[ZINEspiration]Vol.05 小磯竜也

クリエイティブに携わる人々に、お気に入りのZINEをレコメンドしてもらう連載シリーズ『ZINEspiration』。Yogee New Wavesのツアーグッズのデザインや、今年熱海にオープンしたファンキーな土産物屋「論LONESOME寒」のアートディレクション、店内装飾などを手がける小磯竜也に、自宅で話を聞かせてもらった。

アメリカンなテイストにオリエンタルなムードを融合した、ユニークなスタイルが魅力の小磯竜也。学生時代に、YMOやはっぴいえんどのレコードジャケットを手がけたチーム、WORKSHOP MU!!の存在を知り、その作品に大きな影響を受けたと話す。

「デイヴィット・ホックニーとか、イギリスやアメリカのポップアートがずっと好きだったんだけど、彼らのことを知って、日本でもこんなものを作れる人がいたの? っていう衝撃を受けて。戦後間もない頃に生まれた人たちで、アメリカへの憧れがすごく募ってた世代だからこそ、ある意味アメリカ人よりアメリカらしい作品なんですよ。そういう幻想のアメリカを日本人が作ってるのがすごくおもしろいなと思って」

その後、デザインの仕事を志した際に、WORKSHOP MU!!のメンバーだった中山泰に直接会いに行ったほど感銘を受けたのだという。そんな彼の制作のイマジネーションは、どんなところから湧いてくるのだろうか。

「例えばこの絵では、古いマッチ箱に描いてあったお相撲さんと、アメリカの広告に載ってた無名のかっこいい男性と、浮世絵の風景を組み合わせているんですけど、そんな風に、出会わなかったものを、ひとつの絵の中で会わせたいと思っちゃうんですよね。絵はずっと描いているので、どちらかというと自分のことは“デザイナー”というより“絵描き”だと思っています。だからデザインについても、絵描きである自分がその美学のもとに、すべてに責任を持って作っているというつもりなんです」

そんな自身の制作ポリシーと重ね合わせて、ZINEについてこんな風に語った。

「ものづくりに関わるときは、最後の形までなるべく全部に関わりたいと思っていて。本を作るんだったら、表紙も、本文のデザインも写真も、できれば自分でやりたい。だから、自分以外の人が作ったものでも、そういう気持ちで作られているものが好きなんです。ZINEは、ほかの人の手が入らずに作られることが多いから、そういう意味で責任を持って作られてるものが多いなと思います。あとは、売れるためにこういう風に作ろうとか、余計な雑念が一切入ってない状態でできてるところにもよさがあると思うんです。量産できない方法で作れるのもいいところですよね」

【小磯竜也がレコメンドするZINE5冊】

重竹伸之『都市の使い方』

「ぱっと見、坂とか手すりとかオブジェが写ってるだけの一貫性がない街並みの写真なんですけど、実はスケーターたちが街のなかで練習するスポットばかりを撮り集めたZINEなんです。あるとき、重竹さんが街を歩いていて『この手すり、すごい傷があるな』って気づいて。そのうちに、スケーターが練習してる場所なんだっていうことがわかってから、探すのが楽しくなって撮りためたんだそうです。そういうコンセプトを文章では説明してなくて、最後のページだけスケボーが写ってたり、最初のページの洗面台の写真でスケートパークみたいなイメージを感じさせたり、それだけでにおわせてるんですよね。地味だけど視点がおもしろいなって。『論LONESOME寒』で取り扱ってます」

丸目龍介『I’m your fool』

「彼は天才ですね。芸大時代の同級生のなかでも、もっとも自分の美学に則って行動してる人だったし、すごく尊敬してます。例えば、僕の荷物が多かったときに、トートバッグを貸してくれたんですけど、かばんからきれいに畳んだトートバッグを出してきて。それをゆっくりゆっくり開いて、取っ手のヒモのところをきっちり伸ばしてから、クシャクシャになってない、ピシっとした状態で渡してくれたことがあって。『はい、かっこいいです』と(笑)。これは、外側のビニールにも書いてある般若みたいな顔を折った折り紙に、タートルズとかのペイントがしてある作品がひたすら載ってるZINEで。彼がギャラリーで展示してるときにこのZINEを買おうとしたら、プリンターの調子が悪くてちょっと色が変なやつをくれたんですけど、逆にいい感じにかすれたりしてるんですよね」

PUGMENT『正しい装い』

「PUGMENTっていうファッションレーベルが、3年前に展示をやったときのZINEです。展示では、彼らが自分の昔の服をつなぎ合わせて仕立てたスーツを着て、新宿中央公園で8時間ずっと考えごとをするところを撮った映像作品が上映されてたんですけど、その映像のキャプチャをまとめたもので。『8時間』っていうのは、おそらく平均的な労働時間で、そうやって洋服に対する考え方を広げていくような活動をしている人たちなんです。彼らとは、お互いまだ仕事もそんなにしてないような頃に、よく一緒に喫茶店に行って、自分たちが作ったZINEを交換しあったりしてました」

小磯彩乃『A Soft Living』

「僕がデザインした、妻の作品集です。客観的に見てすごくいい作品だなと思ったシリーズで。彼女は、実物大の洗面台をクッション材や布で作ったり、かぎ針編みで櫛のケースや、指先くらいのサイズのお花を作ったりしてるんです。洗面台の作品単体のタイトルは『柔らかいフェミニズム』なんですけど、そういう自分の思考を、センセーショナルでエッジのきいた表現じゃなくて、最終的にやわらかい表現で出していきたいという彼女の思いがこもっているなって。『暮らしに丁寧もなにもあるもんか』って、本人がTwitterに書いてた言葉がいいなと思って、その言葉もこのZINEには入れました」

小磯竜也『ドカン』

「たぶん小1か小2の頃に作ったんだと思います。一応ストーリーもあるんですけど、『土管』と『ドカン』っていう音を引っかけた、ただのダジャレですね(笑)。この頃は、こういう工作っぽいことをするのが好きで。その後は絵を描くことが中心になっていったんですけど、例えば『論LONESOME寒』の店内の装飾を、自分でホームセンターに行って材料を買ってきて作ったりしているのも、もともとこういう工作が好きだったことを思い出したら納得がいって。自分の原体験ですね」

INFORMATION

LITTLEBEACH Studio(小磯竜也 OFFICIAL SITE )
http://www.littlebeach.net

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