Interview:chilldspotCMソング書き下ろしで見えた、自分たちらしいバランス

chilldspotが3rd EP「Titles」を9月14日にリリースした。初めてのCMソングとして書き下ろした2曲を含む今作は、バンドとしての挑戦も多く、新たな一面が見える1枚となった。挑戦をする中で、自分たちらしさも見つめ直したという彼らが思う今のchilldspotとは。
現在発売中のEYESCREAM10月号にも出演してくれた4人の、誌面には掲載しきれなかったロングインタビューを公開。

L to R→小﨑(B)、比喩根(Vo/Gt)、ジャスティン(Dr)、玲山(Gt)

「自分たちが作りたい音楽を作る」

──前回のインタビュー後に初のワンマンライブが渋谷WWWであって、その後「One man live “around dusk”」が東京と大阪で開催されましたね。ワンマンライブの回数も増えてきた中で、ライブへのモチベーションに変化はありますか?

ジャスティン(Dr):ちょっとずつライブを楽しめるようになってきたねという話はメンバーとしています。最初のワンマンなんか必死で、ほぼほぼ覚えてないもん。

比喩根(Vo/Gt):本当!? 私、覚えてるよ。みんな緊張もある中で「やってやろう」みたいな感じもあって、最後までアドレナリンが出ていた印象があります。

玲山(Gt):終わった後に「緊張したけど楽しかったね」という話をみんなでして。最初のワンマンだけどやりきった感じがあって、よかったなと思いました。

──「One man live “around dusk”」のリキッドルーム公演の映像は、今作「Titles」付属のBlu-rayにも収録されます。

比喩根:「One man live “around dusk”」は2回目のワンマンライブということもあって、前回のWWWよりも落ち着いてできた反面、課題も見えて。自分の中では「やりきって楽しかったー!」という気持ちと同時に、考えさせられる部分もありました。

──そこで見えた課題というのは?

比喩根:根本的な演奏技術もそうですし、あとはお客さんともう少し親密にライブで関わるにはどうしたらいいのかを考えないといけないなと思いました。WWWのときは自分たちがやりきるので精いっぱいだったけど、「One man live “around dusk”」ではお客さんの顔や、空間を気にすることができて。だからこそ、どうやったらもうちょっとお互いが楽しめるんだろうって。

──コロナ禍ということもありますしね。

比喩根:そうなんです。

玲山:本当に「One man live “around dusk”」で課題が浮き彫りになった気がして、その後、練習に一層身が入るようになりました。

小﨑(Ba):課題が見つかったというのもあるんですが、リキッドルームは自分がよくライブを観に行っていたライブハウスでもあったので、そこに出られたうれしさがあって。しかもワンマンライブができるなんて、うれしくて楽しいライブができましたね。

比喩根:リキッドルーム、大きかったよね。あそこまでの人数が一堂に会するところを見たことがなかったから、ステージに出て行ったときに「人、多!」って思いました。

──そのくらい、自分たちの音楽のリスナーがいるという実感にもなりますよね。

比喩根:そうなんですよ。ワンマンライブをするたびに「こんなにchilldspotを聴いてくれてる人がいるんだ」と実感します。ありがたいことに、サブスクやYouTubeでの再生回数が伸びていて、それを見て「すごい」とは思うんですけど、実際にライブで目の前にすると!

ジャスティン:「もう学校じゃん」ってね。

比喩根:そうそう。全校生徒集めて体育館でライブして、しかも全員が私たちのこと興味を持ってくれている、みたいな。それってヤバイことじゃん!って、テンションが上がります。

──ファンの人がいる、リスナーがたくさんいるということは、音楽活動や音楽制作に影響を与えますか?

ジャスティン:確実にプラスになっていますね。「よかった」と言われて嫌な人はいないじゃないですか。何回言われてうれしいですね。

玲山:制作するときも、「聴く人がどう思うか」というのはみんな考えていると思います。

比喩根:でも私の中では聴く人のことを考えすぎてしまうと自分が作りたいことが形にならない気もしていて。だからあまり気にしないようにしていますね。「前回のあの曲の再生が伸びたから」とかは一切考えないようにしています。でも聴いてくれる人が増えるということは、間違いなくエネルギーにはなっています。

小﨑:僕も比喩根と同じ考えで。もちろんうれしいですけど、曲作りに関しては、ただ自分たちが作りたいものを作るだけ。

比喩根:チルズはチルズだもんね。

小﨑:そうそう。みんな「チルズの曲が好き」と言ってくれているんで。

比喩根:でも聴いた人に、いい言葉はもらいたいよね(笑)。

「chilldspotらしいバランス感を大切に」

──ここからは新作「Titles」について聞かせてください。「Titles」にはこれまでのchilldspotらしさもありつつ、どこか開けた印象を受けました。ソングライターの比喩根さんとしては意図的だったのでしょうか?

比喩根:あまり意識はしていなかったのですが、今回はCMソングとして書き下ろした曲が2曲入っていることもあって、その結果広がりを持ったのかなと思います。

──「BYE BYE」がHonda VEZEL e:HEV CMソング、「Sailing day」がブルボン アルフォートのCMソングですね。初めての書き下ろしでの楽曲制作はいかがでしたか?

比喩根:勝手なイメージとして、書き下ろしって“こういう曲を作ってください”という指定がいっぱいあるのかなって思っていたんですが、そんなことは全然なくて。特に「BYE BYE」のほうは“chilldspotらしい曲であれば大丈夫です”というお話で。そのぶん悩んだのですが、最終的には、自分の好きなように描こうと思って。車の中で音楽を聴く時間がすごく好きなので、その空気感を、自分の好きなジャンルに乗せて作りました。「Sailing day」は明確なイメージをいただいていたので、雰囲気に合わせるためにも、明るくてハッピーな曲にしたいなと思っていたんです。でも私自身、あんまりハッピーなオーラのある曲を作ったことがなくて悩みましたね。その中で大切にしたのは、無理に明るくしすぎないこと。chilldspotの曲を聴いてオファーをくださったというお話だったので、“ちょっと弱音を吐きつつも最終的に明るくなる”というchilldspotらしいバランス感を大切にしました。でも私が普段こういう明るい曲を描かないからメンバーもみんな免疫がなくて(笑)。大変だったよね。

玲山:そうだね。実際、メロディも歌詞も何度も変わったよね。けど、楽しい曲ができてよかったです。

ジャスティン:僕は、前作EP「around dusk」で明るい曲も収録していたので、そこまでやりにくさはなかったかな。

比喩根:本当!? よかった!

小﨑:僕も楽しく作れました。

ジャスティン:ベースはスラップを入れたりしているよね。

小﨑:そうですね。曲調も歌詞も明るいので、それにあわせて今まで使っていなかったスラップ奏法を取り入れました。あとは、低音で支えるというよりは、上の音で勢いを出すようにしたり。いつもとは違うことをいろいろと試しているので、この曲はぜひベースに注目してほしいです。

──そのほか、収録曲の中で、特に好きな曲や思い入れのある曲を挙げるとしたら何になりますか?

比喩根:全員同じ曲になる気がする。

ジャスティン:「せーの」でいけると思う!

比喩根:いってみる? せーのっ!

一同:「Like?」!

比喩根:やっぱり! chilldspotとしては新しいタイプの曲だと思うのですが、みんなの“演奏していて楽しい”という気持ちが出ている感じがするんです。一番、素に近いテンション感があって好きです。

ジャスティン:音源の熱量感も今までリリースした曲の中で一番あるんじゃないかな。

玲山:そうだね。生っぽさもあって。

小﨑:僕はもともと、こういうグランジっぽい雰囲気の曲が好きなので「Like?」はドンピシャ。ライブ映えもしそうなので、ライブで演奏するのも楽しみです。

比喩根:ミックスが終わった最終の音源をみんなで聴いたんですけど、そのときのメンバーの反応が『カッケー!』『やべぇ!』みたいな感じで。音源を聴いて鳥肌が立ちました。

ジャスティン:あとは「shower」を先行配信で出したあとに、1曲目に「Like?」が来るというインパクトもいいなと思って。

比喩根:こんなにピュアな曲も、今までのチルズにはあんまりなかったしね。

──では収録曲の中で、それぞれ「ここを聴いてほしい」というところはありますか?

比喩根:ボーカル的には「BYE BYE」かな。自分の中では挑戦をしたんですよ。いつもは落ち着いていてしっとりした歌い方をするんですが、この曲は、年相応の女の子というか、強めの女の子が主人公かなと思ったので、“元気な女の子”をイメージして歌いました。だけど曲としては切なくもあって。曲の主人公は、全力で夢を追いかけている女の子。強がって「私が主役なんだよ」と言ってみてはいるけど、たぶん現実はそうじゃないというのもなんとなくわかっていて。それでも必死に「私が主役なんだよ」と歌っている。その感じを出したかったので、ときどき切なげな瞬間も入れて。そうやっていろいろ意識して歌ったので歌い方にも注目して聴いてみてほしいです。

──「私が主役なんだよと言ってるんけど、でもたぶんそうじゃないのはなんとなくわかっていて」というのを、今の比喩根さんが歌にするのって、すごく俯瞰的な視点ですよね。

比喩根:えっ、そうなんですかね。私は「自分が最強で天才だ」と思ってたのは小学生くらいまででした。それ以降は、人と比べてしまったり、考えすぎちゃうことのほうが多くて。そのときから「自分って主役じゃないんだ。どう頑張っても自分ひとりで変えられることには限界があるんだ」と思っています。でもそれは「私なんか」という悪い意味で捉えているわけじゃないですよ。「そこまで気負わず、自分ができることを、自分ができる範囲でやろう」ということで。この曲でも「私はこう言ってるだけだから気にしないで」みたいな感じです。

──それこそが「chilldspotらしいバランス」なんですね。

比喩根:そうなのかもしれないです。

──小﨑さんの聴いてほしいポイントはどこですか?

小﨑:ベースで聴いてほしいところはさっき「Sailing day」で話したので、そのほかに聴いてほしいのは「shower」のギターですかね。この曲のギターソロが個人的にすごく好きなんですよね。音の広がり方が曲に合っているし、感情的な演奏も好き。

玲山:ありがとうございます。

ジャスティン:俺はドラムの話を。ローディーさんの性格もあると思うんですけど、いつもレコーディングのときにドラムで遊んでくれるんですよね。「これ乗っけて叩こうぜ」みたいな。今回は「Ivy」で、ドラムのスネアの上に、ゴミ袋を乗っけて叩いているんですよ。音源で聴いてもわからないんですが、そういうセオリー通りじゃないところを面白がって作る瞬間が好きですね。

──ちなみにゴミ袋をかぶせて叩くとどういう音になるんですか?

ジャスティン:ゴミ袋っぽい音が聞こえるわけじゃないんですけど、心なしか「ボスッ」っていう音が聞こえるんです。衝撃音がなくなるという感じです。聴いてもわからないかもしれないですけど、「こんなことやってるのかな」と想像しながら聴いたらまた面白いんじゃないかなと思います。

玲山:僕は「Like?」の「Boy」という歌詞がめちゃくちゃ好きで。歌詞というか構成かな。サビに入る直前の「Boy」がすごくカッコいんですよ。僕は聴いてるとき、そこで止めちゃいます。

ジャスティン:そこで止めるのはダメでしょ!(笑)

玲山:でも本当にカッコいいので、一回止めてみてほしいです!

比喩根:ライブで、そこで止めてみるのもアリかもね。

──このEPに「Titles」というタイトルをつけた想いを教えてください。

比喩根:5曲揃ったときに、歌詞が全部、一人称の世界観だと思ったんですよね。今までは果てしない悩みを歌っているという感じだったのが、それぞれの一人称がハッキリしていて、何かの瞬間、場面を歌っている感じがした。「Like?」だったら恋しているときだし、「Ivy」は恋が叶わない瞬間。そのことだけを悩んでいる曲が多くて、それって何かの場面だなと思ったので、「Titles」というタイトルにしました。

──「一人称がハッキリしている」とおっしゃっていましたが、まさに主人公が曲ごとに違うように感じたので、曲のインスピレーションの元が今の比喩根さんの感情だけじゃないんだろうなと感じました。比喩根さんは以前楽曲制作について「“感情が溜まったら作る”」とおっしゃっていましたが、今の楽曲作りのペースでも、それは変わらずですか?

比喩根:最近は感情が溜まる、溜まらないに関係なく書くことが多いです。そのぶん、今の自分の感情だけじゃなくて、自分の過去の感情を思い出したりもするようになりました。あとは漫画を読んでいて、「このシーンのときの登場人物の感情は?」とかそういうところから引っ張ってきたり。いろんなところから力を借りながら作ることが増えました。

──タイアップ曲の書き下ろしで明るい曲に挑戦したりもしていて、変化のタイミングでもあるのかもしれないですね。

比喩根:そうですね。いい変化かなと思っています。引き出しは多いほうがいいので。

──「Titles」リリース後には初の全国ツアーがありますが、楽しみなことはありますか?

ジャスティン:新曲を早くやりたいよね。

玲山:明るくてライブで映えそうな曲が増えたので、ライブでやるのが楽しみですね。

ジャスティン:今までのライブは、真剣に聴いてもらうようなライブだったけど、最近はお客さんと一緒に盛り上がっていくようなライブになってきているような気がして。このEPの収録曲ではもっとそういう方向に持っていけるんじゃないかな。

小﨑:初めて行く土地もあるので、各地方のお客さんと一緒に楽しむのが僕も楽しみですね。

比喩根:今までのワンマンは大阪と東京の2公演だけだったけど、今回は6公演。ワンマンのときのメンバー間での「大阪ではこうだったから東京ではこうしよう」みたいな話を、もっとたくさんできるんだと思うと楽しみだし、6公演の中でライブがどういう変化をしていくのかも楽しみです。

[比喩根]デニムジャケット¥25,080(USED/SELEN)、シャツ¥25,080(USED/AULD LANG SUN)、ブーツ¥10,780(USED/ENAM)、その他スタイリスト私物
[ジャスティン]プルオーバー¥6,930(CASPER JOHN/Sian PR tel_03-6662-5525)、Tシャツ¥6,600(USED/per-aah)、パンツ¥25,960(CAL O LINE/UNITE NINE showroom tel_03-5464-9976)、キャップ¥32,900(USED/Sowhat Vintage)、その他スタイリスト私物
[玲山]トラックジャケット¥12,100(9090/Sakas PR tel_03-6447-2762)、パンツ¥31,900(77CIRCA/A_UNN PR tel_03-6450-5827)、その他スタイリスト私物
[小﨑]ニット¥33,000(WRAPINKNOT/HEMT PR tel_03-6721-0882)、シューズ¥27,500(YOAK/HEMT PR tel_03-6721-0882)、その他スタイリスト私物

INFORMATION

chilldspot
3rd EP『Titles』

2022.09.14 Release
https://lnk.to/titles

アルバム特設サイト:https://chilldspot-titles.com/
HP:https://fan.pia.jp/chilldspot/
Twitter:@chilldspot
Instagram:@chilldspot_official