チェーン店ではない個人経営のショップが好きだ。それもあまり大きくなくて、なんならちょっと入りにくい方が好ましい。その方が知る人ぞ知るって感じがするし、この便利過ぎる現代においては少しくらい不便な方がカッコよく見える。
Test & Tinyはまさしくそんな店。2023年2月25日に世田谷区は上馬にオープンしたのだが、ここを運営するのがレーベル“KAKUBARHYTHM(以下、カクバリズム)”ということもあって、既にホットスポットになっているようだ。
そんなTest & Tinyがどんな場所なのかについてカクバリズム代表、角張渉さんに話を聞きながら、レーベルをスタートさせてからまもなく22年目を迎えるカクバリズムが目指す方向についてもちょっと教えてもらった。
※写真の一部はオープン前のものになります
上馬の実験的で小さなカクバリズムらしい居場所
Test & Tinyがあるのは、三軒茶屋駅から早歩きで15分ほど、世田谷線の松陰神社駅からだと10分足らずで着くくらいの距離感だ。環七と世田谷通りが交差するところから数分、三茶を背に上町方面に歩くと到着する。2階建ての建物で1階は2022年9月にオープンしたという惣菜kokiliko(こきりこ)が営業中。
立ち飲みでナチュラルワインを楽しめるということで、夜は多くの人が訪れている様子。お店だけではなくケータリングチームも運営しているお店だ。その脇にある黒く塗られたシックな階段。これを登っていくとTest & Tinyに到着する。温かみのある扉を開くと、こじんまりとした、だけど非常に居心地の良い空間が広がっていた。ちょうど友人の家に遊びに来たような感覚に近い広さで、日差しが綺麗に入り込み、とても静かで落ち着くギャラリー然とした空気が流れていた。さてさて、まずは疑問に思うのが『なぜ、Test & Tinyがスタートすることになったのか?』ということ。
角張渉(角張):「レコードショップはずっとやりたかったんですよ。ディスクユニオン 下北沢店でバイトをしていましたし、うちのスタッフも含めてみんなレコードが大好きですからね。そこで、自分がやるなら、専門店ではなくカクバリズムが持つ雑多性をお店に落とし込んだレコードショップにしようと思って。あと、コロナ禍もあったし僕も年齢を重ねてきて出会いが減ってきちゃった気がしていて。そういう意味でもお店をやりたいと考えたんですよね」。
2年ほど前のとある日、角張さんは店をやりたいという気持ちを心の内に留めることなくSNSでポツリと発信したことがあったのだが、そのときのレスポンスが非常に良く、意外とお店という場所が現実的に求められているものなのかもしれないと感じたそうだ。そういったネット上でのリサーチ(?)結果が、実際に角張さんの背中を押してTest & Tinyの構想に至ったのかもしれない。同時に重要な存在が共に運営するTRAKS BOYSのK404さんと、前述したkokilikoの存在だ。
角張:「もともと友達が一緒にお店をやりたいって言っていたのも大きかったですね。そういうのがないと、自分は保守的で石橋を叩いて渡るタイプだからなかなかやらないなと(笑)。あとは勢いで物件を見つけて、6畳か7畳くらいしかなくて狭いけど、最初にやるならこれくらいからスタートさせようと考えたんです。ここでいろんなことをやっていこう、実験的で小さい場所、そんな気持ちをお店の名前にして“Test & Tiny”なんです」。
セレクターにも注目したい本やレコードのラインナップ
カクバリズムにとって初めてのレコードショップ。そこはレーベルのカラーがあらゆる角度から体感できる場所になっており、それが感じられるアイテムが棚にぎっしり詰まっているようだ。何が置いてあるのだろう?
角張:「本はスタイリストの伊賀大介くんがセレクトした中古本で伊賀文庫と名付けて販売してます。彼にTest & Tinyのことを話したら見に来てくれて、自分の蔵書や色々仕入れてくれて置いてくれることになったんですよ。ジャンルも多岐にわたっているので非常に面白いです。ぬいぐるみや人形はずっと集めてきたもので少しずつ放出していこうかと思って。あとは、友達から「これ置いてよ」なんて委託されるようにもなってきているので、面白いんじゃないかなと思いますね。周りに色んなことをやっている魅力的な友達が多いですし、彼らの制作物に対して今まではSNSで宣伝するだけだったんですけど、この場所があることで一緒に何かできないかなってことを考えていますね。いわゆるセレクトショップなんですけどクールじゃなくてもいいかなと。野暮ったくてもいいって感じにしていきたいんですよ」
野暮ったくてもいいというのは素敵だ。無理に背伸びしなくてもいいというか、そういったコンセプトが根底にあるからか、肩肘張らないリラックスした感じがTest & Tinyから感じられる。店内の一角にはラックが備え付けられていて、ボーダーTが並んでいた。これは角張さんが大好きだと言う、池ノ上のショップ、Just Rightに別注をかけたロングスリーブ。アパレルという意味ではT&T(Test&Tiny)オリジナルスウェットもオープン記念で展開され大好評だったという。あとはカクバリズムのマーチャンダイズも置かれている模様。通販で買えるものであっても、こうやって手に取れる高揚感があるというのは別のワクワクがあるものだ。
あと、ここは本ショップならではの非常に大きなポイントなのだが、オリジナルカセットテープも定期的にリリースし、店頭限定で販売している。その名もTest&Tiny Tape、通称TTTシリーズ。オープン記念としての第一弾はKashifが担当し、オープン後に即完売。11月には第二弾として口ロロの三浦康嗣が担当したカセットテープが発売された。では、レコードはどういったものが置かれているかを教えてもらおう。
角張:「なかなか悩み続けているんですけど、カクバリズムのルーツであったり、所属しているバンドに共通する雑多感みたいなものをオールジャンルで置けたらいいなと考えていますね。初心者の方でもカクバリズムの音楽が好きな人であれば気に入ってもらえるものを多く揃えていきたいですね。あとは、カクバリズムと馴染みの深い大先輩、DJ MOODMANやライターの松永良平氏がセレクトした中古盤も展開しています。そんな友人たちと店の若いスタッフのセレクトや企画性の高い展開にしたいと考えています」
20年を超える歴史とキャリアを持つカクバリズムが築いてきた人脈や個性に基づいたセレクトは、他にはない非常に魅力的なものになるに違いない。自分が直接知らない音楽であっても、好きなアーティストが好きな音楽なら好きに決まっている。そんな好きの連鎖を楽しめそうだ。そして今回特別にジャンルも世代も異なる4組のアーティストに「My Favorite KAKUBARYTHM」と題した選曲をしてもらった。それぞれのセンスで選ばれたカクバリズムの名曲たちとメッセージをどうぞ。
My Favorite KAKUBARYTHM
YUUKI(CHAI)
カクバリズム21周年おめでとうございます〜!実は密かにカクバリズムのファンでして……CHAIを始める前からずっと聴いてました!これからもずっと楽しみにしてます!
大原大次郎(グラフィックデザイナー)
”衣・食・住・音”。
リズムも意味もなんて最高な言葉なんだろう。自粛期間にオンライン配信で行われた2020年の「カクバリズムの家祭り」。演奏はもちろんのこと、それを届けてくれるカクバリズムの心意気に打たれながら小さな画面を見守った。粛々と紡がれる中にアツいものを感じて、いてもたってもいられなくなって手もとにあった紙に映し出された場面場面をスケッチしていた。なんだかおかしなリアクションだけど、ひょっとしたらこれってカクバリズムとの関係の中でずっとやってきたことなのかもしれないなと思った。”衣・食・住・音”を紡ぐレーベルと、そのアクションに触発されて進む筆。ときにそれはデザインやイラストや映像になったり、喫茶店でのムダ話や自販機前での立ち話になったり。
CYK
2023年の1月、WWW X企画にてYOUR SONG IS GOODと一晩を作らせていただいたことは、僕たちにとって忘れられない経験になりました。
その節は本当にありがとうございました。とても楽しかったです!それまでにもXTALさんや鴨田潤さん、思い出野郎Aチームのサモハンキンポーさんをはじめ、様々な形でカクバリズム所属のアーティストとご一緒させていただくことがありましたので、今回こうした特集に声をかけていただき大変嬉しいです。
自分達の主戦場は深夜のクラブなのですが、そこで日々一緒に遊んでいるクラバーの皆さんにも、カクバリズムから発信される音楽を楽しんでもらえるはず!と勝手に思っています。
節目となる21年目もそれ以降も、カクバリズムの皆さんとどこかでご一緒できること、楽しみにしています!パーティーしましょう!
山岸聖太(映像作家)
永遠に続くであろうカクバリズム。2038年にまた聴きたい曲を選びました。どう聴こえるのでしょうか。楽しみです。
今年はTest&Tinyのオープンに始まり、ceroの「e o」や思い出野郎Aチームの「Parade」のリリース、また在日ファンクも11/1に5年ぶりのニューアルバム「在ライフ」をリリースするなど、精力的に動いたカクバリズムの22年目はどうなっていくのか、ここに答えの断片が散りばめられていそうだが、その辺りはどうなのだろう?
角張:「ここ最近あまり挑戦していなかったというか。どこかくすぶっている自分がいたんですよね、それは会社としてもそう。バンドに新しいことを求めながらも自分が変わっていなかったなっていうのもあったし、視点を変えたいなというのがあって。Test&Tinyを始めたのもそうだし、今年は新人アーティストとしてÅlborg、Till Yawuhをリリース出来て、上々の反応があって。さらにシャッポという素敵な新人も12/13にリリースを予定していて、再び頑張るぞって気持ちになっているんですよね。来年もフロンティアスピリットを持って挑んでいく所存ですよ。あとは20年やってきただけあってカクバリズムにはベテランアーティストも多く在籍してくれているので、ベテランをフレッシュに聴いてもらいたいですね。その方法を何年間もずーっと考えています。振り返れば、僕らがレーベルをやってきた20年間って音楽業界の景気が徐々に悪くなっていく時期だと思うんですよ。そんな激動の時代でやってきたからこそ、今後はいかに楽しくポジティブにやっていくかってことを考えるし、Test&Tinyは若い子が遊びに来れて色々な出会いがある雑多なレコードショップを作りたいなというのがスタートだし、来年は22年目のチャレンジってことでね、頑張ります」
昨今、世田谷の上馬方面は松陰神社なども文化的に盛り上がり、魅力的な個人経営のお店が増えている。それも、飲食店やアパレルショップ、雑貨店などジャンル問わず多種多様な様相だ。その中の1つとして、Test&Tinyは世田谷に遊びに行くなら足を運びたいスポットになるだろう。もちろん、1Fのkokilikoでワインを楽しむために遊びに行ってもいいだろう。カクバリズムの音楽が好きな人はもちろんだが、なんか面白いことはないかな? と考えている人は、まずは三軒茶屋まで行って、世田谷線で松陰神社へ。そこから10分ほど散歩を楽しんで、この場所へ遊びに行っていただきたい。楽しいです!
INFORMATION
Test & Tiny
https://www.instagram.com/testandytiny_/
東京都世田谷区上馬5-38-10 2F
営業はInstagramよりお知らせ
Test&Tiny通販サイト
https://testandtiny.com
現在、パーカーを販売中