Licaxxx × 荒田洸(WONK)「注文の多い晩餐会」 vol.05 〜堀込泰行の巻〜

DJを軸にマルチに活躍するLicaxxxとWONKのリーダーである荒田洸の二人が、リスペクトしている人を迎える鼎談連載。第五回には、シンガーソングライターの堀込泰行が登場。2017年リリースの堀込泰行のEP『GOOD VIBRATIONS』においてWONKとコラボレーションして以来、荒田とは親交を深めており、Licaxxxとは初対面ながらも共通言語はやはり音楽、となれば、の音楽談義に花が咲いた。誌面には載りきらなかった部分も含めて、完全版でお届けします。

毎週火曜は貸しレコに行く日

荒田:先日のWONKワンマンライブの打ち上げもありがとうございました。みんなでビリヤードをしましたもんね。

堀込:あのときは醜態を晒してしまって……。楽屋で緊張していたのもあって、打ち上げで、思わず打ち上がってしまった。ベロンベロンだから全然ボールに当たんなくて、スカーンって。一番年上なのに、担ぎ込まれるようにタクシーに乗せてもらった。

荒田:また行きましょう。

堀込:次は大人の振る舞いでね。

荒田:今日は堀込さんの生い立ちから聞きたいなと思っているんです。いまの堀込さんがどうやって出来上がったのかを掘り下げていきたいなって。

堀込:なるほど。

荒田:じゃあ聞きますね。出身はどこですか?

堀込:埼玉。生まれも育ちも。何もないところだった。

荒田:引っ越しは?

堀込:引っ越しは経験しなかったね。ただ、保育園は母親の職場に近い、家から少し遠いところに行っていたから、小学校に上がるときに保育園からの知り合いはゼロの状態だった。それはやっぱりキツかった。

荒田:お兄さん(堀込高樹)は小学校にいたんですよね?

堀込:でも、三歳違うから。最初の一歩はキツかった。友達ができなくて、母親が気を使って近所の子供たちに「友達になってあげてね」って。そういうなんとも言えない悲しさは覚えている。

荒田:小学校では部活なにやっていたんですか?

堀込:小三からサッカー少年団に入った。サッカーをやりたかったというより、友達が入るから入ろう、みたいな感じで。キャプテン翼世代だから。中学もサッカー部だった。

荒田:結構がっつりサッカーしていたんですね。

堀込:でも高校に入って、サッカー続けるか音楽やるかって悩んで、音楽のほうにいったね。それでフォークソング部という名の軽音楽部に入った。

荒田:音楽に目覚めたのはいつだったんですか?

堀込:もともとは、父や兄が聴いているものをなんとなく。父はエルヴィス・プレスリーとか、ジャズ、ラテン、ハワイアン。ビートルズが出てくる前に若者だった世代で、その当時の若者はロックじゃなくて、そのあたりを聴くのがおしゃれだったらしくて。兄はおばあちゃんにお小遣いをねだって買っていて、ビートルズやローリング・ストーンズ、ディープ・パープル、レッド・ツェッペリンといった、いわゆるロック名盤が家にあった。

荒田:意識的になったのは?

堀込:音楽を好きになったきっかけはクイーンだった。それが中学に入る前くらいかな。中学一年からアコギを弾きはじめたんだけど、中学三年のときにデフ・レパードにハマって、エレキをやりたくなって。高一のときにエレキを買ったんだけど、やっぱりエレキってああいう音楽をガーンってやりたくなるというか。鬱屈した欲のはけ口にはハードロックは打ってつけだった。

荒田:高校の頃はどんな遊び方をしていたんですか?

堀込:普段は部活に明け暮れていた。部長にもなっちゃったし、休むという概念がなかった。部活が火曜休みだったから、その日はレンタルレコード屋、“貸しレコ”って言ってたんだけど、に行く日だった。

Licaxxx:貸しレコード屋って結構あったんですか?

堀込:街に1〜2店くらいはあったね。人気のあるレコードはすぐ借りられちゃうから、お金ないときに見つけたら、人気のないアーティストの棚の一番後ろに隠しておいて、お金溜まったらそれを借りる、みたいな。

Licaxxx:そういうの、めっちゃいいですね。

荒田:高校ではずっとハードロックだったんですか?

堀込:いや、部活ではハードロックをやるんだけど、家に帰ると兄のレコードでXTCとかフェアーグラウンド・アトラクション、ストレイ・キャッツとかも聴くようになって。音楽的には節操がなくて、「曲がいい」のが好きなんだって自覚してからは、聴く音楽の幅も変わっていったかな。大学の頃は、ちょうど60〜70年代の名盤がCDで復刻されていく復刻バブルみたいな時期だったから、それで70年代のシンガーソングライターものとかソフトロックをすごく聴いていた。

荒田:そうなるといまの堀込さんと結びついてきますね。

堀込:そうだね。最初はコードを耳コピして真似から入るんだけど、だんだんそのバリエーションが増えていって。あえてピアノのシンガーシングライターものをコピーしたりもしていた。

荒田:その頃から、「曲がいい」という以外はジャンルというものをあまり意識してなかったんですか?

堀込:そうだね、基本的には。24歳のときに兄とキリンジを組むんだけど、そのときは、ある程度「このへんのサウンドを狙っていこう」というのはあった。

荒田:それは音楽で食っていくために?

堀込:というよりは、小さい頃から同じレコードを聴いていたし、兄のレコードを盗み聴きもしていたから。それぞれ同じアルバムのなかで好きな曲は違うんだけど、このアルバムが好き、というのは一緒だった。だからか、それぞれ勝手に作ったものを出し合っても、その相性が良かった。タイプの違う曲でも混じりがいいというか。

荒田:キリンジをはじめるまで兄弟で遊んだりしていたんですか?

堀込:いや、全然してない。家でもそんなに喋らなかった。「ただいま」「おかえり」くらい。そこから先、会話が弾みはしない。でもお互い音楽が好きで。不思議な距離感だったね。

荒田:大学を卒業するときに就活はしなかったんですか?

堀込:しなかった。

荒田:そこは音楽でいけるって思ったから?

堀込:いける気がしてた。マメにデモテープを送ったりもしないし、ライブもやってなかったのに。キリンジになってからはデモテープを送るようにはなったけど。

荒田:デビューするまではバイトはしていたんですか?

堀込:うん、近所の古本屋でバイトはしてたよ。好きな音楽をかけっぱなしで、楽だった。キリンジで1枚出したあとくらいに、それでもまだバイトする必要があったから、SFC音楽出版(現ウルトラ・ヴァイヴ)というレコード会社の倉庫で働いていた。1年くらいかな。

「曲がいい」という美意識

堀込:お二人は、曲を書くときにサウンドから入っていくのかメロディーから入っていくのかどっちなんだろうというのは聞いてみたい。

Licaxxx:私は完全にサウンドです。メロディーラインを考えるのが苦手で。音質、音の雰囲気から作っていきます。

堀込:なるほど。音楽の大事な部分を占める割合として、音像とかビートの割合がどんどん増えてきているなっていうのは十年くらい前から感じていることで。そのへんって結構、皮膚感覚の部分でもあるから、なかなか若い人たちと同じものを僕が出そうとすると難しいし、お勉強しないといけなくなる。だから、単純に真似するんじゃなく、自分はそれに影響を受けてこういう形になりました、という戦い方というか。これからもどんどん新しい世代は出てくるから。

Licaxxx:人によって、どの音に最初に耳がいくのかは違ってくると思うんですけど、それが世代ごと、時代ごとにあるというのは、指摘されて気づいたことで。前にナカコーさんに「音像の作り方というか、聴こえ方がこの世代の音だね」って言われたことがあったんです。

荒田:たしかに、サウンドのなかに世代間の違いはありますもんね。それで言うと、WONKもサウンド寄りですね。圧倒的にハーモニー重視、コード重視。その土台をやりきってからメロディーを積んでいく。だから、「このコード進行は腐るほど使われてきたからやらない」とかはあります。なんか恥ずかしくなっちゃうんですよね。

堀込:うんうん。そこがWONKらしさだから。

荒田:堀込さんは?

堀込:僕はね、コードとメロディーが一緒。だから当然、使い古されたようなコード進行も出てくるんだけど、自分の美意識としては、メロディーがしっかりしていて、「曲がいい」ものであれば、恥ずかしい感じにはならない。

次は受けた刺激を自分の音楽に取り入れたい

荒田:堀込さんは、『GOOD VIBRATIONS』(註:WONKのほかにD.A.N.やtofubeats、シャムキャッツらが参加)と、その次のアルバム『What A Wonderful World』でも外部プロデューサーを迎えていましたよね。

堀込:やっぱり一人だけだと出てくるアイデアも限られちゃうから。蔦谷(好位置)さんとやった曲もすごくおもしろかった。蔦谷さんは、ちゃんと人を楽しませるように作る。僕の場合は、自分の好きなことを突き詰めていけば、みんなも楽しんでくれるものができるだろう、という考えなんだけど。でもそれを本当に突き詰めていくには結構時間がかかる。それなら、おもしろそうなものを取り入れて枠を広げていくほうがストレスもかかんないし、作っていても意外性があっておもしろい。

Licaxxx:でも、いろんな人とコラボしてるのにどの曲にも“堀込さん節”みたいなのはすごく感じる。逆に、コラボした相手が堀込さんと組むとこうなるんだ、みたいな発見が私のなかではあって。それはたぶん、勝手にリスナーが思っているだけなのもあるだろうけど。

堀込:そうやっていろんな人とコラボレートしてきたなかで受けた刺激を、自分の音楽に取り入れていくほうにいま興味が向いていて。そうしたほうが自然といいものができる気がしている。

荒田: じゃあ次は自分で作る方向に?

堀込:うん、まだどうなるかわかんないけど。僕はわりと古典的なシンガーソングライターだけど、新しいことをやっている人たちから受けた影響を、僕の古典的な曲にうまくマッチさせて、独特のものができないかなと思っている。

荒田:次の段階が見えている感があっていいですね。

堀込:そうだね。楽しみではあるね。

堀込泰行

1972年5月2日生まれ、埼玉県出身。
1997年、兄弟バンド「キリンジ」のVo/Gtとしてデビュー。2013年4月に脱退後、現在はソロアーティスト/シンガーソングライターとして活動中。
オフィシャルサイト:https://natural-llc.com/yasuyuki_horigome/

荒田 洸

“エクスペリメンタル・ソウル・バンド”を標榜するWONKのバンドリーダーであり、ドラムスを担当。
@hikaru_pxr

Licaxxx

DJを軸にビートメイカー、エディター、ラジオパーソナリティーなどさまざまに表現する新世代のマルチアーティスト。
@licaxxx1