ミツメが2年振り6枚目となるニューアルバム『VI』をリリースした。今作の収録楽曲でもある「睡魔」の配信リリースを皮切りに、毎月シングルを発表、これまで以上にアクティブな制作活動を続けた彼らの、2020年を記録する一枚だ。誰しもがこれまでの日常からの変遷が求められた昨年、彼らの制作環境も自ずと新しい局面を迎えていた。それぞれがこれまで以上に個人として音源と対峙することで、自由かつ緻密な音のアンサンブルが生まれ、彼らの新たな表情として作品に落とし込まれた。今作の構想から、バンド初の試みとなったSTUTSとの新曲「Basic (feat. STUTS)」の制作に至るまで。『VI』についてミツメに話を聞いた。
L to R→nakayaan(Ba)、川辺素(Vo,Gt)、須田洋次郎(Dr)、大竹雅生(Gt, Syn)
自分のパートを入れてバトンタッチして。
それを繰り返して作った今作は、別の種類のものが生まれた
ー前作の『Ghosts』とは打って変わって、今回は一曲一曲を完結させる形で制作が進められたとのことですが、そこにはどのような意図があったんですか?
川辺素(Vo,Gt):2020年の活動を考えた時に、たくさん曲を作って、それをどんな形でもいいからリリースしていこうという話をしていて。スタジオに籠って一曲一曲レコーディングをするのではなく、ライブ活動と並行しながら、メンバーだけで録音したようなラフな音源をリリースしていこうと。そういう感じで進めていたら、結局コロナの影響で、ライブをしながら曲を練り上げることができなくなってしまい。ただ、それでも曲は作り続け、今作に繋がった感じはあります。
nakayaan(Ba):そんな世の中の状況もあって、結局、レコーディングした音源をリリースしていく流れになり、昨年2月に「睡魔」、「ダンス」、「トニック・ラブ」を、クローズ間近のスタジオグリーンバードで録り、その4月から順次発表していきました。この3曲は、いつものように、バンドの倉庫兼事務所にみんなで集まり、一斉に音を鳴らしながら作った楽曲。その後、緊急事態宣言が発令されたので、完全にリモートでの作業となり、それぞれがアレンジを加えていったのが「フィクション」と「VIDEO」。あと「リピート」も時間的な問題でゼロ集まりだったかな。
川辺:「メッセージ」は半分くらい集まってやったんだっけ?
須田洋次郎(Dr):「メッセージ」の作業の途中辺りからまた集まれるようになったけど、時間的な制約もあったし、それぞれでまた作ってみようって。そんな複雑な作り方をしていたら、不思議な展開の曲になりました。基本のリズムが8分の6拍子なのもミツメの楽曲では今までになかったし、途中でビートや拍のとり方が変わるのも初めて。ここまでギターがアンサンブルで重なるのも珍しいと思います。アルバムの中では、いいアクセントとなる楽曲になりました。それ以外の収録曲も、一度集まって大枠を組むことはあっても、そこから先はそれぞれ個人で。ドラムだったら、みんなで集まった時はパソコンで打ち込んだ音を入れ、その後、ひとりでスタジオに入り生のドラムを録音して、ドラム音だけ差し替えたデモをみんなに送り、それにあわせて、ベースやギターも重ねて。プリプロみたいな役割をテレワークが担ってくれていたかな。
川辺:自分が作ったデモをみんなに送って、各々が自分の家やスタジオでそれぞれのパートを録るみたいなことを今までやったことがなかったので、今回、はじめてできた作業。みんなで集まるということが、作品に対して影響を与えている部分は大きかったんだなということを感じました。集まって他の人の音を聞くことで、そこから先をどうしていくのか広げていたけど、自分のパートを入れてバトンタッチして、またバトンタッチを繰り返してやった今回は、別の種類のものが生まれました。
大竹雅生(Gt, Syn):みんなで集まるということはセッションを重ねることなので、そもそも集まれる時間に制限もあるし、短時間でいかにまとめるのか、ある意味妥協点を探さざるを得ないみたいなこともあるけど、リモートでやると時間の制限もなくて。一週間くらいひたすら考えてみたりとか、今までにないことでした。
nakayaan:実際音を重ねる本数も増えましたね。より緻密で複雑な。ミックス作業をしていると、オーケストラみたいな音の広がり方を感じます。
ーここからは各楽曲について、詳しくお話を伺っていきたいと思います。「フィクション」はドラムのパターンが特徴的な楽曲ですよね。
須田:さっきの話の通りこの曲は、完全リモートで作った最初の楽曲で。まずは歌とコード進行だけのデモ音源にドラムから入れてみることになり、ひとりでリハーサルスタジオに行って、マイクを一本だけ立てて録音しました。シンプルに8ビートのものをみんなに送るのではなく、生ドラムでアレンジするならではのことを試してみたくて。この時期は、アクセントを二発目に持ってくる演奏に興味があって(笑)。試しにそれを入れてみたら、他のパートもこれにあわせてくれたので、そのまま残ったって感じです。どっちにアクセントがあるのかみたいなことが、MIDIだとなかなか表現できなくて。生のドラム音だと、そういう部分もデモの時点で入れて、みんなに雰囲気を伝えられるので、そこは今回積極的に試していました。
ーギターの音の重なりも印象的でした。
大竹:この曲は、もともとのコード感にどういう和音を乗せていくか、みたいな和音の部分を考えて作りました。だから不気味な響きになっていて。“これ面白いな”を重ねていってできた感じです。
ー本作の中で一番最初に配信リリースされた「睡魔」は、心地よい日差しの中、徐々に“眠りに誘われて”いくような情景が思い浮かびました。
川辺:歌詞はアレンジに寄せて作ったんです。最初はもうちょっとソウルっぽいというか、もう少しカラッとした素朴な感じにアレンジしたデモだったんですけど、ギターのフレーズでだいぶ湿度が上がったムードが出てきたので、歌詞にもそんなニュアンスが出たらいいなと思っていました。ツアーでアジアに行った時に、すごく蒸すなという印象で。向こうにいると結構寝不足になるんですけど、ふと涼しくなると眠くなってきて。そういうものが記憶に残っていたので、落とし込めたらいいなと。この歌詞はここ数年の自分の作詞で、一番新しいものができたかなと思っているので、凄く気に入っています。
ー「VIDEO」はシンセのアレンジが楽曲の世界観を一気に、スペイシーな感じにしていますよね。
川辺:デモにシンセが入っているところがあったので、歌詞をそこに寄せた感じはあります。最初は、こんなにレトロフューチャー感はなかった。
大竹:最初はもっと絶望的な歌詞が乗っていたので、ギターは心細さを感じるものにしました。ただ少しシリアスになりすぎないように、シンセでちょっと間抜けなロボットみたいな音も入れてみたような感じだった気がします。
川辺:アルバムの中では結構気に入っている曲のうちの一つです。
ー皆さんの中で、特に印象的な楽曲などはありますか?
須田:僕は「変身」とかもすごい好きですけどね。カラッと、通りすぎていくみたいな質感の曲というか。そんな感じの曲は、今まであまりなかったかなって。重力や情念など、いろんな意味での“重さ”を感じさせない曲というのが、とても新鮮だなと思いました。あと、「フィクション」は結構面白いなという感じで、アルバム収録楽曲の中で最初にMVを作りました。
ーラストの緑になる瞳の謎が気になります。「トニック・ラブ」のMVも面白いですよね。“ひであき”に痺れます(笑)。
大竹:あれは獅子舞ですね(笑)。この楽曲では、前作でも使用していたヤマハのデジタルシンセを取り入れていて、それの打楽器をモデリングした音を三種類くらい使っています。鰐口、スティールパン、ティンパニだったかな。
ーフェードイン、フェードアウトも印象的ですよね。
須田:ゆっくりフェードアウトしていくかってなって、凄く長めにアウトロを録音してはいたけど、ミックスの段階で、雅生が半分ふざけてフェードイン、フェードアウトを提案した気がする。確か、エンジニアの田中君は変すぎるでしょ?って反応だったけど、後半の演奏がよかったんだよね?
nakayaan:終わり方がかなりいい感じで、使いたい瞬間をかいつまんだ結果、こうなった気がする。
大竹:マスタリングまで決まってなくて、結構ギリギリまで迷っていたけど、結果的にあのMVにもあっててよかった(笑)。
ー今回、ボーナストラックにはSTUTSとの共作、「Basic(feat. STUTS)」が収録されていますね。ミツメにとって初となるコラボレーション楽曲はいかがでしたか?
川辺:昨年は曲作りをする上で、いろいろとトライしてみようとなり、その一環として誰かとの共作を考えたとき、最初に思い浮かんだのがSTUTSくんで。何度か共演しつつ、彼はnakayaanと小学校が一緒というところもあったり。
nakayaan:STUTSのバンドメンバーとして僕が演奏をしたり、STUTSにもミツメのライブに出演してもらったり、結構やりとりはしていました。はじめは、川辺さんの弾き語りのデモをSTUTSに送って、そこにSTUTSがアレンジを加えて。さらにメンバーそれぞれがミツメの要素をちょっとずつ加えていき、話し合った形が今の状態です。
川辺:STUTSがレコーディングのときに生のピアノ音を加えていたり、僕らだけだと出せない新鮮な感じがあって、一緒に作ることの面白味を感じました。
ー今年も何かチャレンジしてみたいことはありますか?
川辺:インストの曲を作ることですかね。完全インストの楽曲をやってみるのもいいかもねっていうのを、冗談半分で話しています。
ー今作も二枚組のうち一枚は、完全にインストですもんね。
川辺:そうですね。以前もおまけでは付けていたけど、今回は形態として付けています。皆さん、インストで聴きたい時もあると思いますし、インストバンド化計画ですね。
INFORMATION
ミツメ 6th Album『Ⅵ』
2021.3.24 release
PECF-1183/4 mitsume-026
定価:¥3,000 + 税
DISC1は12曲 + ボーナス・トラック (全13曲収録)
DISC2はインスト盤の2枚組
[DISC1]
01. Intro
02. フィクション
03. 変身
04. ダンス
05. 睡魔
06. メッセージ
07. システム
08. VIDEO
09. リピート
10. コンタクト
11. Interlude
12. トニック・ラブ
bonus track
Basic (feat.STUTS)
[DISC2]
01. Intro
02. フィクション (instrumental)
03. 変身 (instrumental)
04. ダンス (instrumental)
05. 睡魔 (instrumental)
06. メッセージ (instrumental)
07. システム (instrumental)
08. VIDEO (instrumental)
09. リピート (instrumental)
10. コンタクト (instrumental)
11. Interlude
12. トニック・ラブ (instrumental)
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ミツメ
6th Album『Ⅵ』[LP]
2021.3.24 release
PEJF-91034 mitsume-027
定価:¥3,200 + 税
初回限定生産商品
全12曲
01. Intro
02. フィクション
03. 変身
04. ダンス
05. 睡魔
06. メッセージ
07. システム
08. VIDEO
09. リピート
10. コンタクト
11. Interlude
12. トニック・ラブ