそれよりも「広い層に分かりやすく伝えたい」という気持ちがあるし、どれだけ深く残すかの方が大事だから、今日本に伝わっている言葉の中で書いています。こういった思想もあるんだと何らかのタイミングで思い出せるような、キャッチフレーズ的な書き方は確かに意識していますね。

――1st、2ndを経たことで、よりはっきりとした言葉を打ち出せるようになった側面もあるでしょうしね。

特に2ndを出せたことは本当に大きくて。僕は本来「白夜」で書いたようなことをずっと歌っているし、この曲が生まれたのも結構前だったりするんですけど、1st、2nd、3rdと段階を踏んだからこそ表現をぼかさずに済んだ感覚はあります。

――1stでトライしていたような秋山さん独自の言語が浸透して、それを共有できる人が増えていけば、やがて一つの“国”が生まれるかと思います。だけど今はそこを追求するのではなく、もっと広く届けようというモードですか?

はい。だけど今は、楽曲を広く届けないとこういうアルバムを作った意義がなくなっちゃうから、それに伴った歌詞を書いているだけで。

――2ndに引き続き、「音楽で人を救いたい」という気持ちが少なからず介在している作品だから、ちゃんと人に届かないと意味がないという話ですよね。

そうです。だから、今後もこういう書き方をしていくのかと言われたら全然そうではないし、歌詞を書くという行為の最終的な目的地はむしろ“追求”の方です。さっきも言ったように“やわらかい”よりもやわらかい言葉ってあると思うし……あと、ちょっと昔に語尾の「よ」がカタカナになる人っていたじゃないですか。「○○だヨ」って。あれの新時代版を考えている節があるんですよ。多分、本人的には真正面から言うのが少し恥ずかしいから、やわらかくしたくて「○○だヨ」って書くのかなと思うんですけど、そういう言葉が浸透していけば、コミュニケーション全体がやわらかくなるのかなと僕は思っていて。言葉をちゃんと研究して、そういうものを見つけたり増やしたりする活動を続けていけば、きっと世界がちょっぴりかわいくなりますよね。

――最終的に目指すのは、人と人が互いを思い合って、他者に対してもうちょっとやさしくなれる世界ですか?

そうですね。例えば、同じ言葉でも、生まれた場所が違うだけで聞こえ方が変わることってあるじゃないですか。「何かこの人つんけんしてるな」みたいな。歌詞を書くまでは俺自身そういうことに無頓着だったんですけど、「そういうすれ違いってもったいないな」「全部が伝われば苦労しないのに」と思うようになって。特にここ数年は、インターネットのせいでそういうことを考える機会がどうしても増えましたよね。誰かにLINEをする時に、「こういう言い方だとちょっと強く聞こえちゃうかな?」と思って表現を変えるとか、そういうことってみんな自然とやっているじゃないですか。それは気遣いだと思うし、思いやりがあれば言葉が変わるということ。だけど一方で、言葉って、人がストレスを伝達する時に最も用いられている最強最悪なツールでもあって。僕、YouTuberの友達が何人かいるんですけど、中には人から言われた言葉に傷ついて、自分の体を傷つけてしまった人もいます。そういうのを見ていると、令和なのに、言葉の練度がここで止まっているなんておかしいよね、と思うわけで。

――分かります。

言葉が1つ違うだけで、人の手首につく傷が1つ減る。それなのに、人々はあまりにも言葉について考えていなさすぎるなと思っているし、そこはやっぱり、ちゃんと取り組まないといけないんですよね。僕も最初のうちは「カッコいい言葉を知らしめてやろう」とか思ってたんですけど、今は「一人でも救われればいいな」という気持ちが心のどこかにあるんだろうなと思います。だから実はめちゃめちゃ平和主義かもしれない。こんなこと、柄でもないんで普段は言わないですけどね(笑)。

INFORMATION

秋山黄色 『ONE MORE SHABON』

発売:2022年3月9日(水)
CD予約:
https://akiyamakiro.lnk.to/OM4aps
特設サイト:
https://www.akiyamakiro.com/onemoreshabon/


CD+Blu-ray:ESCL-5631~ESCL-5632
価格:¥4,950


CD:ESCL-5633
価格:¥3,300-


M1.見て呉れ
https://akiyamakiro.lnk.to/ojOM9pWN
M2.ナイトダンサー:2021 BOAT RACE TVCMイメージソング
M3.燦々と降り積もる夜は
M4.アク
M5.あのこと?
M6. Night park
M7.うつつ
M8.PUPA
M9.シャッターチャンス
「Follow Your Heart & Music Presented by RECRUIT」参加楽曲
M10.白夜


秋山黄色「一鬼一遊TOUR Lv.2」2021.3.10@Zepp Tokyo
M1. LIE on
M2. サーチライト
M3. とうこうのはて
M4. Bottoms call
M5. 宮の橋アンダーセッション
M6. ホットバニラ・ホットケーキ
M7. 月と太陽だけ
M8. 夢の礫
M9. モノローグ
M10. アイデンティティ
M11. Caffeine
M12. 猿上がりシティーポップ
M13. クソフラペチーノ
M14. PAINKILLER