文学について、小説について。音楽アーティストやスケーターにリコメンドを紹介してもらいつつ、自身にとって、それがどのような存在であるのかを聞く本企画。今回登場するのはぼくのりりっくのぼうよみ(以下、ぼくりり)。2017年1月に刊行された『伊藤計劃トリビュート2』(早川書房)では、ぼくりり自身が描いたSF小説『guilty』を発表。メディアNOAH’S ARKにおいても、様々な業種のクリエイターとの対談が文字のみで展開されている。稀有な表現者に聞く、好きな小説と、そこにある思考とは。
実際に書いてみるとけっこう異常な作業だなって。
ー文学、本との最初の出会いはいつでしたか?
「本をよく読むようになったのは小学校の半ばくらいです。漫画もよく読みますよ、最近ではそっちの方が多いくらいです」。
ーぼくりりさんと言えば、文学への造詣が深いという印象があります
「どうなんでしょうか!」。
ーというのも、ぼくりりさん自身、小説も書かれていますよね? それは文学が好きだからですか?
「たまに書かせてもらうくらいですが。やっぱり物語が好きなんですよ。人生も俯瞰して物語的に捉えているところがあります。僕は“やりたいと思ったことは絶対にすぐやろう”というのを人生のスローガンとして掲げています。『才能がないかもしれない、やってみてもうまくいかないかもしれない』とか、そういうことは考えても無駄なので、とりあえずやってみようと思って書いています」。
ー読むのと書くのとでは、勝手が異なると思うのですが、小説は書くのも好きですか?
「もちろん好きなんですが、実際にやってみると物語を創るのは大変な作業だな、と感じています。というのも、登場人物として、人間を何人も自分の中に創らなくちゃいけないじゃないですか。それらを交流させる。これってけっこう異常なことだと思うんですよ。自分の内に色んな人格がいて、それらが言葉を交わすのは面白いけど異常な作業ですね」。
ーリリックを書くのと小説のストーリーを書く作業はまったく違う?
「それはもう全然異なりますね。楽曲であれば、フレーズの一部を共有してもらえれば良かったりとか、そもそも音楽として受け入れてくれれば、それで良いとも思えるし。でも、物語は音楽に比べると受け手に委ねる部分があまり多くない感じがするんですよ。あるストーリーを描くにあたって前提をわかりやすく読者に共有したうえで始めなくてはならない。歌詞は論理性が重視されないので。そういった意味で、歌詞と物語は全然違うルールでやる作業だと思います」。
ーなるほど。では、今回、読者にオススメしたい小説を教えてください
「オルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』(※)ですね。非常に有名なディストピア小説です」。
※『すばらしい新世界』…1932年発表。テクノロジーが進化した架空の未来において、人間の尊厳や自分らしさを見失っていく様相を描いたSF小説。本作において、人間は培養ビンで製造され、選別されることで、誕生以前から自身の階級や社会的立ち位置が決定づけられる
すでに僕は洗脳されているんじゃないかと感じて。
ー本作を選んだ理由は?
「個人的な話になるんですが、最近気がついたことで『自分の人生はどうやっても不幸になる』という考えが、自分の根底にあると感じたんです。今が幸福な状態であっても、いつか不幸に転落してしまうんじゃないか、という感覚があって。それは一体なんなんだろう? と考えると、これまで触れてきた様々な物語に僕が洗脳されてきている、ということだと思うんです。物語と自分の人生を混同させてしまっているというか」。
ー触れてきた様々な物語というのは、どんな話ですか?
「例えば、子供向けのヒーローものだとかアニメもそうだと思うんですが、物語の場合は、主役が、まず辛い目に遭ったり、災難に巻き込まれた後、何かを勝ち得ていくーーという構造が多いじゃないですか。序盤で調子良くいっている人は大抵の場合どこかで失敗してしまう。いわゆる勧善懲悪のストーリーにおける基本的な展開です。それを見すぎた結果、なんとなくですが、成功って長く続かないというイメージがついていて。そういった物語を経て、自分の中には“勝ち続ける”ということではなく“一度沈む”ということの方が強くインプットされていたんですよ。『すばらしい新世界』では、人間が生まれつき階級分けされていたり、洗脳されている、といった描写があるんですが、それに近いことが実際に行われているんじゃないかと感じて、すごく興味深く読んでいたんです」。
ー『すばらしい新世界』はディストピア系小説の名作ですが、ぼくりりさんも『ディストピア』というEPを2016年にリリースされていますよね。このように好きな文学が表現する音楽に影響を与えることはありますか?
「直接的に影響を与えられています。物語の話をモチーフにしたテーマを楽曲に設けることもあります。例えば『ディストピア』にも収録されている『Newspeak』です」。
ぼくのりりっくのぼうよみ – 「Newspeak」ミュージックビデオ
「これはジョージ・オーウェルの『1984年』(※)という、同じくディストピア系のSF小説に出てくる架空の言語、ニュースピークに由来しています。物語のうえでは、語彙や思考を制限していく言語がニュースピークなんですが、この楽曲も“言葉を失っていく”というテーマで描きました」。
※『1984年』…1949年発表。前述の『すばらしい新世界』と並びディストピア小説の傑作として挙げられることが多い。ニュースピークは本作における架空の言語であり、思考を単純化し犯罪を抑止しようとして成立した、英語を極限まで簡素化させた言語のこと。
ーそういったテーマを持って曲を聴くと、また楽しみ方が変わってくる気がします。普段、ライブに来たり、CDを聴いているリスナーにも本を読んでほしいと思ったりすることがあるんじゃないですか?
「押しつけることはできませんが、確かに本は読んでほしいと思いますね。基本的な読解力がある程度まであると、僕の楽曲はそれまでより、もっと楽しんでもらえる可能性があると思うんです。音も作り込んでいるんですが、歌詞も世界観を作り上げているので。音も歌詞もどっちも楽しんでもらえたらすごく嬉しいです!」。
今回、インタビューに応じてくれた、ぼくのりりっくのぼうよみは3rd ALBUM『Fruits Decaying』を11月22日にリリースしたばかり。未聴の人は今すぐにチェック。
Special thanks_LITHIUM HOMME ※着用しているウエアはすべてリチウム オムのもの
ぼくのりりっくのぼうよみ – 3rd ALBUM『Fruits Decaying』 全曲試聴トレーラー映像