Crosstalk 山中拓也/THE ORAL CIGARETTES × 松岡那苗/NERD UNIT JAPAN CEO ストリートと音楽が密接に交差し合う今について

ストリートには音楽があり、アートがあり、そこで生まれる様々なカルチャーが実用性やムーブメントに伴って進化しスタイルを生み出してきた。そこにはマイノリティなファッションがあり、その斬新さや魅力が次第に市民権を経てマジョリティな存在になってきた。2017年、ストリートと音楽は密接か? このテーマを持って実現した今回の対談。話をするのはTHE ORAL CIGARETTESのフロントマン、山中拓也とストリートブランド、ナードユニットを手掛けるNERD UNIT JAPANのCEO、松岡那苗。

“ストリートを意識しているなんて、口に出せない感がある(笑)”
ー山中拓也

“現代に対してのアンチテーゼであったり、時代を象徴するもの”
ー松岡那苗

音楽×ストリート。その存在について

ー今回の対談は“ストリートファッションと音楽の今”がテーマになります。山中さんはステージのオンオフ関係なく、ファッションを楽しんでいる音楽アーティストの1人だと思いますが、ストリートファッションってどんなものだと考えていますか?

山中:明確な概念がないものだと思います。しかも、その概念が広過ぎて何かと問われると考え込んじゃいますね。ストリートファッションという言葉の“ストリート”に関してなんですが、僕の場合はHIPHOPがストリートだってイメージがあって。というのも、道ばたで、ドラムがないときにもビートボックスでやってしまうだとか。自分の体から生まれてくるビートを身1つで鳴らしていくことがストリートというか。その時代ごとのカルチャーそのものなんじゃないかな? と思ってしまうんです。

松岡:私もそんな気がします。ストリートファッションはファッションの中でも、特に固定概念に縛られていない自由なものなんだと思います。ファッションブランドの有名デザイナーが構築していくものでもなければ、企業が意図して作るものでもない。時代に対して『なんで今はこうなっているんだ?』といったユース憤りや思いで作られていたり、世界へのアンチテーゼを表現している。そしてスピード感が早い。まさに時代そのものを象徴するものなんじゃないかな、と。

山中:そうですね。その時々に流れている風潮や流行、全部を引っくるめてストリートという概念が構築されていると思うので、文化そのものと言えるかもしれないです。

松岡:時代に対してメッセージを発信していく、という意味で考えれば音楽がまさにそうですからね。そのときの風潮だとか、歌詞にも込められたりしているんじゃないですか?

山中:そんな気はしますね。でも、僕はストリートファッションだとかストリートミュージックだとか、ジャンルで縛って考えたことはないです。何なら『ストリートファッションを意識しています』なんてことは、僕の口からは言えないです(笑)。

ー山中さんが「意識しているなんて言えない」というのは、どういう意味ですか?

山中:ストリートのファッションというのは、今に繋がる長い歴史の中で育まれてきたものじゃないですか。色んな時代があって、その中で数多くのスタイルが生まれてきて、今があると思います。それをいちミュージシャンが簡単に論じることなんてできないなって。HIPHOPやレゲエをやっているミュージシャンはストリートファッションが好きな人も多いと思うんですが、彼らも、ミュージシャンとして“超えてはいけない一線”を作っているように見えますし。安易には語れないし、語ってはいけないと考えているんです。安易に入ってはいけない世界であるというか。

松岡:山中さんが入りづらいと感じているのは不思議に思いました。というのも、世界的に見ると、エイサップ・ロッキーやザ・ウィークエンドも、歴史あるブランドとコラボレーションしているわけじゃないですか。ファッション界としてはウェルカムだと思うんですよ。

山中:バンドマンが自分のテリトリー外のことを語ったりするのは基本的には難しいことだと思うんです。でも、好きなものは好きに違いないですからね。本当に確実に音楽もファッションも繋がっているものなので。『オレは好きなブランドの服を着て歌っている。そういう人間なんだ』っていう意思表示をしている感じですね。

松岡:その感覚すごくわかります。ストリートファッションって意思ですよね。例えば音楽とストリートが絡んだ例で言えば、ジャスティン・ビーバーの『Purpose』ツアーのマーチャンダイズが流行になって、ジャスティンを知らない人も着たりしている。着ている人も、きちんとした裏付けもなく着ている。そんな風に音楽が先行する場合もあって、ファッションと音楽は親和性が強い領域だと思いますし、音楽を知っていないと、ちゃんとストリートを語ることはできない。そんな関係性がありますね。



“好きなファッションを体現することで自分を表現するって意志を提示しています”
ー山中拓也

“自ら選ぶという思考がストリートで何か新しいものが生まれる原動力になる”
ー松岡那苗

自分らしさを表現するということとは?

ー松岡さんはファッションシーンにいる人間として音楽カルチャーをどのように捉えていますか?

松岡:ファッション界にいる人間として、意図的に音楽を聴こうとはしていないですね。ストリートが好きな人は音楽も好きな傾向が強いと思うので、音楽カルチャーを無理に意識するということはないです。たまたま聴いていた音楽が自分に繋がったりしますし。私もロック好きなので、そこからストリートに寄っていった気がします。知らぬ間に、2つのカルチャーを並行して考えているというか。

山中:生き方っぽいですよね。すべてに言えることかもしれないですけど、生きる過程で吸収してきたものが出ているという感じがします。その人が何かをクリエイトするにあたって刺激を受けるには、共通点があって、それがファッションにも表れてくる。生きて獲得してきた趣味嗜好が投影し合うものなんでしょうね。

松岡:
そうですよね。私、こうしてお話する間に、山中さんがこう考えているのかなーと思っていたことがあるんです。

山中:
どんなことですか?

松岡:山中さんは他人がしないファッションを実践しようと考えているのかな? って。それが結果として人と違うスタイルを形成しているんじゃないかと。他人と服が被りたくないとか、考えたりしますか?

山中:そうですね。誰かのマネはしたくないって常々思っています。

松岡:ただあるものを着て渋谷を歩くだけのスタイルとは違うじゃないですか。けっこう難しい着こなしを体現していると思うんです。それがTHE ORAL CIGARETTESの音楽性に繋がっているからこその着こなしなのかな? って。

山中:確かにそうかもしれないですね。僕はこうやって音楽を表現する人として生きていますけど、もともと“もの作り”が好きだったんです。そのなかでも、音楽が創造物として1番表現しやすいものだったんですね。根本的に作ることが好きで、だからこそファッションも好きですし。でも、色々ブランドの服を着たりすると『中途半端にファッションをかじってんじゃねぇよ』みたいに言われることもありましたよ(笑)。そんなときには、“僕は好きなブランドを着ることで自己表現する、ということをやります”っていうことを話して。それが今に繋がっているんです。

松岡:そんな風に言われることがあったんですね。きっと周りのミュージシャンも同じように自己表現している人はいたんでしょうけど、山中さんの方が、自分の音楽性にマッチしていたんだろうし、時代感に合っていたから、自分でも気づかないうちにアイコン的な存在になっていったんじゃないでしょうか。

山中;でも、ファッションに関しては、すごく意識してました。例えば、カート・コバーン。僕の中での音楽=ファッションな人で、完全にファッションも含めてロックして空間を構築していたレジェンドですよね。そんな風に音楽を介して空間として表現できることは、すごく素敵だと思うんですよ。自分の好みで服を選んで、誰もやっていないスタイルを作り上げるっていう。そんな憧れのミュージシャンがやってきたことも踏まえて、自分のファッションについて考えてきました。

松岡:ミュージシャンのファッションについても自分で掘り下げていったんですか?

山中:そうですね。最近のミュージシャンから何十年も昔のロックバンドがしていた格好まで。今では“ロックバンドだから、こういう服を着る”というセオリー的なものがないじゃないですか。象徴となる人もいないと思うんです。あの人の格好や服がカッコいい。自分もそんなファッションでステージに立ちたいーーそう思えるミュージシャンが、僕の周りにはいなかったので、もう自分でそんな存在になってやる! と思って。

松岡:着る服を選ぶうえで、ブランドを調べたりとかはしますか?

山中:そのブランドがどんな存在なのかを調べる、というよりも、作っている人が、どんな生き方をしているのか、という方が僕にとっては大事なことだと考えていて。もちろんトレンドやムーブメントはチェックしているんですけど。

松岡:ファッションシーンの情報として、自身の中で処理されているんですね。

山中:そういう風に頭にインプットされたブランドでも、きっかけがないと着ようとは思わないんですよ。でも、自分が求めていれば、何かのきっかけで、そのブランドと密接になることが絶対にあると考えているんです。そういう巡り合わせがあると思うんですよ。自分が着る服や似合う服っていうのは、人との出会いを通じて出会わせてくれるものだと思っているので、そういうことを大事にしていきたいと考えています。

松岡:そんな風に、ちゃんと考えている人って少ないと思いますよ。ファッション業界にも少ないと思う。もっとトレンドを追いかけて、服を選んでいる人が多いなか、自ら表現者として着る服を選ぶっていうのはすごいと思うし、大切な考えだと思います。そんな思考がストリートで新しい何かを生み出していく根源なのかな、と感じますね。好きなものを自分で選択していくという。好きが仕事になるのがストリートですから。カルチャーだし趣味だし、だからこそクリエイティブになれるんでしょうし。



“もと居た場所。昔の感覚を大切にしなくちゃいけないと思う”
ー山中拓也

“自分の中でストリートの感覚を忘れないようにしなくては”
ー松岡那苗

音楽とファッションで提示する自己表現

ーストリートの“自由に自分らしくクリエイトしていく”というマインドはバンドにも共通している感じがしますね。

山中:そうだと思います。人が何か創造して成功していくには、悔しいけれど過程があるわけじゃないですか。バンドで言えば、それが路上ライブ→小さいライブハウス→レーベルから声がかかる→「大人なんて信用できない!」とか言って断る(笑)。っていう一連の流れがあると思うんですよ。でも、名前を多くの人に知ってもらうにためには、自分たちらしく頑張らなくちゃいけない。ファッションブランドも同じだと思うんですけど、“もの作り”においては、あんまり縛られたくないと僕は思うんです。自由に創造していきたい。そういう意味でストリートファッションも音楽も、時代を切り拓いていくことの根底にある考えは同じなのかもしれないですね。

松岡:本当にそうですね。でも、自分の意志を貫いていくことは難しいことだと感じることもあって。みんなが同じ方向を向くことが正しいとされる風潮があって、同じレールの上に乗らされるように感じるときがあります。絶対に正しいんだっていう信念を、自分のスタイルで訴え続けるっていうのはファッションにも音楽にも言えることだと思うんですが、本当に大変なことだと感じますね。その根源となる力がユース層にあるんだろうと感じています。時代をより楽しくするために、絶対にこうあるべきだっていう意志が、今の若い世代にあると思う。

ーそういった、ある種の“自由が利かない”風潮の中で、松岡さんはブランディングを手掛けられているわけですが、そこには色々な障壁がありそうですね。

松岡:私はブランディングという言葉自体に、あまりピンとこないんですよね。ブランドはブランディングされてできるものじゃないですから。でも、ビジネスとしてやらなきゃいけないことがあるのは事実で、ブランドとして伝えなきゃいけないことはあるんです。例えば、今の若者の憤りやストリートであるべき姿とか。引いてはアジアのカルチャーシーンにある憤りだとか。世界的に見るとアジアのストリートシーンはまだまだ下に見られている部分もあると思うので、それを大きくしていくということはミッションとして感じています。でも、大きくして有名になるために何をしてもいいとは思いません。知られるということと、伝えたいことのバランスをうまく均衡を取りながらやっていかなくてはいけないから難しいですよね。

山中:ときどき、自分の古巣に帰らなくちゃいけないと感じることはないですか? 自分が元々支持されていたグループに戻るという作業、それって絶対必要な作業だと思うんですよ。新しいグループの中に自分が受け入れられたときに、元々支持してくれていた人達から見放されちゃったら自分は終わりだな、と感じます。昔を大切にできなくなっちゃたらダメだな、と。僕には昔から仲良くしているクリエイターチームがいるんですが、そいつらは黒い服しか着ないんですよ。だから、僕もそのグループの人に会いにいくときは黒い服装で行くようにします。どんなに華々しい世界の人と知り合って、そのグループの中にいたとしても、結局1番落ち着く場所は仲間のところなんですよね。メジャーシーンばかり攻めていてもダメですし、アンダーグラウンドのことを知っていないとメジャーシーンのことをより知ることができない、という感覚を大事にしています。

松岡:そうですね。本質はホームかもしれないですし。どうしても大きな資本が動いて作られたものには、ビジネスの香りを感じちゃいますからね。売れ線やトレンドを意識するのも分かるんですが、真の意味でカッコいいというものはアンダーグラウンドやストリートから生まれてくるものだ、という認識を自分は忘れないようにしなくちゃいけないと思っています。ずっとメジャーシーンにいて、業界の中にいると、自分がもともと居た場所を忘れちゃって、いつの間にか自分が商売道具になっていく気がして怖くなることもあるんですよ。

山中:僕らで言えば、自分たちが、もともと居た場所を広げたくてメジャーシーンに飛び込んだから、最初に感じていた感覚を忘れてしまったらメジャーシーンに来た意味がなくなってしまうんです。だから、定期的に自分が居た場所に戻らないとダメだなって。

松岡:自分がホームで形成してきたカラーをメジャーで表現するうえで、自分らしさを色褪せさせないための行動ですよね。

山中:そうですね。メジャーシーンに来て、色んな人に出会って思ったんですが、すごく強い人間が多いんです。そこには、ちゃんとリスペクトを持たないといけないと思うんですよ。僕としては、このシーンでまず自分が頑張ってみて、仲間達に対しては「待ってろよ、まずはオレが行くわ」って感じで考えています。そこで色んなすごい人がいることを知ったうえで「僕がもともと持っていたカラーはこんな色なんですが、どうですか?」 ってことを提示する。そして、それを理解してもらえるように作業したうえで、カッコいいと認めてもらえたら、自分の仲間も紹介する。そんな風な感覚です。自分の世界観を人に知らせていく作業を先頭にたって、どんどんやっていくというのは、僕自身の音楽にもファッションにもある気がします。

松岡:まさにカルチャーの架け橋となるような行動ですね。こういう話が聞けてすごく面白いと思いました。また是非、音楽の現場でも色々とお話していきたいですね。

山中:そうですね。よろしくお願いします。

PROFILE

山中拓也
THE ORAL CIGARETTESのVo&Gt。そのファッション感度の高さも知られるところ。9月にリリースしたシングル『BLACK MEMORY』が映画「亜人」の主題歌に抜擢されるなど、バンドの活躍は目覚ましい。12月6日に1st LIVE DVD&Blu-ray『UNOFFICIAL DINING TOUR 2017 at 日本武道館』をリリース予定。
http://theoralcigarettes.com/

松岡那苗
ストリートブランド、NERD UNIT(ナードユニット)を手掛けるNERD UNIT JAPANのCEO。ナードユニットは2011年にサンフランシスコで誕生。現在はマレーシアを中心にイタリア、イギリス、台湾など、述べ9カ国にブランドを展開している。そのプロダクトに見られるグラフィックは現代のストリート感を包含したものばかり。
https://www.nerdunit.jp/