田島貴男&長岡亮介 “TALK SESSIONS at Anjin” REPORT

田島貴男と長岡亮介が1月にリリースしたライブアルバム『SESSIONS』。これは昨年10月から11月にかけて行われたツアー「ふたりソウルショウ-田島貴男&長岡亮介(ペトロールズ)」の模様を収めたものである。ギターと声がもたらす二人の音楽的な息遣いを生々しく感じられる本作のリリースを記念して、3月5日に代官山 蔦屋書店内にあるラウンジ「Anjin」にて、「田島貴男&長岡亮介“TALK SESSIONS” at Anjin」が開催された。この日だけの貴重な対話の記録をエクスクルーシブでお届けする。

──お二人の関係性は近年どんどん深いものになっていると思うのですが、最初はどういう出会いだったんですか?

田島貴男(以下・田島):いろんな現場でたまに会ったりしていたんですけど、知り合ったころは家が近所だったんですよ。最初に話しかけてくれたのは長岡くんのほうですね。
長岡亮介(以下・長岡):東京事変のメンバーとして活動していたころだったと思います。
田島:ライブのあと話しかけてくれたんだよね。「昔、ORIGINAL LOVEのライブを観に行ったことがあります」って。
長岡:珍しくミーハー心を出しましたね(笑)。
田島:それをきっかけに話すようになって。近所ということで、うちに突然遊びに来たりね。
長岡:田島さんはちょっと迷惑そうな感じでね(笑)。
田島:いやいや、全然そんなことなかったです。とてもうれしかった(笑)。でも、長岡くんは突然現れるんですよ。ペトロールズのCDを持ってきてくれたりして。
長岡:そうそう。「近くまで来たので」と言って。田島さんのライブ会場にCDを持って行ったこともありましたね(笑)。
田島:あった!(笑)。
長岡:あれは『SIDE BY SIDE』という作品をリリースしたときですね(2014年3月)。

──もちろん、長岡さんはORIGINAL LOVEの作品を、田島さんと直接的な交流が生まれるずっと以前から触れていたと思いますが、その原体験は覚えてますか?

長岡:最初にすごく覚えているのはシャンプーのCMで流れていたあの曲ですね。
田島:あ、宮沢りえさんが出演していたね。

──「朝日のあたる道-AS TIME GOES BY-」ですね。当時、長岡さんは中高生だったと思います。

長岡:そうですね。あとはうちの親父もすごく田島さんのことが好きで、僕が高校生のときに二人でORIGINAL LOVEのライブに行ったんですよ。市川市民会館に。
田島:市川か。シブいね!(笑)。

──初めてライブを観たときの感想は?

長岡:カッコよかったですね。田島さんが小さいタンバリンを持って、パンパンッって叩いたあと投げ捨てるみたいなことをやっていて(笑)。
田島:あはははは(笑)。

──田島さんはペトロールズの音源を最初に聴いたときのことを覚えてますか?

田島:実はペトロールズのライブはイベントやフェスでは何回か観たことがあるんだけど、そう言えばワンマンはまだ観たことなかったんだよな。最初はなんだったかな? 覚えてないな。でもね、ペトロールズはどんどんカッコよくなっていってるよね。最初はもうちょっとアンサンブルが不完全な印象があったんだけど。ライブを観るたびにどんどん完成されてきて、個性的な音楽性がハッキリ表れてきた感じがする。ある時期から「これはいけるぞ」って思ったもん(笑)。
長岡:きっとペトロールズの結成当初のライブを観られていたら絶交されてましたね(笑)。今日のこの時間もなかったと思います。
田島:そんなことないよ。でも、長岡くんはあの不思議なアンサンブルをよく貫き通したなって思う。っていうか、ほんとに変だよね(笑)。でも、それって音楽をやるうえですごく大事なことなんですよ。俺は「なんでみんな人と同じようなことをやるの?」って思うから。長岡くんともそういう話をよくするんだけど。
長岡:そうですね。
田島:なんで人がやりそうなことをやろうとするのかってさ。でも、長岡くんは自分のイメージ、音楽的ビジョンをペトロールズのあの3人のメンバーで貫いているからこそ、ああいう変わったサウンドを確立したんだと思うんだよ。
長岡:(演奏するのが)大変ですよ(笑)。
田島:大変だよね(笑)。すごく難しいことをやってるから。ギターとベースとドラムのトリオ編成なんだけど、コーラスがすごく不思議なんだよね。ジャズのような変なテンションの動き方をしているコーラス。独創的だよね。

──ORIGINAL LOVEもペトロールズも、自らのルーツやそのときどきに刺激を受けている音楽の本質を漂白せずに、独立したスタイルとポピュラリティを持った音楽をクリエイトしていると思います。

長岡:ORIGINAL LOVEも(音楽性の変化が)目まぐるしいですよね。
田島:たくさん変わったね。いろいろあったし(笑)。
長岡:そのときどきの田島さんがやりたいことが作品に落とし込まれているから、アルバム1枚ごとに変化していて。これからも変化していくだろうし。そこがすごく素敵だなと思います。
田島:市川市民会館以降って、すごく変わりましたよ(笑)。あれから俺自身も変わった。まるで別人のようだなって思う。
長岡:田島さん自身、やっぱりヒット曲をずっと演奏しないといけないのはイヤなのかもしれないなって思ったり。「また『接吻』って言いやがって!」みたいな(笑)。
田島:でも、あのころの僕らの時代と長岡くんの時代には違いがあるよね。僕らの時代は必ずヒットチャートに登るようなシングル曲を出さないと音楽活動を続けられなかったんですよ。
長岡:ペトロールズとは規模が違いますよね。
田島:いやいや、そんなこともないんだけど。ただ、時代という意味では、長岡くんくらいの世代からアルバムとかライブの現場でカッコいい音楽をずっとやるほうがいいという流れになったと思うんだよ。それは羨ましい。僕らの時代はそうじゃなくて、みんなに気づいてもらうためにいわゆるヒットソングも必要だったんですよね。
長岡:名刺代わりの曲が。
田島:そう。我々の時代はそういう曲を作る必要性があった。ちょうどJ-POPという言葉が出てきたころ。その前はポップスとバンドと歌謡曲ってカテゴリーが分かれている状況で。なんというかオシャレでカッコいいことをやっているだけでは、アルバムを何枚もリリースして何枚も音楽を続けていくのは難しい時代だった。
長岡:でも、嫌々(ヒットした曲を)作っていたわけではないんですよね?
田島:そうだね。僕自身、ヒットして何年も人々に聴かれてゆくスタンダード曲が好きだった。それと、そういう時代に対して「俺がやらなきゃ!」という使命感があったんだよね。それはすごくあった。今でも多少はあるけど。

──田島さんは2011年に自主レーベル「WONDERFUL WORLD RECORD」を立ち上げてからはよりインディペンデント精神が強くなったところもありますか? 

田島:誰もがそうだよね。長岡くんもそうだと思うし。

──世代は違えど、同時代に生きるアーティストとしてそういったところでも共感できるのは素敵なことだと思います。

田島:ある時代からは極一部のアーティストの他はほとんどがインディーズっていうのが普通になったと思うんだけど。基本的に新しい音楽をやっている人はインディーズで、ごく一部の人がメジャーに所属する感じになったと思うんだけど。インディーズで自分たちの力で活動したほうがお得だということがわかったところもあるし。若い人もそうだけと思うけど、一人でやるのって大変なんだよ。でも、面白い部分もあって。
長岡:小回りも利きますしね。

──ORIGINAL LOVE主催の「Love Jam」でも若いバンドと対バンしてますけど、田島さんは下の世代から積極的に刺激を受けようとしていますよね。

田島:受けようとしているというか、最近の若いバンドの音楽に「いいな」と思うところが多くあるんです。音楽でもなんでも若い感覚というのは面白いです。20代のアーティストって、尖っていて、アンバランスで、生意気な部分もあるし。懐かしいなって。かつて自分もそうだったなって思うところもあったりしてね。長岡くんはそういう20代のバンドと僕らの世代のちょうど真ん中にいるような存在だと思いますね。飄々としているように見えて、すごくしっかりしてる。すっごくしっかりしてるんだけど、飄々と見せているみたいな。

──長岡さんも田島さんからいろんな刺激を受けていると思います。

長岡:そうですね。歳を重ねて経験を積むとある程度は自信も出てくるし、知らない音楽を聴いたときに自分だったら「あ、そういう感じね!」って判断しちゃうことがあって。田島さんはそうじゃなくて、いろんなことに対して面白いと感じるアンテナを持ってるから。そこは羨ましいですね。
田島:感覚が生きていれば若いバンドでも面白いと思える人がいるんだよね。でも、キャリアがある人はどうしても自分のスタイルやスタンス、立場、あるいは余計な負けん気みたいなものがあるから、若い人の音楽が面白いと思ってもそれを隠そうとすることがけっこうあるんだよね。でも、内心は面白いな、カッコいいなって思ってるからさ。
長岡:そこは素直でありたいですよね。
田島:「みんな素直に言えばいいのに!」って思うんだけど。
長岡:田島さんは言いまくりですよね。
田島:言いまくりですよ!
長岡:そこがいいんですよ。

──あらためて、「ふたりソウルショウ」は田島さんの「ひとりソウルショウ」の番外編として開催されたわけですが、開催までの経緯を聞かせていただけたら。

田島:「ひとりソウルショウ」は2011年から毎年やっています。2016年のORIGINAL LOVEのツアーで長岡くんにギタリストとして参加してもらって。それがバッチリすぎて! 素晴らしいツアーになりまして。僕も長岡くんと演奏しているのが楽しくてね。それで、2016年の12月に「ひとりソウルショウ」の番外編として、一回だけ「ふたりソウルショウ」と題して長岡くんと二人でギターを演奏して歌うというイベントを企画したんです(会場は渋谷のWWWX)。最初は「ひとりソウルショウ」の一つのバリエーションとして面白いかなと思っていたんだけど、僕と長岡くんがステージに出ていったら、お客さんの反応がものすごくて。お互いのギターの音が聴こえないくらい。で、何よりやっぱり僕が長岡くんと演奏するのが楽しいから。長岡くんにはいろんなアイデアがあるので、セッションしながらインスピレーションを即興的に得ることが多い。グルーヴが噛み合うし、歌もハマる。これはもう何本か一緒にやりたい、ツアーに出たいと思って。それで、去年「ひとりソウルショウ」とは別に「ふたりソウルショウ」としてもツアーに出たんです。

──実際に二人でツアーを回ってみてどうでしたか?

田島:ほんとに僕は長岡くんと演奏するのが楽しいんですよ。彼はギタリストだけれども、ソロアーティスト的というか、バンドのフロントマンとしてのアイデアがいっぱいあるし、いろんな仕掛けやグルーヴを繰り出してくる。自分からノリを出していくということを彼も僕もしていて。そこからセッションしながら音楽のアイデアをいろいろ引き出していけるんですよ。それがすごく楽しい。

──長岡さんはいかがでしょう?

長岡:(ライブをやっていて)曲がどんどん変化していくんですよ。
田島:そうだね。
長岡:わかりやすいところで言うと、その日の気分で曲の長さも変わるんです。そういうことがライブにダイレクトに反映されるのってすごくいいなと思って。決まったことをやれば決まった反響がくるし、CDのままやれば喜ぶお客さんもいるんだけど、そうじゃないのが即興の面白さですよね。
田島:その場で生まれるものがね。
長岡:そう、俺はそれがすごく楽しいし、こっちも盛り上がるんですよね。俺は田島さんに引っ付いていく感じですけど(笑)。
田島:私も引っ付いてますよ(笑)。
長岡:引っ付き合ってます(笑)。

──リハーサルでもあえて余白を残して本番に臨むという感じですか?

長岡:でもね、田島さんはリハーサルをしっかりやるんですよ。俺はそんなにやらなくてもいいのにって思うんだけど。どうせ本番で崩すんだからって(笑)。
田島:ライブで変化するからね。同じことをORIGINAL LOVEのメンバーに言われる。「リハをすっげぇしっかりやるのに本番は全然違う」って(笑)。
長岡:でも、それはそれで理にかなってるのが面白いんですよ。

──ペトロールズもそういうところはありますか?

長岡:ペトロールズはもうちょっと本番で崩せるようになりたいですね。
田島:でも、ペトロールズもかなり即興感があるじゃない? 曲の仕組みのなかに余白を残して、その場のノリを表現してるというか。カッコいいよね。
長岡:田島さんほど曲の尺やテンポが変わることはそこまでないです(笑)。

──お互いにそれぞれのバンドの曲を二人で演奏するのはどういう感覚ですか?

田島:面白いですよね。ほんとにORIGINAL LOVEのライブに長岡くんが入った時点でバンド全体がガラッと変わったんですよ。
長岡:いいほうに?
田島:もちろん。あのツアーは全曲、長岡くんのソロパートがあるという。俺も「弾け!」って煽ってたし。「やれー!」って言うとやってくれるんですよ(笑)。だから、彼と二人でORIGINAL LOVEの曲をセッションしても安心なんです。
長岡:俺は田島さんとペトロールズの曲を演奏して「こうなるんだ!」と思いましたね。あとは、自分から「『接吻』の2番を歌わせてください!」ってお願いしたり。図々しくすみません。
田島:いやいや、ウェルカムでしたよ。

──「ふたりソウルショウ」の模様が収められたライブアルバム『SESSIONS』にはどのような手応えがありますか?

田島:すっげぇいいライブアルバムになったなって。
長岡:「おりゃ〜!」っていうテンションでライブをやっているから、歌もギターも普段よりちょっと荒っぽいんですよね。

──生々しいとも言えますよね。

長岡:そうですね。テンションが上がっていて、クオリティとしてどうなんだろうという懸念はあるんです。ほんとはもうちょっとギターが上手いはずなのにというところもあるんですけど(笑)。
田島:そうだよね!
長岡:でも、ライブアルバムとして聴くとこれはこれで一つの結果としていいのかなと思いますね。
田島:そう、そこなんだよ。「アルバム用に間違いなく弾きました!」というギターソロじゃないから。ライブならではの演奏だからね。
長岡:そうそう。
田島:僕も自分のギターソロで気になるところもあるけど、ライブアルバムとして聴く分にはこれはこれでいいと思った。
長岡:そういう気持ちの部分が記録に残ることのほうが少ないと思うから。それはとても稀有なことだし、聴く人にとっても珍しい体験ができるのではないかと思いますね。
田島:「録音してます!」という空気でライブをやってないからね。それがよかった。

──そんな二人のセッションをまた目撃できる機会が4月9日、TSUTAYA O-EASTであります。タイトルは田島貴男&長岡亮介「LIVE SESSIONS AGAIN」。

田島:楽しみですよ!
長岡:ね。どうしましょうね。
田島:時間が経ってるから二人で演奏した感覚を忘れちゃってるからね。
長岡:初々しいライブになるかもしれないですね。
田島:そう、逆に初々しいかも。

INFORMATION

田島貴男&長岡亮介
original live recording album
“SESSIONS”

発売中
【通常盤】VICL-64924 / CD ¥3,000+tax
【完全生産限定盤】VIZL-1306 / CD+ブック* ¥4,000+tax (3,000セット限定生産)
*フォトグラファー松本直也と荒谷ノーマによるフォトセッションを納めたBOOK ”SESSIONS” (全88P)

発売・販売元:ビクターエンタテインメント

  

田島貴男&長岡亮介 ”LIVE SESSIONS AGAIN”
2018年4月9日  TSUTAYA O-EAST
開場 18:30 / 開演 19:30
チケット料金:前売り ¥4,500(税込)/当日 未定 *別途ドリンク代600円


  

PROFILE

田島 貴男(たじま・たかお)|1966年4月24日東京生まれ
1987年前身バンド「レッドカーテン」から「オリジナル・ラヴ」に改名(現在の表記は「オリジナル・ラブ」)。88年、オリジナル・ラヴと並行し、ピチカート・ファイヴに加入(90年まで)。91年アルバム『LOVE! LOVE! & LOVE!』でデビュー。代表作としてシングル『接吻』『プライマル』アルバム『風の歌を聴け』などがある。2015年最新 アルバム『ラヴァーマン』リリース。近年はバンドでの表現以外に、ひとりでループマシーンを駆使して行う「ひとりソウル」としての表現、また弾き語りでの表現で新機軸をみせる。2016年にデビュー 25周年を迎え、シングル『ゴールデンタイム』をリリース。
http://originallove.com/
Twitter : @tajima_takao
Instagram : @tajimatakao

    

長岡 亮介(ながおか・りょうすけ)|1978年生まれ
Ryosuke Nagaoka is a musician who appears and plays in various places. His contribution to music includes songwriting and producing other artists, as well as his role as guitarist. He sings and plays the guitar in a three piece band called Petrolz.
神出鬼没の音楽家。ギタリストとしての活動の他に楽曲提供、プロデュースなど活動は多岐にわたる。 「ペトロールズ」の歌とギター担当。
http://www.petrolz.jp/
Twitter : @nagaokaryosuke