宇多田ヒカル『初恋』リリース! OKAMOTO’S、前野健太、夢眠ねむ、きのこ帝国が“ウタダ愛”を語る

今年デビュー20周年を迎える宇多田ヒカルが6月27日(水)に7枚目となるニューアルバム『初恋』をリリースした。記念すべき20年目、そして“初恋”というタイトル付けも原点回帰を彷彿とさせるようだ。先行で公開されていた曲も含め、皆が待望していた宇多田ヒカルのニューアルバムとあって、このリリースは大きな話題となった。

たとえば、2016年リリースの前作『Fantôme』の収録曲『ともだち』での客演も話題になった小袋成彬が、今作では作曲とアレンジで参加。また、ロバート・グラスパーやディアンジェロなどのサウンドを支えるドラマー、クリス・デイヴが全12曲のうち8曲で演奏している。そのほかのレコーディングミュージシャンやエンジニアも、グローバルで活躍するアーティストをサポートしていたり、グラミー賞受賞歴があったりと豪華な布陣も話題である。

そんな、宇多田ヒカルのニューアルバム『初恋』のリリースを記念して、スペースシャワーTVでは「宇多田ヒカルDAY」と銘打った5時間半にも及ぶ特別編成企画を放送した。そのなかの特別番組「Spaceshower CrossTalk 宇多田ヒカル 『初恋』」では、宇多田ヒカルを敬愛する、オカモトショウ(OKAMOTO’S)夢眠ねむ(でんぱ組.Inc)前野健太佐藤千亜妃(きのこ帝国)の4人のアーティストが『初恋』を試聴し、それぞれの思うことを語った。さらに、宇多田ヒカルの音楽との出会いやどんなところに惹かれるか、など思い思いの“ウタダ愛”が語られたインタビューの模様が放送された。

EYESCREAMは、スぺースシャワーTVと連動して「Spaceshower CrossTalk 宇多田ヒカル 『初恋』」の内容を特別にお届け! 4人のアーティストが『初恋』をどのように語ったのか、そしてそれぞれが1人のファンとして宇多田ヒカルのどこが好きなのか。以下、ご覧あれ。

オカモトショウ(OKAMOTO’S)

ーまず、ご自身と宇多田ヒカルさんに関するエピソードはなにかありますか?

オカモトショウ:正直、ずっと大好きです(笑)。小1の時は子守唄でしたし、音楽好きになる前から好きで、音楽好きになった後はより大好きになりました。あと、先日やっとお会いすることができました。

ーどうでしたか?

オカモトショウ:初めてだったのでかなり緊張して、宇多田ヒカルフリークぶりを出さないように接しました。

ー大事ですよね、そういうのじゃない!っていう(笑)。さて、一言では言えないと思うんですけど、宇多田ヒカルさんの好きなポイントは?

オカモトショウ:なんだろうな…いわゆるこうやったらポップスで、こうやったら売れる音楽で、こうやったら大勢の人に届くという方程式が、J-popでもアメリカの音楽でも音楽の中に公式として存在するとは思うのですが、それからまったく外れた公式を持った人なので、なんでこういう音楽がこんなに胸に響くんだろうっていう謎な存在ですね。

ーではアルバム聴いてみて、全体を通しての率直な感想はどうでしたか?

オカモトショウ:ヤバかったです。やはり素直に天才だと思いました。

ーヤバさの種類は何でした?

オカモトショウ:エネルギッシュなヤバさでした。前作の『Fantôme』は、暗いところが目いっぱい出ている作品だったと思っていて。そこから一転して、エネルギッシュな感じというか、なんていうのがいいんだろう。なんか今、ものすごく溢れてるんだろうなという印象です。あと自分自身もすごく元気になりました。

ー確かに溢れていますよね。

オカモトショウ:だから歌詞なんかも、少しずつだけ風景の歌詞が出てきますよね、改札や日曜日だったり。でも、ほぼずっと自分の感情の推移についてしか話してないし、歌ってない。こういうことってたぶん宇多田ヒカル史上、あまりなかったはずなんですよ。『traveling』もずっとタクシー運転手との会話だったり。でも、前のアルバムから少しずつそういう感じが増えてきていて、今回それが如実になっていて、なんかもう、(甲本)ヒロトさんの歌詞を聴いている様な気持ちになりました。心を歌ってる人というか。

ーうんうん、またそういうのが始まった、と。

オカモトショウ:そう、新しく始まったんだなという感じがすごくしました。あと、リズムのアルバムですね。かなりリズムとビート。で、譜割、自分の歌のメロディーとリズムと。いかに美しいメロディーかということや、いかにかっこいいメロディーかということが旋律の話だとしたら、音色とリズムだなと。あと、言葉か。その世界にいったんだなという気がしました。

ーやっぱり反応しちゃいますよね、リズムに。

オカモトショウ:してしまいますね。なんかすごく変でした。“変”というのはもちろんいい意味で。たとえば、少しトラップ調の曲なんかもあって、それに歌をのせていても、宇多田ヒカル色が強すぎて、いわゆるトラップをやっているんだということがわからないくらい。でも、そういうチャレンジなんだ、ということはもちろんわかるし、今までにないリズムをベースに、前より譜割とかも自由になった印象があります。

ーなるほど。

オカモトショウ:宇多田さんの譜割りは以前からも自由だったんです。下書きなしで書いている様な言葉の途切れ方、例えば「なんとかし、ない~」といった感じで。普通は、1個のメロディーで1つ言葉を言い切って次にいくっていうことが多い中、昔からそういうことを本当にしない人だったので、そういう意味で自由な人だった。それがさらに、節回しが1周目と2周目と3周目と全部少しずつ違うんです。

ー歌詞は同じ4文字だけど、みたいな感じですかね?

オカモトショウ:そうです!達人の域にいってる感じというか、匠の技を見せられているような。でも、そこが言葉をすごく自然に聴かせる方法として機能しているなと思います。

ーじゃあ、アルバムの中で、特に印象に残っている曲は何ですか?

オカモトショウ:最後の『嫉妬されるべき人生』がすごかったので、それも1つ挙げたいですし、『誓い』はすごいパワーを持った楽曲だなと思いました。何がということを伝えることがまた難しいのですが・・・歌詞もメロディーも全部深いというか。思い返すとぐっと残っていたのがその辺ですね。もちろん全部良かったですが。
しかも、『初恋』の後に『誓い』。すごい流れだなと。こういう精神世界の話というか自分の心象風景ばかりになってきて、現実のものが登場しない歌詞を書き出すと、物凄く抽象的で誰にでも届いているようで届いていない歌というか、聴く側が自分のこととは関係ない歌になりがちな部分があると思っていて。だからこそ宇多田ヒカルさんは自分の目に写ったものをよく歌詞にしていたんだろうなという印象は、風景がよく出てきていたので、それを感じて歌がリアルだなというパワーを感じられることが多かった。今回その具体的なものを何も言わなくても、すごく本人の気持ちを歌っているなという感じが自然とあって。それが本人の人生のどういう場面の、どういうことを歌っているのかまではわからないことが多いですが、きっとこういうことがあったんだろうなっていう。具体的なことは何も言ってないのに、具体的な歌ってすごいなと純粋に思いました。

ー宇多田ヒカルさんの声が楽器であるっていうことで目立っていますけど、普通に聞いてたら変則的なリズムなども注視せず聞き流しちゃうかもしれないですね。

オカモトショウ:そうだと思います。そういう意味で自然というか、前時代的じゃないのがいいですよね。きちんと今の感じを汲み取っている。パッケージングを考えるとき、アレンジングの最後の色づけだったり、そういったことの積み重ねで今の時代らしくしたいと思って作っているんだろうなって。数々のヒットナンバーがありますが、そっちに戻る気は全然ないという姿勢もまたいい。

ーでもそのパッケージ感は残るけど、あのサビよかったよね、といったことはない気もします。

オカモトショウ:確かに(笑)。だからこそメロディーじゃないんですよ、今回は。“あのサビいいよねー”という部分は、やっぱりメロディーのキレイさじゃないですか。『大空で抱きしめて』なんかはそういう作り方で作った楽曲なんだろうなという感じがしますが、ほかの曲達はもはや、サビにずっと同じメロディーというか、たとえば同じ“ド”だったら、“ド”をずっと連打する様なメロディーじゃないですか。それのリズムのもっていき方と、言葉のパワーで曲を作っているんだろうなと・・・かなり新しいと思います(笑)。どうやっているのかは全くわかりませんが。

ー新しくなるんですよね。それからまた、タイトルが『初恋』という…。

オカモトショウ:これはものすごく狙ってますよね(笑)。『First Love』からの『初恋』でしょ。それでジャケも、『First Love』の時は水色がベースに自分の顔だったのに、今回はオレンジがベースに自分の顔。

ー言葉とか、歌詞とか、特に印象に残ってるところはありますか?

オカモトショウ:『誓い』の歌詞の「約束はもうしない そんなの誰かを喜ばすためのもの」という部分はかなりパンチラインだなと思いました。そこまでずっと好きな人、あなたを愛してるということをアルバムでもずっと歌っていて、『初恋』があって『誓い』にいく。それで『誓い』でも、もちろん“あなたを愛してる”ということを歌っていて、ずっと一緒にいたいと言っているのに、「約束はもうしない そんなの誰かを喜ばすためのもの」ってそんな誰かの喜びのために一緒にいるんじゃないということだと思いますが、その言葉のパワーたるや…(笑)。あと、最後の曲のタイトル『嫉妬されるべき人生』自体もすごいパンチラインだなと。

ーちょっとびっくりしちゃいますよね(笑)。

オカモトショウ:今までそういうパワーを持った言葉をあまり使ってきてないと思うんですよね。もう少しどこか考えさせるものだったり、もちろん『光』とかそういう類のものもありますが、言葉の威力がこんなにあるのは初めてじゃないかなと。少し(椎名)林檎さんっぽいです。

ー前回のアルバムと比べて、その違いみたいなのってどう思いますか?

オカモトショウ:前回はとにかくそういう意味でも暗さが際立っていて、それこそジャケもモノクロでしたし、それまでの自分の身辺整理の様な印象が少ししたというか。“あの時私はこうだったよね~”“あの時私はこういう風に思ってたよね”ということが歌われているようなイメージがありましたが、今回「新しく溢れでているの今、私」という、生命力がブワッと花咲いている感じを受けました。しかもそれを「死ぬまで私このままいくわ」と突っ走っていく印象があったり。何でしょうね、女性のパワーって。恋した時の女性のパワーは本当にすごい。変な話、通して聴くのが少し疲れるくらい、エネルギーを当てられるというか。もう、パクチー本当にありがとう、みたいな(笑)そういう意味ではもう本当に俺の勝手な想像ですが、お子さんがだんだん大きくなっていく中で、お子さんとの間で歌っていて思いついたメロディーなのかなと思ったり。昔から『ぼくはくま』にはじまり、ちょこちょこそういった面を出している宇多田さんでしたが、今回もきちんと、そういう楽曲があってよかった。

ーそうですよね、あそこでもう一回いけるってなりますし。

オカモトショウ:なりますね。でも今までも、今まで以上にそういう“みんなのうた”的なテンションのものよりも、“アレンジがすごく泣ける曲”の様なアレンジになっていて、その曲のシリーズとしてまた進化しているなという感じがしてよかった。

ーその文脈、という感じですね。

オカモトショウ:そうです。その枠の中の最新系というか。決して毎回同じことをやってるわけじゃないよっていう。よかったです。

ーオカモトさんも歌詞とか書くし、曲も作ったりするじゃないですか。作り手として宇多田ヒカルさんの手法とか、歌詞でも曲でもいいのですが、何か感じるところってありますか?

オカモトショウ:宇多田さんは、偉大なプロデューサー、ミュージシャン、アレンジャー達に曲をカラフルにしてもらう作業をしてると思うんです。このクレジットを見る限り、毎回様々な人と一緒にレコーディングスタジオで作業をしているんだろうなって。色々なタイプの人とやっている中で、最初から一貫して宇多田ヒカルは、宇多田ヒカルという部分があって、そこのブレのなさはやっぱりすごいなと改めて思います。
歌とメロディーの伴奏であるキーボードや、ギター、ピアノなど、そのピアノと歌がまず入ってる時点で、宇多田ヒカルになるんです。その印象は今回ももちろんありましたし、なんならファーストアルバムが一番その感じが薄かったなと。その宇多田ヒカル感は、自分でプロデュースなどをしはじめてからより濃くなっていった気がしていて。どんなジャンルのビートだろうが、楽器が入っても崩れないというか、“何っぽいよね~”ということがあまりない、その強靭さがすごい。逆に~っぽいものを作ろうと思えば、作れる人なのかという疑問が出てきました。もはや、そう思って作っても宇多田ヒカルになってしまうのではないかと。誰のカバーバンドもできない人というか。

ー確かに。このCDをジャンル分けするとしたら、どこに入れていいかわからないですよね。

オカモトショウ:宇多田ヒカルのCDの隣に置くしかない(笑)。他に置くところがないです。あとこれはレコーディングの人だからということもあるかもしれない。ライブでどうみえるかということよりも、スタジオだからこそ起こりうるミラクルを封じ込めている感じというか、スタジオミュージシャン達とのセッションだったり、なんか“スタジオワークの鬼”というか、なんていうんでしょうね。それが宇多田ヒカル感というものに繋がるのかもしれないですね。録れている音の具合だったり、徹底しているところも、適当だろうなというところも含め、その具合がとても心地いい。だからモノに落とし込まれた時に、具合の良さというか、面白いなと思っています。いやーでも超好きでした(笑)。

夢眠ねむ

ーご自身と宇多田ヒカルさんに関するエピソードはなにかありますか?

夢眠ねむ:誕生日か父の日かに父に宇多田さんのアルバムをプレゼントしたのが、1番の思い出ですね。

ープレゼントに。

夢眠ねむ:あげたんです。お父さんがいつも車でCD聴くからそれ用にあげたんですけど、もうすでにアルバムを持ってたっぽくて、家用と車用に分けて聴いていた気がします(笑)。

ーなるほど、じゃあ家の中でもけっこう流れる感じでしたか?

夢眠ねむ:家でも流れていましたし、お父さんに車でどこか連れて行ってもらうときは、いつも宇多田さんが流れてました。

ーなるほど。そして今…。

夢眠ねむ:そして、今!

ー宇多田さんの好きなポイントあげるとしたらどんなところですか?

夢眠ねむ:好きなポイント・・・でも小さい頃に聴いてたときは、なんか声が、なんだろうたぶん最初に聴いたのが『Automatic』だったから、すごくドキドキした記憶があってちょっとスモーキーな影ある感じみたいな声が印象的ですね。

ーやっぱ声なんですね。

夢眠ねむ:声ですね。聴いたことない声してますし。

ーたしかに、今回のアルバムでも声はやはりすごいですよね。

夢眠ねむ:あ、作詞・作曲ですよね?

ー作詞・作曲とプロデュースですね。

夢眠ねむ:いやー、それでみんなひっくり返ったんですよね。だって、すっごい若かったのに、作詞・作曲をしてて。それがすごくびっくりしたんだよな・・・。

ーデビュー当時本当に若かったですしね、宇多田さん。

夢眠ねむ:そう、若くて、作詞できて作曲できて・・・アイドルって曲いただいてばっかりなんで、自分で作れて、自分でそのまま表現できるってすごいなあって思うんですよね。

前野健太

ー宇多田ヒカルさんと前野さんのエピソードが何かあれば、お願いします。

前野健太:いや、ないです(笑)。恐れ多いです。尾崎豊さんの『I LOVE YOU』をカバーされてましたよね宇多田ヒカルさん。尾崎豊さん大好き・・・共通点ですかね・・・。

ーありがとうございます(笑)。宇多田ヒカルさんの好きな曲とかってあります?

前野健太:いや・・・歌が最高ですよね。

ー声が、ということですか?

前野健太:なんか揺れっていうか。声もそうですけど、歌の強いハリとか揺れとか。そういうのが圧倒的にすごい。

ーでは、アルバム聴いてもらって、率直にどんな感想ですか?

前野健太:いやちょっと考えたい・・・いや、あのすぐどうのこうのっていえる感じじゃないですよね。あの、咀嚼するというか、なんだったんだろうっていうのをちょっと考えたいというか、そういう感じですね、今。すごい鳥が、最高の鳥だなってなんかこう…。鳴き声というか、もう圧倒的な鳥。三曲目とかもう最後、とんでもない花束って感じがすごいしました。一曲一曲、一個一個あるんですけど…。

ーじゃあ、あんまりこういう分け方したくなかったら申し訳ないですが、特に印象に残っている曲などは?

前野健太:好みというか好きなのは『パクチーの唄』ですかね。日常の言葉というか、ずっと聴けて。最初から日常の日々の言葉が輝き出す音楽というか。一曲目からさらっと肯定していく感じで入っていって、日常のことをずっと歌ってるじゃないですか。そんで『パクチーの唄』にきた時にその日常を祝福する感じが、マックスにフワッと花開くというか。雨の日、緑、パクチー。なんかこのパクチーからその次の『残り香』、これがすごい好きですね。この並びが好き。他の曲でもこの匂いってところにすごいぐっとくる。『あなた』の「肌の匂いがかわってしまうよ」っていうフレーズ。そこになんかとてもぐっときてて、この『残り香』で匂いっていうのがまたぐっときて、「肩を探す」っていうフレーズのラブソング、そんなのありました?

ーいまだかつて?(笑)

前野健太:背中をなんかどうとかっていうのは聞いたことあるけど、なんかあなたの肩を探すっていうので、これはやっぱ男の人には書けないっていうか、このフレーズ。もうこの曲すごい大好き。「知らない街の 小さな夜が終わる頃 夢を見てた」昔のワンシーンをなんかこう、ポッと照らす感じ。これ一番好きかもしれないです。『パクチーの唄』とこの二つがなんか僕はすごく、あ、こういうのあったなって、「知らない街の小さな夜が終わる頃」このフレーズでおっきな漠然とした夢というか、すごく大きなまだわからない可能性みたいな、良い予感っていうのを思い出しましたね。「ほろ酔いのあなたと 夢を見てた I miss you」なんですよね。で「肩を探す」。

ーやはりそこですか(笑)。

前野健太:まだまだここなんですけど(笑)。

ーさっき“男には書けない”とおっしゃってましたね。

前野健太:最初は、二曲目の『あなた』を聞いてた時は、なんかすごく男っぽいなって思ったんです。今日、『First Love』を最初に聴いてて、歌詞読んでて、やっぱりこれ女の人の感情っていうか、あ~こういうのは絶対わからないとか。でもこの『あなた』を聞いたら、急に男っぽいっていうか、「この胸を頼りにしてる人がいる くよくよなんてしてる場合じゃない」まぁ、どっちとも取れるんですけど、男の感情も女の感情も。でもなんか、男の人が聴いて、勇気をもらうっていうか、あ、女の人ってこうだなとかじゃなくて、毎日働いている男の人たちにもぐっときちゃう歌詞といいますか。あれって思って。宇多田さんってこんな感じだったけなと。すごい不思議だったんだけど、やっぱり最後のほうにくると、やっぱり女の人には絶対わからない感じだったんですよね。それは女の人とかがどうというか、男女というか、強い花っていうのを感じましたね。

ー歌詞について聞きたいのですが、「肩を探す」以外で気になったり、メモしたりした部分はありますか?

前野健太:一曲目の「好きだって言わせてくれよ」とかこういうのも最高ですけど、『初恋』はやっぱすごいですね。『初恋』っていうその言葉が、I need youになるっていうのがちょっとすごくないですか。I love youとかI want youじゃなくて、I need youになるっていうのが。初恋からもうI need youになるって感じが、なんかすごかった。でも、そうなんだなって思って。自分の中でそういうこととしてきてなかったけど、実際はI need youになるんですよね。英語の微妙なニュアンスはわかんないですけど、I love youとかI want youじゃないですよね。そこに唸りましたね。でも、そのほうが、英語全然知らないけど、I want you、I love youって言われるよりも、I need youって言われるほうが、なるほどガッテンって、なりません? そう思うと、なぜ出会ったとか、どうしてあの恋があったのかとか、どうしてあの人と出会ったのかっていうのが、I need youのほうがロマンチックですよ。I want you、I love youよりも。

ー個人的なイメージなのですが、いろいろ経た感じの人かと思って。歌詞が意外とみずみずしいじゃないですけど、こんな感情に今なるっていうのがすごいと思って。そこから宇多田ヒカルさんってどんな感じとかって見えてきたりしました? どういうテンションで書いてるかとか。

前野健太:いや、むしろどういう状態で歌詞を書かれているのか、むちゃくちゃ気になりますよね。喫茶店とかじゃないでしょ、たぶん。いや、喫茶店とかなのかな・・・。

ーいや、違うのでは(笑)。

前野健太:違うでしょ? どう書くんだろう・・・。どういう状態で歌詞を書かれているのか非常に気になりますね。あと、歌詞が先なのか、トラックというか、曲が先なのかとか。

ー『パクチーの唄』とかって、仮であてたりしたやつなのかなって思ったりしたんですよね。これ後から歌詞あてられます?

前野健太:いや。パクチーは深いですよこれ。パクチーがお好きなんだと思う。

ーあ、ご本人が?

前野健太:どうしよう全然好きじゃなかったら。むしろ好きじゃなくてこの曲を書いてたら、すごいですね。でも、僕「パクチーパクパク」っていうところももちろん好きですけども、なんか全体的に風景が全然ないなって聴きながらずっと思ってて。感情の部分がやっぱりすごい色々書かれてて、風景が全然でてこないって思ったら急にこの「夏の庭でリサイタル始まる」とか「今日はお日様の誕生日かも/カレーを作っておめでとう」、「緑色 嘘が下手で優しいの/どんより雨の日だって必要」って急に風景と色がふわっとでてきて、だからたぶんここで俺の知ってる日常が急にフワッと表われてきて、宇多田ヒカルさんが日常に対して想ってる感情っていうか、そういうのが女心っていうか風景にふっとでてきて、ここですっと入ってきたんですよ。『パクチーの唄』が、宇多田ヒカルさんの日常との距離感、僕はこれが一番感じたんですよ。これ聴きながら、散歩したいですね。これ聴きながら、街を歩いたり、自転車乗ったりしたら、とても幸せ。でも、なんか日常を肯定する感じというか、最後ね。

ー最後すごいですよね。最初聴いた時ビックリしました。

前野健太:なんか濃いじゃないですか歌詞が。すごく濃いんだけども、僕が最高の鳥だなとか強い花だなとか思うのは、やっぱり音像っていうか、言葉と音色っていうのがなんか…。なんか感情の部分があって、こういう温度感なのかとか、そういうのを音楽から感じられたかな。だから、ただ濃い、ただ強いっていうんじゃなくて、その宇多田ヒカルさんにしかない感情の部分というのは、やっぱり音楽じゃないと説明できないのかなって。この曲が言葉よりもすごい感情の部分が伝わってきた。

ー音も含めてってことですよね。

前野健太:はい。むしろ音楽のほうに感情をすごく感じたというか。歌詞よりも、言葉よりもなんか新しい感情を感じた。温度感が独特のラインでいくじゃないですか。湿度って感じかな。それがもう一回聞きたくなりましたね。最後の曲を。

ー濃い質問になるんですけど、前野さんも曲を作られるじゃないですか? 自分と比べてという部分は…。

前野健太:ずば抜けた鳥ですよね。圧倒的な鳥の鳴き声というか。俺はスズメみたいな(笑)。スズメって21年くらい生きるらしいんですよ。(本人注:後日調べたらスズメの寿命は約一年半でした(笑))ツバメが1年半くらいで。まぁ外敵が多い。最近うちのマンションの駐車場に、ツバメが巣を作ってて、管理人さんが「ツバメの一生は1年半、スズメは21年」って。(本人注:後日調べたらスズメの寿命は約一年半でした(笑))スズメはずいぶん長生きするなあと思って。俺はスズメですね。宇多田ヒカルさんはちょっともうずば抜けた鳥。
まあ比較って難しいですよね。難しいっていうか、歌詞にもでてくるけど「人の期待に応えるだけの 生き方はもうやめる」って宇多田さんはやっぱりすごい期待されてて、もうスーパースターじゃないですか。俺誰からも頼まれてないのに、毎日歌書いてる人間なんで。大きな違いはやっぱりね、そういう部分かな。まあほとんど違うと思いますけど。

ー曲のこともう少し聞いてもいいですか。

前野健太:俺、四曲目もすごい好きだったな。『誓い』。あれ、すごい新しいリズムっていうか、日本語の乗せ方がなんか、日本語が拡張されるっていうか、なんか今までに日本語たちがしなかった動きっていうか。日本語の響き?日本語が喜んでるよ、あんな風に動きをされて。びしっとハマって、めちゃくちゃかっこよかったです。

ーあんな譜割も聞いたことないですよね。

前野健太:聞いたことない。でも、全く思い出せない。やっぱりパクチーが残っちゃう。

ーでもそういうアルバムですよね。渾然一体となってるところにパクチーがくるっていう。

前野健太:これたぶん、パクチー会社からすごい送られてくるでしょ。

ーそれは送られてこないです(笑)。

前野健太:送られてこないか~。たぶんそれくらい強いですよ、この曲は。緑色がずっとなんかこう見えるっていうか。

ーなるほど。

前野健太:聞かしていただいてありがとうございました。いや~濃いですね。これヘビー級ですよ。

佐藤千亜妃

ーご自身と宇多田ヒカルさんについてのエピソードって何かありますか?

佐藤千亜妃:元々は、小学5年生くらいの頃かな、『First Love』が出て。兄がそれを買って部屋でよく聴いてたのを、一緒に聴いててそこで衝撃を受けた。それまでに、あまり聴いたことのない音楽だったので、『Automatic』みたいなすごいR&Bっぽい、ソウルっぽい、ブラックミュージックから影響を受けた音楽みたいなのに触れたのがその時が初めてで、そこからハマっていって大ファンになって、その後ずっとアルバムが出るたびに兄に借りたり、小学生や中学生の頃なんてお金があまりなかったので、兄弟や友人に借りたりして、ずっとそれを聴いてましたね。はい、大ファンです。

ー普通にファンということで…(笑)

佐藤千亜妃:はい! ただのファンです(笑)。お会いしたことももちろんないので、復活したタイミングとかもすごく嬉しかったですね。

ーさて、アルバムを聴いてみて、どうでしたか?

佐藤千亜妃:いやーすごいですね。やばいですね。正直、今までに宇多田さんが出したアルバム史上、一番個人的に好きな宇多田ヒカルの曲が詰まっているというか、宇多田ヒカルに対して、自分がいいと思ってるポイントっていうか、曲の雰囲気だったりっていうのが、今までで一番その割合が強いというか。

ーあ、本当ですか。

佐藤千亜妃:自分の思う宇多田ヒカル節が炸裂しまくってて、全曲聴き逃せない感じで、すごい没頭して聴いちゃいました。ちょっと興奮気味なんですけど(笑)

ーなるほど。その中で、特に印象に残ってる曲とかってありますか?

佐藤千亜妃:そうなんですよ!1、2曲目は、あ~結構新しい感じかなって思いながら聴いてたんですけど、3、4、5、6くらいまでがちょっと怒涛で、まぁでも個人的に3、4、5、6あたりの中盤の濃い部分の塊の中でいうと、1番『Forevermore』が特によくて、っていうのは、全編通して、トラックが前作よりもより曲に馴染んでるというか、無理がないアレンジだなっていうふうに思って、プロデュースを今回主にされている方だと思うんですけど…っていうのもあるし、あと、歌詞がすごいですね、今回。特にこの『Forevermore』の歌詞の中で「一人きりが似合う私を 今日も会えず泣かせるのは あなただけよ」っていう歌詞が、今この歌詞書けるんだって思って、ご結婚されたりとか、休んでた期間とかもあったじゃないですか。で、それを経て、一周回って、ある種むき出しっぽい感じの恋心的なものを書けるのって、純粋にすごいなって思いました。

ー確かに、なんか今の言葉で言うと「経た」って感じはしますよね。

佐藤千亜妃:うーん。

ータイトルも、『初恋』ということで。

佐藤千亜妃:これ、『First Love』の和訳なわけじゃないですか。ご本人的には意味あるのか、ないのか聞いてみたいんですよね。

ーファンとして、ですかね。

佐藤千亜妃:ある種、もう一回生まれ直すみたいな、まっさらな気持ちで作ったのか、なんなのかちょっと聞いてみたいです。いや、でも本当に中盤が特に炸裂しすぎてて、もちろん後半のこのフラットな感じの曲も全部良かったですけど、『パクチーの唄』とかも(笑)。歌詞のわりにだいぶ凝ってるなとは思いました。あとちょっとリズム崩してるっぽい曲とかもあって、面白かったですね。

ーありましたね。

佐藤千亜妃:『誓い』ですよね。楽譜知らないけど、これはそういうリズムが途中で入れるようにわざと序盤ちょっと切って崩してあったりとか、他はすごいMIX的にも意欲的な感じがして面白かったですし、とにかくちょっとやばいですね、すごすぎて。

ー多分いろいろなものを取り入れてると思いますが、そんなそういった感じはしなかったり。

佐藤千亜妃:そうなんですよ。リズムとかは、面白いことをやってたりすると思うんですけど、根底に宇多田ヒカルといえば!みたいな、聴きなれてきたストリングスっぽい感じのシンセの音だったりっていうのが、割と全面に出てきてて、歌のコーラスとかも一瞬出てきてるんで、今までの休止前の宇多田さんの感じなんかもあったりして、腑に落ちたというか、なんでもかんでも手を出して、とっちらかってるわけじゃなくて、全部吸収して、自分のものとして出してくれてる感じがして、安心して聴けるのと同時に、興奮するみたいなのがあったりして、個人的には一番すごいアルバムなんじゃないかなと思いました。

ーご自身でも作詞をされていますが、宇多田ヒカルさんの歌詞ってやっぱり特徴的ですか?

佐藤千亜妃:自分がその小学校・中学校の時に聴いてた感覚だと、もちろん『First Love』みたいな恋愛っぽい歌詞も良いんですけど、そうじゃなくて、自分の人生を俯瞰で見てる感じの歌詞が多いなって当時感じていて、例えば、『First Love』中の『In My Room』の詞とか、「フェイクファーを身にまとって どうして本当の愛探してるの?」「ウソもホントウも口を閉じれば同じ」「夢も現実も目を閉じれば同じ」みたいな歌詞が出てきて、なんかすごくシニカルな目線もあるんだなって思って。女性で曲書く人では珍しいなと当時感じていました。ちょっとネガティブな要素とかもあるじゃないですか、そこがやっぱり違うなと。なんか悲しげ、物憂げな歌詞がとても似合うというか。声とか歌い方も合うし、自分が普段感じているんだろうけど、自分で言語化できなかった言葉を、歌詞の中で当てられちゃうみたいな感じだったり。聴きながら歌詞読むと、あ、これ!ってなんか自分の中の感情を詞にしてくれたんじゃないかっていうくらいなんか、ピンってリンクする瞬間があって、そういうところがすごいなって思いますね。

ー歌割りだったりとか、サビへの持っていき方だったりとかって、結構渾然一体となってましたよね。これがサビみたいなこと?っていう曲が多かったですよね。

佐藤千亜妃:個人的なイメージだと、本当は趣味丸出しで作るとそうなるんだろうなっていう感じはしましたね。彼女らしい。わかんないですけど。こうサビっぽくバンってして!って言われなきゃこの感じが好きで、ループする感じ。っていうのが今の気分なのか、私もそういうの大好きなんで、ある種洋楽的なのかもしれないですね。ずっと、ミニマルにメロディーにアップしていくみたいな感じっていうのは、でも、すごく日本的だとも思います。歌詞とか。

ー声が楽器として成立しているというか、歌割りもなんか一個の音符に対して一文字を当てるんじゃなくて、なんかもうすごいじゃないですか。一文字に対してメロディーが4つあるみたいな。歌詞上はすごいシンプルなんだけど、聴いたらこういうことなんだみたいな。

佐藤千亜妃:そうですね。譜割が結構複雑だったりしますもんね。それって多分、先に鍵盤とか楽器で入れちゃって、後から歌詞を乗せるって聞いたことがあって、やっぱりメロディーに忠実に詞を入れたりするとそうなるのかもしれない。曲先行だからそういう感じに、、まぁそれを歌いこなせるのがすごいですけどね。

ー自分で音楽を作られる佐藤さんと比べてって言い方もなんか変ですが、思うことってありますか? 作り方だったりとか、曲のことに関して。

佐藤千亜妃:たとえば、似た感じで作ろうと思って作ることはできると思うんです。宇多田さんっぽい感じをマネして。でも、絶対敵わないんだなって思いますね、このアルバム聴いて。もうこれたぶん不可能だなって思います。不可能の域にきてるなみたいな(笑)。十分、昔から才能が爆発してるんですけど、ここにきてまたその才能がさらに開花するってどういうことって思いますね。普通、開いたら人ってもうそのまま平行線でいいと思うし、そういう感じでいいと思うんですけど、こう上がって、ちょっとまた休んで、また上がってるっていうのは、すごいとしか言いようがないから、逆にもう誰もマネしないほうがいいと思います。できないので。

ー不可能に達したアルバム(笑)。

佐藤千亜妃:もう不可能(笑)。これはとても強かったです。ハデなことはやってないのに、というのも余計にすごいと思います。良い曲と良い詞ばっかりだし、やっぱり個人的にはヴォーカルのディレクションがとても良かったと思いました。

ーコーラスも特徴的でしたね。あれ、これ宇多田さんの声なの?って思う部分もあったり。

佐藤千亜妃:逆再生っぽいのも入ってたりしましたよね。これは今スピーカーで聴いたからかもしれないですけど、ダブルとかは多いけど、ハモリみたいなのが意外と入ってないよなって。セカンド、サードくらいとかってけっこう上下重ねているイメージだったけど、でもこれ聴いてみないとわかんないですけど。だからヘッドフォンで聴くのが楽しいんですよ。いやこれ勉強になりますよ。めちゃくちゃ聴いて研究してたんで、また研究できますね。

ー研究材料できましたね(笑)。

佐藤千亜妃:研究させていただきます(笑)。

いかがだっただろうか。サウンド、声、歌詞、そして広がる景色などまで、アーティストらしい視座で、それぞれが『初恋』というアルバムを、そして今の宇多田ヒカルという存在そのものを語った。個人的にも、今すぐ『初恋』を聴き直したい、と思うほどだった。彼ら4人の“ウタダ愛”に当てられてしまったのかもしれない。

今回のスペースシャワーTVの特別番組「Spaceshower CrossTalk 宇多田ヒカル 『初恋』」は、8月23日(木)22時半からリピート放送される。きっと、『初恋』を聴きたくなるだろう。気になる方はぜひチェックしてみてはいかがだろうか。

INFORMATION

Spaceshower CrossTalk 宇多田ヒカル 『初恋』

スペースシャワーTV
リピート放送:2018年8月23日(木)22:30〜
出演:オカモトショウ/前野健太/夢眠ねむ/佐藤千亜妃
Official Info