『殺しの烙印』、『肉体の門』、『ツィゴイネルワイゼン』などの作品で知られる映画監督・鈴木清順。1950年代〜90年代まで多くの作品を撮り、時に鬼才とも評されるほど独特な表現の映画監督だ。昨年2月に、惜しまれつつも亡くなり、2005年の『オペレッタ狸御殿』が遺作となった。
このたび、そんな鈴木清順の素顔に迫り、「清順美学」とも称される彼の哲学がふんだんに散りばめられたエッセイ『そんなことはもう忘れたよ 鈴木清順閑話集』が7月27日(金)に発売された。
本書では、『ピストルオペラ』のスチール撮影を務めた本多晃子が約20年にわたり親交を深めるなかで撮影された100点近くの写真や、出演者や映画関係者たちのインタビュー、映画化に向けて製作が進められていた幻の遺作『蜜のあはれ』の貴重なシナリオを収録。さらに、「子供時代の思い出」「初恋」「戦争体験」「日活解雇」「夫婦」などなど、鈴木清順が語る追憶が収められている。ユーモアと鋭い観察眼が滲む独特の言葉とともに切り取った、鬼才と呼ばれた男の、あたりまえのとある日常の記録だ。
鈴木清順という人物の極めてプライベートな内面を、描き出した内容の濃い一冊となった。
また、本書の発売を記念したトークイベントも8月11日(土)に開催されることとなった。イベントには、本書の著者であるライターの八幡薫と上述の本多晃子、そして、ゲストとして『ピストルオペラ』にて映画デビューを果たした縁のある女優の韓英恵が登場する。本書未公開の写真のスライドショーや、収録しきれなかったエピソードに関して語られる予定だ。紀伊國屋書店新宿本店で開催されるので、こちらもぜひチェックしてみてほしい。
個人的には、1960年代後半の「日活解雇」からその後の約10年間の空白期間に関して、そしてやはり『蜜のあはれ』のシナリオは、とても楽しみである。初めて鈴木清順の映画を観たのは、『ツィゴイネルワイゼン』だったと記憶している。そこから『陽炎座』や『夢二』、そして『殺しの烙印』や『東京流れ者』などを好きになっていった。鈴木清順の艶のある映像美や、なんとも形容しがたい独特の表現。日常の記録を通して、そうした鈴木清順の映像哲学をも紐解ける本書を読めば、きっと作品を観たくなるはず。そして、映画をよりたのしめることは間違いないはずだ。
INFORMATION
『そんなことはもう忘れたよ 鈴木清順閑話集』
発売日:2018年7月27日(金)
写真:本多晃子
文:八幡薫
定価:¥2,200(+tax)
INFO:SPACE SHOWER BOOKS