idomが2nd EP『EDEN』をリリースする。昨年のフジテレビ系月9ドラマ『競争の番人』の主題歌「GLOW」をきっかけに、音楽のポピュラリティについて考えるようになったというidom。そんな彼が今作で目指したものとは。
──楽曲をリリースするたび、多くの注目を集めたりタイアップがついたりと話題の尽きないidomさんですが、なかでも昨年のフジテレビの“月9ドラマ”『競争の番人』の主題歌「GLOW」を担当したことは大きかったと思います。月9の主題歌を担当したことで、周りの環境に変化はありましたか?
ドラマの内容がお仕事系だったこともあり、より幅広い年齢の方に聴いてもらえるようになったなと感じています。去年やったライブには80代のおばあちゃんが来てくれたんですよ。ドラマの影響ってすごいなと思いましたし、うれしかったですね。
──年齢層の広がりやリスナーが増えたということは、作る楽曲や活動に影響を与えますか?
「GLOW」は初めてポピュラリティというものを意識して作ったんです。もちろん自分の好きな音楽を突き詰めていくのも良いですが、より届きやすいもの、メジャーレーベルだからできるものを作っていきたいなというのは、「GLOW」を作って感じました。
──ポピュラリティを意識した音楽作りは、idomさんが音楽活動を始める前に勉強していたUXの考え方と近いように思うのですが、ご自身ではどう思いますか?
僕がやっていたUXというのはユーザー体験のデザイン。「どうしたらユーザーが不快感なく使えるか」みたいなことを考える仕事で。それでいうと音楽では、「ここでこの音が鳴ると気持ちいいよね」とか「ここにこういうリフが入ってくるとリズムに乗りやすくなるよね」と作る側としてはいろいろ考えるけど、リスナーは何も考えずに自然と受け入れらる状態を目指したいなと思っています。そこはデザインの考えが影響しているのかなと思いますね。
──ご自身の音楽も一つの“商品”として見ているような?
その考えは強いです。というか、僕は、音楽はあくまでもツールの1つだと思っていて。自分の世界観を伝えるための手段として、自分に合っていたのが音楽だったというだけなのかなという気がしています。
──そして2nd EP『EDEN』がリリースされます。これまではご自身と向かい合うような曲が多かったのに比べ、今作では“自分と誰か”や、“誰かといた時間”にスポットを当てたような印象を受けましたが、idomさんが今作で表現したいと思っていたのはどのようなものだったのでしょうか?
そうですね。今回は“自分が大事にしているものを囲っている状態”を表現してみたいなと思っていて。その中で、ラブソングをこれまでそんなに書いていなかったこともあって、ラブソングを書きたいなと思ったのが表題曲の「EDEN」。ほかの曲もわりとその感じはあるかもしれないです。
──“自分が大事にしているものを囲っている状態”を表現してみたいと思ったのはどうしてですか?
「GLOW」で僕のことを知ってくださった方に、本来の僕自身、idomはこういう楽曲がルーツにあって、こういうことをやりたかったんだというものを知ってもらえるような作品にしたいと思っていて。そのためには自分の内面というよりは、自分の思う楽園のようなものを見せる方が、idomワールドを感じてもらえるのかなと思いました。
──自分を知ってもらいたいなら、自分のことを歌うほうが早いと思うのですが、自分のことではなく、自分の思う楽園を見せたほうが伝わると思ったのはどうしてだと思いますか?
自分の人生観を歌った曲は過去にも出させてもらっているというのが一つ。あとはさっき話したメジャーでやるに当たって考えたことでもあるんですけど、自分の内面を歌うと、聴く人が自分と重ねづらいだろうなと思ったりもして。例えば過去に出した「Awake」は割と自分の内面をえぐった曲で。パーソナルな曲だからみんながそこに共感するのは難しいのかな思うんです。それよりは、僕の世界観にみんなが入ってくるという感じが欲しいなと思って。だったら恋愛をテーマにしたものや大切な人との別れを歌ったほうが、みんなとリンクしやすいのかなと思いました。
──表題曲「EDEN」は、確かにその入り口となるような濃度の高いラブソングです。ラブソングを作りたかったとのことですが、歌詞も今までになくロマンチックですよね。この曲をつくる上でこだわったことを教えてください。
この曲では深い愛に溺れていく感じを表現したいなと思いました。2人だけの世界を見つめている感じにしたいなと思っていたので、確かにこれまで書いてきた歌詞よりはだいぶロマンチックな印象にはなりましたね。日常を歌うような軽い恋愛の曲よりも、俯瞰的な愛というか、深めの愛を歌ったラブソングにしたいなと思っていたので、自分でもうまくできたなと思います。
──その“深い愛”は、idomさんの声質にもすごく合っていますよね。
ありがとうございます。関ジャムさん(テレビ朝日「関ジャム 完全燃SHOW」)で取り上げていただいた「i.d.m.」とかも若干エロティックな感じを意識した楽曲なんですけど、こういう曲って似合う人と似合わない人がいるのかなと、僕は思っていて。やり過ぎてもただのやさぐれた感じになっちゃうし。僕はそうじゃなくて、あくまでおしゃれなエロさみたいなものを出せるアーティストであれたら良いなと思い、それは意識しながら作りました。
──先行配信もされた2曲目「Memories」は、恋人との別れを歌った曲にも捉えられますが、MVを見て、恋人に限らず、大切な人との別れを歌った楽曲なのかなと思いました。
そうですね。恋人との別れと捉えてもらってももちろん良いですが、僕は自分の友達との別れを書きました。僕が今スタジオにしているのは岡山の古民家なのですが、リノベーションを含めて、その場所を一緒に作ったのが、一番仲の良かった友達で。その子が病気で亡くなってしまったんです。そのタイミングで、コロナ禍で予定していた僕の仕事もなくなっちゃって。どうしようと思っていたときに、その友達と作ったスタジオで何かを始めてみようと思って音楽を作り始めたんです。寂しさを紛らわすように始めたことだったので、僕が音楽を始めたきっかけになったのは、その友達の存在なんですよね。「Memories」では彼のことを歌っています。これまでにも彼のことを歌った曲は何曲かあるんですけど、これまではただ彼に向けて書いた曲だった。でも「Memories」は彼とのことだけじゃない曲にしたくて。自分自身もこの先いろいろな別れがあるだろうし、そのときにも聴ける曲にしたいなと思って。それが聴く人にとっても、いろいろな聞こえ方をしたらいいなと思って作りました。
──これまでとは違う書き方で彼のことを曲にしてみて、何か気持ちや想いに変化はありましたか?
最初の頃は、自分の中で気持ちを消化するためだけに書いていたところがあって。でも最近は、これを一つの経験としてみんなに伝えようと思うようになってきた。「もし僕と同じような想いをしている人がいたら、その人の力になれるような、その人に寄り添えるような楽曲になるといいな」と思うようになって。そう思って書いたのが「Memories」です。それによって、彼のことを自分の胸に中にしまっておけるようにもなりました。
──MVも公開中です。今回もidomさんご自身が監督もされていますが、このMVはどのようなイメージで作られたのでしょうか?
自分に語りかけているような楽曲なので、映像もそれにリンクするようにm自分と会話している感じが出せたらいいなと思って作りました。
──ちなみに「帰り路」のMVとリンクしているのかなと勝手に想像してしまったのですが。
あー、「帰り路」の最後ですよね。そこまで考えては作っていないのですが、見た人の中にはそう思う人もいるだろうなと思いました(笑)。
──そして3曲目「Control」はToru Ishikawaさん、SILLY TEMBAさんとの共作です。
ほかの3曲がトラックも歌詞も自分で作った曲だったので、全然違う雰囲気の曲を1曲盛り込みたいなと思って、ToruさんとSILLY TEMBAさんにトラックを作ってもらって。そこにトップラインと歌詞を乗せていきました。
──トラックをお願いする段階で、どのようなオーダーをされたのでしょうか?
歌詞で書いているような、自分の内面にある、他の人と相容れない感情と、でも自分の価値観に自信を持って開放的になっていく様子を歌にしたいなと思っていたので、トラックも最初はダーティーでピッチ感のあるものをイメージしていました。でも最終的には想像していたものよりもオシャレな雰囲気になりましたね。不穏なビートから、フロアに広がっていくような、緩急のあるものになって。最初にイメージしていたものよりもベストなものができました。
──そして「Loop」は、「帰り路」のリミックスも担当されたMONJOEさんが編曲を担当されています。idom節もありながら、MONJOEさんっぽさもしっかりと感じられる1曲ですね。
最初に僕が作っているものをMONJOEさんに聴いてもらって、そこから何回かやりとりをさせてもらいました。トラックが出来上がってからボーカルも録り直したんです。MONJOEさんのイメージと僕のイメージがバランスよくミックスされたなと思います。サックスやベースなど、プレイヤーの皆さんも普段MONJOEさんと一緒にやっている方に手伝っていただいて、すごくカッコ良い1曲になりました。
──初回盤収録の「GLOW -English ver.-」を除いて、日本語詞メインの今作。idomさんのルーツとなる音楽はほとんど洋楽だと思いますが、日本語の歌詞を作る面ではどのようなものに影響を受けているのでしょうか?
うーん……僕、邦楽をしっかり聴き出したのがここ2〜3年で。それまではもっぱら洋楽だったので、自分で歌詞を書くようになって「みんなどうやって歌詞を書いてるんだろう」と思って聞き出した感じなんです。だから皆さんから影響を受けていると思うのですが、もともとフランク・オーシャンが好きなので、フランク・オーシャンのような叙情的なものというのは自分の中にイメージとして持っていると思います。
──では、2nd EP『EDEN』はご自身ではどんな1作になったと思いますか?
もともと、全体を通してチルくてエモいみたいなものにしたいということは意識していたのですが、そこに“ノれる”も追加されたなと思っていて。去年初めてライブもやらせてもらって、ライブでたくさんのお客さんと一緒に歌えるようなノれる楽曲も増やしたいなと感じたんです。そう思っている中で制作した楽曲たちなので、どの曲も個性があって、ノれる楽曲になったかなと思っています。本当に、自分だけの世界観をみんなとシェアできるようなEPになったんじゃないかな。
──先ほど、共感という意味で「囲っている世界に入ってきてほしい」という想いを込めて今作を作ったとおっしゃっていましたが、それはライブに来てほしいという、物理的な意味も込められていたんですね。
そうですね。まだライブでお会いしたことない方にもたくさん会えたらいいなと思います。
──最初はコロナ禍で予定していた仕事がなくなったという状況で始められた音楽活動ですが、始めた頃と今で、音楽活動に対するモチベーションに変化はありますか?
始めたときは本当に何もわからなかったので、とにかく何も知らないことに対する楽しさを感じていて。「ここを触ったらこんな音が出るのか」みたいに、ソフトを触りながらいろいろ知っていくことが楽しかった。今はソニーミュージックというメジャーレーベルで、チームのみんなと一緒に作るなかで、音楽の見方も変わったし、音楽を作るということが面白くなって。音楽に対する好奇心から、音楽への探究心に変わっているのかなと思います。
──探求していくなかで、アーティストとしての今後の展望はどのように考えていますか?
まだそこまで大きなイメージは持てていないんですけど、まずは自分の作った楽曲をたくさんの人に聴いてもらいたいというのが一番ですね。みんなが口ずさめるみたいな曲を1曲でも多く作りたい。流行っている曲とは違うスタイルの曲だったとしても「idomくんが作ったんだったら、ちょっと聴いてみよう」と思ってもらえるようなアーティストになれたらいいなと思っています。
──お話を伺っていると、聴いている人を自分の世界に連れていきたいと思うようになったのは「GLOW」を経たことが大きいのかなと思ったのですが、その理想のアーティスト像のようなものは、始めた頃から思っていたものですか?
割と最初からそうでしたね。自分の作るものがより広がるためには、まずは自分の世界観やイメージを確立することが必要だなと思っていたので、売れる・売れないは別にして、自分のイメージしている音楽を発信して。そこから、月9の主題歌というありがたい機会をいただいたので、そこで皆さんとつながるための楽曲を作って。今度はまた自分の原点に戻るようなものを作って。それを繰り返していくことで、僕の世界観のイメージを鮮明に持ってもらって、さらに好きになってもらえたらいいなと思っています。
──以前、「もしも10代とか、もっと若くから音楽始めてたらどうだったんだろうなと、ふと考える。どんな曲作るんやろ。けど大学行ってデザイン勉強してて良かったな、とも思ったり。」とツイートされていましたが、「もっと早くから音楽を始めていたら」という後悔のようなものを感じることもあるのでしょうか?
後悔ではないですけど、もしデザインとかをやらずに音楽だけをやっていたらどんな曲を作ったんだろうなって気になっていて。
──単純な疑問?
はい。でも、だとしたらここまで音楽にハマらなかったかもなとも思っていて。デザインや映像、アニメーションやイラストなど、自分が好きで探求していたことが全部集約できる場所が音楽だった。だからこそ今こうやって向き合えているわけで。だから、今ここで音楽をやっていてよかったんだろうなと思っています。
デニムジャケット¥59,400(beautiful people 伊勢丹新宿店 tel_03-3352-1111)
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リング[シルバー]¥33,000(PLUIE Tokyo tel_03-6450-5777)
INFORMATION
idom 2nd EP 『EDEN』
配信日:4月3日(月)
発売日:4月12日(水)
Instagram:https://www.instagram.com/idom._/
Twitter:https://twitter.com/idom0318