COVID-19による感染がますます広がる2021年ベルリン、ロックダウンも段階的に厳しさを増している。ウイルスは狂乱のベルリンパーティーシーンを葬り去ってしまった。社交の場が消え、人々の気持ちが内向きになる。その状況にあってもなお、カルチャーシーンで活躍するクィアピープルたちにフォーカスし、新しいムーブメントを紹介する「Berlin Fluid View」。
以下、ベルリンでフォトグラファー/ビジュアルアーティストとして活躍するink Agopがナビゲートする。
ベルリンではタトゥーは非常にポピュラーで、モチーフやスタイル、入れる場所などにその時々のトレンドがあるように見える。ヴェディング地区(※1)にあるクィアタトゥースタジオ TTTRIPのメンバーに話を聞くと、意外にも内面的なタトゥーの話が聞けた。撮影はTTTRIP Tattoo Studioにて、当日全員がPOCT(ポイント・オブ・ケア・テスティング)を行い、陰性確認したのちに敢行した。
Florian Hirnhack(TTTRIP Tattooオーナー) @florianhirnhack
—TTTRIP Tattoo Studioをオープンしたのはいつ?
2018年2月にオープンしたよ。
—タトゥーアーティストになるまでの経緯を教えてくれる?
故郷のザールブリュッケン(フランス国境近くのドイツの都市)でプロダクトデザインを学び修士号を取得した。ベルリンに引っ越してからデザインの世界から離れて考える時間が必要だったから、独学でタトゥーを勉強しはじめた。絵を描くのが大好きだったから、自分の原点に戻りたいと思ったんだ。
—タトゥーのデザインを作るとき、どのようにインスピレーションを得ている?
いつも動物や植物の世界からインスピレーションを得ているよ。古い本にある医学、植物学、動物学、解剖学のイラストが大好きで、それらをコラージュして幻想的なビジュアルを作るんだ。
—TTTRIP Tattoo Studioをオープンしてから、ベルリンのクィアタトゥーシーンはどのように変化してきた?
スタジオをオープンすることは、私個人だけではなくベルリンのクィアタトゥーシーンにとっても大きな一歩だったと思う。すでにいくつかのクィアなバイブをもったスタジオがあったし、さらに多くのスタジオが登場してきた時期だった。伝統的なタトゥースタジオで拒絶されたり受け入れられなかったりすることの多い、多様なバックグラウンドを持つ人たちが安心できる空間を作りたいというタトゥーアーティストたちが起こした一連のムーブメントだった。いまはTTTRIPや他のスタジオの存在が、次世代のタトゥーアーティストたちを育てる場になってることを本当に嬉しく思うよ。
—タトゥースタジオは一般的に男性的な印象を受けますが、ヴェディングという場所でクィアタトゥースタジオをオープンしたきっかけは? また一般的なタトゥースタジオとの違いは?
伝統的なタトゥースタジオをジャッジしたくありません。デザインの美学と考え方については、誰もが独自のアプローチを持っています。しかし私自身や他の人たちの経験から、彼らはしばしば自分たちとは異なる人々に対して、保守的で感じの良くない態度を取ることがあることを知っています。そのため、非規範的な背景を持つ人が快適に感じるスタジオを見つけるのは難しいことでした。
ヴェディングはトルコ系、アラブ系、アフリカ系、アジア系など移民が多く住むインターナショナルでさまざまな表情を持つエリアです。また、若い世代に人気のエリアとは違って穏やかで落ち着いています。TTTRIPをオープンしたとき、ヴェディングにはクィアタトゥースタジオがなかったから、若い世代があまり探索してこなかったヴェディングの魅力に気づいてもらうきっかけになったんじゃないかな。
—ベルリンのタトゥーシーンで、クィアタトゥーアーティストはどのような立場と状況にいますか?
私はクィアコミュニティに居るので、ベルリンタトゥーシーン全体の状況についてはわかりません。ただ言えるのは、ベルリンクィアタトゥーシーンは着実に成長しています。ベルリンは、クィアやタトゥーをする人の割合がかなり多いので、世界的に見てもタトゥーをするのに最適な都市の一つと言えます。
—タトゥーを入れることが、クィアや自分が社会のマイノリティだと感じる人にとって、自分のアイデンティティの形成に役に立つと思う?
私たちはみんな個人です。たまに他の人より誇示したがる人もいます。私が見てきたなかでは、クィアとは社会のなかの個性の一つにすぎないということです。社会にはたくさんの層があり、これとそれ、というように世界を分けることはできません。
タトゥーをすることは、自分自身のイメージを確立するきっかけとなる一方で、考え方を共有するグループに所属する方法にもなります。あなたがどのように感じているかに関係なく、自分自身の身体はあなた自身のもので、それをどのように表現するかをあなたは自分で決めることができます。タトゥーは人々にとってペルソナを表現する一つの方法になります。
—タトゥーアーティストは、いくつもの都市を旅しながら働いているのをよく見かけます。ベルリンと他の都市との違いや、ベルリンのクィアタトゥーの特徴は何ですか?
確かに多くのタトゥーアーティストたちは旅をしています。タトゥーアーティストは、さまざまな土地で仕事ができ、世界中の面白い人たちと出会うチャンスがある素晴らしい仕事です。他の都市との一番の違いは、ベルリンのタトゥーアーティストの多様性と総数だと思います。こんなにたくさんのクィアタトゥーアーティストを見つけることのできる都市は他にないと思います。
—最新のタトゥーのトレンドは何ですか?
誰もが気持ち良く自分のアイデンティティを表現している限り、トレンドはないと思います。
—あなたにとってタトゥーの魅力とは?
タトゥーは自分自身に向き合いアートを表現するだけではなく、私がタトゥーを施術してきた人たちと超個人的なストーリーを共有してきた関係はどれも感動的なものです。私にタトゥーをオファーしてきたたくさんの人が、自分のストーリーの痕跡を残すために自身の体の一部を私に託してきたことを、いつも感謝しています。
—あなたにとってタトゥーの魅力とは?
私がタトゥーをしたクライアントが、初めて鏡の中で自分の体に新しいタトゥーを見たときの感覚は、いつも私を感動させる。クライアントは私の作品を一生身につけ、私は彼らの人生の一部になることができる。私にとってタトゥーとは、アート、工芸、人と人との相互関係が融合する美しい方法です。
Johanna @johanna.tattoo
—Johannaがタトゥーアーティストになった経緯と、TTTRIP Tattooのメンバーになった経緯を教えてくれる?
ファッションデザインを勉強していました。いまはタトゥーアーティスト、イラストレーター、ファッションデザイナーとして活動しています。私のテーマは、肌、タトゥー、ファッションの境界線を探り、身体の多様性に焦点を当てること。体に服を着せるだけでなく、直接体に取り込めないか考え、タトゥーを入れはじめました。私のタトゥーは、ヌード、ポートレイト、建築、幾何学などをモチーフに、シンプルで抽象的で動きのあるストロークで表現します。
TTTRIPは、巨大産業であるファッション業界とはまったく違い、すべての人をそのまま受け入れるとても暖かいクィアたちの小さなグループです。タトゥーアーティストとしてスタジオを探していてTTTRIPに出会えたのはとてもラッキーでした。
—あなたにとってタトゥーの魅力とは?
まず第一に、私を信頼してタトゥーをオファーしてくれるすべての人に感謝しています。彼らは私のアートを一生身につけて生きる、これは最大の栄誉です。もう一つは、自分のアートを表現できること。どこかの大きな会社のためではなく、エキサイティングなアイデアを持ってやってくる私の素敵なクライアントのために、私はクリエイティブに絵を描き、私自身の手によってタトゥーすることができる。タトゥーには私が好きなものがすべて含まれています。
—あなたにとってタトゥーの魅力とは?
タトゥーはさまざまなレベルで私に充実感を与えてくれます。もちろん1つはアートとして。私のクライアントが、私の作品を気に入って永遠に自分の体に入れたいと決心してくれたときが一番の喜びです。もう1つの側面は、タトゥーは人と人を強く結びつけること。私はクライアントと非常に個人的でディープな話をすることがよくあるんだけど、彼らのパーソナルプロセスの旅に同行することがあります。これは私にとってとても特別なことであり、どれほど感謝しているか言葉で表すことはできないくらい。クライアントが安全で心地よい気分を味わってもらえると、私にとってもすごく充実した気持ちになれます。
※1 Wedding(ヴェディング):ベルリンの北側に位置する、もともと移民の労働者が多く住んでいた地区で、家賃の安さからアトリエを構えるアーティストが増えてきたエリア。
※2 Kreuzberg(クロイツベルク):ベルリンの中心地ミッテの南東に位置するトルコ系移民がどっしり腰を据えるエリア。またクラブやバーも多く、若者に人気のナイトライフの中心地だった(COVID-19以前は)。