藤井道人:けむりのまち 第七回『ENDING NOTE』

日々映画を作っていく中で忙殺され、失われていく大切なはずの記憶の数々。本連載は映画監督・藤井道人が映画や人、言葉、その瞬間を保管しておくための企画である。「生きていく上で忘れてしまうだろう記憶たちの集積場」をテーマに、様々な出会いを通して、映画が作られていく過程や、映画業界の改善に向かっている様を伝えていく「けむりのまち -Fake town-」。第七回は、誕生日を迎えた藤井道人がこれまでの活動を振り返る。

37歳になりました。とはいえ、何の感情も湧かないというか、年月をまた消費してしまったような背徳感と「いや。俺はまだいけるはず」という強がりを、ぐるぐるとかき回しているような、個人的にはそんな年齢になってしまいました。
「40歳までに、何を残せるか」そんな覚悟を、30代前半には飄々と語っていましたが、残り3年になりました。崖っぷちですね。お祝いの連絡をくださった、仲間、家族、応援してくれている皆様には、大変感謝しています。ありがとうございます。
ここのところは、ただ我武者羅に仕事に打ち込んでいます。テトリスや、ぷよぷよのその類。すごい勢いで襲い掛かってくるミッションを、何の武器で処理するかをぐるぐる考えていると、また朝が来て、モソモソと戦に出る。そんな毎日です。

そんな中で、沢山の素敵な出会いや、憧れの人との初仕事、全然上手く行ってない仕事など、色々とあるわけですが、自分がいる立ち位置について、言い訳が出来なくなった今だからこそ、沢山の反省や挑戦に対して粛々と、そして楽しく向き合っている気がします。誕生日当日は、撮影でした。BABEL LABELの作品だったので代表の山田久人、撮影の今村圭佑、録音の吉方淳二と、自主映画時代からのスタッフが集まっていたことが個人的にはとても感慨深かったです。もう「BABEL LABEL」を名乗って13年くらいになるんですよね。全く無名なインディーズ集団でしたし「凡人たちの集会場」「極東の泥船」「無視された出る杭」などの異名を欲しいままにしていましたが(ごめんなさい、全く言われていません)、なんだかんだ皆様のお陰で、次のフェーズに進むことが出来そうです。これからも、応援宜しくお願いいたします。

10年前に僕は「オー!ファーザー」という映画でデビューしました。公開は2014年なので、撮影から10年ということになります。当時26歳か。自主映画しか知らなかった僕にとって、初めてのメジャーの現場は知らないことばかりで、沢山のご迷惑をお掛けしました。伊坂幸太郎さんが一番好きな小説家だったので、失敗しないことばかり考えていた10年前。当時は、その「安牌の取り方」が結果として一番良くない選択であるということを知りませんでした。あの時に学んだことや、得た経験は今でも僕の血となり肉となっていると思います。プロデューサーの奥山和由さんに撮影に入る前に「凡庸なものを作るな、誰も期待してないんだから、捨て身で行け」と言われたことの真意が、10年経った今なら分かります。とても愛のある言葉でした。

そういえば、親友のアッキーと作ったBABEL BARも9月で10周年ですね。あそこの場所で、何本の企画が出来て、何個の絆が生まれて、何人の出会いがあったのでしょうか?10年も、お店を一人で守り続けているアッキーに感謝です。全然東京にいない藤井の代わりにみんなで是非一杯でも飲みに行ってくださると幸いです。37歳の目標は……「終活」です。といっても本当に終わるか、そんなことは神様しか知りません。この言葉が適しているかも分かりません。でも、しっくり来ました。仕方がないことですが、僕たちは、今の幸せがずっと続くと錯覚してしまうことがあります。オファーが来ると嬉しいし、ワクワクします。でも、どこかでその幸せがルーティーンになってしまっている自分もいたなと。だから、一本一本、悔いのないように、思い残すことのないように、向き合って作って行こうと自戒を込めて。今年こそ捨て身で行こうと思います。「まあ、どうせいつか死にますから」と、言ったのは撮影監督の今村ですが、僕の大好きな言葉です。あんまり気負いせず自分にできることを自分なりにやっていこうと思います。

そろそろ次回、次々回の作品の情報が、少しずつ解禁されてくると思います。どれも、これも、今まで作った作品とは全く違った作品です。楽しみにしていてください。次回は、質問コーナーですかね。沢山の難しい質問、お待ちしております。

※本連載にて、藤井道人監督への質問を募集。
監督が一問一答形式でお答えするので、
聞きたいことや気になることがある方は、
こちら宛にお送りください。