韓国語の太陽を由来とするTaeyoung boy改め、TAEYO(タイヨウ)が最新作「ORANGE」をリリースした。一概にヒップホップの枠にくくれない新世代として、にわかに注目を集めていた彼のメジャー1st EPだ。自らのBoyhoodに終わりを告げ、夏の情景を憂愁な音と色彩に染めていく今作には、明らかな心境の変化が感じられる。
セルフボースティングするよりも、
弱い部分をさらけ出すことにした
ーまずは、Taeyoung Boy からTAEYOへ改名した経緯から教えてください。
去年アルバムを出して、それが終わった頃から、Boyは取りたいと思っていました。メジャーデビューのタイミングからTaeyoungでいくつもりが、登録上の問題でTaeyoungが使えなかったんです。それで、チームで出た案がTAEYO(タイヨウ)で、結構しっくりきたんですよね。本名ってこともあって。
ー若くしてデビューしたラッパーが、Lil ~とか~Youngを、そのままつけてるってよくあるじゃないですか。あえて取りたかったのは何か心境の変化があったんですか?
いや、特にないです(笑)最初こそなんとなくBoyをつけたんですけど、もういいかなって。普通に自分も周りもTaeyoungって呼んでたし、Boyは必要ないなと。
ーちなみにTaeyoungギャル(女性ファンの愛称)も改名しないといけないのかな?みたいなツイートも見かけたんですけど、そこはどうなるんですか?
恥ずかしいな(笑)そこは変わらなくていいと思います。Taeyoungギャルも自分で言い始めたことじゃないので、このタイミングで俺が何か言うのも変かなと思って。
ーそもそもTaeyoungギャルって呼び方が広まったのは何がきっかけだったんですか?
沖縄のライブの時に最前列が女の子で埋め尽くされてて、それがたまたま全員俺のファンだったのを、友達がツイートしたことから始まった身内ノリのmeme(ミーム)みたいな感じですね。去年から俺が”Taeyoungギャル”ってワードを全部リツイートし始めたら軽くバズって、みんな使うようになりました。
ー今後もTaeyoungギャルは不滅ってことですね。そんなTaeyoung Boy時代を振り返りつつ総括してみると、どうですか?スタイルの変化など。
EPの『GIRL』は初期のTaeyoung Boyを象徴する作品かな。今はノリが違うから全然聴けないですけど、当時の日本で韓国ヒップホップのノリを形にしたのは割とフレッシュだったと客観的に思います。その後に出したアルバム『HOWL OF YOUNGTIMZ』は自分のキャリアの中でも特に好きです。その時にやれることは全部できましたね。コンセプトもしっかり作り込んだし、そこに色を与えてくれる客演も呼べたし、プロデューサーも間違いないし、Chakiさんとも初めて一緒にできました。今聴いてもよくできてる作品だなって思えます。
ー確かに、WILYWNKA、Shurkn Pap、Tohji、Friday Night Plansなど面白いメンツが集まってましたよね。構成も一本の映画のようで印象的な作品でした。
そういう感想は嬉しいです。俺はMVが何百万再生されたとか、アルバムがどれくらい売れたとか自慢できるような数字の実績ってないから。だからこそ自分らしい作品を作って、それで自分を納得させてマインドを上げていくしかなかったんで。でも、同時にそれが一番の自信にもなってます。だからこそ、最後のEPで結構アングラなノリはもういいかなと感じました。別に悪い意味じゃなくて、他にかっこいい人はいっぱいいるし、適材適所って考えると、Taeyoung Boyとしてやるべきことは一旦区切りかなと。
ー次のステージはメジャーだという気持ちになったんですか。
たまたまインディーとかメジャーって名前になってるだけで、わかりやすいステップとして、リスナーを広げられる場所に行くべきだと感じていたんです。Taeyoung Boyを客観的に見てメジャーでやってみてもいいと思いました。
ーこれから進んで行きたい方向性のビジョンがあると。これまではラップと歌の二刀流ってよく言われたりしていましたよね。
このEPで方向性が定まったと俺は思ってます。気づけなかったことにいっぱい気づけたし、なんでメジャーデビューするのかをしっかり考えて、俺はこのまま突き詰めていけば間違いないはず。ラップで突出してなくても、プレイヤーからリスペクトが持てるプレイヤーとして、自然にラップできてればいいかなって。歌はもっと上手くなれたら超強みだと思うので、ボイトレで幅を広げたいですけど、これから急に、めっちゃ歌うとか、めっちゃラップするとかじゃなくて、おれができるこのノリだからこそ、ブチ抜ける気がしています。
ー確かに、今作は新しいアプローチがありつつも、違和感なく聴けるという印象を受けました。どんなことを大事にしましたか?
テーマとしては夏のいろんなシーン、情景や時間を切り取っていくイメージ。クラブでやる曲よりも、外のステージに合うように作ったので、ライブがかなり気持ち良いと思います。でも一番意識したのは歌詞ですかね。特に見直した部分だし、変わらないといけないと思っていた要素でした。
ーそういった変化が分かりやすい曲はあります?
一番最初に「Let me down (Prod. Chaki Zulu)」を作っていた時、音楽やってて初めてすごく落ちてて、超バッドに入ってました。もうやりたくないみたいな。でも、Chakiさんはそういう弱い部分こそ歌詞にするべきって言ってくれて、自分が楽曲と向き合える状態に導いてくれたんですよ。葛藤があったのは狭いシーンを気にしてやろうとしていたからで、良くも悪くも、仲間にどう思われるだろう?って、まだクラブノリで考えてたんですね。でも俺が今から行くところってそうじゃないし、1000人とか1万人を狙ってやるんじゃなくて、100万人とか1000万人に聞かせて、それを還元させるためにメジャーデビューするわけじゃないですか。だから変なプライドでセルフボースティングしててもしょうがない。いい意味でリスナーを意識して、もしそれが共感を生むんだったら、弱い部分をもっとさらけ出すべきだなと思って。それを言われてすごい納得したし、この曲はそういう自分のマインドの変化がすごく出ています。切り替えに時間はかかりましたが。
ー過去のインタビューでは、日本の音楽を背負うってコメントもあったり、強気な自信家だと思っていたので少し意外でした。
自信家であるからこそ、大口を叩くからこそ、やることをやらなきゃいけないし、中身は謙虚で素直でいた方がいい。だから落ちてても、そのままの自分を見せることにしました。
ー今回のEPはボーナストラックがあるのもポイントですよね。リリックもBACHLOGICのトラックもかなり最高でした。
「grey」はコロナ禍に思ったことを書いたんですけど、この並びだとちょっと浮いてしまうので、CDを買ってくれた人だけが聴ける特別な曲にしました。
ー今はサブスクで聴く人が大多数だと思うんですが、この曲が聴けないのは本当にもったいないですね。
俺も同じ気持ちで、めっちゃ聴いて欲しいからすごく迷って。でもだからこそ、この曲のスペシャル感を堪能してもらえればと。ライブではやるし、リリックをSNSに載せようかなとは思ってます。
ーそれでは最後にTaeyoung Boy時代のファン、そして初めて出会う人へ、今後のTAEYOについてのメッセージをお願いします。
「Let me down」の反応を見てても、みんな変化に気づいてくれていて、嬉しかったです。きっとEP自体も気に入ってくれると思うから、できればCDで「grey」まで聴いて欲しい。前から知ってくれてる人はもっと好きになって、TAEYOから知ってくれる人にはこれからを期待してもらえる作品だと思うので、アーティストとしての可能性を感じてもらえたら嬉しいですね。
ーTaeyoung Boy名義の最後の曲、「NAMINOUE」のリリックにもあった通り“誰も置いていかない”仕上がりになっていると。
もしもイントロで違うと思ったらそういうのは聴かなくてもいい。それでもどこかを気に入ってくれる曲はあるはず。このEPの曲の中にも、これからも。
ーコロナ禍で、精神的な変化はありましたか。
落ち込んだりはしませんでしたが、みんなSNSを更新するようになって、人のいい部分とか悪い部分がたくさん見えるようになった期間だと思うんですよ。これが終わったあと自分の立ち回り方、人との関わり方は考えましたね。本当に必要なもの、大事なことを考えましたね。僕はいい時間だったと思います。
ー割とポジティブに捉えてたんですね。
最近は、真剣に体を鍛えてて。コロナになる前くらいからジムに通い始めていて、自粛でジム行けなくなってからも家でやってたので、トレーニングが生活の一部になってたり。食事制限もするようになって楽しくなってきちゃって。なのでどこかで脱ぐ企画やりたい(笑)トレーニング企画でもいいし。
ー社会では、いろんな問題もありましたが、それに対して、SNSでのアーティストの発信については、どう思いますか。
それについても思うことはありました。俺は結構黙ってやることやっている人が好きで。ヒップホップとかストリートの人とか、男って、そう思いう人多いと思うんですよ。別に声を上げていることが間違いというわけじゃなくて、正しいことを発信している人もいるんですけど。そこに新しい争いが生まれたりするのは、頭が悪いなとは思います。発信することって押し付けることじゃないし、情報は何を選んで何を捨てるかは自分の選択だし。人種差別の問題でも、それが悪い意味で加熱しちゃってる感じはします。根本から外れているような気はしますね。だからこそアーティストは思ったことを曲で吐き出せると思うし。
ーいろいろ考えたことを経て、元どおりの状況になったら最初に何がやりたいですか。
やっぱり、ライブですね。結構『ORANGE』のEP自体、外でやるステージをイメージして作ったんですよ。せっかくいい曲がいっぱいあるのでライブしたいですね。
INFORMATION
Major 1st EP 『ORANGE』