Korea’s New Generation -韓国新世代アーティストの肖像-

韓国の音楽シーンが面白いというのは、すでに多く広まっている事実だろう。欧米のトレンドを飲み込みつつ、独自のサウンドを作り出し、今や確固とした世界的なトレンドまで成長したK-Pop。Keith Apeの”It G Ma”以降、大きな注目を集めることになったヒップホップシーンからは、ついにJay ParkがJAY-ZのレーベルRoc Nationとの契約を結んだというニュースも飛び込んできた。

いわゆるK-Popブーム以降も着実に世界的な広がりを見せている韓国の音楽シーン。今回EYESCREAMでは、次の韓国シーンを担う注目アーティストたちに、ソウルでの取材を敢行。知られざるアーティスト像に迫っていく。

Korea’s New Generation

1 Sik-K : メロウでセクシーな次世代ラッパー

Sik-Kは次の韓国のシーンを担うアーティストになる可能性を感じさせるスケールの大きいアーティストだ。それはヒップホップシーンだけの成功を意味しない、彼はよりポップなフィールドでも十二分に活躍できる魅力を兼ね備えている。

彼は2013年に1人で作ったミックステープでデビューし、大人気トラックメイカーデュオGroovyRoomもメンバーのクルーYelows Mobを立ち上げている。「カナダのバンクーバーに住んでいたときに、インターネット上で始まった」クルーを軸に活動してきたSik-Kだが、昨年リリースのセクシーでメロウな”Rendezvous”などで注目され、そして2017年により大きなステップアップをしつつある。

Sik-K (식케이) – 랑데뷰 (Rendezvous) MV

今年韓国のアーバンミュージックシーンの第一人者Jay Parkが新たに設立したレーベル『H1GHR MUSIC』に第一号アーティストとしてサイン。初めてのリリースとなったEP『H.A.L.F (Have.A.Little.Fun)』でそのポテンシャルを遺憾なく発揮している。EPと言いながら11曲を収録している同作にはボスのJay Parkや、Crushをフィーチャーした耽美でメロウな”party (SHUT DOWN)”、さらに大物アーティストSimon Dominic とThe Quiettを迎えた”아주 조금”などが収録されている。『H.A.L.F (Have.A.Little.Fun)』というタイトルについては、「仕事がすごい忙しいから少しは楽しくやってみようという意味もあるし、人生の半分しか来てないという意味」だと明かしてくれた。

ミュージックビデオも公開されている、収録曲”party (SHUT DOWN)”についてSik-Kは「ある程度作られたところにCrushがいいかなと思って連絡したんです」と話してくれた。パーティーについては「パーティーはそんなに好きじゃないよ、お酒もあんまり飲めないし」という彼の曲作りの、アイディアは意外なところから生まれてくるという。

식케이 Sik-K – party(SHUT DOWN)(feat. 크러쉬(Crush)) Official Music Video

「(曲のアイディアは)アートとかっていうよりは、美味しいものを食べたりするほうが曲になるんです。美味しいものを食べないと、1日の気分があがらないんです。前の日に、明日は何を食べようかって考えるんです。寿司を食べようと思って、食べられなかったりすると、すごい気持ちが落ちちゃうんです」と食が大事な要素になっているという。去年は東京にも美味しいご飯を食べにくるために2回もきているという。その時は焼肉に行って、韓国にはない美味しい牛タンを堪能したという。

Sik-Kといえばメロウなボーカルともラップともとれないスタイルも特徴だが、そのルーツは幼少の頃から聴いていたR&Bにある。フェイバリットなアーティストとしてMusiq SouldchildとかMaxwell、 D’Angeloとか最近だとdvsn、あとはJay Parkだね」をあげてくれた。ただSik-Kの携えているメロウなムードは、その音楽的なルーツだけが理由ではないようだ。「というよりも自分のいま生きている感じが、メロウな感じがするんです。すごいポジティブで、いまは不満なこともまったくないですね」というほど、現在の環境は音楽に集中できているのだ。自身で作ったクルーYelows Mobの時から、満足できた環境にいたという彼だが、よりよい環境に引っ張り上げてくれたJay Parkについては「例えば僕がキリスト教の信者だったらイエスで、仏教徒だったらブッダみたいな存在。それくらいの存在ですね」と最大限のリスペクトをこめる。

「20歳の頃はラッパーだと思ってたよ。いまはもっといろんなことができる人になりたいですね」と現在自身に大きなポテンシャルを感じているSik-Kは最後にこう話してくれた。「この年代といえば自分の名前が出てくるようなアーティストになりたいですね。トレンドの音だからといっても、あとで聴いてもダサくないようなアーティストに。そういう洗練されたアーティストになりたいですね」

photography_Tammy Volpe text_Tetsuro Wada translation Risa Sahira

Korea’s New Generation

2 DPR Live : スケールの大きい世界観で魅せる新鋭

DPR Liveの名前を初めて知ったのは、昨年4月にリリースされた楽曲”Eung Freestyle”に、前に登場しているSik-KやPunchnello、Owen Ovadozといった注目の新鋭たちがフィーチャーされていたからだ。DPRとは、Dream Perfect Regimeの略称で、クリエイター集団の名前。その中のラッパーとして所属しているのがLiveだという。その後もリリースされる楽曲はDPRクルーが制作したビデオも含め、ハイクオリティーなものが多く、DPRという実態がみえないミステリアスな集団をふくめこの新人アーティストの魅力に惹かれるようになった。

まず初めにLiveはDPRというクルーについて話してくれた。「音楽、ビジネス、マネージメント、映像とか全てにおいて担当者がいますね。1人、1人ができることを合わせて、DPRとして人々に見せていきたいんです。すごいトータルなことができるクルーで、もちろん各分野の担当者がそれぞれの領域のものを作るんですが、1つずつのプロジェクトもクルー全体で話し合って決めるし、音楽の部分は、自分が曲を作るけど、クルーのなかでアイディアを出し合って決めていくんです」という。他のメンバーについても「最終的には全員が知られるようなプロジェクトになればいいと思っていますね。いまは自分だけが知られている状態ですが、そのうち全員が知られるようになるだろうし、自分だけが目立とうとしているわけではないんです。すごい珍しい形態なのは間違いないと思いますね」と、今後は自分以外のメンバーも世の中に登場すると自身たっぷりに話す。

EUNG FREESTYLE (응프리스타일) – LIVE, SIK-K, PUNCHNELLO, OWEN OVADOZ, FLOWSIK

そんなDPRクルーは楽曲の制作もクルー全体で行う。映画『天空の城ラピュタ』からインスパイアされた楽曲”Laputa”について「プロデューサーのDPR Creamさんが”Laputa”って言葉を出してくれて、それが耳に残っていいじゃんってなったんです。昔好きだった女性が、ミステリアスなお城とマッチしてたんだ。いつも捕まえられなくて、ずっと離れていってしまうから」とLiveは制作過程を明かしてくれた。

では楽曲はどんなものからインスパイアされているのだろうか?「自分の生活。好きなこととか、周りの友達とか、家族、あとは夢ですね。最初のアルバムのタイトルが『Coming To Live』だから自分に正直にやりたくて。音楽的な部分としては、いろんなアーティストを聴いて、様々なスタイルからインスパイアされますね。EDMも聴くし、ヒップホップも聴くし。最近はCalvin Harrisや、Frank Oceanとかかな。本当に好きなアーティストは多いんですよ」という。

DPR LIVE – Cheese & Wine (OFFICIAL M/V)

1stアルバム『Coming To You Live』に参加している豪華なゲストのアーティストも好きであり尊敬できるアーティストばかりだという。「特にJay ParkとLoco、DEAN、Crushはミュージシャンとしてとてもリスペクトしている人たちだね。Dumbfoundeadは自分が小さいときから活躍していて、どれだけすごい人かも知っていたし」という。「音楽的な部分の前に、人としてかっこいいからこそ、アーティストとしてもかっこいいのだと思いますね。歌詞を読んで信念がちゃんと見える人に影響を受けましたね。言葉よりも行動が大事ですね」と理想のアーティスト像についても触れてくれた。

「Jay Parkはまさにそういう人間で、次はこうしますとか言うよりは、ちゃんと行動で示したいんです」と韓国のシーンを引っ張る先輩アーティストについてはこう述べた。逆にビッグマウスのラッパーはどうですか?と聴くと、「そういうのはすごい嫌ですね」と笑いながら答えてくれたDPR Live。彼が誠実に進んでいく限り、その道は間違いなく明るいだろう。

photography_Tammy Volpe text_Tetsuro Wada translation Risa Sahira

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3 Qim Isle : ファンクの火種を守る探求者

Qim Isleは自身のやりたいことを、しっかりと貫くアーティストだ。それはSamuel Seoとの新しいコラボユニットであるProject Elbowにも、しっかりと反映されている。彼の中にはファンクネス、PrinceやGeorge Clintonから影響を受け、さらに本人曰く「ミュータントに」アップデートしたグルーヴが息づいている。

1988年生まれのIsleにとって、しかしPrinceやGeorge Clintonはリアルタイムに聴けるアーティストとは言い難い。「僕の父がブラックミュージックが好きで、特にJames Brownとかを。”Sex Machine”で「Get on up」って言っているのがBooty Collinsで、それをさらに辿るとGeorge Clintonに行き着いて、子供の頃からファンクばかり聴いていたんです」という。そこからIsleはPrinceに行き着き、テープ、レコード、CDでほぼ全てのアルバムをコレクトする大ファンになった。

서사무엘 (Samuel Seo), 김아일 (Qim Isle) – Mango MV

同世代で、そこまでPrinceをコンプリートする人はいなかったと話すIsleに、同世代の韓国で影響を受けたアーティストはいるかと尋ねると、「うーん..」という反応。そして返ってきた答えは意外なものだった。「あ、日本にはいます。KOHH。トラップのトラックだと、同じ感じのフロウになってしまうんですが、KOHHはちゃんと本人だけの発音のスタイルがあるから。音楽がグローバル化して、みんな似たような音楽をしてるじゃないですか。その中でも本当になんか自分だけのものを持ってる気がします。そういう人たちはみんな好きです」と。やはりオリジナリティーを、とても大事にしている。他にも日本の音楽について聞いてみると子供のときは、日本の音楽番組を違法ダウンロードして、SMAPなどを観ていたというが、決して「ジャニーズファンではなく、ファンキーな曲があるから観ていた」と念を押してくれた。

韓国で好きなアーティストとしてはMISOやDEANをあげてくれたIsle。さらに自身のテイストに近いアーティストとしてはViniciusやXin Sehaの名前も。これから自身がどんなアーティストになっていきたいかという問いには、「ファンクの火種を殺さず、残していけるアーティストになりたいです」と力強く答えてくれた。ただファンキーであればいいのかというと、それも違う様子で、自分で作りたいものは「ちょっとひねくれた感じ、アバンギャルドなファンク」だという。

今後のリリースプランについても、ただ音楽だけをリリースするのではなく、展示などイベントという形でやっていきたいと話すIsle。その優しくも、強い意志を感じさせる視線には迷いはないようだった。

photography_Tammy Volpe text_Tetsuro Wada translation Risa Sahira

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4 DEAN : 高みを目指し続ける韓国R&Bシーンの王子

DEANは勢いにのる韓国の音楽シーンの中でも、異例の待遇を受けているシンガー・プロデューサーだ。彼は2015年にまずは本国ではなく、アメリカでデビュー。楽曲の緻密な構成とメロウなサウンドに、世界のリスナーを釘付けにさせた。その後本国でもデビューし、一気にトップアーティストの位置まで上り詰めた。しかし彼にとってはまだまだこれからという体で、DEANは話してくれた。

「2015年のデビュー以来、僕の名前も大きくなったと言われていますが、僕自身は満足はしていないです。もっと今より高いステージに上がっていきたいですし、もっといろんな人に会って音楽を吸収していきたいと思っています」。と筆者が高まるDEAN人気について、どう感じているか聞くと、サラッとこんな答えが帰ってきた。元々飽きっぽい性格でありつつも、音楽だけは自然に続けてこれたと話す彼の名前の由来は、若くして夭逝した伝説の俳優ジェームズ・ディーンだ。今も言及され続けるアメリカのポップ・アイコンの名前を名乗る彼は、音楽だけにフォーカスし続けるつもりもないようだ。

DEANは「ミュージックビデオだけじゃなくて、僕が着る服や髪型に至るまでに、アーティストとしての哲学が入るべきだと思っています」。と、自身はトータルなアーティストになりたいと話し、トータルな人物の例としてカニエ・ウェストの名前をあげる。「例えばカニエ・ウェストは彼の発信するファッションや音楽、考え方が大勢の人に広まって、カニエを真似しようとする人も多い。僕自身も誰かの目標になるような存在になっていきたい」。と話すDEANの眼差しは静かだが、燃えるような情熱的な光に満ちている。

そんな彼の2017年の動きといえば、驚かせたのが人気バンド、ジ・インターネットのボーカリストであるシドを迎えたシングル”Love”この曲はこれまでのDEANの楽曲ともまた違う軽やかなグルーヴが展開されている。彼は楽曲制作時には一緒に制作するアーティストによって制作方法を柔軟に変化させているという。「アーティストのイメージを持って作るのは、もちろんあると思うんだけど、HeizeとZicoの違いを言うとするならHeizeの場合は、僕がプロデューサーとしての立ち位置で曲を提供したので、僕がHeizeに服を着させるみたいな感じで考えていきました。Zicoとの曲に関しては彼のプロジェクトではなくて、僕の曲にコラボする形だったから、僕の曲にZicoがどういう風に参加したらいい曲になるかというのを考えて作ったんです。そこが違いますね」。と、その制作の秘密の一部を解き明かす。

DEAN – love ft. Syd

彗星のようにシーンに登場したDEANは今年待望のファーストアルバムをリリース予定だ。自然とアーティストになっていたというこの天才にとってはアルバムなどまだまだ通過点。果たして彼はどんなアーティストに上り詰めていくのだろうか。敬愛するカニエのようにオリジナルなアーティストとしての立ち位置を確立する日も近いのは間違いないだろう。

text_Tetsuro Wada

Korea’s New Generation

5 Heize : 誠実な言葉をのせるソウルの新ミューズ

韓国ヒップホップブームの火付け役であるサバイバル番組『SHOW ME THE MONEY』の、女性版ともいえる番組が『UNPRETTY RAP STAR 』だ。その2015年のシーズン2に出演したHeizeは、2ヶ月間という短い放送期間の中、キレのあるラップで多くの視聴者を唸らせた。Heizeはしかしラッパーという幅に止まることなく進化を続けている。

「両親の反対を押し切って、故郷の大邱から一人でソウルにやってきました。アルバイト生活をしながらの音楽活動をいつまでも続けるわけには行かず一度は諦めかけていたんですが…故郷に帰ろうとした寸前に、この番組出演のオファーがありました。こんな千載一遇のチャンスを見過ごすわけにはいきませんよね。『SHOW ME THE MONEY』のお陰で既にHIPHOPが大衆化されていた上に、この番組のように女性のラッパーを対決させてサバイバル番組自体も流行っていて。私にとっての全ての条件が揃った絶好のタイミングと有難い舞台があったお陰で一気にHeizeとして知られるようになりました。でもこのシーンに対しては率直に、HIPHOPが単なるトレンドの一つでしかないと感じています、昨年からDEANをはじめ、ユ・スンウ、EXO、そして今回のニューアルバムでは4Menのシン・ヨンジェなど、様々なアーティストとのコラボレーションを実現しましたが、コラボすることで自分にない感性に出会えるし、自分のスタイルも再認識できました。そんなことを繰り返しながらトレンドやジャンルに振り回されない、もっとHeizeの音楽として聴いてもらえるような活動をしていきたいんです」

헤이즈 (Heize) – 널 너무 모르고 (Don’t know you) MV

まっすぐにこう話す彼女が、今韓国のアーバンミュージックのシーンを牽引する人物のひとり、HEIZEだ。取材を敢行した6月、ニューアルバムのリリース直前ということで街中の至る所で彼女の広告を見かけた。『UNPRETTY RAP STAR 』に殴り込みをかけ、人気をかっさらって以来、状況が一変したというイット・ガールらしいその人気の高さを実感した。

何より取材中、時にあどけなく笑い、時に雲一点の迷いなくまっすぐ語ってくれた彼女の姿勢からは同性にも愛される、ミューズとなった所以も確かに感じられた。そんなドがつくほどに正直な彼女に自分のジャンルについて聞けば日本語で「自分Heizeというジャンルだ」と力強く答えてくれた。

GroovyRoom – ‘Sunday(feat.박재범,헤이즈)’ Music Visual

では、Heizeが考える自分のスタイルとは何なのか。「高校生の時から、曲に歌詞をつけることが習慣で、日記に書くようなことを私は曲にしていたんです。まさに私をラップに引き込んでくれた曲、Free Styleの『And After That』がすごくセンチメンタルで柔らかくて…強がる必要ないと気付けました。なのでそういう“日記”を書くからには“正直でいること”を最も大事にしています。悲しくても貧乏でもダサくても全て隠さずに歌に込めて本心を伝えたいんです。その姿を見て共感してほしいし慰めになれればなと…それが私の役割だとも思っています。有名になったとしてもその想いは絶対に変わりたくないし、立場が変わっても変わらずにいれると確信しています。何よりその時々の自分を正直に綴ることで、いつか振り返った時に今まで出してきたアルバムが積み重なって自叙伝みたいになりますよね。そうなれたらいいなと思います」

photo_Tammy Volpe text_Mami Chino

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6 Samuel Seo : ユースが抱えた内情を代弁してくれる青き預言者

トレンドに敏感な韓国のメインストリームの音楽シーンに対して本当の新しい音楽を問いただしている人がいる。Samuel Seoは歌はもちろん作詞・作曲・編曲をも自らスタイリッシュに手がけ、リスナーから熱い支持を集めている。

Samuel Seoというアーティストをご存知だろうか。2015年にデビューして間も無くファーストアルバム『FRAME WORKS』をリリースすると翌年、韓国のグラミーにあたる韓国大衆音楽賞のR&B/SOULアルバム賞を受賞。勢いそのままに発売したセカンドアルバム『Ego Expand(100%)』も、今年の同音楽賞にノミネートされるなどそのクリエイティビティにおいても筋金入りの実力を持ったニューカマーだ。

[M/V] Samuel seo(서사무엘) – 창문

彼自身が楽曲の全てを手がけているというが、そんなサムエルの音楽を一つのジャンルで説明するのは難しい。むしろ一言で“多様性”だ。例えば「Make Up Love」や「창문」、「BLUE」のように一曲一曲でも雰囲気は大きく変わり、ゴスペル、ピアノやシンセサウンド、そしてラップ…並べると想像もつかない様々な要素をさらっと織り交ぜ、斯くもスタイリッシュに仕上げてみせるのだ。また最近KOHHやSALUといった日本のHIPHOPを聴いているらしく「KOHHの思ったままを歌詞にするスタイルは、下手したらダサくも捉えられるけど吐き出し方が上手いからそうさせないし、SALUの曲は聴いているだけで気持ちいいんです」と言う。

そして自身の歌詞については「日常のほんの少しいびつに感じた部分を忘れずに日記にしています。それを端緒に曲にして、誰しもが経験し得ることを改めてリスナーと共感したいんです」。と言う。背伸びをしない自然体なスタンスで、ジャンルの垣根をなしにあらゆる可能性を信じるサムエルの指針がそこにはあった。実は日本語と英語が流暢なサムエル。「今、音楽をやっているのも目指してなった訳ではないんです。幼少期を日本で過ごして、韓国に戻った時に、韓国の競争社会に衝撃を受けました。どこでも競争というのはありますが、ひどく勉強を強いられて…弁護士を目指していましたが、弁護士しか職業が無いと思わされていたくらいの競争レベルだったんです。中学をカナダで過ごして、考えを整理し、あの韓国の中で生き残る為には…というのを突き詰めた結果、昔からピアノをやっていたのもあって音楽をやろうと決心しました」

서사무엘 (Samuel Seo) – B L U E Official M/V

「幼少期にいた日本が韓国の対照として記憶にあって、柔軟な自分になれたと思っています。なので、自分のことHIPHOPアーティストだとも自覚していません。ラップはもちろん好きだったから音楽に溶け込んではいるとは思うんですが。でもあくまで曲ができるまでの要素のひとつだと考えています。僕にとって何より大事なことは多様性をもたせること。ソウルの音楽シーンにおいてもっと尊重されるような場が増えて欲しいと願っています。トレンドに敏感だからこそ、全てがトレンドから作られてしまう空気にすらなってしまうから、実力のあるアーティストがもっとスポットライトを浴びれるようなシーンにしたいんです。僕ができることは、この音楽活動を通じて有名になり、この現状を変えること。その影となる部分にいる人に役立つ活動をしていきます」

photo_Tammy Volpe text_Mami Chino

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7 OOHYO : メジャー響いた、純真無垢な音楽

韓国で“神童”と称され、作詞・作曲・トラックメイク全ての楽曲を1人でクリエイトするシンセ・ポップ・ミュージシャンがOOHYOだ。デビューEP『Girls Sense』はティーンエイジャーの時に書き上げた歌詞と音源。それをレーベルにデモとして送ったのがきっかけでデビューを果たした。現在はロンドンに拠点を置き、様々なアーティストからコラボレーションを熱望されている彼女に話を聞くことができた。

「元々、自己表現が苦手だったんですけど、音楽は自分の想像力と心情を自分で織りまぜることで私が表現したいことや言いたいことを表に出せるようになりました。このような表現方法を手に入れられたお陰で、それにまずのめり込むことができたので最高の贈り物をいただいた気持ちになります。音楽は、元々兄の影響を存分に受けてました。兄がいた大学のバンドサークルの公演を観に行ったとき、初めてロックに出会ったんです。それから兄が好きだったオルタナティブ・ロックを聴いて、あれこれ開拓していきました。影響を受けたアーティストは、スウィッチフット、Relient K、ザ・ハッシュ・サウンド、あとグライムス。7歳からずっとピアノを続けていて、放課後になると何時間もピアノを弾きながら歌も歌ってたんです」

[MV] 우효(OOHYO) _ 청춘(Youth) (DAY)

「いつの間にか歌も作れるようになってました。大学に入学することにはミディを手に入れられたので、徐々に私の音楽スタイルが確立されて行ったという感じです。大学3年目の時、国際学を学んでいたのですが転勤族だった父が転勤前にロンドンの大学への進学を勧められて、今通っています。クリエイティブ・インダストリーという創意的な文化産業とそれに関連した理論と政策を社会学的に研究しています。今学期で大学も卒業するので、もうソウルに帰ります。今までの活動は学業との並行だったのですが、これからはそんな勉強に疲れた心身を癒しつつ、本格的に活動をしていくつもりです」。

飾り気の無い、透き通った歌声と、電子音響くドリーミーでポップなサウンドで、いま大物アーティストからも数多くその名前があがっているのがOOHYO。「アイドルやアーティストたちが私の音楽に関心を持ってくれたのに驚いたし、音楽的なトレンドにも敏感な人たちが、この地味で素朴な私の歌を聴いててくれているのが意外でした。ジャンル関係なくアーティストの個性に光が当たり始めている、そんな時がやってきたのかと感じています。3rdシングル『PIZZA』では日本のLUCKYTAPESのKaiとコラボレーションをしました。

[MV] OOHYO(우효) _ PIZZA

これも偶然の出会いで私の曲をリミックスしてくれたんです。時間もすごくタイトだったのにアイディアとかもたくさん出してくれてたし、試行錯誤してくれて立派なミュージシャンだと感動しました。それから彼の音楽も気に入っててよく聴いていますよ」。「そして、この『PIZZA』は、私が表現したかったことが詰まっています。例えば、ピザを食べるとき、楽しく一緒に食べる人がいれば美味しく食べられる食べ物ですよね。一人で食べても全然美味しいと感じない不思議な食べ物です。実は父の転勤で幼少期から大学まで韓国とアメリカを行き来してました。当時はそういうピザを一緒に美味しく食べてくれる人たちがいたんですが、今周りにいないその人たちを急に思い出してノスタルジックな気持ちになったんです。そういった自分の過去の記憶をたまに懐かしみ、当時の自分はその時の感情をやっぱりうまく表現できず見過ごしちゃってたことが多くて、あえて今こういう曲を作ろうと思いました」

Korea’s New Generation

8 Xin Seha : 80’sエレクトロやテクノを継承する艶のあるプロデューサー

Xin Sehaは子供のときからヒップホップを聴いて育ったと語る。しかしこのコンセプチュアルでオリジナルなサウンドを追求してきたプロデューサーは、そのままヒップホップを自分も作るのではなく、元ネタとなったファンクなどに惹かれていった。

彼が作り出すエモーショナルで艶があるメロディーは、デトロイト・テクノなどの影響を受けつつも「自分だけのメロディーを探して、探して作っていきます」と本人が語るとおり、Sehaだけのものになっている。彼はエクレクティックなアーティストだとは認めつつも、そうした意識を常に持っているわけではないという。

Xin Seha (신세하) “티를 내 (Timeline)”

「僕はいろんなジャンルから影響を受けているけど、それを常に意識しているわけじゃなくて、1つのジャンルに当てはまるようなものは作りたくないと思ってやっているんです」と優しい口調で語るSehaだが、そのアーティストとしての芯は強く太い。そして声といえば今年の2月にリリースした新作『7F, the Void』では、これまでの作品に比べてSeha自身の柔らかく、とろけそうなボーカルがより多く収録されている。

Xin Seha (신세하) “Tell Her”

「ダンスミュージックの影響を受けていた前作から、『7F, the Void』ではもっと周りにいる家族とか、友達とかに受けた影響が大きいんです」と話してくれたように、よりパーソナルな世界から受けた影響を詰め込んだものになっているのだ。現在影響を受けたアーティストに話が及ぶと、先日ソウルでのライブの際に共演を果たしたBlood OrangeことDev Hynesを同時代で最も好きなアーティストと称え、日本のアーティストだとG.RINAのサウンドもとても好きだよと話してくれた。インタビューが終わり向かったXehaのショーケースは狭いカフェに、多くの人がつめかけソウルのアンダーグラウンドシーンの熱気を十二分に感じ取れた。その中でXehaは淡々と、包み込んでくれるようなコズミックなサウンドを奏でていた。

photography_Tammy Volpe text_Tetsuro Wada translation Risa Sahira