NEWLY -PatchLine-第二回:金沢市・金沢蓄音器館

トラックやビート提供をはじめ、楽曲への参加やライブサポートを行うなど、コンポーザーでありプレイヤーとしても活躍するNEWLYによる対談連載-PatchLine-では今後の音楽制作に活かす旅記録として、彼の行きたい土地や人を訪れ、今気になることを聞いていく。第二回は、石川県は金沢市にある金沢蓄音器館を訪問。元々レコード屋を営んでいたという館長の八日市屋典之氏に蓄音器の歴史や魅力について話を聞いてみた。

R to L→八日市屋典之、NEWLY

針を下ろすときに
深呼吸をするような“間”がある

ー今回は石川県の金沢蓄音器館へ来ましたが、NEWLYさんは以前も来られたことがあるんですよね?

NEWLY:はい、去年旅行で金沢へ来たときに蓄音器館があることを知って、生で蓄音器を聞いたことがなかったので、聞いてみたいと思って行きました。そのときに聴き比べの公演があって、紙で作られた蓄音器の音にすごい感動して。それが印象的だったのでまた来たいと思って今回訪れることにしました。

ー八日市屋さんによる蓄音器の聴き比べはほぼ毎日行われているんですよね。オープン当初からやっているんですか。

八日市屋:そうですね。飾っておくとただの箱になってしまうし、音を出さないと分かりませんからね。ただ、レザー光線で音を拾うCDと違って、SPレコードは鉄で削って音を出すので、すり減ってしまうデメリットもあります。けど音を聞いてもらうことに意味があると思うので、当初からこのような聴き比べを行っていますね。

ー今日の聴き比べの公演には海外からの方もいらっしゃいましたが、普段はどのようなお客さんが多い印象ですか。

八日市屋:最初のころは年配の方が多かったけど、最近は若い方が多いですね。全国各地からいらっしゃっています。若い方はCDの綺麗な音に慣れているから、アナログのノイズが逆に心地よく感じたりするとおっしゃっていますね。

NEWLY:みなさん音楽的な聞き方をしているんですね。

八日市屋:そうそう、身体全体で音を聞かれていますね。蓄音器は油絵で、CDは写真と例えたお客さんもいらっしゃって、そういう視点も新鮮で面白いなと思いますね。

NEWLY:その例えはなんか納得しちゃいます(笑)。

八日市屋:なるほど!ってなりますよね。やっぱり若い人の感性ってすごいなって思います。我々にはない感覚だから日々教えてもらうのが面白いですね。

ーNEWLYさんはデジタルで音楽を聞いたり扱っている世代だと思いますが、アナログに対してどんなイメージを持っていますか?

NEWLY:世間的にノイズは悪いものという認識がありますが、アナログならではのパチパチという音は落ち着きます。自分はデータで簡単に綺麗な音を聞けることが逆にフラストレーションというか、簡単すぎてワクワクが減ってしまうので、アナログならではの針を落とすひと手間を挟むことに魅力を感じます。

八日市屋:そうだね。例えばCDだったら何も気にせずにボタンを押せば曲が流れるけど、レコードだと少し姿勢を正して、針を下ろすときに深呼吸をするような“間”があるよね。そんな間を求める方も少なくないですね。あまりにも世の中は忙しくなりすぎているのかもしれないね。

NEWLY:うん、うん。そう思いますね。

八日市屋:もっとゆっくりでいいのかもしれないよね。昔ここへ来た音楽業界の方も、音楽はこれからデータ処理の時代だと言っていて。まさに今その通りになって、データだからこその良い面もあるけど、アナログの方が音楽に対するリスペクトがより感じられる気がするよね。

NEWLY:そうですね。館長さんは、今もたくさんレコードや蓄音器を所有されていますが、実際に当時から触れていましたか。

八日市屋:私は昭和26年生まれなので原体験としてはSPの時代で、自分で蓄音器でレコードをかけていましたね。

NEWLY:へぇ!当時の蓄音器は高価なものだったと思いますが、館内にもあった冷蔵庫ほどの大きさの蓄音器とかはどのような層の方が持っていたんですか。

八日市屋:イギリスのHMV製やアメリカのビクター製のものなど種類はありますが、本当に限られたお金持ちしか聞けなかったと思います。けど、コロムビアやビクターは偽物も出回っていたんですよ。それだけ本物が優れていたということですね。

NEWLY:へぇ、すごい!ちなみにこれは見た目が特殊ですが軍事用だったものですか?

八日市屋:そうです。だから見た目もカーキ色でしょ。第一次世界大戦のときにイギリスのデッカが作ったんですよ。当時は戦場の中でレコードを流していたんですよ。

ー歴史の背景によって用途や見た目も変わるんですね。聴き比べの際にお客さんに「この中で一つ持ち帰るならどの蓄音器がいいですか?」と質問されていましたが、館長さんならどれがいいですか。

八日市屋:いつも聞いているから、どれがどういった音が鳴るか分かるから…何を聞くかにもよるねぇ。いざ一つだけって言われると迷っちゃいますね(笑)。

NEWLY:そうですよね(笑)。僕は以前も感動した紙の蓄音器ですね。モノラルなのに距離感を感じるので感動します。

八日市屋:そうだね。

NEWLY:あと優しい感じも好きだし、実際にそこにいるみたいに聞こえるからいいなと思いました。

八日市屋:レコード会社の人もたまに来られるけど、こういうのアナログの音を聞くと改めて“いい音”ってなんだろうって考えるそうです。今聞いてるCDやデータは“綺麗な音”ではあるけど、“いい音”かどうかは分からないと言っていましたよ。

NEWLY:なるほど。確かにそうですよね。

ー所有されているレコードを綺麗にしたり、蓄音器の修理も全て館長さんがやられているんですよね?

八日市屋:そう、先ほどの聴き比べでもお話しましたが、カビキラーを使ってやっています。みなさん驚かれますが長年いろいろなことを試して、あれが一番よかったんです。

NEWLY:すごいですよね。修理も基本は館長さんがやられているんですか?

八日市屋:蓄音機はいまだに全部やっていますよ。

NEWLY:壊れた部品の替えのパーツとかもあるんですか。

八日市屋:あるよ。あとで“ひみつの部屋”あるから特別に見せてあげるよ。

NEWLY:えぇ〜ありがとうございます!ちなみに部品を製造する場所とかもあるんですか。
(写真はお見せできませんが、“ひみつの部屋”には蓄音器の部品やレコードの数々がナンバリングして管理されていました)

八日市屋:部品を作る場所はないけど、元々レコード屋だったから持っていたんだよね。捨てずに残していたから今もこうやってできると思うと、最近よく聞く断捨離のようになんでもかんでも捨ててしまうのも、ある意味考えものかもしれないね。

ーその通りですね。レコード屋をやられていた時はどんなものを聞いていましたか。

八日市屋:なんでも聞いていましたよ。僕はどちらかと言うとポップス寄りのものが多かったかな。ザ・ビートルズも聞いたし、それより前のイギリスのバンドもよく聞きましたし、幅広く聞きましたね。当初2万枚のSPレコードは、今はや4万枚以上ありますね。

NEWLY:すごい数ですね。3階のフロアには電気のレコードプレイヤーもありましたよね。

八日市屋:SPプレイヤーですね。金沢市が持っていたものを譲り受けました。昔は図書館でSPを無料で貸し出しを行っていたんですよ。けど世の中がCDに移り変わる時に、SPプレイヤーを破棄する流れになって、その時にうちで引き取りました。今の若い人はSPの掛け方を知らないので、針を乗せるときに壊してしまうこともあるんですけど、実際に触れられるように置いています。

ーなるほど。保管だけでなくお客さんに実際に触れさせたり、生の音を体感させる意義はどんなことだと思いますか。

八日市屋:CDやデータ、プレイヤーにしたって、もちろん今の方が技術はすごいです。当時のレコードなんて取扱説明書に自分でレコードの回転数を測るように書いてあったり、スペックなんてある意味ないんです。けど、今日お話ししたり実際に音を聞いていただいたように、アナログにしか出すことのできない“いい音”があると思うんですよ。それをこうやって所有している以上、みなさんにも体感していただきたいと思っています。

NEWLY:素敵ですね。ちなみに、金沢にはずっと住まれているんですか。

八日市屋:10年ほど東京にもいましたよ。

NEWLY:金沢は今回で2回目なんですけど、街全体が芸術に寛容なイメージですが、何か理由ってあるんですか。

八日市屋:確かなことは分かりかねますが、一つは戦災がなかったということは影響しているかもしれませんね。金沢はバームクーヘン都市と例えられることもあるんですけど、街のブロックごとに明治、大正、昭和、平成ってその当時の文化が残っているんですよ。それゆえに芸術に寛容というイメージを持たれる方が多いのかもしれないですね。

NEWLY:確かに、区画ごとに違う雰囲気がありますね。

八日市屋:せっかくお越しになったので、ぜひいろいろ観光してみてください。

NEWLY:はい、ありがとうございます!

〜NEWLYのあとがき〜

PatchLine Vol.2
昨年の冬、金沢蓄音器館で聞いたフランク・シナトラはまさに音の形を見たような体験だった。
自分は滅多に作詞をしないので、言葉を扱うシンガーやラッパーにジェラシーを感じることがよくある。制作中に、考えていることがこの曲のアレンジや音だけでどこまで伝わるか不安になると金沢蓄音器館での体験を思い出して自分を奮い立たせていたことがあったから、少し忘れかけてた感覚を取り戻しにいけて嬉しかったな。
館長さんのレコードを聴くときの「間」の話が印象的だった。
聴くまでの「間」ももちろんだけど、館長さんが見せてくれた秘密の部屋でレコードを磨くカビキラーや修理中の蓄音機をみた時に昨年の冬に感動したあの音すらも俺に届くまでに「間」があったんだ。自分も作った作品の意図が伝わるまでの「間」も感じていたいと思った。言葉以外の意思の疎通を改めて信じてみようと思えた。
今回も2泊3日の旅。
金沢は斜向かいが違う時代の風景。数分歩いたら全く違う景色に変わるので夜散歩に出たりするのが楽しかった。
満月、穆然、Yorkなどで飲んで音楽聴いて、和倉温泉総湯のサウナでぼーっとした。
昼間は輪島朝市に向かう道中、なぎさドライブウェイに寄った。海岸を車で走るのは船に乗っているのとはまた違う不思議な解放感があって素敵だったな。
輪島朝市で「お兄さんには負けたよ、これ全部で千円でいいよ」と鯛やら海老やら両手で抱えきれない程の海鮮をまけてもらって、近くの食堂で調理してもらって食べた。
一度も値切ってないけど…どうもありがとう!食べきれないほどの量に驚いた!
そういえば、饅頭の生地に黄色い餅米が乗った「えがらまんじゅう」というものを初めて食べた。それがあまりに美味しすぎて、滞在中ずっと探していたけど結局見つからず、諦めかけてた帰り際金沢駅で見つけて大喜び。お土産にたくさん買ったのに、購入してから「本日中にお召し上がりください」の記載に気づいて新幹線で全部食べました。
今回のお土産は、オヨヨ書林で買った「音の図鑑」というフィールドレコーディングされた様々な音源8本のカセットが入った本。
最近は自分が集音した音に執着していたので、新しいワクワクができた。

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