［Interview］GOODMOODGOKU2nd Album『PURITY』で描いたストーリーテリングな世界

北海道旭川を拠点とするラッパー／ビートメーカーのGOODMOODGOKUが発表した作品『PURITY』。2019年にリリースした自身の名を冠した1st Album『GOODMOODGOKU』から2年を経て完成した本作は、全18曲を収録。QDotta、Saavane、I-DeA、Yuta Fukai、SIRFADEがプロデューサーとして名を連ね、ミックス／マスタリングはI-DeA、カバー・アートワークはKANDYTOWNのIOが手がけている。ここでは、聴く者に様々な情景を想起させる唯一無二の世界観について、そしてそれを描く彼の思考について、探ってみたいと思う。

－まずは『PURITY』というタイトルについて、直訳すると“純度が高い”ことや“無垢”を意味すると思いますが、どのようなことを意識したのでしょう？

エゴではなく、あくまで自然体の自分がその時に思った感情をパッケージした、“純度の高いもの”ということから『PURITY』にしました。

－カバー・アートワークはIO（KANDYTOWN）さんが手掛けています。ザラッとした質感や色味が、GOODMOODGOKUさんのムードともマッチしているように感じますが、タイトルとの関連性や狙いはありましたか？

2019年にリリースされたIOくんのソロアルバム『Player’s Ballad.』に収録されている楽曲「Shawty」をプロデュースした流れもあって、今回アートワークのデザインをお願いしました。ただ、特にオーダーしたことはなくIOくんのその時のバイブスと、楽曲がうまくフィールしたように感じています。

－旭川を拠点にすることで、楽曲に影響していることはありますか？

どこにいても制作する上でのフィーリングは変わらないですけど、少なからず影響はありますね。ただ、例えば旭川にいても東京で働いている人よりも忙しい人もいるし、自分自身においても、友達といるときと、彼女といるときでは違うので。あくまで物事は俯瞰して捉えるようにしています。生きていく上で考える必要がないことや、答えを出す必要のないことを追求してしまうので、そういう曲が多いかもしれないです。

－本作のコンセプトなどはありますか？

実ははじめから『PURITY』を作ろうっていう感じではなくて。決めたものに向かっていくと、こうしないといけないっていう変なルールやフィルターがかかってきて、結構だめになっちゃうタイプなので、コンセプトを決めてアルバムを作る、というのは未知の領域です。海岸沿いを歩いていたはずなのに、全然違う方向に行ってここどこだろう（笑）みたいなことが起こりがちなので。

－では、制作しながらアルバムとして構成していったんですね。

そうですね。当初は5～6曲のEPを出す予定で作っていたのが、その流れで最終的に30曲くらいまで増えました。ひたすら曲を録り溜めていくみたいなノリで、誰かに言われないとパッケージしようって思うことが意外となくて。

カニエ・ウェストとか1曲を作るのに何年もかけたりするじゃないですか。彼くらいの生活をしていたら、もったいぶりながら、ここが違う。ここが違う。ってやっているのかなって思ったりもしますけど。そこのバランスが難しいかもしれないです。バイブスとしてはその時の感情だけど、形にするまでにはプロデューサーのI-DeAさんに渡ってからの作業もあるし。そういう意味で言うと、その時スピットしたものをそのまま、とは一概に言えないのでバランスが大事ですね。

－リリックはどのようなことを意識して書いているんでしょう。

ラップのスタイルとしてセルフボースティングがありますけど、僕はどちらかというと、客観的に1つの出来事を掘り下げたり、膨らましたりしてストーリーを描くのが好きで。そのテーマとして男女の話が連想しやすいんですけど、例えば自分と彼女、そしてそれを曲を作る時の自分が見ている状況を考えて。むしろ誰に向けて作ってるんだろう……自分？みたいなこともあります。

「DRUGS」はドラッグをラブソングに置き換えたイメージの楽曲なんですけど。自分的にはイントロの語り、バース、フックでそれぞれ視点が違っている。ドラッグが誰かで、それに溺れたいみたいな自分の目線があったり、ドラッグ側の目線で話したり、そういう客観視した構成を考えるのが好きです。

リリース前はただの自分が書いた脚本みたいな感じなので、誰かに聴いてもらって初めて作品の実感が湧くというか。リリースしてようやく人が感じるものを、自分も感じられるっていうのが楽しいというか、あがりますね。

－特に印象深い楽曲はありますか？

フリースタイルで1日でできたものもあれば、しばらく寝かせて作ったものもあるんですけど、TAMTAMのFukaiくんと作った「Bokuraha」って曲はアルバムの一番最後に録った曲でよく覚えています。自分としては、あの歌詞を自分以外の人に言われても、多分あんまりしっくりこなかったけど、それを自分が書いたことに驚きだったり、面白さがあって印象深いです。

－「Bokuraha」は、サウンド面でもギターリフが新鮮な印象を受けました。他にもミニマルなトラックにフロウが映える「Nanimo」、R&Bやジャズ、エキゾチックでセクシーなものもあったりと、ベースとなるムードは保ちつつも、アウトプットの幅が広いですよね。

「Bokuraha」に関しては、TAMTAMのツアーで客演をした時に初めてバンドセットでライブをしてすごい楽しくて。それをきっかけに広がった部分はあると思いますね。あとは、前まではラップをするならこうだっていうエゴが自分の中で強くて、日常の中ですごく邪魔臭く感じていたんですけど、よりやりたい音に近づいてるというか、自由にやれてる感じがあります。バイブス的な変化が大きいと思うんですけど、気づいたらあんまり気にせずに作れていたので、そこが今回は良かったかもしれないですね。

－具体的にはどのような変化があったんでしょう？

音楽を作るときは自分のインサイドに入っていくんですけど、それに行き詰まった時には更に深く潜っていく傾向があって。自分とばっかり会話して、シラフでもぶっ飛んじゃうような状況が嫌だったんですけど、人に会って助けを求めるように、人の話を聞くようになりました。今まではむしろ話を聞いたら、こんがらがっちゃうから何も言わないでほしい！みたいな感じだったけど、話を聞くことで自分の中で発見があったり、違うと思ったら違うでいいやみたいな感じで。関わる人が増えたし、全部自分だけで抱えすぎないことが、決定的に変わりました。

－なるほど。前作を経て、今作に反映できたことや自信がついたことはありますか？

前作は闇感があるってよく周りから言われていて。自分的にはそんなつもりは全然なかったんですけど、それを言われて聴いてみたら、たしかに少し病んでたのかもって気づくこともあった。意識的には気づかないけど今作はまた違った要素を加えられたと思います。

－それで言うと「Only You」のようなモダンなダンスチューンや「Tonight」「All Right」のようなエキゾチック、トロピカルなものもあったりと、サウンドとして明るいものも多い印象でした。

クラブに全然行けなくなったじゃないですか。なのでクラブの遊びの記憶を掘り起こして、楽しかったなーみたいなのはインスピレーションとしてありました。踊るのって大事な気がしますよ（笑）なんの意味もないけどメンタル的に大事だなって思いましたね。

あとはジャズとかボサノバがもともと好きでその影響もあります。もっと言うと海の近くで作られた温かい音が好きで。フィールする部分はあるけど、自分は海のそばで育ったわけではないので、それをサンプリングして表現しています。茅ヶ崎のブレッド＆バターとか昔絶対悪かったんだろうなって（笑）これは例えばですけど、そういう想像も膨らませられるシチュエーションも含めて、温かい曲が好きなのかもしれないですね。

－最後に、今年の動きや今後の活動について教えて下さい。

AOTLから今年リリースを予定しているコンピレーション『X-FACTOR 2』にたくさん参加しています。あとは、その時にやってみたいって思うことを、すぐにやれるようにしたいと思いますね。熱が冷めちゃう前に、そしてそのまま形にしたい。でもそれを出す前に周りの人に聴いてもらって……もしかしたら出さないかもしれない（笑）

－今作にも通じますが、その時のマインドを大事にするGOODMOODGOKUさんらしいです。

そうですね。あとは温かい音の話をしましたけど、かっこいいことを“ホット”っていうじゃないですか。自分は寒い地域なのでホットだって言うことをあえて“コールド”だって言うようにしてます。競うわけじゃないですけど、旭川をレップするという意味も込めて。

自分が好きなNBA選手のディアンジェロ・ラッセルは、血管に氷が流れているようにプレーしろっていう父からの教えがあったらしくて。冷血にいかないと闘いには勝てないよっていうことなんですけど、それくらいバキバキのトランス状態＝ゾーンに入る、みたいな部分がまさにコールドだなって。天の邪鬼的なノリで今後も曲作りをしていけたらと思います。