香港を拠点に活動するエレクトロニック・サイケ・ダンスバンドのBlood Wine or Honey(ブラッド・ワイン・オア・ハニー)がファーストアルバム『Fear & Celebration』をリリースした。
Blood Wine or Honeyは、James Banbury、Shane Aspegren、Joseph von Hessの3人のマルチ・インストゥルメンタリストによる新鋭ユニットだ。まだEPしか発表していない2017年からじわじわと話題となり、注目を集めていた。SquarepusherやFloating Points、Mount Kimbieなどが出演した2017年のSónar Hong Kongでのパフォーマンスをきっかけに、音楽メディアやアーティストが絶賛。ジャイルス・ピーターソンが「彼らのパフォーマンスを見に行くという目的のために、香港に向かう」と語ったり、イギー・ポップが「バカみたいに洗練されてる」と語り自身のラジオで紹介したり、と注目は高まっていった。
アルバムのリリースに先行して、アルバムタイトル曲『Fear & Celebration』のミュージックビデオも公開された。香港独特の夜のネオン街の色合いが印象的だ。そして、工事途中の都市部とそのすぐ裏に見える山々が西洋的文化観と中国の伝統を合わせもつ香港という場所の折衷的なアイデンティティーを感じさせる。森の中でのコンテンポラリーダンスも、また独特な文化観を思わせる。
Blood Wine or Honeyの3人も、香港を拠点にしつつも彼らはそれぞれ、アメリカやイギリスからの移住者である。オフィシャルページには、「重機の音と振動、干し魚のにおい、南シナ海の湿気に囲まれた場所から生まれた」と、西洋の立場から入りこんだ香港という街への異様な愛に満ちた視座が表現されている。Blood Wine or Honeyの音楽もそのような折衷的な魅力をもっている。3人がそれぞれ、ボーカリストでもありマルチプレイヤーでもある。Jamesはキーボード、ベース、チェロを、Shaneはドラム、シンセサイザー、プログラムを、Josephはサックスなどの管楽器やパーカッションを、とあらゆるマテリアルを使いつつ、「良いノイズが出るものならなんでも使う」という。
先の『Fear & Celebration』や先行してリリースされていた『Anxious Party People』などを聴いても、アフロビートや南米由来のトライバルなリズムをベースとしながら、エレクトロニックなノイズやサイケデリックな音が混ざり合う様はまさに、ジャンル横断、折衷されたサウンドのなかに独自のグルーヴを見出すようである。前衛的でノイジーなサイケ音は、Animal ColllectiveやGang Gang Dance、Black Diceなどのブルックリン派ムーブメントを彷彿とさせる一方で、インドから東南アジアを経由して中国に降り立つようなアジア伝統民謡風の音も散らばり、さらに複雑化されているようにも感じられるのだ。
トロピカル、トライバル、サイケデリック、ノイズ、ジャズ、ファンク、エレクトロニック、アヴァンギャルド、あらゆる継承が複雑に絡み合うことで、新たなグルーヴが生まれる。ジャンルやカルチャーが複合しつつもそのどれかに形容しがたいという現代的で折衷的なものとなる。それが、香港という街を象徴するようでもあり、西洋からアジアへと移住した彼ら自身のようにも感じられるのだ。
Blood Wine or Honeyの『Fear & Celebration』は、Spotifyを始めとする配信や、Bandcampでのダウンロードも可能。また、国内盤ではリミックスを含むボーナストラックも収録されている。ぜひ、彼らの音を聴いてみてほしい。
INFORMATION
Blood Wine or Honey『Fear & Celebration』
発売日:2018年7月25日(水)
価格:¥2,300(+tax)
収録曲:
1.Fear & Celebration
2.The Undying Overrated
3.Loosefoot
4.Orwellian Woman
5.Peak Helium A
6.Anxious Party People
7.The Forest is Expecting You
8.Peak Helium IV
9.The Young Ones
発売元:Tugboat Records Inc.