Review: SixTONESが7thシングル「わたし」で表現した“らしさ”抜群のバラード

SixTONESの7枚目のシングルは「わたし」。松村北斗主演のドラマ「恋なんて、本気でやってどうするの?」の挿入歌としてオンエアされているバラードだ。一人称「わたし」を冠した本作の魅力を探る。

松村北斗主演のドラマ「恋なんて、本気でやってどうするの?」の初回放送で初めてオンエアされ、同時にそれがSixTONESの新曲であること、次のシングルとしてリリースされることが発表された「わたし」。ドラマは“恋なんて、人生のムダ!”と宣言する恋愛経験ゼロの女子が恋に落ちていく姿を描いた作品で、「わたし」はその挿入歌らしく、恋をして「わたし」の心が奪われていく様を切実に歌い上げるミディアムチューンだ。ドラマのタイアップだからというのは重々わかった上で、恋に落ちていく様をこんなに物憂げに表現する楽曲も珍しい。歌詞やメロディだけでなく、サウンドも、ピアノ基調でありながら戸惑いを表すようにベースがうねる。ここにSixTONESの“らしさ”を見る。

ワイルドなHIPHOPやド派手なEDMのイメージの強いSixTONESだが、思えばデビュー曲はYOSHIKI作詞作曲のミディアムバラード「Imitation Rain」で、常田大希(King Gnu / millennium parade)提供で話題を集めた「マスカラ」も歌謡曲を思わせる歌詞とメロディが印象的だった。

デビュー時すでにメンバー全員が20代だった彼らは色気と憂いを纏って、そのスタートラインを切ったのだ。デビューから2年半経ち、グループでの活躍も個人での活躍も増え、各々の経験値を増した6人。今年1月にはジャニーズで初めて「THE FIRST TAKE」に出演し、圧倒的な歌声とハーモニーで華々しい活躍を裏付けしてみせた。

そのうえでの「わたし」だ。バラードこそ、彼らの真骨頂と言えるのではないだろうか。そう思わされてしまう。この2年半で、6人がドラマや映画、舞台など、演技の仕事をしている時間はとても多い。2022年4月期だけでも「恋なんて、本気でやってどうするの?」の松村と、「ナンバMG5」の森本慎太郎のふたりが同時にプライムタイムのドラマに出演している。これはジャニーズ事務所所属といえども、当たり前な環境ではない。この実績からもわかるグループ全員の演技力の高さが、彼らの歌うバラードには直結しているように思う。特に「わたし」ではラップも封印しており、6人がしっとりと、感傷的に歌う。ドラマの主演を務める松村、同時期にドラマ出演中の森本、ミュージカルでの実績も多くその実力の高さは折り紙つきの京本大我とジェシーはもとより、バラエティのイメージの強い髙地優吾と、普段メインでラップを担当する田中樹が聞かせる高音に、異様な切なさが滲んでいて驚かされた。まさに6人の表現力の高さを見せつけた1曲だ。

ミュージックビデオはスーツに身を包んだ6人が、花束を手に、こちらもまた物憂げな表情で、しなやかなに舞う姿を捉えた映像に。しかも暗めのトーンで、彼らの武器の1つであるビジュアルの良さはハッキリとは見せず、だ。振り付けは「共鳴」「Rosy」と同じくGANMI。先述2曲と比べ、大きな動きが少なく、表情や手先指先の動きが重要になる振り付けを、6人は見事に表現している。

バラエティ番組でも活躍し、自身のYouTubeチャンネルでは6人で運動会やアウトドアに興じる自由奔放な彼ら。「わたし」では、笑いも笑顔も封印し、恋に落ちる様を、高まりや期待ではなく、戸惑いや苦しさで表現した。そこに気品と色気も感じさせる。そして彼ら自身がこの曲について「SixTONESにとって一人称である」と言い切っている。TPOに応じた表情や表現の使い分けも、それぞれがジャニーズ事務所に所属して10年以上という経歴を持つSixTONESの強みなのだと改めて思い知らされた。

またカップリング曲のうち、今回は、通常盤に収録されている「共鳴 -Brave Marching Band Remix-」に注目したい。3rdシングル「NEW ERA」以来、SixTONESのシングルには毎作にリミックス音源が収録されている。H ZETTRIOがリミックスを手がけた「NAVIGATOR (H ZETTRIO Crossover Rearrange)」や、「マスカラ」を大胆にアレンジした「マスカラ -Emotional Afrobeats Remix-」(TOMOKO IDA編曲)など、その多彩さも目を引くが、何よりもリミックスが恒例になっているということ自体に、SixTONESの音楽への探究心を大きく感じる。リミックスというのはクラブミュージックでは定番の音楽の楽しみ方だが、メンバーにスポットを当てることの多いアイドルの楽曲としては珍しい試みである。これまで「アイドルとアーティストの違い」などが各所で語られてきたが、そんなものを飛び越えて、もはや楽曲がSixTONESの名前を引っ張っていく。リミックスにおいてメンバーがどれほど関わっているかはわからないが、チーム全体がSixTONESの音楽で遊んでいるように感じる。これこそが、メンバーがいつもうれしそうに、そして愛おしそうに「team SixTONES」と口にするゆえんなのだろう。

先日とあるロックバンド主催のイベント会場で、SixTONESのツアーグッズのパーカーを着ている観客の姿を目にした。イベントにはSixTONESはおろか、ボーイズグループやダンス&ボーカルグループもまったく出演していない。SixTONESのファンがロックバンドに興味を持ったのか、ロックバンドのファンがSixTONESに興味を持ったのか、そんなことを考えなくても良いくらいに、SixTONESの音楽がロックシーンにも浸透していると感じられた場面だった。

さまざまな垣根を越えて進もうとする彼らが、今度は「わたし」という一人称を背負ってバラードを発表することに、またワクワクさせられている。

INFORMATION

SixTONES 「わたし」

6月8日リリース

https://www.sixtones.jp/discography/d011/
https://www.sixtones.jp/

画像は通常盤 初回仕様スリーブケースのジャケット