DJを軸にマルチに活躍するLicaxxxとWONKのリーダー/ドラムスである荒田洸の二人が、リスペクトする人を迎える鼎談連載。第十回には、シンガーソングライターの藤原さくらがジョイン。さまざまな現場で顔を合わせてきた間柄だからこそのくだけた雰囲気のなか、彼女の音楽遍歴やその元にあるもの、アメリカ留学での出来事などなど、他愛もない、かつ実りある会話となった。
EYESCREAM誌面には載りきらなかった部分も含めて、完全版でお届けします。
ボーカルスクールに通い出したきっかけ
荒田:(映像作家の)古賀祐太くんと仲良いんですよね?
藤原:なんで知っているんですか?
Licaxxx:この連載の第一回でも写真撮ってもらったよね。
荒田:そうそう。WONKの江﨑文武が福岡出身で、祐太くんは高校の後輩らしくて。WONKの最初のMVも彼に撮ってもらった。どんなつながりなんですか?
藤原:元々はお互いのお父さん同士が友達で、そこからですね。高校一年のときかな、ライブハウスでタップダンスをするからって誘ってもらったんです。それが超かっこよかった。同い年の友達が、ステージで活躍して拍手されているのを見て、私もボーカルスクールに通い出しました。
荒田:タップダンスを見たことにより?
藤原:はい。彼がある種きっかけだった。それまでは「シンガーソングライターになりたい」って思っていたけど何もしていなかった。
Licaxxx:連載十回目にして一回目の話につながるという。
藤原:すごい。
荒田:ロンドンから帰ってきて、いまは東京で暮らしてますよ。
藤原:でも去年、急に「やっほー元気?」って電話もらったとき、海外にいた気がするんですよ。
Licaxxx:いつもどこにいるかわからないよね。
荒田:さくらちゃんのライブを初めて見たのがGREENROOM FESTIVAL’18なんですけど、そのときの印象が強すぎて。さくらちゃんがライブしている向かいのステージでWONKがセッティングしていたんですけど、そのときにビートルズのカバーをやっていて。
藤原:「Come Together」ですね。
荒田:そうそう。そのアレンジがめちゃくちゃ攻めてた。
藤原:攻めてましたよね。サビの「Come Together」ってところでようやくカバーだとわかるくらいに。
荒田:え、こんなバキバキだった? みたいな。それまではいわゆるシンガーソングライターのイメージだったから。よく見たらバックバンドがYasei Collectiveの人たちだった。
藤原:私、いろんな方にサポートミュージシャンをお願いすることが多くて。そのときは既存の曲もYaseiの皆さんと一緒にアレンジを全部変えました。
荒田:だからあんなイカつかったんですね。びっくりしたもん。
藤原:(現在はYaseiを脱退した)別所さんはキーボードの先生なんですよ。
荒田:すげえところに習ってますね。
藤原:外出自粛中は週二とかで、オンラインで定点カメラを置いてもらって習っていました。
いまはギター弾かなくていいなら弾かない
荒田:mabanuaさんと一緒にやったあたりから、ちょっとずつ打ち込みっぽくなっていっている気がしていて。最初、2015年くらいに『à la carte』を聴いたときは、星野源さんとかYUIさんのアコースティックなサウンド感に似ている印象を受けたんですけど。
藤原:大好きです、YUIさん。
荒田:なんで打ち込みの方向になっていったんですか?
藤原:聴いている音楽だと思います。『à la carte』のときはノラ・ジョーンズのような、シャって感じのドラムとウッドベース、といったサウンドでやりたかったんですけど、(Ovallの所属する)origami PRODUCTIONSのコンピを聴いたときに、めちゃくちゃかっこよくて、ヒップホップって面白いなって思ったんです。自分の血に無いものだったから。
Licaxxx:今回のアルバムも、いままでとまた違った感じになってるよね。
荒田:そうだね。打ち込みは打ち込みだけど、mabanuaさんのサウンド感と全然違いますよね。
藤原:違いますね。前のEPではmabanuaさんと全部一緒にやったんですけど、今回はいろんな人とバラバラのジャンルの曲をやりたかった。いまの流行りでもある、ドラムやベースがブイブイ鳴っているのが最近好きで、(最新アルバムに収録の)「Monster」にしても、元々はカントリー調の曲で、ギターがハネててBPMも遅めだったんですけど、プロデューサーの冨田(恵一)さんと相談して、ドラムとベースに歌が乗っていてギターはそんなにいらない、といったサウンドになりました。
Licaxxx:アコギをやるモードじゃないと。
藤原:そうですね。いまはギター弾かなくていいなら弾かない、みたいな。
荒田:そこは楽曲ベースでいいということですよね。最近だとなに聴いてるんですか?
藤原:最近でいうと、ジンジャー・ルートというLAの人。ヴルフペックあたりの流れの、ミニマルなファンクみたいな感じがかっこいい。
荒田:(iPhoneで検索しながら)アー写がナード感ハンパない。
Licaxxx:ジェリー・ペーパーみたいなテンションだ。〈ストーンズ・スロウ〉にいそうな雰囲気。
藤原:愛嬌ありますよね。MVも自分でつくっていて、どれもめっちゃかわいい。
人生ほぼ初クラブをラスベガスで体験
荒田:初期から英語の歌詞が多いですけど、それって海外志向が強いからですか?
藤原:それもあるんですけど、とにかく英語で歌いたいという欲があって。日本語だと子音と母音が強くて、だからこそ歌えるものもあるけど、うまくはまらないことが多い。
荒田:わかります。自分が作ろうとしているメロディーに対して日本語を当てようとすると、やりづらさがある。いままで聴いてきたのが英語歌詞のほうが多いから英語のほうがやりやすいというか。さくらちゃんは洋楽と邦楽、どっちを多く聴いてきましたか?
藤原:洋楽ですね。お父さんの聴いていた音楽をずっと聴かされ続けてきました。
荒田:聴かされ続けて(笑)。
藤原:それがすごく嫌な時期もあったんですよ。ドライブのときにずっとトッド・ラングレンとか流されたり(笑)。でも自分で曲作りをはじめてから、そういった音楽も大好きになっていった。
荒田:お父さんはどういった方なんですか?
藤原:お父さんは元々、バンドをやっていてプロになるために上京したけど、お姉ちゃんが生まれたタイミングで福岡に戻って、いま福岡でおじさんやってるんですけど。
荒田:福岡でおじさんやられてるんですね。
藤原:趣味でチャカ・カーンのコピーバンドをしていたり。福岡いたときはお父さんがベース、祐太くんがドラムでスタジオに入っていました。
荒田:なにそれ、また祐太くん出てきた。
藤原:一番初期ですけど。
Licaxxx:強いな〜。
荒田:海外のリスナーを増やしたいとかはありますか?
藤原:一昨年に韓国と台湾でライブをしたとき、ライブ後のサイン会で「日本語話せないけどがんばって勉強してきました」みたいに言ってくれた人がいて。自分がこれまで聴いてきた音楽も、自分の行ったことのない土地で生まれた音楽だったりして、言葉もちゃんとわからないのに泣いたり楽しくなったりするのって音楽のいいところだなって。そういうことを改めて感じたので、海外にはもっと行きたいですね。フェスも出てみたい。
Licaxxx:海外のフェス楽しそう。
藤原:そういえば去年、LAとNYに一ヶ月、語学留学しました。そこでできた友達とラスベガスに遊びにいったり。
荒田:友達できたんすか。すげえなコミュ力。
藤原:一緒の週に入った同期みたいな人たちがいて、スイスと韓国とベルギーの子と仲良くなりました。それまで日本でもほぼクラブに行ったことなかったけど、ラスベガスで行って。パイとか投げたりする日系の有名なDJが出ていたんですけど。
Licaxxx:スティーヴ・アオキじゃない? ブチアゲだね。
藤原:そうだ、その人。
荒田:スティーヴ・アオキが回してるラスベガスのパーティーってやばそうだな。どういう気持ちで行ったんですか?
藤原:社会科見学みたいな感じで。
荒田:俺だったら顔引きつっちゃうな。でも行ってみたい。
Licaxxx:わかる。ハリウッド映画みたいな感じだった?
藤原:たしかにすごかったけど、治安が悪すぎた。この世の終わりみたいな。
(一同笑)
藤原:友達が男の人と消えていったなと思っていたら、パンツ取られちゃったよってノーパンで戻ってきた。パンツって自分で脱がないと取られないじゃないですか。だから怖いなって。
荒田:どういう状況(笑)? それはすごい経験ですね。
荒田:今後、やりたいことってどんなことですか?
藤原:バンド組んでみたい。いままで一人でやってきたので。
Licaxxx:わかるわかる。
荒田:わかるの?(笑)
Licaxxx:みんなで曲作っていいな、みたいな。自粛期間中に一人で曲作ろうと思ったけど全然無理だった。誰かと一緒だったらやれたかもなって気がした。
藤原:音楽性が合致すると楽しいんだろうなって。一緒にやるって素晴らしい。
荒田:どういうバンド組みたいですか?
藤原:うーーん。
Licaxxx:昔から仲良い人と組みたかったな。
荒田:じゃあ祐太くんだ。アー写とかMVも撮れるしね。
藤原:連絡してみよう(笑)。