八木海莉がデジタルEP『健やかDE居たい』をリリースした。
15歳で単身上京し、2021年にメジャーデビューを果たした八木海莉。昨年は1stEP「水気を謳う」をリリースしたのち、ホリエアツシ(ストレイテナー)、ポップしなないで、NAOTO(ORANGE RANGE)とのコラボ楽曲を発表するなど、大きな成長の1年となった。そんな昨年を経てたどり着いた「自分の想いをうまく伝えられた」という本作について、八木に話を聞いた。
──最初にトピカルな1年となった2022年を振り返らせてください。去年4月に1stEP「水気を謳う」をリリースしたあと、6月から3ヵ月連続でシングルを配信リリースしました。6月リリースの「僕らの永夜」ではホリエアツシさん(ストレイテナー)が作曲、7月「君への戦」ではポップしなないでが作曲と編曲、8月の「刺激による彼ら」ではNAOTOさん(ORANGE RANGE)が編曲を担当するというコラボが行われましたが、この3ヵ月連続のコラボ企画はいかがでしたか?
八木海莉:先輩方とできて新鮮でした。皆さん、初めましてのところからだったので緊張しましたが、新しいことができてよかったなと思います。
──お三方とのコラボ企画を経て、気付きや発見はありましたか?
八木海莉:今回、すべて歌詞は自分で書いたんですが、自分ではなく他の方に作ってもらった曲にあわせて歌詞を書くことの難しさを実感しました。でももらった曲からいろいろ想像して歌詞を書くのは楽しくて。新たな楽しさも発見できました。
──自分で曲も歌詞も作るときとはやはり歌詞のインスピレーションの元は変わる?
八木海莉:そうですね。曲から映像をイメージして歌詞を作る、というやり方はあまり変わらないんですけど、いただいた楽曲を最初に聴いたときの衝撃は大きいですね。
──ほかの方とタッグを組むことで、何か自身の成長や変化には繋がりそうですか?
八木海莉:「君への戦」で初めてラップに挑戦したんですけど、最初はラップの歌詞が書けるか心配で。でも書けたのでよかったです。
──逆に言うと、ラップをするということに対する不安は特になかった?
八木海莉:そこはあまりなかったですね。でも、初めての挑戦でしたがとても楽しめました。
──いろいろな方との化学反応が起きた企画だったかと思いますが、その中で気づいた自身の強みや武器、八木さんらしさみたいなものはありましたか?
八木海莉:うーん……難しいですね。あ、歌声ですかね。自分で言うのも恥ずかしいですけど(笑)。
──いやいや、胸を張っていいことだと思います。作る方によって様々なテイストの楽曲が揃いましたが、八木さんが歌うと“八木さんの歌”になるということが自分で感じられたということですよね?
八木海莉:そうですね。提供してもらった曲だけど、ちゃんとハマったなと思いました。
居心地が悪いから少しでも楽に
──連続リリースを経て9月には初めてのワンマンライブ「八木海莉 First One-Man Live 19-20」を開催しました。こちらのライブの手応えはいかがでしたか?
八木海莉:始まる前は「みんな来てくれるかな……」と心配もあったのですが、たくさんの方が観に来てくれて、自分自身がも楽しめたので初めてのライブとしてはよかったかなと思います。
──ライブの出来はいかがでしたか?
八木海莉:もっとできたかなと……。2デイズでの開催だったのですが、1日目はとにかくやってみるしかないと思ってやって、その映像を見て2日目に挑んだんですけど、そしたら考えすぎちゃって。「こうしたい」というのはいろいろあったのに、思うようにできなかったこともあったので、もっと頑張りたいなと思いました。
──「みんな来てくれるかな」という不安も感じていたということですが、実際にリスナーと対面して感じたことはありますか?
八木海莉:ファンの方の存在をネット上でしか感じていなかったのと、そもそも自分自身が人前で歌うことが本当にひさしぶりだったので感動しました。
──リスナーの存在は、ご自身の音楽や活動に影響は与えますか?
八木海莉:今はまだ曲に影響することはあまりないですけど、とても励みになっています。
──そんな2022年を経て、デジタルEP『健やかDE居たい』が完成しました。前作と比べて音楽性の幅が広がったように感じたのですが、作る前に構想などはあったのでしょうか?
八木海莉:作る前は「こういうEPにしよう」というイメージはなかったのですが、出来上がったものを聴いてみると、意外と似ているなというか……歌っていることは一貫性があるなと思いました。
──そのときのご自身のモードが反映されていた?
八木海莉:そうですね。こういうことを思っているんだな~って思いました。
──曲を作りながら「私って今こういうこと考えてるんだな」と気付いたというか。
八木海莉:そうですね。無意識にそういう曲ばっかり作っていました。
──それこそ「健やかでいたい」というモードだった?
八木海莉:そうですね。“居心地が悪いから少しでも楽に”というのは全体的なテーマだったかなと思います。
──その居心地の悪さは最近感じたことですか? それともずっと感じている?
八木海莉:ずっとですね。中学生の頃とかって学校が生活のすべてになるじゃないですか。学校と家の行き来になるのでずっと息苦しく感じていたんです。でも自分がしたいことがあって東京に出てきたら、やりたいことができるようになって。特に4曲目の「さらば、私の星」は、そういう自分の肌に合っている場所にいこうよみたいなことを歌った曲で。でもこの曲に限らず、居心地の良さを求めるみたいなことが、全部の曲にあるなと思いました。
──今のタイミングで、そういう曲ができたのはどうしてだと思いますか?
八木海莉:今は、少しずつ自分にとって楽な空間を作れているから振り返れたのかもしれないです。息苦しいままだったら俯瞰して見られなかったと思うんですけど、ちょっとずつやりたいことができてきているからこういう曲ができたのかなと思います。
心と体がかみ合っていない感覚
──「健やかDE居たい」は、EPのタイトルでもありますが、タイトルの表記が独特ですよね。この表記にはどのような想いが込められているのでしょうか?
八木海莉:「健やか」と「(そこに)居たい」を切り離したくて「DE」にしました。
──「切り離したい」というのはどういうことでしょうか?
八木海莉:体は元気だけど気持ちが全然晴れないとか、心と体がかみ合っていない感じがあって、そういう意味でまず「健やかでいたい」と思って。同時に「そこに存在している感じがしない」っていう感情もあったので、健やかでもありたいし、そこにも居たいっていう意味で、このタイトルにしました。
──「健やかDE居たい」はタイトルの表記の面白さももちろんですが、歌詞の耳障りも良いです。歌詞で特にこだわった部分や好きな箇所はありますか?
八木海莉:<苦い夢で目覚める>から始まる2番Aメロの歌詞はすごく気に入っています。
──サウンド面で気に入ってるところは?
八木海莉:最近エレキギターを買ったんですよ。それで、この曲は初めて自分もエレキを弾いてレコーディングをしました。
──エレキギターを買ったからロックな要素も入れてみようみたいなところから着想を得た?
八木海莉:いや、この曲はエレキギターを買う前から作っていた曲でした。エレキはライブで弾きたいなと思って買ったんです。
──では2月のワンマンライブではエレキお披露目も?
八木海莉:はい、その予定です!
──今回も様々なアレンジャーとタッグを組んでいます。中でも「さらば、私の星」はJ. ogさんとの初タッグとなりましたがいかがでしたか?
八木海莉:まだ直接お会いできていないのですが、すごく良いものが返ってきてうれしかったです。
──想定外のアレンジだった?
八木海莉:はい。想定外というか、想像以上で。「あ、これです、これです!」っていうのがきてうれしかったです。
──また「ゾートロープ」はデビュー曲「Ripe Aster」以来のおかもとえみさん。ひさしぶりにタッグを組んでいかがでしたか?
八木海莉:実はこの曲は「Ripe Aster」と同じ時期に作っていたので懐かしいなと思いながら作りました。
──デビューから1年経って、自身の変化や成長は感じますか?
八木海莉:はい、感じています。特にこのEPでは歌詞と歌が成長したなと。
──歌詞のどのようなところに成長を感じますか?
八木海莉:「さらば、私の星」は、一回書いた歌詞を全部壊して、もう一度書き直したんです。そうすることで、濁したい部分と伝えたい部分がはっきりしてわかりやすくなって。そういうことが上手くなりました。
──1回書いた歌詞を全部壊すのって勇気がいることだと思うのですが、どうしてそれができたのでしょうか? 自分で気付いたのか、周りの方のアドバイスなのか。
八木海莉:厳しい言葉をいただいたりもしました(笑)。歌詞を作るとき、こんな感じで(と言いながら手元のノートを見せる)言葉を書きまくるんですけど、そこから好きなフレーズは濁したままにして、「これは伝えたいな」と思う部分はわかりやすい言葉に変えて、っていうのをやっていったら綺麗にまとまっていって。今度からはこのやり方で作ろうと思いました。
──歌の面での成長はどのように感じているのでしょうか?
八木海莉:デビュー前はカバー曲や、提供してもらった曲を歌っていたので、「ここはこうしよう」とか入念に考えていたんですが、自分の曲ってお手本もないし自由なので、どう歌うかをあまり考えていなかったんですよ。歌いたいように歌っていたんですけど、自分の曲でも「ここはこうしてみよう」とか細かく考えて歌うようにして。成長しました。
──ご自身の曲なので、歌いたいように歌っていても良いと思うのですが、入念に考えるようになったのはどうして?
八木海莉:自分の曲を聴いたときに、あまりにもサラッと流れてしまって。でもこれまではそう思っても、どうしたらいいのかわからなかった。けど今回の曲はちゃんと「こう歌いたい」と思う通りに歌えることができたので、自分の成長を感じました。
──小学生の頃からボイストレーニングに通っているのに、それでもまだ歌の面で成長があるんですね。
八木海莉:はい、まだまだありますね。いつも自分のベストは尽くしてきているけど、世の中には歌がうまい人ってたくさんいるのでまだまだだなって。
今の自分の想いをうまく伝えられたのかな
──最後にはRADWIMPS「セプテンバーさん」のカバーも収録されています。八木さんはこれまでにいろいろな曲のカバー曲をYouTubeで発表してきましたが、その中でこの曲を選んだのはどうしてですか?
八木海莉:RADWIMPSがずっと好きで。中学生のときに初めて「セプテンバーさん」を聴いて、私は9月生まれなこともあって、「自分の曲だ」って思ったんです。単純ですよね(笑)。でも誰かに「自分のために書いてくれた曲だ」って思ってもらえるってすごくいいなと思って。自分の歌もそういうふうに思ってもらえる曲になったらいいなと思ってこの曲を選びました。
──すごく素敵な理由ですね。「セプテンバーさん」が今回は自分の曲として収録されてリリースされることについてはどのような気持ちですか?
八木海莉:うれしいです。自分が想像したように歌うことができたので満足しています。
──改めてEP『健やかDE居たい』はどのような作品になったと思いますか?
八木海莉:今の自分の想いを一番うまく伝えられたのかなと思います。前回のEPも自分では、そのときの最大限の力を尽くして作ったけど、今改めて聴くと、歌い方が下手だった気がしたので。今回は前回よりうまく伝えられているんじゃないかなと思います。
──2月11、12 日には2ndワンマンライブ「polydam」が控えていますが、どのようなライブにしたいですか?
八木海莉:1stワンマンのあとに対バンライブにも出演したり、いろいろな方のライブを見て勉強したので、自分のやりたいライブが形にできるといいなと思います。
──1stとは違うライブになりそう?
八木海莉:そうですね。
──ちなみに、対バンした中で特に印象的だったライブはありますか?
八木海莉:idomくん。カッコよかったですね。idomくんはその日が初めてのライブで、そんなにライブに慣れていないと聞いていたんですけど、自然体ですごかったです。自分は緊張すると自然体ではいられないので、「あんな感じのライブができると楽しんだろうな~。いいなぁ」って思いました。
──八木さんは小さい頃から歌をやっていたので、人前で歌うのはお手の物かと思っていました。
八木海莉:いや。ネガティブなんで、ライブ前にネガティブなことを考えて緊張しちゃうんです。でも慣れてくると大丈夫になってくると思うので、2ndワンマンライブは頑張ります。
──デビューして1年経ちましたが、音楽や歌うということに対する気持ちに変化はありますか?
八木海莉:変わらないです。ずっとやってきたものが、ずっとそこにあるというか。
──「歌うのが当たり前」みたいな?
八木海莉:そうです、そうです! これからも音楽をやっていきたいです!
──“当たり前に”続けてくれることを期待しています。アーティストとしての今後の目標はありますか?
八木海莉:今もやりたいことはやってるんですけど、表現したいレベルまで達せていないので、全体的にクオリティをあげたいですね。ライブも曲もMVも。もっと練度を上げたいです。
──ライブで言うと「こういうところでライブをやってみたい」といった具体的な目標はあるんですか?
八木海莉:どこでもやりたいです。フェスも出たいし。いろんなライブのステージに立ちたい。
──楽曲の面で、表現したいレベルというのは?
八木海莉:「こういうものを作りたい」と思ったときに、自分の想像を超えることがまだ難しくて。まずは自分の思っているものをちゃんと形にできるようになりたいです。
──子供の頃から歌を歌っているわけですが、「音楽をやめたい」とか「他のことがしたい」と思ったことはない?
八木海莉:ないですね。他のことをしたいと思っても、結局「これは音楽とかMVに繋がられるな」って考えているので。
──全部が音楽活動に集約されると。アーティストは天職ですね。
八木海莉:そうだと思います!(笑)。