Review:ポルノグラフィティが「アビが鳴く」で描く、広島の景色と祈る姿

ポルノグラフィティが5月31日に新曲「アビが鳴く」を配信リリースした。本作は広島サミット応援ソングとして書き下ろされたもので、広島県出身のアーティストとしての目線で綴られた平和を祈った楽曲だ。同曲について岡野昭仁は「大切な故郷広島が、世界にとっても大切な場所になることを願い歌った曲です」、新藤晴一は「平和。歌にするには大きすぎるテーマですが、自分の言葉にしてみたらこうなりました」とそれぞれコメントしている。彼らはこの想いを、どう楽曲に落とし込んだのか。同曲を聴きながら考えてみる。

「アビが鳴く」は静かなギターのアルペジオに乗せ、岡野の優しげな歌声で<小さな船で波を切り裂き 朱い大鳥居をくぐれば あらわれる水上の神殿 見上げて私は祈るよ>と始まる。この一節で、聴く者はあっという間に瀬戸内の海へ連れていかれ、厳島神社の鳥居を見上げている。そして<あの夏を語れる者も 一人二人と去って アビの鳴く声だけが千年に響き渡る>と続く。この頃には、瀬戸内の海と、自身だけがぽつりと取り残されたような寂しさがやってくる。

タイトルにも冠されているアビとは、広島の「県の鳥」。瀬戸内海に渡来する渡り鳥で、国の天然記念物にも指定されている。鳴き声が壇ノ浦の戦いによる平家の滅亡を悲しむ声とされることから「平家鳥」という別名も付いたといい、寂しげで、かつ切実な声で鳴く。

そしてサビはこうだ。<世界がどんなに変わっても平和を祈る想いだけは 百年先に生まれる子らと同じでありますように>。この楽曲で描かれるのは“水上の神殿を前にした私”と、平和を祈る想いだけ。戦争の悲惨さや悲しみでもなく、ただただ、しんと祈る姿。トラックも、イントロのアルペジオをベースに、最後まで少ない音で紡がれる。78年前のあの日から、人々はただただ静かに、でも強く、平和を祈り続けてきた。その強さと歴史をアルペジオに変え、アビの鳴き声のようにまっすぐ遠くまで鳴らすのがこの曲だ。

もうひとつこの曲から感じられるのは、孤独感。先ほど引用した<小さな船で波を切り裂き>や<アビの鳴く声だけが千年に響き渡る>などのフレーズもそうだし、打ち込み音とギター・ベースで構成されてるトラックもそう。ライブ時は生バンドと共にステージに立つポルノグラフィティだが、ここでは徹底的にマンパワーを排除している。そこに“広島県出身のアーティストとしての目線”を感じるのだ。広島の原爆被害を描いたマンガ「はだしのゲン」の閲覧についての論争が巻き起こったことも記憶に新しいが、月日の流れと共に人々の考え方に少しずつ変化が起きていることへの、彼らなりの警鐘なのではないか。そして広島サミットの応援ソングとしてこの曲を作ることで、広島サミットへの願いも託しているように感じられる。

先ほど「徹底的にマンパワーを排除している」と記載したが、それゆえに岡野のボーカルと新藤のギターの音色が悲痛でかつ力強く聴こえるということも、改めて記しておきたい。

そもそも「アビが鳴く」は、昨年リリースされたフルアルバム『暁』の次に発表された楽曲。『暁』は『BUTTERFLY EFFECT』から5年ぶりのオリジナルアルバムで、ふたりがそれぞれソロ活動に専念していた時期や、コロナ禍など、変革期を経て発表された。それゆえに、これまで以上に柔軟で多彩な楽曲群が収録された作品となっている。そんな『暁』と、『暁』を携えたツアーを経て発表されたのが、「アビが鳴く」というわけだ。ふたりのソングライティングにもさらに幅が生まれたうえで、ソリッドな「アビが鳴く」を持ってくるあたりに、彼らのブレない芯と覚悟が伺える。そしてそれは<おとぎの国に龍宮を見たいわけではなくって 万の言葉の距離を超えて行け この地上を語る綺麗事>という
歌詞にも示されている。

「アビが鳴く」はポルノグラフィティと広島県とのコラボプロジェクトの第一弾。プロジェクトの一環として、「アビが鳴く」にのせて公募した“大切なひろしま”の写真を使ったMV(メッセージビデオ)も制作されている。おもいおもいの広島と共に聴くと、また異なる響きを持ちそうだ。

INFORMATION

ポルノグラフィティ 「アビが鳴く」

https://pornograffitti.lnk.to/Abiganaku