Interview:chilldspotという“素材”が秘める無限の可能性

chilldspotの1stアルバム『ingredients』がリリースを迎えた。比喩根(Gt/Vo)が16歳のときに初めて作詞作曲した「夜の探検」から、リード曲「未定」や「dinner」まで、一曲聴くごとにバンドの表情が更新されていく、まさに「今のchilldspotのベストアルバムのような作品」(比喩根)だ。今作にも収録されている「Monster」リリースの際に、彼らがEYESCREAMに出演してくれたのはわずか半年前のこと。初ライブを目前に控え、緊張感を滲ませていたあの日の4人は、確固たる覚悟とこころざしのもと、ここまで走り続けてきたのだろう。10月3日に渋谷WWWで開催される、彼らの初となるワンマンライブ「the youth night」のチケットは完売、急遽、追加公演が予定されている。ここから、また次のステージへと一歩を踏み出すchilldspotに、今作についての話を聞くべく、再び会いに行った。

玲山(Gt)、小崎(Ba)、比喩根(Gt/Vo)、ジャスティン(Dr)

「chilldspotのひとり一人が“素材”であって、音楽に調理されることでどう変化するのか聴いてほしい」ー比喩根(Gt/Vo)

ー前回、EYESCREAM WEBにご出演いただいた際は、みなさん高校卒業を間近に控えた時期でしたね。卒業後、音楽との向き合い方などに変化はありましたか?

Interview:chilldspot 鮮やかなサウンドと力強い言葉に込めた、等身大の想い

比喩根(Gt/Vo):私は前より音楽と触れ合う時間が増えて、日々スキルを磨いています。でも、制作スタイルは高校生の頃と変わらず、夜から作りはじめて、朝方にちょっと仮眠を取って、学校に行く日々のまま変わってないですね(笑)。

ジャスティン(Dr):みんなそれぞれ大学や専門学校に進学しましたが、バンド自体の稼働は多くなったので嬉しいです。

ーみなさんが新しい生活を送る中で作られた、1st アルバム『ingredients』がリリースされましたね。chilldspotにとって、どんな作品に仕上がったと感じますか?

比喩根:1st EP『the youth night』では、ひとつのコンセプトに沿って、曲を制作していきましたが、今回は、私たちがいま作りたい曲を自由に作り続け、それをアルバムとしてひとつにまとめて完成したのが『ingredients』。言わば、今のchilldspotのベストアルバムのような作品になりました。

ー“素材”などといった意味を持つこの言葉を、1stアルバムのタイトルに選んだ意図を教えてください。

比喩根:chilldspotのひとり一人が“素材”であって、音楽に調理されることでどう変化するのか。これらの楽曲が素材であり、これからどう調理されていくか。いろんな想いを込めています。またこのアルバムを聴いてくれた人にとっても、それぞれの解釈で曲を調理して、楽しんでもらえたら嬉しいです。

ーメッセージ性の強い歌詞から、叙情的なものまで。またその世界観を印象付けるサウンドもジャンルを問わず、さまざまな表情を持った楽曲が今作には収録されていますよね。

ジャスティン:今回は僕ら楽器隊も、試したいアレンジやフレーズを結構詰め込んだので、面白い作品になっていると思います。

ー例えば、リード曲でもある「未定」では、ディスコ調なノリの良いサウンドに対して、歌詞では劣等感に悩む人へのメッセージが描かれていたり。アルバム全体を通してもそうですし、一曲の中にも多面性がありますよね。

玲山(Gt):みんなでスタジオに入って、この曲のアレンジを考えていたときに、ジャスティンが今回のアレンジを提案してくれて。ディスコって意外な発想でしたけど、やってみたら意外とハマって、曲がライトな雰囲気になりました。

比喩根:この曲を作っているときに、私の中でも、重めの歌詞に反して、キャッチーなメロディーを乗せたい構想があって、そこのバランス感を悩んでいたんです。他人と比較して劣等感を抱きネガティブになってしまう、私自身もそうなりがちなので、そんなときにかけてもらいたい言葉を歌詞にしました。「自分なりにゆっくり進んだらいいんじゃないの?」って。自分の根底にある想いを、一番素直に歌っている曲かもしれないですね。ラストに向けて気分がポジティブになる歌詞と、ディスコの徐々に乗ってくる雰囲気がいい感じにハマっているなと思います。

ー次の「Groovynight」では一転、ジャスっぽい要素が加わっていて、バンドならではのグルーブ感が印象的でした。

比喩根:「Groovynight」は、ライブやフェスでの盛り上がりを意識して作った曲です。夜寝ているときに、ふと寂しくなることがあって。窓の外から聞こえるバイクが通り過ぎる音に、うるさいなと思いつつ、ひとりじゃないって思わせてくれたんです。その感覚をメモに残していて、そこからどんどん展開させていきました。寂しい夜も何かきっかけがあったら楽しくなる、この曲がそのきっかけになればいいなと思います。

玲山:最初のジャズっぽい印象からギアをあげて、ロックに展開させています。面白いアレンジですよね。これも、ジャスティンのアイディアです。

比喩根:ジャスティンのアイディアは採用率が高い。アレンジの軸と言っても過言ではないですね。

ジャスティン:そんなことないんですよ。この曲だからアレンジはこれというより、自分のやりたいことが常にストックされていて、その中から、曲毎に合うパターンをはめています。アレンジがかっこいいなと思った曲は、プレイリストで日頃からまとめるようにしていて。

小﨑(Ba):実際、アレンジと曲の相性がいいからすごいよ。

ージャスティンさんが今作の中で、特にアレンジにこだわった曲を教えてください。

ジャスティン:「dinner」はラジオエフェクトをかけたり、クラップを入れたり、ドラムの音色の感じもこだわって、いろんなアイディアと工夫を一番入れた楽曲。自分で自分の楽器をプロデュースしたような感覚ですね。面白いアレンジに仕上がったんじゃないかな。みんな自分のパートをそれぞれがアレンジしていて、すごくかっこいいので、ぜひライブで聴いてほしいなと思います。

[小崎]パーカー¥23,100(EFFECTEN/utility tel_03-6459-2463)、
パンツ、シューズ(スタイリスト私物)
[玲山]ジャケット¥59,400(NKGW/MENEW tel_03-6432-6079)、
シャツ、パンツ、シューズ(スタイリスト私物)

ー「dinner」は先日先行配信された本作のリード曲でもありますよね。料理に比喩されて書かれた歌詞のカオスな世界観も独特ですよね。

比喩根:私は誰かに対して嫌な感情を持ってしまったら、結構引きずってしまうタイプで。だからといって、その人を傷つけるのも違うし。だったら、夢の中で食べちゃえと思って。そんな空想をよくしているので(笑)。chilldspotはギターコードがループしているなだらかな音程の曲が多いですが、この曲に関してはデモの時点から、めちゃめちゃ変な音程にしようと思っていました。ドラムの8ビートのところからスタートして、そこから前ノリで攻める。ジャスティンのアイディアが効いた、ごちゃごちゃな世界観の曲ができました。

ジャスティン:普段の生活で理不尽なことがあった時に聴くと、スッキリできる曲になっていると思います。

[比喩根]パーカー¥31,900(Fumiku/R for D tel_03-6407-9320)、スカート¥35,200(NON TOKYO tel_03-6432-6079)、トップス、シューズ、リング(スタイリスト私物)
[ジャスティン]シャツ¥24,200、中に着たシャツ¥13,200(EFFECTEN/utility tel_03-6459-2463) 、ハット、パンツ、シューズ(スタイリスト私物)

ー前作のEP同様、今作も「私」という比喩根さんの弾き語りがラストに収録されていますね。一周して、chilldspotの原点に戻ってきたような感覚でした。

比喩根:バンドとはまた違った一面、より私の素に近い部分も表現できたらと思い、今回も弾き語りの曲を入れました。レコーディングの前日まで納得のいく曲ができなくて。素直に、今のバンドのことや自分自身のことを書けばいいんじゃない?と周りからアドバイスをいただき、完成した曲です。実はこの歌詞の中には、『ingredients』の内容がちょっとずつ入っています。“溺れたい”、“息が奪われる”、“比較”、“食べる”、“一週間”……。そういう部分も含め、アルバムとして、バンドとして、私自身としてのまとめであり、一番、これからの“材料”となる曲なので、最後に入れました。

ー少し話は戻りますが、先ほどジャスティンさんに伺った、特に思い入れ深い楽曲を比喩根さん、小﨑さん、玲山さんも教えてください。

比喩根:4人とも「Kiss me before I rise」は、まず選ぶ曲だよね。自分の中では、弾き語りの時点から、いい感じの曲ができたなって思っていましたし、chilldspotの曲の中で一番、感情が表に出ている作品です。楽器隊のプレイにも強弱があり、感情的な音になっていると思います。

ジャスティン:この曲では、エモーショナルな部分を表現するために、4人で一斉に演奏してレコーディングしました。それも初めての経験だったし、印象深いよね。

比喩根:あと私は「hold me」をオススメしたい。物語の一部を切り取って作った感覚で、私自身、結構聞く頻度も多いし、アルバムの中で一番綺麗な曲だと思います。この曲は、なんとなく曇りの日のイメージ。静かになりたかったり、心を落ち着かせたいときなどに聴いてほしいな。学校で音楽を学んでいる中で、技術的な表現を習得してはいるけど、その分、知識がなかった時にしていた表現が、出来なくなることも増えていて。「hold me」は少し前に録っていて、そのときにしか出せない空気感をまとっていると思います。あとは、アルバムの中で唯一、一発OKになった曲でもありますね。

玲山:僕は「Weekender」です。

小崎:あ!

玲山:小崎と被りました(笑)。「適当に生きるのも大事かも」って何回も歌っていて、ここに僕は共感します。いろんなことに追われて、行き詰まったときにこの曲を聴くと、気持ちが楽になる。現実逃避したいときに聴いて欲しいなと思います。

比喩根:やらなきゃいけないけど、今は一旦置いておこうみたいなね。

小崎:「Weekender」も好きですけど、僕は「未定」にも共感します。すごい自分に当てはまる。バンドを始めてから、他のベーシストと自分を比べて、落ち込んじゃうことが多くて。同じように悩んでいる人がこの曲を聴いて、少しでも背中を押されたらいいなと思います。

比喩根:私と小崎は幼馴染なので家も昔から近くて、今もライブ終わりなどに一緒に帰ったりするんですけど、小崎は対バン相手の演奏を見て、結構落ち込んだりしてるよね。小崎は情熱を持ってるタイプだから、悔しいって思う気持ちも大きいのかな。みんなが自信を持って、自分のことが好きって言えるようになったらいいな。

ー今作『ingredients』を引っ提げてのワンマンライブも開催されますね。チケットは完売、追加公演の開催も決定していると伺いました。

比喩根:コロナ禍にも関わらず、私たちのワンマンに足を運ぶ決意をして下さった方々に、「来てよかった」って心から思ってもらえるくらい、いろんなアレンジやトリックだったり、楽しめる要素を入れたいなと思っています。

ジャスティン:chilldspotはライブバンドでありたいと思っているので、今回のライブ限定のアレンジなども加えて、一発目のワンマンを特別なものにしたいなと思っています。

梁山:ワンマンまでに研究しないといけないことも、まだまだいっぱいありますね。

比喩根:chilldspotの世界観を思いっきり表現しつつ、曲を通して、会場に足を運んでくれる方々に寄り添いたいです。あくまで1対1のやりとりとして汲み取ってもらいたいので、自分たちの想いだけが一方通行になってしまはないように、実際に声は出せなくても、お客さんとしっかり会話する気持ちで、ライブを作っていきたいと思っています。

INFORMATION

chilldspot
1st album 『ingredients』

2021.09.15 Release

01. Monster
02. 夜の探検
03. 未定
04. Groovynight
05. ネオンを消して
06. interlude
07. Weekender
08. Kiss me before I rise
09. hold me
10. dinner
11. 私

One man live “the youth night”
@Shibuya WWW
2021.10.3

One man live “the youth night” 追加公演
@Shibuya WWW X
2021.11.18

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