Interview: オレンジスパイニクラブ 1st EP『hodgepodge』Digital Release 変わりゆく景色の中で、揺るぎない眼差し

オレンジスパイニクラブの1st EP『hodgepodge』がデジタルリリースされた。2012年の結成から約10年、ひたむきに自分たちの音と対峙してきた、生粋のライブバンドの昔といまを辿る作品だ。その時代、その瞬間の彼ら自身を記録したような生きた音楽たちは、4人とともに呼吸し、色褪せることなく輝きを放ち続けることだろう。「この4人でずっとバンドを続けていければいい」(ユウスケ)。そう話す彼らの後ろ姿を、この先もずっと追いかけて行きたいと思った。

L to R→
スズキユウスケ(vo/gt)、スズキナオト(gt/cho)、ゆりと(dr)、ゆっきー(ba/cho)

「4人のこの感じは結成当初からそのまま。芯の部分は何も変わっていない」

―まずは結成10周年、おめでとうございます!バンド活動を始めた当初から、今のような活躍は想像していましたか?

ゆっきー:“メジャーデビュー”は当時から漠然と目標ではありましたけど…..。

スズキユウスケ(以下、ユウスケ):まさかこういう感じになるなんて、想像もしていませんでした。“こういう感じ”としか言葉が出てこない(笑)。

スズキナオト(以下、ナオト):バンドを結成して1年目くらいの頃に出ていたライブハウス「clubSONICiwaki」の店長から、「何かが大きく変わるには、最低10年は必要」ってずっと言われていて。なんとなく、ライブ活動を始めてから2〜3年くらい経てば、メジャーデビューできるって思っていたけど、そんなことはなく(笑)。こうして10年経ってみて店長の言葉の意味を実感したので、改めて続けてきてよかったなと思います。

ー10年の活動の中で、特に思い出深い出来事を教えてください。

ユウスケ:4人だけで僕が運転する機材車で移動していた頃のことは、いまだに思い出します。本当にいろんなところに行きましたね。最近はマネージャーさんが運転してくれるので、すでにあの時間がとても昔のように感じるし、いい経験だったなと思います。

ゆっきー:昔、大阪でのライブに出るために、4人で地元の茨城から車で向かったことがあったんです。泊まるお金がないから、途中のサービスエリアに車を停めて、パンパンの機材車の中、4人で寝て。11月後半の真冬の最中なのに、車内は暑くてね(笑)。

ユウスケ:当時はひたすらお金がなかったね。

ナオト:僕とユウスケだけ地元に残って、ゆっきーとゆりとだけ東京に上京していた時期もあって、その間は、東京でのライブの後に車で帰るのは、オレら2人だけで。一回、その道中で車はガス欠になるし、だけどお金もないから帰れないみたいな、八方塞がりになったことがあって。茨城の牛久あたりのコンビニで車を止めて、そこの水道水で二日間過ごしたこともあります。友達の力を借りて、なんとか帰れました(笑)。

ゆりと:高速降りるのに、50円だけ足りなくて、家まで歩いて取りに行ったこともなかったっけ?

ユウスケ:ゆりとはよく食パンを持ち歩いていて、8枚切りの。3日間くらいかけて食べるんですよ。「食パンが1番腹に溜まるよ」って(笑)。

ゆりと:当時、僕「食パンおじさん」って呼ばれていました(笑)。

ナオト:いま何か辛いことがあると、その頃のことを思い出しています。「あれよりは大丈夫でしょ」って。

ーそんな時代を経てのいま、さまざまな変化があったんじゃないですか?

ナオト:でも、4人のこの感じは結成当初からそのままだと思います。僕らが音楽をしている環境以外、何も変わっていない。

ゆっきー:ユウスケとナオトが作る曲の芯みたいなのも揺るがないなって思います。変わっていない部分の方が強いですね。

「再録の曲は、当時の僕らの音をそのまま再現することに意識した」

―1st EP『hodgepodge』がデジタルリリースされましたね。“ごちゃ混ぜ”という意味の通り、The ドーテーズ時代の楽曲から新曲まで、皆さんのこれまでの軌跡が詰まった作品になっていますね。

ナオト:今作には、「新曲と昔の曲」っていうコンセプトもあって、聴く手段がない曲たちをどうにか聴いてほしいという思いから、再録することにしました。バンド名をオレンジスパイニクラブにした2019年に、『敏感少女』と『モザイク』の3曲入りシングルを2枚リリースしていて、その中から「まいでぃあ」、「みょーじ」、「パープリン」、「モザイク」のまだ配信されていない4曲を入れています。「急ショック死寸前」は、The ドーテーズ時代にリリースしたアルバム『under20』(2017年リリース)の収録曲で、CDは廃盤になってしまいましたが、いまでもライブでやっている曲なので、このタイミングで改めて再録しました。

ユウスケ:どの曲も当時とはまた別の感情で、レコーディングできました。自分自身、あの頃とは歌い方が変わったなと思います。当時の曲はキーも高いので、声の使い分けなど大変でしたが、やっぱり歌っていて楽しかったですね。

ナオト:僕は、最近作った曲と10代の頃に書いた曲とでは、歌詞の表現が変化しているなと思いました。特に「モザイク」は、あの時期にしか書けない内容だと思う。いまと昔の曲の対比に注目して聴いてほしいなと思います。

ゆりと:それもあって、再録の曲はあえて難しいことはせず、当時の僕らの音をそのまま再現することに意識しました。時を戻す感覚。今のオレスパ感をあえて消して、もう少しパンク寄りに。

ゆっきー:僕もそうですね。あのとき、どういう音でやっていたのか、昔の気持ちを思い出しながら弾きました。

ー新曲「7997」から、徐々に時代は戻っていく感じですよね。

ナオト:1曲目はいまの僕らが作った曲にしたくて「7997」、それ以降の再録曲は古い順に並んでいるので、自ずと、1番若いときに作った「急ショック死寸前」との対比がより際立つ形になりました。「7997」はMBS/TBSドラマイズム枠「#居酒屋新幹線」とのタイアップ曲で、「出会い」というテーマをいただいた上で、書き下ろしました。恋愛というよりは、一期一会の出会い的なことを表現したくて、電車の中での人々の巡り合いをイメージして書いています。

ー続く「急ショック死寸前」の「1,2,3,4」の掛け声で、一気にオレンジスパイニクラブの表情がガラッと変わりますよね。どこか懐かしさを漂わせるパンクナンバーに、自然と頭が揺れていました。

ユウスケ:僕らのライブでは毎回のようにやっている曲なのに、音源はなかったから、お客さんからしては謎の曲だったと思う。待望の音源化です。

ナオト:ライブでお客さんにも根付いていったような曲なので、僕らの顔ですね。

ゆりと:まさにザ・パワーパンク。勢いよく叩いて、大きい音を出す。それを意識して、この曲はパフォーマンスしています。

ユウスケ:僕らは、音源とライブでギャップがあるって言われているので、そこは大事にしたいなと思っています。ライブの熱量は守っていきたい。

ー『敏感少女』からの再録曲「まいでぃあ」は、当時どのような思いで作りましたか?

ユウスケ:ラブソングが作りたくて書いた曲ですね。誰にでも伝わるようなシンプルな歌詞にしたくて、思い浮かぶ言葉をスラスラ並べてできた曲。

ー恋をしたことがある人は、絶対共感できる曲ですよね。爽やかでノリの良いサウンドが、歌詞の世界観を助長してくれて、心が温かくなりました。

ゆっきー:いつも曲全体のイメージは改めて説明されなくても、デモを聴いた段階で全員が割と理解できているので、アレンジの方向性も、そこに向けてみんなで話し合いながら決めていくことが多いです。ドラムがそんな感じでくるなら、ベースはこうしようみたいな。でもたまに、ライブを重ねていく中で、変わっていくこともありますね。

ゆりと:「モザイク」とかそうだよね。ライブを経て、今のようにテンポにばらつきがあるアレンジに変わっていきました。

ー今作では「みょーじ」もそうだと思いますが、皆さんの楽曲は、一曲の中でのテンポ感が緩急自在な印象があります。

ナオト:オレンジスパイニクラブっぽさ。特に『モザイク』を作っていた時期は、それを意識していました。「みょーじ」に至っては、Theドーテーズの頃に制作した曲ではあるけど、聴かせたいところはスローにして歌詞に耳を傾けてもらって、勢いのあるパートはもっと加速させて。そこはこだわっている部分のひとつです。

ゆりと:このテンポ感の差は、ライブだと結構その日のコンディションに左右されやすくて。ダメなときはダメ(笑)。

ユウスケ:今日は遅いなみたいな(笑)。僕は調子いいときとかは、歌のアレンジもしちゃいます。そういうところも全て含め、僕らのライブを楽しんでもらいたいですね。

ーそしてラストの新曲「リルメラン」。背中を押してもらえるような前向きな楽曲ですよね。新しいオレンジスパイニクラブの表現を感じました。

ユウスケ:「頑張れ」とかは言いたくないから直接的には書いていませんが、聴いてくれた人が、なんとなく背中を押されてくれたら勝ちだなと思っていたので、よかったです。初めて応援ソングのような曲を書きました。正直、難しかったです。自分が今までに作った曲の中で、1番時間がかかったかも。

ゆっきー:大変だったんだろうなっていうのは、デモを聴いて感じました。

ユウスケ:この曲はアレンジャーさんも入っていて、誰かと一緒に編曲をするのは、初めての経験だったので、レコーディングにもすごく時間がかかった曲ですね。今後に繋がるとてもいい経験になりました。

ー今作に収録された7曲の中から、みなさんそれぞれのオススメの曲と、さらにその曲を聴く上で、オススメのシチュエーションを教えてください。

ゆっきー:「リルメラン」を爆音で流しながら、自転車で海に向かって爆走してほしいです。ギア4くらいで(笑)。“スピードを上げて夜明けを待ってる”の部分とかぴったり。気持ちが上がっていく曲だと思うので、そんな聴き方がオススメです。

ナオト:僕は「モザイク」ですね。センチメンタルなときに、天井を見ながら、聴いてほしい。人によっては、この曲はすごく共感できる歌詞だと思うので。10代の頃とか、一度は経験あるんじゃないかな。

ユウスケ:「まいでぃあ」の“ハッピーエンドのその先の”からの5行。いまこの曲を聴いている若者が結婚して、50年後とかにパートナーの手を繋ぎながら、また聴いてほしい。“泣きながら笑って”ほしいです。

ゆりと:僕は「急ショック死寸前」。高校の頃、休み時間にひとりで音楽を聴いていた子がいて。しかも聴いていた曲が、ザ・スターリンだったんですよ。かっこいいなと思って。だから、みんなと距離を置いて、没頭して、「急ショック死寸前」を聴いていたら、「こいつやばいな」ってなるから聴いてほしい。

ユウスケ:それはだいぶ、わかってるやつ。

ゆりと:そう、だからクラスの人気者になりたいときに聴いてください(笑)。

ー(笑)。それでは最後にオレンジスパイニクラブが、この先さらに5年、10年と活動していく上で、目標にしていることを教えてください。

ユウスケ:目標というより、1番は、この4人で変わらずにバンドを続けていきたいねって感じですね。それができていたら、どこにいてもいいかな。

ゆりと:ビジネスパートナーにはなりたくない(笑)。

ユウスケ:ずっと、友達でいたいし、いると思います。

INFORMATION

オレンジスパイニクラブ
『hodgepodge』

2022.3.23 Didital Release
https://orangespinycrab.lnk.to/hodgepodge

Track List
M1 7997
M2 急ショック死寸前
M3 まいでぃあ
M4 みょーじ
M5 パープリン
M6 モザイク
M7 リルメラン

Official Site_ https://orangespinycrab.com/
Twitter_ @orangespinycrab
Instagram_ @orangespinycrab.jp
YouTube_ https://www.youtube.com/channel/UCs9lmOFYQ4eZdx2TpXXbhzg

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