Interview: DYGLの4thアルバム『Thirst』を経てDYGLが奏でるオルタナとは何かを改めて問う

2022年12月にリリースされたDYGLの4thアルバム『Thirst』はもう聴いたか。メンバー曰く「今までのアルバムで1番DIYでインディなアルバム」ということ。セルフレコーディングでミックスまでメンバーが試行錯誤しながら手掛けており、距離感の近い信頼できる面々で作り上げた作品となっている。いわゆるバンドの気分を原点回帰させ、そこにDYGL最先端のサウンドを詰め込んだ作品となった。このような作品制作に至った経緯と、今のバンドのムードについて。また、そもそものルーツそのものについて。改めてDYGLのオルタナ・ギターロックについての話を聞く。

L to R_嘉本康平、加地洋太朗、秋山信樹、下中洋介

DYGLを始めた頃のムードとのリンクがあるのかも

ー新作『Thirst』が原点回帰的作品だと言うことで、まずはDYGLのルーツの話を色々と教えてほしいと思います。まず、本作におけるルーツとは何ですか?

秋山信樹(以下、秋山):ルーツと言っても、ジャンル的なものや思想など色々とあると思うんですが、今作『Thirst』では、バンドのムード的な意味でDYGLを始めた頃の感じに近いところが感じられたと思います。自分たちで率先して集まって、できるだけ顔を知っている人と仕事をしながらDIYな姿勢で行なっていく作業、そういう意味で原点回帰になったのかなと。僕らはリスナーとして音楽を聴くときも、クリエイティブな面で主導権を握り続けているバンドが好きなので。DYGLもそうありたいと思ってやってきているんですけど、今までやってきた中でも自分たちのコントロールから離れてしまったり、アイディアの向く先がクリアじゃなかったこともあった。そういう意味で、今回改めて標準を合わせることができたかなと思いますね。

ー1stアルバム『Say Goodbye to Memory Den』の頃と比べて、変わるもの・変わらないもので考えると、どんなことが思い出されますか?

秋山:それこそカモちゃん(嘉本康平)なんて楽器も変わっているわけだからね(笑)。どうでしょう?

嘉本康平(以下、嘉本):そうだね(笑)。最初はギターで途中でドラムを叩いて、今はギターに戻って。そういうパート的な意味で原点回帰とも言えるかもしれないですね。なんなら僕はドラムの考え方になれなくて大変だったので、そこがギターを弾くことで感覚的に戻ってきた感じです。

加地洋太朗(以下、加地):ごちゃごちゃしたところでライブをするのが好きっていうのは変わらないかもしれないですね。イギリスでもバーみたいなところでもライブをしてきたし。そういうのは一貫して好きな気がします。

下中洋介(以下、下中):うん、同意見ですね。

ーでは、音楽的な面で言うとどうでしょう?

秋山:1stアルバムの頃から色々とジャンルを跨いで音楽を聴いてはいたんですけど、あのときDYGLとして表に出していたサウンドをずっと続けようとしているかと言ったら、そんなに意識していないと思います。そういう意味では、1stアルバムをリリースするよりも前の時期。バンドをスタートさせたばかりの模索していた時期に作っていたものだったり、スタイルが定まっていないがゆえに色んな音をランダムに出していたりして、そこで様々な曲が生まれていた、あの時期というのは、もしかしたら今改めて繋がりを見出せるような気がしていて。

ーバンド結成の2012年から1stアルバムリリースの2017年の間のことですね。

秋山:そうですね。シングル「Waves」(2022年3月23日リリース)は、あの当時に作った曲をリアレンジして録音した楽曲でもあるので、そういう意味では、あの頃のムードの方が今の感じに合っているかもしれないっていう気はするんですよ。色々と考えた結果、『Thirst』には入れなかったけど最近ではライブでやってしっくりくる曲の1つだし。って意味では1stアルバム発表以前の自分たちのムードとのリンクがあるのかなと。

嘉本:それはあるかもしれないね。「Waves」は大学生の頃に作ったけど、当時はもっと激しいアレンジをしていて。サークルで一緒に活動していた人の影響もあったんですよ。

秋山:ああ、そうだね。メンバー全員同じサークルに属していたんですが、ジャンルのクロスオーバー感であったり、自分がやっていない音楽に目を向けられるというのは、あのときの経験が大きかった気がします。あの頃の音楽が何でも面白く聴こえる感じ、色んな音楽を渡り歩ける感じが、もしかしたら今の自分たちに改めて近いのかもしれない。その感覚はずっとあったんでしょうけど、アウトプットに繋がりはじめたのは最近かもしれないですね。

ーDYGLと言えば、2017年にUSで、2018年にはUKを拠点に活動していた時期もあります。その頃の経験と言うのは、やはりバンドに大きな影響を与えているものですか?

秋山:もちろんです。僕の中では日本とは違う(音楽の)社会が回っているという別の宇宙の存在をはっきり感じられたことが良かったと考えています。それは欧米に限らず、タイや台湾、まだ行ったことのない南米やアフリカの存在なども含め。日本の音楽シーンとは異なるものを体感することで、別にここ(日本のシーン)でなくても、自分たちのことを受け入れてくれる場所があるのかもしれないっていう自由な感じがしたんですよ。僕らに限らず、今いる社会の一つの価値観に合わなかったからといってやっていることを変えるんじゃなく、受け入れてくれる所を見つけることも選択肢としてはありなんだと。同じ音楽に対しても、社会によって見え方は違う。その感覚は今も残っている気がしますし、そんな違う宇宙を体験するための期間でもあったと思います。

下中:国ごとに、そこに住む人が音楽を聴くときに、どういうところにフォーカスする傾向があるのかっていうのを体感することができたのは大きかったですね。それによって、自分が出すギターの音はすごく変わったと思います。高域を抑えてジャキジャキさせず、低音が効いていて丸みがあるような。そんな風にセッティングや弾き方も変わったと思いますね。

加地:僕らはもともと海外のシーンにすごく憧れはあったし、その現場がどのように成立しているのかっていうことが知れて、実際に国ごとの文化の違いが音楽を聞く場所にも影響を与えていることが見えたのは大きかったですね。場所や人が作る文化を客観視できるようになった気がします。

嘉本:何か。明確にバンドのここが変わったということはわからないんですけど、潜在意識に刷り込まれて無意識のうちに変わったものは、作る音楽や演奏している姿に出ている気がしますね。

『Thirst』は新章スタート的イメージ 今後の基準となったら面白い

ー今さらではありますが、そもそもDYGLは海外活動を視野に入れて行動していたんですか? それとも、結果的に海外に目を向ける流れになっていったんですか?

秋山:もともと海外を見ていましたね。中高生の頃にバンドを組んで、当時から海外のインディロックが好きで聴いていたんですけど、音楽番組などから聴こえてくる音楽から察するに、日本で自分の作りたい音楽が聴かれるイメージが湧かなかったんですよ。むしろ、当時からできるだけ早い段階で海外に行ってしまった方がいいと思っていました。基本的には、国外でやっていた方がやりやすいんじゃないかって思っていたんですよね。そんな風に日本では無理だろうって最初から諦めていた部分もあったんですけど、大学生活を通じて良い仲間(メンバー)も見つかったし海外行くまで一旦やってみるかって活動してみたら、意外と周囲が受け入れてくれて。大学卒業後に1人で海外留学でもしようかと考えていたんですけど、あれよあれよという間に、活動のベースが日本に出来て、そこから海外へ広げていけそうな状況になっていって。だったらバンドで海外に行った方がいいかって考え方になっていったんです。なので、グローバルな活動をベースに考えていたら、いつの間にか日本でもやれるようになっていったという印象でしたね。

嘉本:僕も海外は憧れではあったんですけど、当時からバンドとして海外に行きたいだとか、そんなことを具体的に考えていたわけではないんですよね。ただ、あの頃にbandcampやSoundCloudといったものが主流になりだして海外と分け隔てなく新しい音楽を聴ける環境が出来ていったんですよ。それで国境を意識しなくとも良いバンドが聴かれるようになっていったっていうのが、そもそもの始まりだった気がしています。海外に行かずとも、そのプラットフォームを利用すれば外の人が聴いてくれるんだって思っていたし。バンドに関しても、何か明確な目標があって海外へ行ったってことではなかったと思いますね。

加地:当時から海外に憧れがあったと思うんですけど、実際のビジョンがなさ過ぎて無意識的に選択肢を排除していた節があったなと思い出しました。それと、嘉本が言うようにSoundCloudやbandcampだったりで、実際に近いシーンの人たちが実際に海外に出ていく姿を見ていたんですよね。だから自分たちも海外からも認められるような作品を作っていかなくちゃって意識していたと思います。

ーそういった原点や考え方、行動を経て、今のDYGLだからこそ表現できることが『Thirst』に表現されていて、バンドのムードでいくと原点に近い状態にあると。

秋山:はい。4枚目のアルバムを作るにあたって原点回帰しようってことを事前に決めてやっていたわけではなく、エンジニアやアートワークを誰にしようか、どのスタジオで録音しようか、そうやって1つずつ決まっていったことを見ると、バンドを始めた頃の感覚に近いなってことに気づいたんです。もちろん当時とはステージがまったく異なっているんですが、感覚的には繋がる部分があるな、と。サウンドの面でも、自分たちがリスナーとしていいねと思えるものに近づいた曲もあるし、DYGLの最先端の作品として、自信を持って人に聴いてもらえるような音楽になったと自覚しています。2ndアルバム『Songs of Innocence & Experience』の頃は考え過ぎていた部分はたしかにあっただろうし、3rdアルバム『A Daze In A Haze』のときはある種考えるのをやめて自然な思いつきを試す期間だった。じゃあ、4枚目のアルバムでは、と考えたときに、自分たちがどういう音楽をやりたいのかを考えたうえで自由にやることができた。だから、『Thirst』は今後バンドを続けていくうえで1つの基準になってくれそうかなって感じる作品なんですよ。3rdアルバムに近しい部分はあるんですけど、僕としては、3rdアルバムが0章で、『Thirst』で新章スタートな気がしています。

加地:僕も似たような感覚ですね。

嘉本:秋山が言うように、1st、2ndの頃は実験して遊ぶってよりもガチガチに詰めていったものを録るって感じがあって、3rdアルバムは中間という感覚がありますね。『Thirst』はゼロから試してみた部分があったし、これから次はもっと色々試していけるような時期になってきたのかもしれないと感じます。

下中:どこまでが地続きで、どこからがそうじゃないのかっていうのは細かく説明しなくちゃいけない部分があると思うんですけど、個人的には3rdアルバムで「Bushes」という僕がやりたかった曲を自分が主体となって作れたんですけど、まさか、このバンドでそこまで我を出した音楽が出来るとは思ってなかったんですよね。それで、じゃあ4thアルバムでも作ってみるかという思いでやっているので、僕個人としては「Bushes」から今作に繋がっているし、やることは変わっていないし、より自分にとって純度が高いものを出そうとしているので、3rdがアップデートされた感覚でもあるんです。

以前よりも前のめらなくなった

ー『Thirst』は何かこう荘厳でいて、厳かな気持ちになる雰囲気が作品から感じられるように思います。なんとなくテンポがゆったりとして心地よく聴こえる感覚があるんですが、そこは意識しましたか?

嘉本:作っている最中にもそういう話があったけども、僕としては意識してなくて、逆に速い曲を作ろうと思って「Dazzling」を作ったり、「I Wish I Could Feel」も後半に激しく展開していくパートもあるんで、あまりゆったりするような意識はなかったあんですけどね。なんでそう感じられると思う?

下中:数値上のテンポの変化っていうのはないと思うんですけどね。前のめらなくなったっていうのはあるでしょうけど(笑)。

嘉本:ああ、シャッフルをしなくなったもんね。

加地:3rdアルバム以降、音が重くなったのかな? そうなるとノリが変わってテンポが落ちたように感じる部分はあるのかもしれないです。印象が違うっていう感覚でしょうね。

秋山:自分的にはちょっとだけあったかも。1stアルバムのときは、軽やかにノレるってことを意識する部分があったけど、歌に呼吸があるものをやりたいっていうのが、3rdアルバムを経て思ったことで。言葉を変に詰め過ぎたりしないようにっていうのはあったかもしれないですね。ほんのちょっと調整レベルで歌の呼吸がほしいって感覚が『Thirst』にあったかもしれません。

海外国内問わず何か面白いことがしたい気分

ーありがとうございます。来年の話も教えてください。国内ツアーもありますが3月からは久しぶりのUSツアーがありますね。SXSWにも出演になります。

下中:本当に1stアルバムの頃と比べるとライブも仕方も大きく変わったので、それがどう伝わっていくのかって想像するとすごく楽しみですね。環境が変わった海外でツアーできるのも楽しみです。前のめらなくなった広く重い音がどう響くのか。

加地:日本ではしっかりとライブ出来る環境が整っていますけど、海外では常にそうとも限らないので、変わらずしっかりとライブが見せられるようにしていきたいですね。またチャレンジする機会がきたなって感じです。

嘉本:まずは気負いせずに旅行感覚で行って楽しむことかなって思います。SXSWに集まってくるバンドはまた個性豊かな面々でしょうから良い音楽と出会えればいいかなと思いますね。

ー今後、バンドとして目標に掲げることなどがあったら教えてください。

秋山:パンデミックの状況も各国で少しずつオープンになっていく中で、バンドがどう活動していくかは色々と考えている段階です。せっかくここまで環境も繋がりも作れて、キャリア的にも整ってきたので、何か面白いことができたらと思っていて。場所はさておき、面白いツアーやイベントをできるように柔軟に考えていきたいですね。短めのツアーで一緒に回ってみたいバンドが何バンドか国内にいるので、彼らとツアーを組めたらいいなと。この先も有名無名関係なく、聴いてみて「ああ、いいな」と思えるアーティストと一緒にフェスみたいなものをすることも夢の1つです。ごちゃついたところでライブをするのが変わらず好きって加地くんも言っていましたけど、音楽が主役のステージでなく、人が遊んでいるところに音楽があるっていう、そういうところでライブするのも好きなのでやりたいですね。本当に色んな可能性があるので、実現できそうな面白いことを順番にやっていけたらいいなって考えています。

INFORMATION

DYGL 『Thirst』

https://dayglotheband.com/
https://lit.link/dygl

DYGL JAPAN TOUR 2023
1/20 Fri 東京・O-EAST
1/21 Sat 京都・METRO
1/22 Sun 神戸・Varit
1/24 Tue 高松・TOONICE
1/25 Wed 岡山・EBISU YA PRO
1/27 Fri 広島・セカンドクラッチ
1/28 Sat 熊本・NAVARO
1/29 Sun 福岡・BEATSTATION
2/3 Fri 仙台・RENSA
2/5 Sun 札幌・SPiCE
2/9 Thu 名古屋・Electric Lady Land
2/10 Fri 大阪・CLUB QUATTRO

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