観光産業化したベルリンテクノシーン。毎週末のクレイジーなパーティーや盛大なフェスティバルを目指し、多くの外国人が訪れる。一方、その地下では多様な人種/ジェンダー/セクシュアリティが混じり合うカラフルなクィアシーンが息づいている。そういったベルリンのカルチャーシーンで活躍するクィアピープルたちにフォーカスし、ベルリンのアンダーグラウンドで起こっている新しいムーブメントを紹介する「Berlin Fluid View」。
以下、ベルリン在住のマルチメディアアーティスト、ink Agopがナビゲートする形で進む。
今回は、Anika、Simon Kaiser、Nico Adomakoとミッテで待ち合わせをして、ベルリンの東に位置するLichtenberg(リヒテンベルク)地区にあるDong Xuan Center、通称ベトナムマーケットに向かった。社会主義時代の国交の名残りでベルリンにはベトナム人が多い。旧東ドイツ特有の寂れた雰囲気の倉庫街に巨大なプレハブが立ち並ぶDong Xuan Centerでは、アジア食材、電気機器、チープなプラスティック製品、コスメティックや衣料品などが雑多に並んでいて、まさに東南アジアに来たかのようだ。東西分断による移民の歴史が残るベトナムマーケットで撮影した。
—Simonは「Trade」というパーティーをOHMでやっているよね? 始めたきっかけは?
Simon:2012年にベルリンに引っ越してきたんだけど、来た頃はすごい遊び歩いてたんだ(笑)。その頃はメインストリームのクラブはほとんどがテクノやハウスにフォーカスしていた。「Yaam」とかのアフリカ人たちのパーティーでは他のジャンルの音楽スタイルがあったけど、でもなぜかそれらは終わってしまって……。そういうのが必要だって思って、3年半前に始めたんだ。
—テクノやハウス以外のパーティーが必要だと思ったの?
Simon:ノーテクノ、ノーハウスである必要性はない。ちょうどその頃、エクスペリメンタルなエレクトロニックミュージックが出てきた時期で、自分の周りにもいろんな音楽をやる友達がいたから、「Trade」をOHMで始めたら、最初からすごくいい感じだった。テクノにフォーカスしているパーティーは他にもたくさんあったからそこから離れるようにパーティーを始めたけど、今はテクノをもう一度紹介する試みをしているよ。
—Tradeはすごく早く成長したよね? 何が他のパーティーとの違いだと思う?
Simon:みんな違うものを求めていたんじゃないかな、ピュアテクノやハウスじゃないもの。テクノパーティーに行ったら、みんなハイになって一晩中ずっと同じエネジーレベルで踊っているでしょ。「Trade」はもっとアップダウンがあって、いろんなジャンルの音楽がかかるから、テクノに疲れた人たちには良かったんじゃないかな。
Simon Kaiser|Boiler Room Berlin x Scopes
—「Trade」のお客さんはどんな感じなの?
Simon:常に変化しているね。そこを快適だと感じる人が入れ替わりながら来ている感じ。若いクラブキッズはもちろん多いけど、音楽をやっている年上の人も来るし、ほんと多様だよ。
—Anikaは去年、日本でツアーしたよね。日本のお客さんの反応はどうだった?
Anika:Shackletonとツアーをしたんだけど、東京と大阪で全然お客さんが違ったのが印象的だった。東京はすごくファッショナブルでみんな完璧を求めて自意識過剰で、ちょっとパリみたいなイメージを受けた。ベルリンから来たらから、オシャレ過ぎてちょっと威圧感を感じたくらい。大阪は対照的で、みんな汚れても気にしない! って感じでワイルドに踊っていて、ロンドンのウェアハウスパーティーを思い出した。大阪のお客さんもスタイリッシュだけど、もっと遊び心があってトンがってたね。
—あなたはドイツ人とイギリス人のミックスで、ロンドン育ちで今はベルリンに住んでいるけど、どっちの影響が強い?
Anika:イギリスってすごく商業主義で経済の動きが早くて、流行の発信地みたいなところなの。多国籍で文化的にすごく豊かで、いろいろな音楽やスタイルが常に生まれているんだけど、みんな流行に敏感で人々の趣向もすぐ変わっちゃうから移り変わりが激しい。ファッションショーの数週間後には、ショーで発表されたアイテムを持っている人がストリートにいるくらい、みんな常にトレンドを追いかけていて、次に来る新しいものを手に入れようと必死。お金を稼ぐことが重要で、競争が激しい社会なの。そこで育ったのは特別な経験だった。
それに比べて私が初めてベルリンに来たときに感じたのは、徹底した反商業主義。寝起きでスーパーの帰りにフラッと現れたようなドレスダウンした感じがベルリンスタイルだから、ハイヒールを履いてオシャレしていたらクラブにも入れない。商業主義を打ち出す広告がほとんど無くて、ベルリンの外の世界で何が起こっているのかわからないくらい、流行からかけ離れた場所だった。流行最先端のロンドンから来たから、みんなすごく自分らしく自由に生きているように感じた。今はだいぶ変わっちゃったけど、それも時代の流れだよね。
—以前、カップルでベルリンに引っ越してくるべきじゃないって話していたよね? なんでだと思う?
Anika:何を求めてベルリンに来るかによると思うけど。多くの人は、人生の答えを求めてベルリンにやってくる。でも実際はベルリンには人々が迷子になる場所がたくさんあるから、カップルにとってそれは災難だよね! でも仕事のオファーがあって、住む家も見つけて、資金や必要なものが揃っていれば、カップルにとってすごくいい経験になるんじゃないかな。
—Nicoはどこ出身?
Nico:西ドイツ。父はガーナ出身で母はドイツ人だよ。
—民族的背景が、音楽スタイルにどう影響していると思う?
Nico:ドイツからの影響はあまりないかな。母が聴いていた初期のベルリンパンクやクラフトワークから少しはあるけど。でもアフリカンサイドからはすごく影響が大きいよ。ヨーロッパのクラブカルチャーでアフリカ音楽が注目を浴びるようになってからは特にね。BryteやGafacci、DJ Lagなど国境を越えたアーティストが出てきたことは素晴らしいよ。
—ベルリンではテクノ以外のヒップホップや他のジャンルの音楽に対して“マッチョ”な偏見があるように感じるけど、Nicoの音楽スタイルやパーティーをそれと比べてどう説明できる?
Nico:それどういう意味? 誰がそんなこと言ってるの? 今やテクノは地元の若者じゃなく、飛行機で各地を飛び回るような裕福なヨーロッパ人たちの白人主義のものになっちゃってるよね。白人じゃないDJもいるけど、ほとんどのビッグネームやお客さんは白人でしょ。ハイエリートなアートギャラリーに来るような連中と同じじゃない?
僕がプレイするパーティーでは、メインストリームのテクノパーティーより、アーティストもお客さんももっと多様性があるよ。テクノを聴いているからって進歩的とか文化的ってわけではない。もちろん古くからのテクノファンもいるよ、誤解しないで。僕が出会ったプロモーターやアーティストのことは全力でサポートするしリスペクトしている。重要なのは、オルタナティブな考えを持ち、ジェンダーなどの多様性を受け入れる安全なスペースを持つこと。
確かにメインストリームのヒップホップパーティーはマッチョだけど、単純に「テクノ」と「マッチョ」って一般化することは出来ないでしょ。ギャングスタ・ラッパーや僕の友達が銃でも持ってくると思ってるの? テクノ以外の音楽にそんなイメージを持っているっていうなら、ハードコアやエクスペリメンタルなエレクトロニックミュージック、ベースミュージックのシーンに、そんな連中が来ないことをハッピーだと思うよ!
—今度の予定は?
Anika:2019年1月からソロツアーで、シカゴ、トロント、NY、テキサス、LA、サンフランシスコ、ポートランドなど北米9都市をまわるよ。
Nico:2018年は目まぐるしい1年だったけど、最期にEinhundert partyをベルリンでやるよ。Simonの「Trade」と「No Shade」とのコラボレーションで、すごい楽しみにしてる。2019年はアジア、北米ツアーを予定しているよ!