ライブハウスやクラブにお客さんを動員した”生(ライブ)”が体感しにくい時代を迎えた2020年。音楽アーティストたちは各々、様々な形で自らを表現している。その代表的な形は”配信”だろう。その配信も様々に形を変え、新たなテクノロジーを踏まえたうえで発信しているアーティストも多い。時代を踏まえた作品のリリースも多く、そんな作品を”コロナ禍における”という共通認識のもとで体験できるのも今だけのことだ。
たしかに従来通りのライブやフェス、イベントに遊びに行けないのは寂しさもあろうが、普段、ライブやツアーを行い続けているミュージシャンが、趣向を凝らしたイベントを展開し、これまでになかった面白さを伝えてくれるというのは、今だからこそだろうし、その新たな表現を存分に楽しむことが必要ではないだろうか。
特集”PROG.ACT”では、この時代に自分たちらしく躍進を続け、新たな表現を提示する音楽アーティストの行動や作品に注目する。
第1回目はSPARK!!SOUND!!SHOW!!(通称:スサシ)が東名阪で開催したPOP UP TOUR -天獄-にフォーカス。どんな空間で何が展開されたのかをレポート。
ヴァーチャルの面白さを巧みに利用し異空間を構築した”天獄”
11月4日にリリースされたシングル「STEAL!!」のインタビューもお届けしたスサシだが。
Interview: SPARK!!SOUND!!SHOW!! 『アクダマドライブ』OPに採用されたシングル「STEAL!!」について
実は、このリリースの合間に9月リリースのEP「スサシ e.p.」のヴァーチャルツアーを行なっていた。そのツアーが”POP UP TOUR -天獄-“。
作品をリリースしたにも関わらず思ったようにライブができない。では、どうすれば良いのか。ということを踏まえて、緊急事態宣言が解除された時期にバンドが考え出した形だった。
VR映像による360度ライブの視聴と、ここでしか購入できないスペシャルマーチャンダイズの展開であり、来場者を限定して1時間ごとに完全に入れ替えるという形で開催された。会場の内装や映像など全体の世界観をディレクションしたのはMargt。マーチャンダイズのデザインはメンバーのチヨ(Ba, Cho)がディレクションしており、どのグラフィックもバンドグッズとひと言で言い切れないほどのクオリティで製作されていた。特にジャケットとパンツのセットアップ展開を行なっていたスサシ迷彩のプロダクトは特殊な例だろう。スサシのマーチャンダイズがファッショナブルで高い評価を得ているのも、このシーンを好きな人であれば知るところ。
“天獄”というタイトルはチヨが考案したもの。開催前、本イベントに関しては次のようなことを話していた。「EP「スサシ e.p.」のテーマになっている”死”についてメンバーと話しているときに、”みんな死ぬと灰(HIGH)になる”という話が出て。そのままイベントのコンセプトに繋がっていきました。HIGH(灰)になった理想郷的空間を表現したいと考えたんです」。
その言葉通り、場内は焼け爛れた彫刻や鎖などに覆われ、呪具を連想させるお札がそこかしこに散らばっており、空間に入ると緊張感を覚えるような特殊な空間になっていた。
写真は10月24、25日に開催された東京場所、昼の部の模様であるが、夜になると雰囲気は一転。
“天獄”という名前にふさわしいオドロオドロしい雰囲気がスサシらしく、来場者もこの特殊な空気感を楽しんでいたようだ。
メインとなったのは360度展開のVRライブ映像。各々ゴーグルとヘッドフォンを装着し再生ボタンを押すと、そこにバンドの姿が映し出され、”天獄”仕様のセットでライブしている様を収録した映像を楽しむことができた。爆音で。360度の映像なわけで、必然的に閲覧中の人は右や左をキョロキョロ見るような行動を取ることになる。映像では中央にタナカユーキ(Vo,Gt)がいて、右を向くとチヨが、さらに回転するとタクマ(Syn, Gt, Cho)の姿が見えたりと、頭をスサシにジャックされたような感覚になるのが楽しい。
五感を奪われた状態の来場者の目の前に立ちはだかり、誰が見ているわけでもないのに、イチロックポーズを1日中繰り出し続けていた169 イチロー(Dr, Cho)の背中には、プロとして矜恃を感じさせられた。
映像を観終わった来場者に「現実にお帰りなさい」とイチローは声をかけていたが、この虚構と現実を数十分の間に行き来するというインスタレーションは実に新鮮で、バンドのポップアップイベントというよりも、何かそういう音楽とアートの一風変わったエキシビジョンを体験させられているような心持ちになった。ノベルティを配布していたのも、嬉しいオマケがもらえるような気遣いが感じられ、来場者が笑顔でメンバーから受け取っていたのも印象的だった。
ツアーが出来ないならヴァーチャルツアーで。ライブを見せられないならVRで。現場を用意するのであれば、とっておきの内装で。そのように柔軟に思考を変化させながら自分たちらしさを提示し続ける。スサシのアクションは2020年のコロナ禍を経た現代ならではのものだ。「自分らがワクワクすることを提示していきたい」というのは本イベントに先駆けたチヨの言葉だが、その意志は体験した人にストレートに伝わったことだろう。
そんなスサシも次に取るアクションは実際の現場=ライブハウスでのワンマンライブツアー”HAPPY BIRTH DIE”を2021年スタートで予定している。一風変わったことが大好きな彼らのことである。きっと単純な人数制限下におけるライブをやるわけがない。新しいライブの形をきっと見せてくれることだろう。