TOKYO BLUE EYES
by TETRO.
VISITORS : 004 山田智和
渋谷は鴬谷町の片隅に構えるヘアサロン、TETRO。目印は鮮やかな青いブルーのアパートメント。この場所には現代のサブカルチャーを形成するアーティストやクリエーターが足を運んでいる。カルチャーの発信地になりつつあるこの場所で聞こえる会話に耳を澄まそう。新たなるエネルギーの発見ができるかも。
壁が“TETRO BLUE”と呼ばれていることにちなんで”青き眼”=人の訪問を歓迎する目を持つ、この場所から東京の今を覗いてみる。連載第四回目に登場するのは映像作家、山田智和。
今回、TETROのヘアメイクアーティスト、森田康平が向かったのは、新宿。
待ち合わせたのは、無二な世界観で光彩を放つ作品を次々と生み出す近年では指折りの映像作家であり、EYESCREAMでも写真連載を持つ山田智和だ。その間柄は長いこと友人のようだが、実は出会いは昨年のこと。好きなことを追い求めているうちに“繋がり”によって巡り合わせたふたりが、山田智和の本拠地ともいえる新宿を散歩しながら初めて面と向かって語り合う。
その空気感のままに写真家、嶌村吉祥丸が捉えた写真と共にお届けする。
満足はしない。常に最新で1番を更新していく。
森田:山田さんとの出会いは、EYESCREAMの連載“TOKYO-GA”の撮影でしたよね。現場に入ってお話しをして、すぐに分かり合えたような気がしてすごく楽しかったです。ちょっと似ている部分を感じました。
山田:そうでしたね、初対面の撮影が土砂降りの過酷な現場だったのを覚えています。ビルに囲まれたロケーションの中、照明を仕込んでスモークをたいて。とにかくめちゃくちゃな撮影でした。普通は初対面でそんな特殊な現場は引いちゃうし、堪えると思う。だからプラスな気持ちで入ってくれるのは嬉しいです。現場で同じグルーヴを感じられる人の方がやっぱり一緒にいて楽しいなと思います。正直、森田さんは初対面でしたっけ?という感覚でした(笑)。
森田:本当にそんな感覚ですよね(笑)。僕はヘアメイクですけど、最近よく言っていることが“エアーメイク”!その場の空気を作る人って意味なんですけど。現場ではそこに寄り添いたい気持ちを持っています。気持ちがよくて楽しかったらやっぱり出来上がりもすごくいいんですよね。雨にずぶ濡れになるのも全然気にならないし、山田さんの現場は毎回「今日楽しかった!」と感じます。
山田:あの日心配で「大丈夫ですか?」って聞いた時に「楽しいっす!」と言ってくれた時は、波長が合うんだなと思い正直“しめしめ”と思ってました(笑)。
ー森田さんが感じる山田さんの印象は?
森田:山田さんの作品は、美しい中で怪しさが際立っているというか、うまく言い表せないですけど妖異な感じ。ミステリアスって言葉も近いのかな。全部を全部出してはいないんです。なおさら想像を掻き立ててくれる。
山田:本当ですか?自分では結構わかりやす過ぎるのかなって思っているので、そう感じてもらえるのは有り難いです。ストーリーに余白のようなものを感じてもらえたらいいな。映像と写真とでは、映像は時間のタイムラインをそのまま撮りますが、写真になるとそのストーリーの中の一瞬を切り取っているイメージ。そこにある時間をちゃんと感じてもらえるとすごく嬉しいです。やっぱり僕が写真を撮る時は、写真家の真似ではダメ。だから僕らしく撮影自体を全てムービーのセッティングでやっていました。
森田:なかなかいないですよね。そのセッティングで写真を撮る方は。
山田:“写真をやりたい”という理由だったらいけないと自分の中で思っていて。なので森田さんが今おっしゃっていた“エアーメイク”はすごくいいなって思いました。それって作りたいと思っているものが、とあるところに到達する為の手段が場合によってはエアーであってもいいってことですよね?
森田:そうです!
山田:僕はそれが正しいと思っていて、自分も究極は監督じゃなくてもいい。撮りたいビジュアルが見えていて、それを成功させる手段がスチールカメラマンだったら、手段としてそれであるべき。だけど、カメラマンになりたいからという目的ありきだったら、別にカメラマンの真似をしなくていいんじゃないかな。なので、森田さんはいわゆるザ・ヘアメイクって感じではないところに魅力を感じています。やり方より、それよりも大事なことにちゃんと重心を置いている。その場面にいて楽しいっていうのはその究極なんですよ。だから僕も急に「照明やります」とか、普通にカメラを助手に渡しちゃったり(笑)。自分がスモークをやっていた方が楽しいなって時とかあるし。もちろんビジョンを持っていてですが、その気持ちの方が健康的な気がします。
森田:実際やるべきことって足さないといけないところは足すし、がっつり作り込むことだってもちろんあります。でもそこにスッと馴染んでるのであれば何もしない。そのままが正解だと思ってます。だから山田さんと初めて会った時は、意気投合したのを感じました。
山田:うん、これを言ったらずるいですけど単純に一緒にやっていてその精神が同じだと楽ですね。
森田:そうですね。損得じゃないからですからね!
森田:山田さんは映像作家として、メジャーもアンダーグラウンドも振り幅関係なくやっている気がして。それをやっているのに、こっちもやるんだ!ってすごくかっこいいなと思います。メジャーでもパンクなマインドがあるし、逆にアンダーグラウンドなところでの山田さんの作品はしっかりと価値を見出している。もちろん僕自身は技術的な部分はわからないですけど、MVって映像で曲に対してのイメージがすごく付いてしまうものなので、やっぱり大事ですよね。音楽に映像がフィットしない作品もたくさんある中、山田さんは音楽にフィットするものを作っていて、アーティストと曲に対してちゃんと同じくらいの熱量を感じます。
山田:ありがとうございます、森田さんは本当に映像をたくさん観てますよね。森田さんから定期的に今イケてるMVが海外のも含めて10個ぐらい送られて来るんですよ!かなりちゃんと観ているんだなって驚きます。音楽も映像も邪がなく好きなのがすごい。僕は結構邪なのでそこが僕と違う部分なのかな。
森田:山田さんは作っている側だからかもしれないですね!
山田:だからこそ森田さんの感性が信用できるのかな。純粋に好きな上に、見る目があるから逆に僕からしたら1番手厳しい相手なのかもしれないです。
森田:いや、そんなに深くないですよ!写真も音楽も今の自分の気分にハマるものを見たり聴いたりしているだけです。映像を見た時に単純に、“あの人も好きそう”って山田さんのようにわかる人たちにすぐに共有したくなっちゃうんですよね。確認って意味も込めて!
山田:MVを撮る時はまさにそんな感じで。この曲は絶対に届いてほしい!という思いでやっています。その届ける手段が僕の場合は映像だった。森田さんはその気持ちを純粋に持っていて、さらには周りに共感させて巻き込んで、同じ熱量の人が集まっているんだなと思います。
森田:“この人に知ってほしい”が優先して、僕は極論自分のことはどうでもいいなと思っていて。普通にドキドキワクワクしていたい。僕の仕事は美容師でヘアメイクで、それ以外の何者でもないです。ありがたいことに、カメラマンとか役者にミュージシャンっていろんな人が髪を切りに来てくれる今の環境の中で、この人とこの人が繋がったら最高だろうなって感じるんですよね。プラスのパワーが生まれるのを感じて紹介をする。そこから生まれるものに期待しているのかもしれないです。まさに映画を見ているような感覚!最近思うことで言うと、“踊ってばかりの国”のMVを山田さんに撮って欲しいなって思ってたり。お互いの持ってるものがすごく合いそう!
山田:言ってましたもんね!色々聴かせてもらって、僕もやりたいなって感じました。その森田さんが言ういいなって思う人同士を合わせたい気持ちはなんかわかる気がします。
ー繋がりこそ、新しいカルチャーの発端のような感じですね。
山田:それにあんまりジャンルにこだわらない。好きだなと思うものが多ければ、ジャンルはいらないと思います。森田さんの好きな連鎖ってそれだけで事足りるんだなと、その感覚だけでいいですよね。
森田:本物の好きって気持ちがなかったら、そもそも言えない気がします。山田さんがMV作ったら“ちょっとよくなりそう”ぐらいの気持ちだったら違う。お互いが絶対を求めていることだから、その程度の気持ちの時点で嘘になると思います。
山田:本当にその通り、僕はそのことを“地に足がついてる”と表現しています。言ってしまえば、本質的には好きじゃないけど、イケてるものってたくさんあるじゃないですか。
森田:ありますね。
山田:そこに甘んじない力は大事だと思います。
森田:そんな中途半端な気持ちではやりたくないですよね。
山田:この人いいなって思う気持ちで言うと、美容師さんの良さって髪を切ることで物理的にその人と接触してるじゃないですか。その人のことが好きかどうか、率直にわかりそうですよね。なんか…付き合う前にキスしてるみたいな?
一同:笑!
森田:キスの話しですか!?
山田:例えばです(笑)!キスすればわかるじゃないですか、好きか好きじゃないかって。なんかそれっていいなって思って。
森田:笑!嬉しいなって思うのは“お任せで”って言われること。フィーリングが合う人に対して、自分がデザインして落とし込めるじゃないですか。そこに信頼関係を感じます。単純に髪の毛をせっかく切ったのに、1ヶ月、2ヶ月と変な髪になっちゃったら嫌じゃないですか。なので試されてるじゃないですけど、“お任せ”はすごく嬉しい。楽しくもあるし、結構プレッシャーですね。
山田:そうですよね。それにどんなことでも相手と長期的な関係値を築くのって、難しいはずなんですよ。美容師さんも映像監督も、写真家も選択肢がたくさんあるから。なので、ひとりのアーティストがずっと同じ写真家にお願いするという今のシーンがあまりないのかなと。僕はちゃんと連続で作品をやっても、しっかり違いを見せれる自信はあります。こんな例えをしていいのかわからないですけど、ワンナイトって楽じゃないですか。
一同:笑!
森田:さっきからそっちに寄せていきますね…(笑)。
山田:すみません(笑)。何事も続けていくことに意味があるはず。続けることの難しさはあるけれど、その中で更新していかなきゃいけない。作る人が変われば、その人の新しい面が見えるのは当たり前のことだし、同じ人と向き合って見える新しい面こそ本当の意味で変化と深みに繋がるんじゃないかな。結婚ってまさにそういうことじゃないですか。
森田:確かに。あと続けることは全然甘くない、1回外すと終わりみたいな綱渡りでもありますよね。それでも楽しいって思います!いい緊張感。身近な人と一緒に仕事をする時も、仲良しこよしでやるんだったらプライベートで集まって飲むだけでいいじゃんってなります。環境に甘えないで、どんな時でもやるからには絶対にいいものをやりたい。
森田:山田さんの映像はどれもかっこいいなって感じていますが、満足したことはありますか?
山田:編集が終わった瞬間はもちろん「最高なのができた!」って思うのですが、満足はしてないかもしれないです。
森田:それって、ネガティブに聞こえるかもしれないけど、超ポジティブですよね!周りからはすごくいいって評価されるものでも、まだまだ出来るってことじゃないですか。僕自身これでOKって思ったらそこで終わりだと思っていて。「あのバンドってやっぱりファーストが一番いいよね。」ではなく、常に最新のものが一番いい。それって縋ってなくていいな。そういう人たちは満足してない。一生発展途上中、だから僕の好きな人たちはみんな、最新のものが一番かっこいい。
山田:そういう抗ってる人って見ていてわかりますよね。更新し続けることは大変ですけど。
森田:もうこればっかりは作り続ける限りずっとつきまとうものですね。
山田:一生つきまといますよね…嫌だなぁ。
一同:笑!
山田:今年30歳で、今までは若手もベテランも関係ないと思っていて。でも経験は大事ですし、やってみて失敗した時の更新がないと、そこには辿り着けない。だから地道な積み重ねが本当に成長できる。
森田:自分の物差しで測ったらダメですよね。最初から失敗するとは思いませんが、もし結果が失敗だとしても、「絶対できるようになるし!」という気持ちでいつも取り込んでます。
山田:最近は危なさがないと危険だと思っていて、スムーズに進んだ時の方が“なんかいいもの”は作れるけど、実は全然何も得ていないかも。逆に本当にピンチの「うわ、まじでどうしよう…」って思っている時の踏ん張りの方が、良いものを生み出す糧になり、どこかで「あ、大丈夫だな」って感じることもあります。
森田:山田さんは、インプットとアウトプットがすごいですよね!
山田:インプットとアウトプットは絶対に比例すると思います。例えば、あいみょんの「今夜このまま」という曲を東京の河川で撮影したのですが、撮影にあたりたくさん調べました。そうすると今まで知らなかった治外法権とか歴史がたくさんあって。その知識を得ることなど、作品までのそのサイクルは大切にしています。
森田:その精神を持っているからやっぱり惹かれます。ちゃんとルーツを知ってこそ、山田さんから見えるイメージの視覚があるじゃないですか。なので映像を見てすごく納得できます。実際、新宿は人が溢れているし嫌悪感があったのですが、今日歩きながら山田さんが見ている新宿って好きだなぁって感じました。KID FRESINOくんの「Coincidence」のMVを見て新宿っていいなって思っちゃっている自分がいて。視点で全然違いますね。文化とかいろんな視点でとらえられたら面白いな。
山田:その視点や角度をMVで見てもらえると、嬉しいです。
森田:まるっきり違います!今日新宿にドキドキしましたもん。
山田:見てくれている人にどんどんその力を養えたらいいな。音楽は伝わりやすいけど、映像でも同じようにここから見える景色はちょっと特別に見えてほしい。そこに言葉はいらない。なんか言葉って難しいですけどね。「言葉にならないことが、成立するから映像っていいんだ」とよく話します。言葉に上手くできないからやってるのかな。コミュニケーションの手段として何かしている人って強いと思う。それを使って、人と接しようとしているし世界にも触れようとしているから。たぶん森田さんのヘアメイクもそうなんだと思います。まさにコミュニケーションそのものですよね。
森田:まさに!
山田:しかもそのTETRO自体がいろんな人のコミュニケーションスポットになっているって素敵ですね。でも本当に今やっていることがないと生きていけなかったかも、うまく出来ないです(笑)。自分がサラリーマンだったらダメになってたなと思います。今の自分だからこそ社会的にやれているっていう。
森田:いや本当ですよ、うまく出来ないし生きていけない(笑)!不器用なんだと思います。でもちょっと自分がズレていたりするのかなと思っていたことも、同じマインドの方とこうやって対談で自分の奥にあるものが間違ってなかったと、答え合わせができてまた一生懸命やろうって思えます。
SEASON STYLE DATA
ーこれまでがあってのこれから、今後も楽しみですね。
森田:一これからも自分がいいって思ったことで同じテンションで、交わっていけたらいいなと思います。
山田:楽しみですね。
edit_Asami Yamane
TOKYO BLUE EYES by TETRO
VISITORS : 001 高良健吾
VISITORS : 002 jan and naomi
VISITORS : 003 Meirin
VISITORS : 004 山田智和
VISITORS : 005 yahyel
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