2020年、ジョン・レノンに会いに行く Vol.01 牧達弥 from go!go!vanillas 〜ニューベスト盤『GIMME SOME TRUTH.』を聴いて〜

ジョン・レノンの新たなベストアルバム『GIMME SOME TRUTH.』が10月9日に発表された。この日はジョンの80回目の誕生日に該当する。収録されているのは全36曲。オノ・ヨーコがエクゼクティヴ・プロデューサー、ショーン・レノンがプロデュースを担当し、2人が選曲に携わった1枚だ。現代の技術でミックスし直し、新たな音質でアルバムが構成されている。表題曲の「Gimme Some Truth」はそのまま”真実が欲しい”を意味する。本楽曲で歌われている内容も、不満と不安に満ちた世界へのメッセージでもある。
2020年。コロナによって人と人との距離は遠くなり、WEBやSNSの発達で目に見えない焦燥感や不安感が大いに煽られた年。人間が人間を信用できないような空気が世界に充満する中、ジョン・レノンの歌は我々にどう響くのだろう。
この企画では、『GIMME SOME TRUTH.』を通して、ジョン・レノンの音楽を今聴いたらどう感じるのか、自分にとってジョン・レノンはどんな存在なのか、そんなパーソナルな意見を音楽アーティストに聞く。まだ、ジョン・レノンの音楽に触れたことがない人に是非読んでいただきたい。

第1回目はgo!go!vanillasのVo&Gt、牧達弥。バンドは11月23日に初となる日本武道館公演を控え、現在はホールツアーを回っている。
ヴィンテージミュージックもこよなく愛する、新世代ロックンロールバンドのフロントマンに聞く”ジョンの話”。

この苦しい現代にあって心にぶっ刺さるものが確実にある

ー最新ベストアルバム『GIMME SOME TRUTH.』ですが、オノ・ヨーコさんとショーン・レノンさんが36曲を選曲し、ミックスし直して収録しているんですよ。

牧達弥(以下、牧):聴いたときに、音質にビックリしたんですよ。ジョン・レノンのソロ作はもちろん持っていますし、知っている曲が収録されているベスト盤なんですけど、もう別物ってぐらいに音像が変わっていますよね。特に「Isolation」は、こんな声入れてたんだなって。エフェクトやミックスによって違う曲に聴こえるくらいでしたね。より生々しさを感じたし、作品を通して聴いて面白かったです。現代っぽいミックスで表現されていることが。それに、この時代の、2020年という今にすごくぶっ刺さるなって思いましたよ。歌詞も読み返して、やっぱりすごいなって感じた部分がたくさんありました。

ー現代における『GIMME SOME TRUTH.』。この辺りのお話をお伺いできれば、と思います。

牧:はい。まず、僕もビートルズが大好きな人間の1人で、ジョンに限らずポール(ポール・マッカートニー)、ジョージ(ジョージ・ハリスン)、リンゴ(リンゴ・スター)それぞれのソロ作品を聴いてきました。よく対比されるのがポールの作品だと思うんですが、ポールの作品って煌びやかな印象があってエンターテイメント性が高いと思うし、耳に残りやすいキャッチーな部分がある、と個人的に感じているんですよ。

ーわかります。

牧:特にジョンのソロ作品に関しては後期になるにつれ音数も減り、使ってるコード進行もシンプルになっていったと思うんです。王道なロックのスリーコード進行だったり、そこに少しセブンスが混じっていたりという表現で、起伏がなくなっていったと感じるんですね。それはヨーコさんとリリースした『Double Fantasy』(1980発表、ジョン・レノン&ヨーコ・オノ名義)も含めてね。そのことに対して『何でそうなったんだろう』ってずっと考えていた時期があったんですけど、その……ポールは、もしかしたらビートルズを超えようとして音楽作品を作り続けていたんじゃないかなって。

ーはいはいはい。

牧:で、ジョンは音楽表現だけではなく、精神世界における音楽にフォーカスしてやっていった部分があるんじゃないかなって。それは「God」(※)を聴いても感じるんですよね。

※歌詞に「I don’t believe in Beatles.」という一節があり、その後に「I just believe in me, Yoko and me, and that’s reality.」と続く

牧:例えば、ジョンが歌う”愛”というのは、単純な”愛している”っていう意味を超えて、広い意味で世界に対しての愛を歌うことが多くて、その分、悲しみに対しても表現が深い。こう言ってしまうとアレなんですけど、感受性が高い分『本当の愛を語るには今、苦しいことを歌わないと、それは愛を語ったことにはならない』というところが、まずある気がしていて。そこがジョンとポールの表現における対照的な部分だと感じているんです。

ーなるほど。

牧:そんなことを思い返しながら、今回の『GIMME SOME TRUTH.』で選曲されている曲を聴いてみると、やっぱり、すごくシンプルでストレートなんですよね。収録されている楽曲群は、それこそ現代とは違うロック全盛の時代に作られたもので、予算もたくさん用意されていた時代だったと思うんです。オーケストラを入れたり、著名なアーティストを客演として呼んだりと、スケールの大きなことが実現できる時代にあって、このシンプルさ。心にぶっ刺さるのは、そこなんです。今現在、コロナ禍によって世界中の人が苦しい状況にありますけど、この現状にマッチするような音像感と歌のリフレインを聴いて、すごく心に響くものがありました。特に歌詞。すごいなぁと思ったのは、後期になるにつれて、どんどん分かりやすい英語を歌うようになっていっていて。英語を理解できない人にも伝わるような言葉を盛り込んでいるんですよね。

ー確かに聴きやすい英単語が耳に入ってきますよね。

牧:僕もボーカリストなんで思うんですけど、その歌詞をフィーチャーしたい、意図的にクローズアップさせたいときに、できるだけ分かりやすい言葉を選ぼうと努力するんですよ。まぁ、昔はあえて難解な単語で暗喩表現したりとかした時期もあったんですけど(笑)。ずっと歌詞を描き続けていくと、言いたいことを、自分の中に根付いていて納得できる理解しやすい言葉をセレクトするようになるし、それをアートとして表現していたのがジョンだと。わかりやすい単語なんだけど難しい言葉選びを経ていたんじゃないかと思います。「Happy Xmas (War Is Over)」もそうですが、戦争が終わっていない時代に、この曲名で。シンプルな言葉だけど、すごくカウンターが効いてるしカッコいい。そういうシンプルな表現でパンチがあるっていうのは、今こそ大事なことですし、複雑化してしまっている現代だからこそ、まるで未来を予見していたかのように心に刺さる部分がありますね。音楽的にも、ブラックミュージックやカントリーミュージックだとか、どんどん原点回帰していったように思うんですけど、それも多分、歌を届けるためなんじゃないかなって。本当に音楽って垣根を超えて自分の思想だったりとか、心から出てくる”叫び”を重視して音楽を作っていくようになったんだなって、今作を聴いて感じました。

人間が苦しいときに支えとなる音楽を追究していたんじゃないか

ーそう考えると面白いですよね。ジョン・レノンがコロナ禍を予見していたわけではないのに、世界が苦境に立ったときにジョンの歌詞や音楽表現がフレッシュに聴こえるっていうのは。新曲ではないのに真新しく心に響くわけじゃないですか。今までジョン・レノンやビートルズを聴いたことがない10代にも新鮮に聴こえるんじゃないかと思うんです。

牧:いや、それ超思いますよ。これ最近の話なんですけど、日光東照宮に行ってきたんですよね。そこで『不老不死とは?』って話を一緒に行った友人としていたんですけど「本当の不老不死は人々の記憶に残ることだ」ってことを会話していて、それが強く心に残っているんですよ。今でも日本中の誰もが徳川家康のことを知っていて何万人もが参拝するわけじゃないですか。人の記憶に残ることができた人たちって、ある意味、不老不死だなって思うことがあって。ジョンもそうじゃないですか。世の中が複雑になったり、技術が発達すればするほど求められる、すごく裸で生々しさが残るような音楽をたくさん残していて。シンプルな音楽表現と心に刺さる言葉を携えた歌、これってずっと人々から忘れられないように、あえてそうしたのかな? って思うぐらい。今、HIPHOPやEDMなど電子音が複雑に入り組んで派手な音楽が鳴る時代にあって、ミニマムな音楽の上に裸の心で声で歌っている強い言葉がすごく心に沁みますね。サブスクなどで簡単に様々な音楽が聴けるなか、『GIMME SOME TRUTH.』はすごく聴き込んじゃったんですよ。

ーちなみにジョン・レノンを知ったのはビートルズからだと思うのですが、何時ごろですか?

牧:まだ子供の頃ですね。『THE BEATLES 1』(2000年発表のビートルズのシングルヒット曲が収録されたベスト盤)が家にあったのを聴いたのが最初です。その頃はポップスとして捉えていましたね。深くのめり込んでいったのは時間を置いて大学の頃。当時、ドアーズ(The Doors)などを聴いていた流れで『Please Please Me』に出会って、そのパッションにやられたんです。ある意味、パンク的なマインドも感じて。そこから『With The Beatles』と順々に辿っていきました。本当にビートルズってどんな存在だったんだろうっていうのは音楽だけではなく、その後に出版された本も含めて追いかけたんですよ。魂の中にすごく刻まれているバンドですね。

ーそこからジョン・レノンのソロ作まで。

牧:そうですね。僕は「Love」が好きで、このマイナーコードの使い方が印象的なんですけど、ソロ後期の方になると、徐々にボブ・ディランの影響を感じられたり、フォークミュージック的な要素や、よりミニマムでルーツミュージックに回帰していったので、若い頃はそこに味気なさを感じていたかもしれませんね。しっかりとソロ作も聴き込むようになったのは意外と最近、2、3年前くらいです。こうして『GIMME SOME TRUTH.』を聴き直しても思うけど、ジョンは人々が苦しいときに支えになるものとしての音楽を追究して創作していたんじゃないかなって。やっぱり当時の時代を意識しながら表現していたと思うんです。次作に収録している僕の曲も、今の世の中の温度感にもちろん影響されたし、その中で出てくるものが音楽になっていったんで。

シンプルでリアリティのある言葉選びに自分もなってきている

ー11月18日リリースの日本武道館公演記念作品「鏡 e.p.」ですね。タイトル曲「鏡」が牧さんの作詞作曲になります。やはり、このコロナという時代にも影響を与えられましたか?

牧:めちゃめちゃデカかったですね。ちょっと前段の話になりますけど、go!go!vanillasはビートルズで言えば、ざっくりとしたイメージとしてポールの面が強い印象があるバンドだと思うんですよ。キャッチーなメロディであったり民族楽器を取り入れてみたり、エンターテイメント性が強いという意味で。でも、このコロナ禍の現代を見渡して時代のムードを考えたときに、そういう”陽”の要素を全面に押し出すことに違和感を感じるようになったんですよね。

ー表現と時代が一致していないような感覚ですか?

牧:はい。「鏡」は緊急事態宣言中に制作した曲なんですが、あの頃、ニュースでは毎日、感染者の数が発表されて、日に日に状況は悪化して救いようがない世の中だなって感じて。そのとき、久々に人間も動物だったんだよな、死ぬときは死ぬなって感じて。そこから、なんで生きているんだろう? ってところまで考えたときに、この状況で自分の中から出てくる歌詞は大事にした方が良いと。そうやって描いた歌詞は、これまでとちょっと異なる、よりリアリティのある言葉の選び方、つまり、さっきお話したシンプルな言葉選びになっていったんです。

ー言わば、ジョン・レノン化している?

牧:まぁ、そうなのかも(笑)。ただ、この曲だけに限った話ではなくて、今はアルバムも制作段階にあるんですが、これまでよりもリアリティが僕の中で重要になってきていると感じているんですよね。辛いときは辛いと言う、正直に話す、だとか。ストレートに刺さる表現を自然と選ぶようになってきました。『GIMME SOME TRUTH.』も、また新たな自分へのバイタリティになりましたね。

ーちなみに「鏡 e.p.」はメンバー各々が1曲ずつ作詞作曲とメインボーカルを担当した4曲が収録されているという意味でもビートルズ的だと感じました。

牧:日本武道館公演をやるってなったときに、それこそビートルズもそうですけど、4人が楽曲を作れることが僕らの武器だと思っていて。正直、ハードルが高いことでもあるじゃないですか。メインで作詞作曲を担当しているメンバーとは絶対に違う世界観の楽曲が並ぶことになるわけなので。ブレてると感じる人もいると思います。でも、それこそサブスク全盛の時代でもあるんで、今のリスナーはバンドだけで音楽を聴いているわけじゃないと思うんですよ。だったらメンバーそれぞれの個性や持ち味を1つのEPで見せた方が面白いんじゃないかと。僕の中での既成概念をぶっ壊してくれる意味もある。これはコロナを経験して今の世の中のことを見るようになったときに、辿り着いた考えですね。サブスクでプレイリストで音楽が聴かれる世の中に多少の抵抗があったんですけど、逆に自分たちから理解しに向かって、そのうえで楽しく面白く作り上げるってのはすごい良いなって。これまでやらないことをやるって選択をしたことに意味があったな、と。

やっぱり自分自身のためにライブをやるということ

ーそして11月23日にはバンドが夢に掲げていた日本武道館公演が開催されますね。時代を鑑みて、公演自体を延期や中止にするバンドも多い中での決断となりますが。

牧:もちろんルールに従ったうえでの開催ですけど、中止にするとか延期にするとか、そんな簡単なもんじゃないよなって。お客さんのことを想っても色々と考える部分はあるし、どこまで考えても正解が見つからないような状況ではあるんですが、結局は自分のためにやるんだと思います。やっぱり自分自身のために音楽をやっているわけであって、そんな根源的なことを今まで忘れていたかもしれません。ライブをするってことが1番のアウトプットだと思っているし、自分のためにやったからこそ次へ進めるわけで、それが結果として新たな成長に繋がったりすると思うので。それで周りの人だったりお客さんが楽しめる、ドキドキする、新しい刺激を与える、それが1番自然な形だろうと思うんですよ。そりゃ、満員の日本武道館で、みんなに祝福されて全員で声を挙げるってことができたら楽しいですよ。でも、この状況でもやるっていう意志を見せるってことも、こういう元気のない日本に対してもそうだし、何よりも自分に対してやるって思いで挑もうと思っています。

ー最後に、『GIMME SOME TRUTH.』は現代におけるジョン・レノンの在り方を提示するようなベスト盤でもありました。現代において、今後を考えたときにバンドという音楽の表現はどんな存在になっていくと思いますか?

牧:トレンドに対してのカウンターがあり、時代は循環していくものじゃないですか。それは音楽にも言えることだし、ロックとHIPHOPの関係性を見ても感じます。今はソロアーティストが増えているし、そっちの方が効率良くて自由に小回りも効くし完全に今っぽいわけですよ。でも、それがどんどん拍車がかかっていくほど、さっきのジョンの存在と一緒で、そうでないものがフレッシュに感じられて求められるようになるんじゃないかな、と。

ーはい。

牧:バンドって人間くさくて、面倒なこともあるし、苛立つ瞬間もあるんですけど、その中でもアナログの1個の完成形だと思うんですよね。今、音楽メディアで言えばCDの数は減っていますけどレコードはしっかりと残っているじゃないですか。きっと今後も無くならないと思うんですが、バンドという形態も、どういう形になろうと絶対に残っていくと思うんですよね。

ーそうですよね。

牧:バンドが主流になる時代、それはウイルスを克服したときに、またやって来ると僕は考えているんです。バンドという存在が持つ、人間の温かさや距離感、そういうものがやっぱり最高だったじゃんって世界的になるはず。まぁ、それも可能性の1つではあるので、そうならなかったときはアナログレコードのような存在になりながらやっていくのかな。でも、うん。ずっとやっていくだろうなって思います。バンドという形の音楽を。

INFORMATION

go!go!vanillas

https://gogovanillas.com/
https://www.instagram.com/go_go_vanillas_official/
https://twitter.com/go_go_vanillas

日本武道館公演記念E.P.
「鏡 e.p.」
11月18日リリース

ROAD TO AMAZING BUDOKAN TOUR 2020
11月23日 日本武道館
※生配信あり
https://gogovanillas.com/feature/rtabtour2020

INFORMATION

JOHN LENNON

『GIMME SOME TRUTH.』
発売中
https://umj.lnk.to/gimme-some-truth

劇場上映版「イマジン」
ジョン・レノン生誕80周年記念上映
ジョン&ヨーコが1972年に制作したアルバム「イマジン」のイメージ映像集
劇場上映版のみ“特別映像+ドルビーアトモスサウンド“
12月4日(金)全国順次公開
12月8日(火)ワンナイト上映
https://www.universal-music.co.jp/johnlennon-imaginefilm/

“DOUBLE FANTASY – John & Yoko”
東京展 開催中
2021年1月11日まで
10:00~18:00(日〜木)、10:00〜20:00(金・土・1月11日)
会場_ソニーミュージック六本木ミュージアム
東京都港区六本木 5-6-20
チケット https://doublefantasy.co.jp/
https://doublefantasy.co.jp/