ゼロから何かを生み出すときの、昼間だって深夜のように一人ぼっちの時間、あの人はどんな場所でときを過ごすのだろう。クリエイターたちの創作に欠かせない、フェイバリットなお店を紹介していく連載『完全安全地帯』。
ストリートな感覚を持って静かに張り詰めたビジョンを描き出すアーティスト、ARIKAと共に訪れたのは、門前仲町駅を出てすぐ、1980年から営業を続けるカフェ東亜サプライ。
「中学生の頃、夏休みに美術の展覧会を観に行ってレポートを書くという課題があって。母が適当に見つくろってきた、近所の公民館の展覧会に行くことにしたんです。地元の画家さんや趣味で絵を描いている人の絵が飾ってあるような展示だったんですけど、そのなかにあった、なんの変哲もない公園の風景画になぜかめちゃくちゃ惹かれた。それまでも絵を描くのは好きだったけど、それをきっかけに俺も誰かに感情を芽生えさせることのできる絵を描きたいと思い、よりのめり込んでいきました。いまとなってはその人の名前も覚えていないし、どこの誰かもわからない人が描いた絵なんですけどね」
「大学時代は銅版画をやっていました。もともと細かな線の絵をボールペンで描くことが多くて、銅版画は緻密な表現をしやすいんです。メゾチントという技法で、大きな作品だと版をつくるだけで3週間くらいかかったりするんですけど、自分にはすごく向いていて、楽しかった。大学を卒業してからは、印刷に使うプレス機を自宅に置くのが難しかったこともあって、身近な画材である鉛筆で描き始めるようになりました」
「2年前くらいからは、タトゥーアーティストとしての活動もしています。細かい表現が好きなので、タトゥーは自分にしっくりきたんだと思います。もちろんタトゥーは人の身体に彫る以上、いろいろな制限があるんですけど、自分の中では絵を描くことと大きく違いはない。絵を買ってくれる人も、何かしらの思いを持ってくれていると思うんですけど、身体に僕の絵をいれたいと思ってくれるのは、より強い気持ちを感じて、嬉しいですね」
「2018年にANAGRAで個展(『666』)をやったときに、666枚の絵を描いたんです。絵を描いていくうえで、いろいろなタッチを身につけたいという思いをずっと持っていたんですけど、技術的に追いつかない部分があって。強化するために、自分が理想とするタッチの絵を、自分なりに消化できたと思うまで何枚も描くことを続けた。それを続けるうちに、だんだん絵が変わってきたし、引き出しが増えたと思います。自分には絵画をつくろうという意識もあるし、出力は鉛筆というアナログな手法なんですけど、コンポジションをハッキリととったデザイン寄りな感覚も好みです。いつも画面がかっこよく成立することを意識しています。そのせいか、最近はグラフィックに近いような作品も多いです」
「一時期、友達の使っていない家に住まわせてもらっていたことがあって。その家がこの店の近くだったんです。いまも比較的家が近いので、散歩がてら来て、普通にご飯を食べたり、ドローイングを描いたりしながら過ごしています。この辺りの地元のおじさんが、子どもの頃から来ていたという話を聞いたことがあるくらい昔からあるみたいで、雰囲気もいいですし、メシがうまい。ここのオムハヤシ、大好きなんですよ。あと、窓際の席から見える交差点の電光掲示板がめちゃくちゃ縦長で、表示される映像が縦に伸びちゃってるんですよ(笑)。それをぼーっと見ているのもけっこう好きですね」
「去年は展示を予定していたけれど開催できず、あまり作品をつくらずタトゥー中心の生活でした。でも来年は積極的に展示をしたいなと思っています。あとは仲のいい彫り師たちと一緒に、ウォークインでタトゥーをできるイベントもやりたいですね。自分は作品って、暮らしの中で衝突する何かからイメージを受け取りながらつくっていると思うんです。一つのことだけをずっとやり続ける人もすごいと思うけれど、自分はそういうたちでもないから、いろんなことをやるなかで影響を受けながらつくり続けていけたらいいなと思います」
ARIKA
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