Licaxxx × 荒田洸(WONK)「注文の多い晩餐会」vol.20 〜佐藤卓の巻〜

DJを軸にマルチに活躍するLicaxxxとWONKのリーダー/ドラムスである荒田洸の二人が、リスペクトする人を迎える鼎談連載。第二十回はグラフィックデザイン界の巨匠、佐藤卓を迎える。WONKの主宰するレーベル〈EPISTROPH〉の新ロゴを手がけたほか、WONKのセッションライブにパーカッションで参加するなど公私ともにつながりの深い間柄だ。1955年生まれの佐藤と1990年代生まれの二人によるアツい会話をどうぞ。
EYESCREAM誌面には載りきらなかった部分も含めて完全版でお届けします。

ロックのレコードジャケットからビジュアルが流入して
デザイナーを目指すようになった

荒田:パーカッションは何がきっかけではじめたんですか?

佐藤:大学のときに、仲間でバンドやろうよってなったときに、ギター、ベース、ドラムはすでにいたので、自分はなにができるかな? と思ったときに、リズム感だけはまあまあいけるかなと。それでコンガとボンゴを買って、スタジオで独学でやりはじめた。そのうち別のバンドにも誘われて、そこから週1〜2回、ライブハウスでライブをするようになった。洸くんは、ドラムをはじめたのはいつ頃?

荒田:小学5年生の頃です。

Licaxxx:早くない?

荒田:新宿にあったHMVに母と行ったときに、母がジャズコーナーを見ているあいだに暇だなと思って一人でうろちょろしていたら、スティーヴ・ガッドというドラマーのDVDが流れていて、それを見て「ヤバいな、ドラムやろう」って。

Licaxxx:そこから挫折とかなかったの?

荒田:ない。今は常にありますよ。

佐藤:スティーヴ・ガッドは、このあいだブルーノート東京に観に行きましたよ。

荒田:僕も行きましたよ。

佐藤:久しぶりにスティーヴ・ガッドを聴いた。

荒田:めちゃくちゃよくなかったですか?

佐藤:うん。「俺のテクニックを聴け」とかは超えていて、過剰に見せたりしないというか。すごかった。

荒田:話は戻りますけど。なんでデザインやろうと思ったんですか?

佐藤:わりと真面目な話になるんだね(笑)。親父がデザイナーだったんですよ。親父に、デザインの話をしてもらったことはないんだけど、自然と身の回りにそういうプロの道具、当時はコンピュータなんてないからコンパスやデバイダー、プロの三角定規とかが転がっているわけよ。粘土ひとつとっても、プロの使う油土というのがあって、その硬い粘土で子どもの頃から遊んでいた。すると知らないうちに影響を受けていた。
音楽が好きだったから中学からロックを聴きだして、高校になるとレコードジャケットをずっと見ながら聴くようになった。当時は映像もなかったから、レコードジャケットだけが情報源だった。これってグラフィックデザインじゃん、こういうことができるんだったら、そういう仕事をしたいと思うようになった。好きなロックからビジュアルが流入した感じ。気がついたらデザイナーを目指していた。

常に自分を疑うようにしている

荒田:デザインで大切にしていることってなんですか?

佐藤:デザイナーって「間をつなぐ仕事」。たとえば広告ひとつとっても、それは自分の作品ではなくて、クライアントのため、社会のためにやっている。やりたいことをやるのがデザインではなくて、やるべきことをやるのがデザインだから。自分のスタイルは持たずに、クライアントによって自分のチューニングを合わせていく。それが本来のデザイナーの姿なんじゃないかと考えている。

Licaxxx:それでいうと私はデザイナー寄りの思考なんだと思う。だからDJをやっている。DJはプレイする環境に左右されながら自分なりにアウトプットをする。このアウトプットの部分に、ほんの少しだけど自分のスタイルが出るわけじゃないですか。その絶妙なバランスはどう保っているんですか?

佐藤:どう保っているのかな……。常に自分を疑うようにはしています。

荒田:自分のなかでの「正義」と「悪」はあるわけじゃないですか。デザインにおいてそれってどういったところですか?

佐藤:アーティストの人はそれでいいと思う。でもデザイナーは自分ではよくないと思っていたものが、もしかしてよいものなのかも、と自分を疑うことが大切。悪いと思っていたけれど、自分が理解できてなかっただけかもしれない。そこは意外と、いまだに迷いがある。

Licaxxx:音楽でもめっちゃ迷いますけどね。

佐藤:下手なよさも、場合によってはある。田舎のお土産物とか、野暮ったいほうがよかったりもする。だから絶対的なものはない。それに、デザインに完成はないんだよね。デザインで間をつないだ、その後も見ておく必要がある。時代は移り変わって価値観はどんどん変化するから、メンテナンスをして育て続けないといけない。僕は自分のことをアーティストとは呼ばない。いちグラフィックデザイナー。アーティストは、自発的。

荒田:それに気づいたのはいつ頃だったんですか?

佐藤:1981年に広告代理店に入って、1984年に辞めるのね。その頃はバブルで、世の中が右肩上がりにすごいことになっていた。バブルだからデザインもアートもどっちでもいいじゃないかっていうムードがあった。それに対して、それは違うんじゃないかという気持ちが強くあった。アートにコンプレックスを持っている人がデザインをやっているような気がした。それを見ながら、アートをするならアーティストになれよと思っていた。金をもらいながら、アートっぽいことをやっているアーティストかぶれは格好悪いなって。自分ではそれは違うなと感じていたから、自分はデザインでいこうと吹っ切れた。デザイナーとして、自分のスタイルは持たない、自分なんかどうでもいい、と思えた。それが33歳くらいかな。

荒田:デザインのレベルは昔と今ではどう感じますか?

佐藤:みんなホントに上手くなっている。それは良くも悪くもだけど。こういう言い方すると年寄りがいい気になっているようにも聞こえるけど、上手いだけで思想や哲学を感じないものが多い。デザインの、その奥にあるメッセージや思いがあまり感じられない。だから残らない。

Licaxxx:均一化されている?

佐藤:そうそう。でも、もしかすると若い世代が培っている別の軸があるのかもしれない、と自分を疑ってもいる。我々の時代は我々の時代で、その前の世代からするとそう思われていたはずだから。

荒田:先人が積み上げてきたものがあって今があるから、若い世代が上手いデザインをできるのかもしれませんよね。

佐藤:それはあるだろうね。デザインという概念を世の中に定着させたのは田中一光さんや亀倉雄策さんといった先輩の世代だから。その上で自分たちはデザイナーとして仕事をすることができた。今の若い世代って、環境問題に対する意識が高い。我々の世代と比べたら当たり前にあって、そこから新しい感覚が芽生えている気がする。我々の頃は、経済を最優先する風潮があって、経済にデザインが飲み込まれて、金儲けのためにデザインがいいように使われていた。その我々世代の反省も含めて。

荒田:金儲けのためにデザインが使われているときは、どう感じましたか?

佐藤:企業のなかにも、いいものを作って、世の中に届けることが使命だと考えているような、ものづくりに心を込めている人たちもいる。そういう人たちに出会えるといいけど、いかにもサラリーマンで、担当している商品の数字が上がればいいというだけの人に当たると考えさせられる。仕事だから最後まで責任をもってやるんだけど。でも、むずかしい仕事こそ面白い。簡単な仕事って歳取ってくるといろいろ経験してくるから、なんとなく見えてくる。

ツラくなったら喜べばいい。面白くない仕事って、ホントは何ひとつない

荒田:音楽に関していうと、先行事例を研究すればするほど自信がなくなってくるんですよね。じゃあ自分がなにをやればいいのか、わからなくなってくる。

佐藤:それはいい道を行っているよ。

荒田:いい道なんですか!?

佐藤:「これでいい」と思ったら終わりだから。迷いや自分を疑うことは大切。昨年亡くなった三宅一生さんともいろいろ仕事を一緒にやってきたけど、あの人は一番、自分を疑っていた。「もっとできるはずだ」といつも強く思い続けていた人だった。それをあの人から学んだ。そんな人がすぐ近くにいたら、「俺もまあまあかな」なんて思えない。それは幸せだった。

荒田:じゃあずっとツラいんですね(笑)。

佐藤:どんどんツラくなる(笑)。それがいい状態だから、ツラくなったら喜べばいい。迷いや悩みというのは、持っていて正しい。「俺は結構まあまあなところまできたかな」と思ったら終わりだと思う。

Licaxxx:たしかに、すごく悩み抜いてやった仕事のほうが達成感はある。「プロセスが大事だったのかな」とか言いながら(笑)。

佐藤:「どうしたらいいんだこれは!」と思わせてくれる仕事が楽しくて仕方ない。こんなに苦しめてくれてありがとうございます、という。

Licaxxx:そうかもしれない。初見で分かり合えないなって思う人だったとしても、そのコミュニケーションからデザインしてしまうというか。そこを乗り切っていけたら結果いい仕事になる。

佐藤:面白くない仕事って、ホントは何ひとつない。ただ言われたことをやっているだけだと面白くないんだろうけど。ものづくりの裏側を深く見ていくと、知らないことばかり出てくる。そこが面白いよね。



荒田 洸

“エクスペリメンタル・ソウル・バンド”を標榜するWONKのバンドリーダーであり、ドラムスを担当。@hikaru_pxr


Licaxxx

DJを軸にビートメイカー、エディター、ラジオパーソナリティーなどさまざまに表現する新世代のマルチアーティスト。
@licaxxx