Berlin Fluid View #07 Jannik, Ayscha&Atefa / バーチャルキャラクター、音楽、ファッション

観光産業化したベルリンテクノシーン。毎週末のクレイジーなパーティーや盛大なフェスティバルを目指し、多くの外国人が訪れる。一方、その地下では多様な人種/ジェンダー/セクシュアリティが混じり合うカラフルなクィアシーンが息づいている。そういったベルリンのカルチャーシーンで活躍するクィアピープルたちにフォーカスし、ベルリンのアンダーグラウンドで起こっている新しいムーブメントを紹介する「Berlin Fluid View」
以下、ベルリン在住のマルチメディアアーティスト、ink Agopがナビゲートする形で進む。

去年の夏、あるイベントで撮影した写真にJannik Schneiderが写っていた。その後、別のイベントでも顔を合わせ、自然と話をするようになっていった。今回は、いつも一緒にいるAyscha Zarina OmarとAtefa Zabrina Omarの姉妹も連れて、フンボルト自然史博物館で撮影を行った。

Jannik Schneider

—どこの出身?

Jannik:3人ともハンブルグ出身だよ。

—いつベルリンに引っ越してきたの?

Ayscha:私は2009年にベルリンに来たから、もう10年になる。その当時は、ハンブルグを出たくて仕方がなかった。ベルリンはエキサイティングでビビットで、文化的で、アーティスティックですごく魅力的だった。ファッションをやりたかったから、ベルリンに来てインターンシップで働き始めた。

—この10年でベルリンは変わった?

Ayscha:私はずっとノイケルンに住んでいるから、ノイケルンやクロイツケルン(※1)でよく遊んでた。2010年にテンペルホーフ・フィールド(※2)がオープンしてからは、ノイケルンのシラーキウ・エリア(※3)はまったく変わった。昔は危険すぎて夜、出歩くなんてできなかった。しょっちゅう銃撃戦があっていつも警察が巡回してたし。10年前のヴェザー通りは今とはまったく違ってバーが2軒あっただけで暗くて静かな通りだったのに、ある年の夏、急に新しいバーやカフェが次々オープンして、今みたいなヒップエリアに様変わりした。昔は危険すぎて誰も住みたくないエリアだったのに、今やクロイツベルグやノイケルンでアパートを見つけるのは超困難になっちゃった。

Atefa:私は2018年の夏に引っ越してきたから、まだベルリンに来て1年半。ヴェティングに住んでる。ちょうど友達が引っ越すタイミングで、そのアパートを引き継いで借りることができた。いまベルリンでアパートを借りようとしたら、部屋の内見にたくさんの人が来て競争率がすごく高いって聞いてたからすごくラッキーだった。

L→R/Atefa Zabrina OmarAyscha Zarina Omar

—Jannikはバンドをやってるんだよね?

Jannik:DER RINGERというバンドを組んで10年になる。メンバーは入れ替わったりしているけど基本はハンブルグで10代の頃に出会ったメンバーでやっている4人組のロックバンド。今はみんな別々の都市に住んでるけどね。音楽はアヴァンギャルドなポップロックかな。いまセカンドアルバムを制作中だよ。

DER RINGER – HEART OF DARKNESS (Artificial Live Version)

—ハンブルグの音楽シーンはどうなの?

Jannik:ドイツの音楽業界において、かつてのハンブルグの音楽シーンは大きかった。特にバンドやシンガーにとっては。ベルリンはバンドにとってそんなに重要じゃなかったんだけど、ここ数年でガラッと変わった。この国の歴史とも相互しているけど、みんながベルリンに集まってきている。ケルンにはエレクトロニック・ミュージック・シーンがあったんだけど、いまやベルリンが全部吸い取っちゃった感じ。ロックに関しても、ドイツのシンガーはみんなベルリンに引っ越してきている。残念ながら、ハンブルグの音楽シーンは消滅しつつある感じ。
ハンブルグ市は港街の魅力を推し出した観光に力を入れていて、観光客向けのミュージッククラブを作って、サブカルチャーを発信するクラブを閉鎖に追い込んでいる。他のドイツの都市でも同じだけど、若い世代はみんなベルリンに引っ越してきてすべてがベルリンに集中してるって感じ。

—ベルリンと比べてハンブルグはどんなところ?

Atefa:ハンブルグはドイツではベルリンに次いで2番目に大きな都市で、大きなハーバーのある港街でノスタルジックでロマンチックなイメージ。そのイメージを誇りに思っているハンブルグの人が多いんだけど、私たちはちょっと違っていて……なんて言ったらいいのかな……。ハンブルグの人って、オープンじゃないというか、ちょっと冷たくて閉鎖的。
ハンブルグは街の構造がベルリンとは違って、街の中心部に文化施設や大学、ショップ、レストラン、バーが一点に集中している。そのまわりは住宅街になっていてお店は何もない。コミュニティが小さいから繋がりやすいし安心感を感じるんだけど、それがフラストレーションだったりもするし、心をオープンに開いてくれるのにすごく時間がかかるというか。でもベルリンって、たくさんの地区があってエリアによって個性が全然違って、それぞれにコミュニティがあって機能している。

Ayscha:でもそれって、街の歴史に関係してるでしょ。ベルリンは元々違う街や村が合併してできた大きな都市だから。ベルリンはたくさんの区で構成されていて、各エリアに強烈なキャラクターがあって、そのエリアに住んでいる人は自分が住んでいるエリアが居心地良すぎてそこから出ようとしない傾向がある。そこにすべて揃っているしね。私がベルリンに引っ越してきたとき、ベルリンの人ってすごくアンフレンドリーだって感じた。Berliner Schnauze(ベルリナーシュナウゼ)って呼ばれるベルリナー独自の態度や喋り方があって、一見すると失礼で反社会的な態度をとるベルリンのスタイルは、ハンブルグの人と全然違っていてすごくショックだった。それに私がベルリンに引っ越してきた10年前は、家賃や生活費がすごく安くて1ヶ月たったの500ユーロで生活できた。それってクレイジーだよね!

—ベルリンに引っ越してきて、ライフスタイルは変わった?

Atefa:ベルリンでは毎晩いろんなジャンルのイベントがあるからよく出かけるようになったけど、一度にたくさんのことが起きるから全部は行けないよね。ベルリンに来てまだ1年半だけど、たくさんの新しい人に出会っていろんなプロジェクトに参加してきた。ベルリンでは、いろいろなことが早いスピードで起こっていて、ボーッとしてると見逃しちゃう! って感じるけど、ハンブルグはたまに帰っても昔のままで何も変わってないって感じる。テンポが違うよね。

Jannik:自分は逆にベルリンに引っ越してきてあまり出かけなくなったかな。ここではたくさんのイベントが同じ日に開催されていて、一体どこに行ったらいいのかわからなくなるときがよくある。ハンブルグに居たときはバーで働いていて、いつも人に会うときはバーで会っていた。ベルリンでは、バーで友達に会うより家に遊びに行くことが多い。ベルリンはインターナショナルな大都市で、多くの人が同じシーンで何かしようとしてるから、そこで競争しなきゃって感じるよね。

—AyschaやAtefaはいま、ベルリンでどんな活動をしてるの?

Atefa:ハンブルグでファインアートを勉強してたんだけど、Ayschaの影響もあってファッションに興味を持つようになって、ビデオ作品やシアター作品でスタイリングの仕事をしてきた。Jannikのバンドのグラフィックデザインも手がけてきたけど、グラフィックデザインはあまり好きではないかな。ベルリンのイベントオーガナイザー集団「Creamcake」でプロジェクトマネージャーとしても働いていて、そこではインターナショナルなアーティストたちと一緒に仕事をしてすごく刺激をもらっている。それぞれのアーティストのさまざまなアイデアやアプローチ方法を知るのは、すごく良い影響になっている。

Ayscha:私はファッションとコスチュームデザインを勉強したあと、シアターやフィルムアカデミー、ビデオワークショップでコスチュームデザイナーとしてたくさんのプロジェクトに参加した。数年前から友達とファニチャープロジェクトやセットデザインにも取り組んでいる。いろいろなプロジェクトに参加してきた経験を生かして、そのすべてを自身のプロジェクトに反映させている。

—Ayschaの最新のプロジェクトでは、AtefaとJannikも参加してるんだよね?

Ayscha:そう、このプロジェクトは以前に書いた本が元になっていて、登場するキャラクターを現実化するのに二人がモデルをやってくれた。いろいろなプロダクト、コスチュームデザイン、デジタルプリント、香水、スカルプチャーなどマルチメディアを使ってキャラクターと世界観を作っていって、写真作品、ビデオ作品を作った。Jannikが撮影とポストプロダクション、Atefaがスタイリングでも参加している。キャラクターはハイブリッドでクィアな要素もある。

Title: Gothic Hacker Angel
[Credits]Art Direction, Styling, Set Design: Ayscha Zarina Omar / Photography, Post Production: Jannik Schneider / Assistance, Hair and Make-Up: Atefa Zabrina Omar / Models: Atefa Zabrina Omar
Title: Spiritual Cyber Demon
[Credits]Art Direction, Styling, Set Design: Ayscha Zarina Omar / Photography, Post Production: Jannik Schneider / Assistance, Hair and Make-Up: Atefa Zabrina Omar / Models: Chloe Brunotte
Title: Norm Tech Sorcerer
[Credits]Art Direction, Styling, Set Design: Ayscha Zarina Omar / Photography, Post Production: Jannik Schneider / Assistance, Hair and Make-Up: Atefa Zabrina Omar / Set Assistance: Simon Ertl / Models: Jannik Schneider

Ayscha:このあいだ、上の世代のアーティストと話していたんだけど、私たちのジェネレーションはひとつの分野だけで仕事をするより、自分のアイデアを形にするのに他のアーティストとコラボレーションする傾向にある、という指摘があった。ベルリンにはたくさんのアーティストがいるからコラボレーションもしやすいし、それが私たちのジェネレーションなのかな。

※1 Kreuzkölln(クロイツケルン):クロイツベルグとノイケルンを合わせたエリアの新しい呼称。

※2 Tempelhofer Feld(テンペルホーフ・フィールド):ドイツの軍事訓練区域にあった空港跡地に2010年にオープンした巨大な公園。

※3 Schillerkiez(シラーキウ):テンペルホーフ・フィールドの東側のエリア。テンペルホーフ空港が稼働中だった2008年までは低所得者層が住む治安の悪いエリアだったが、テンペルホーフ・フィールドがオープンしてから次々とレストランやバーがオープンし、一気にヒップエリアに様変わりした。


photography and interview_ink Agop

ベルリンを拠点に活動するビジュアルアーティスト。写真、映像、インスタレーションなどマルチメディアを使いビジュアル表現を行う。最近はバクテリアを使った発酵バイオアートを展開。またベルリンのアートスペースTROPEZや音楽イベント「3hd Festival」のドキュメンテーションなどを通してベルリンのカルチャーシーンに関わっている。
http://inkagop.com/
instagram @inkagop